雷人の詩   作:バリッか

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 境界壁・舞台区画。

 大祭の運営が行われていた宮殿の大広間には“ノーネーム”一同を含めた参加者が集められていた。

 

「ごめん、仕留めきれなかった」

「気にすんな。俺の方も、別の奴に掛かり切りだったからな」

 

 悔やむ様に拳を握った礼司を、しかし十六夜は責めなかった。

 彼は、自身が相対した相手が魔王ではないと、相手本人から教えられた。そして、下を確認してレティシアと礼司が相対した相手のどちらかが魔王であると当たりを付けていたのだ。

 結果的に、巨兵は一撃のもとに粉砕され、残った少女(魔王)には“階層守護者”との二人がかりであしらわれてしまった。

 礼司が悔やんでいるのは、あの場で魔王を仕留めきれたのならば、少なくともギフトゲームのプレイヤー側勝利条件の一つを満たせたかもしれないから。

 二人がこの後の事を考えていると、彼らを見つけたからか黒ウサギとジンが駆け寄ってきた。

 

「十六夜さん、礼司さん、ご無事でしたか!?」

「こっちは、問題ない。他の連中は?」

「残念ながら、僕たち以外は満身創痍な状況です。飛鳥さんに至っては姿も確認できず…………すみません、僕がもっとあの時確りしていれば…………!」

 

 悔やむジンだが、しかし責められる者などこの場には居ない。酷ではあるが、彼が仮に抗ったとしても、下手すれば死体が一つ増えるだけになっていたかもしれないのだから。

 そして、耀とレティシアは直ぐには戦線復帰できない程度には疲弊してしまっている。

 

「白夜叉様からの伝言を受けて、すぐさま審議決議を発動したのですが…………どうやら、一足遅かったようですね」

「審議決議って言うのは、なんだ?」

「“主催者権限”によって造られたルールに不備が無いかどうかを確認するジャッジマスターの権限の一つです」

「つまり、今回のゲームにはルールに不備があるかもしれない、って事かな?」

「YES。ジン坊ちゃんからの伝言では『今回のゲームには勝利条件が確立されていない可能性がある』との事でした。真偽はともかくとして、ホストマスターに指名された白夜叉様には、異議申し立てをする事が可能です。そうなれば、“主催者”と“参加者”によってルールに不備が無いか考察せねばなりません。何よりこの権限は、既に始まっているギフトゲームを強制的に中断させる事が出来ます。不意打ちを行う事の多い魔王に対抗する権限とも言えますね」

「要するに、タイムアウトみたいなもんだろ?無条件でゲームの仕切り直しが出来るなら、相当に強力な権限だな」

「…………ですが、そう都合の良いモノではないのですよ」

「どういう事?」 

「審議決議を行ってルールを正す以上、その後の主催者と参加者は対等…………単刀直入に申しますと、このギフトゲームに一切の遺恨を残さない、という事になってしまうんです」

「そ、れは……」

「つまり、もしもこのゲームに負ければ、他の“サウザンドアイズ”や“サラマンドラ”の連中が報復を理由にゲームを挑む事は出来ないって訳だな?」

「YES。魔王に対抗する手段ではありますが、同時に我々にとっても諸刃の剣、背水の陣と考えておいてください」

「交渉テーブルがどう転がっても、勝つしかないって事だね」

 

 神妙に頷く礼司に、黒ウサギもまた真剣な表情で頷いた。

 デメリットが大きくも思えるが、しかし勝利条件が確立されていないギフトゲームなどやった所で最後に待っているのは敗北だけだ。

 ともすれば、次に必要なのは情報だ。

 

「んじゃ、テーブルに着く前にある程度の情報は必要だろ」

 

 そう言って、十六夜は礼司へと目を向ける。

 

「この中じゃ、真面に魔王様とぶつかったのはお前だ、礼司。何かあるか?」

「えっと……とりあえず、あの陶器?かな。陶器で出来た大きい奴は、シュトロムって呼ばれてたよ」

「シュトロム……(シュトロム)か。俺の方は、ヴェーザー河にラッテン(ネズミ)だ。ハーメルンの伝承に則ったもので間違いないな」

「それから、あの魔王は自分のギフトを“黒死斑の魔王(ブラック・パーチャー)”って言ってた。正直な所、黒に斑模様だなんて僕は一つしか思い浮かばなかったんだけどね」

「成程な……おい、御チビ」

「えっ…………ええ、そうですね。ハーメルンの笛吹きの伝承には、その病に関するものもあった筈です」

 

 ジンは補足しながら、今回の相手のヤバさというものを再確認させられていた。

 黒い斑点が出る病など歴史上でも相当に厄介なものだ。

 出てきた情報の悪さに、一同が少なからず頭を抱えていると大広間の扉が大きく開かれ、緊張した面持ちのサンドラと、相変わらずの仏頂面なマンドラが入ってきた。

 

「これより、魔王との審議決議へと向かいます。同行者は、四名。まず、“箱庭の貴族”である黒ウサギ、“サラマンドラ”からはマンドラを。他に、ハーメルンの笛吹きについて詳しい知見を持つ者は、交渉に協力してほしい。立候補者は居ませんか?」

 

 参加者の中に、動揺が走る。

 黒ウサギも言っていたが、童話の類というのは知られている範囲が極めて狭い。それこそ、さわりは知っていても、より詳しくその中身の伝承について造詣が深い者などそうは居ないのだ。

 皆が尻込みする中、十六夜はジンの首根っこを掴む。

 

「“ハーメルンの笛吹き”についてなら、このジン=ラッセルが誰よりも詳しく知ってるぞ!」

「……え、は、ちょ、十六夜さん!?」

 

 突然の事態に、目を剥くジン。

 だが、十六夜とてふざけて推薦している訳では無い。いや、面白半分はあれども残りの半分は本気でもある。

 

「めっちゃ知ってるぞ!とにかく詳しく、役に立つぞ!この場において、“ノーネーム”のリーダーであるジン=ラッセル程役に立つ者はいないぞ!」

「ジンが?」

 

 キョトンとした子供らしい表情を浮かべるサンドラ。だが、それも一瞬の事。頭を振って直ぐにキリッとした表情へと変わる。

 

「他に申し出が無ければ、“ノーネーム”ジン=ラッセルを帯同者の一人とするが、よろしいか?」

 

 問いかけるサンドラに、参加者たちからは否定的な声の方が多い。

 それだけ、“ノーネーム”というのが箱庭での扱いの宜しくない立場であるという事。実力然り、信用問題然り。

 しかし、同時に否定した所で、では自分が童話に対する深い知識を有しているかと問われればそれも否。

 周りの空気を感じ取って、ジンは少し顔色を悪くする。だが、そこに発破をかけたのは十六夜だ。

 

「馬鹿かオマエは。何のために、毎晩毎晩書庫に籠って勉強してきたんだ?ここで活かさなくてどうする」

「そ、それは……」

「知識は溜め込むだけじゃダメだよ、ジン君。昨日の話し合いでも、君の説明は分かりやすかった。自信をもって」

「うっ……」

 

 十六夜にひっつかまれ、礼司に背を押される。

 ジンは、己の力不足を認識している。だからこそ、十六夜の案内の為だけでなく自分の力を付けるために書庫へと籠っていた。

 その結果として、今の知識がある。偶然ではあるが、今回のゲームでは鍵である事に違いはない。

 

「周りに、気を遣う事はまあ、良い事だろ。それが、御チビの処世術なら否定もしない。でもな、お前は俺達の旗頭だ。これから先、お前が先陣を切って立たなきゃならない時が必ず来る。その時に、前に立てなくて良いのか?」

「ッ……」

 

 躊躇っていた足を前に押された気がした。

 魔王と戦う事は、これから先も避けられないだろう。同時に、相手のゲームに対して審議決議を執る事もあるかもしれない。そうでなくとも、リーダーとして前に立たねばならないだろう。

 顔を上げれば、大半が負の感情だった。

 当然だ。この後に自分たちの命運を“ノーネーム”に預けるなど、普通は出来はしないのだから。

 それでも、いやそんな状況だからこそ、ジンに対して期待する視線というのは分かりやすい。

 黒ウサギと、サンドラ。この二人は、確かに彼へと期待していた。

 

「もう寄生虫だのコバンザメだの言われたくないだろ?変わりたいって思うのなら、ソレが今なんだ。ちょっとカッコいいところ見せつけてやろうぜ、リーダー?」

「は、はい……!」

 

 勢いもあったのだろう、ジンは頷いてしまう。ここで、十六夜は更に畳み掛けるようにジンを肩に担ぎ上げて、敢えて周りに見せつけた。

 

「よっし、じゃあ行くぞ御チビ様!この一件で名が売れたら本格的に、チラシでも刷るか。“魔王にお困りの方は、ジン=ラッセルまでご連絡ください”ってな」

「ぶっ!?……ぜ、絶対に嫌だって言ったじゃないですか!?というか、名前を入れる必要あります!?」

「俺達の旗頭だって言ったろ?……まあ、御チビ様がどうしても嫌だってんなら、“魔王にお困りの方はジン〇ラッセルまでご連絡を”これでどうだ?」

「隠す必要ない部分を隠してどうするんです!?」

 

 わーわーと喚く二人に、礼司は困ったような笑みを浮かべる。そして、そう言えば、と先程上がらなかった情報の一つを思い出した。

 

「そういえば、逆廻君」

「ん?どした?」

「いや、今思いだしたんだけど。魔王たちは、どうやら人員不足みたいだよ。レティシアさんと僕を手駒に加えようとしてたから」

「へぇ……?成程な、だからこその()()か」

「うん。多分、昨日白夜叉さんが言ったように、彼らは残党か、もしくは新興のコミュニティなんだ。だから、有用な手札は出来る事なら無傷で手に入れたいんだと思う…………役に立つかな?」

「ああ。何で相手が面倒な事やってるのかと思ったが、合点がいった。俺も、勧誘されたしな」

「断ったね?」

「ゲームが始まる前から投降なんて面白くねぇだろ?」

「言うと思ったよ…………」

 

 肩を竦めながらも、礼司もまた勧誘に関しては断っていただろうから同じ事。

 そして、五人が会談の場へと向かうのを見送って、礼司は少し場を外す事になる。

 理由は一つ、自身の出力不足の改善。

 どれだけ下地があろうとも、発揮する方法が分からなければ意味が無いと改めて理解させられたからこその選択。

 変化の時だ。

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