雷人の詩   作:バリッか

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 川の流れる音が嫌に、耳に響く。

 二つの視線を向けられながら、黒ウサギは滲む汗を拭う事すらできずに追い込まれていた。

 彼女は意図的に、隠していた部分があったのだ。無論、問われれば答えなければいけなかったが、その部分に注目されないように別の話題で目隠しをしていたのだが。

 ギリギリで表情には出していなかったが、彼女の動揺は激しい。

 黒ウサギから見ても、目の前の二人は人材としては文字通り喉から手が出る程の逸材だ。

 片や、神格を素手で打倒し、片や、雷の化身といっても良い雷獣を相手に同種のギフトで勝利した。

 

(せめて、コミュニティ加入後でしたら……)

 

 中々、ゲスイ事を考えてはいる黒ウサギだが、彼女らは最早手段を選んでいる場合ではないのだ。だからこそ、迷ってしまう。

 彼女の性根は善良だ。例え、なあなあで手伝ってもらおうと考えていても、決して奴隷のように扱き使おうと考えていた訳ではないし、もてなしも考えていた。

 一方で、畳みかけようとして十六夜の方はというと、珍しく礼司が止めに入っている。

 

「さ、逆廻君……黒ウサギさんも悪気はなかったと思うし……」

「悪気があろうが無かろうが、意図的に隠しているってのが気に入らねぇんだよ。それに、礼司。オマエだって気付いてたんだろ?」

「それは、まあ……で、でも、悪意とかは無かったし……それに、黒ウサギさんも向こうで会ったジン君って子もただ困ってるみたいだったし……」

「俺は、分かってる思惑に態々乗ってほくそ笑まれるのが気に入らねぇ」

「いや、流石にそれは……」

「で?どうなんだ黒ウサギ。態々礼司が時間をくれたんだ、話す気になったか?」

「……話せば、協力していただけますか?」

「面白ければ、な。内容によっちゃ、俺は別のコミュニティを選ぶ」

「僕は……うん、まあ内容次第、かな……黒ウサギさんたちが困ってるのは分かるし……」

 

 十六夜はいつも通りとして、礼司も慎重な構え。流石に、安請け合いをして、その結果犯罪などに巻き込まれてはかなわないから。

 二人の返答を聞き、黒ウサギもまた、腹をくくる。

 

「……分かりました。私もお腹括りましたから。精々オモシロオカシク我々のコミュニティの惨状を語らせてもらおうじゃありませんか」

 

 一つ咳ばらいを挟む彼女の内心は、大分やけっぱちだ。

 

「まず、私たちには名乗るべき“名”がございません。仮に呼ばれる時には別称としてその他大勢、“ノーネーム”と呼ばれる事になります」

「その他大勢、ね」

「次に、私たちには勢力を示すための“旗印”もありません。これはコミュニティのシンボルとしての役割のみならず、自身らのテリトリーを示すのにも用いられるものです」

「そ、それじゃあ、ゲームの参加にも支障があるんじゃないかな?」

「YES。ゲームの招待は愚か、参加すらも断られる事は珍しくないのです。加えて、中核を成す仲間たちは一人も残ってはいません。ぶっちゃけ、一二二人の構成人数の内、ゲームに参加できるだけのギフトを持っているのはジン坊ちゃんと私のみ。後は一〇歳以下の子供たちばかりなのですよ!」

「正に、崖っぷちだな!」

「ホントですねー♪」

 

 やけくそ気味に同意する黒ウサギの笑みは、煤けている。自分の口で語ってみると、改めて自分たちの惨状を目の当たりにしてしまい、力も抜ける。

 

「で?どうしてそうなったんだ?黒ウサギのコミュニティは託児所でもしてるのか?」

「いえ、そういう訳ではないのです。彼らの親も含めて、全てを奪われてしまったのです」

「奪われる?」

「箱庭を襲う、最大の天災――――魔王の手によって」

「ま、マオウ!?」

「それって、箱庭に居る修羅神仏とは違うのかな?」

「魔王は“主催者権限(ホストマスター)”という箱庭における特権階級を持つ修羅神仏の事なんです。彼らにゲームを挑まれたが最後、誰も断る事は出来ません。私たちのコミュニティも主催者権限を持つ魔王にゲームを強制され、存続に必要なありとあらゆるものを奪われたのです」

「……勝てる内容じゃ、なかったみたいだね」

「魔王のゲームに巻き込まれるまでは、我々のコミュニティは有数の物でした。人材のみならず、持ち合わせたギフトもまた。それでも……」

 

 悲壮感を漂わせて言葉を詰まらせる黒ウサギ。

 天災と呼ばれるだけあり、魔王というのはそれだけの理不尽存在であったのだ。

 一方で、十六夜は顎を撫でながら思考を回していた。

 

「……オマエはどう見る?」

「嘘は、無いと思うよ。それに、魔王なんて呼ばれるぐらいなんだから……相当な理不尽の塊じゃないかな」

「だな……面白れぇ」

「……僕としては、逆廻君の琴線が分からないよ……」

「なら、お前はノータッチで良いのか?」

「…………ここまで聞いて、無視できるほど薄情じゃないよ……逃げちゃったけど」

「不服そうじゃねぇか」

 

 ケラケラと笑う十六夜に、礼司は少し顔色を悪くしながらも、しかし否定はしなかった。

 そして、

 

「お、お二人とも?」

「ハハハッ!良かったじゃねぇか、黒ウサギ。人員一人、確保だぞ」

「いや、逆廻君は?」

「俺はもう一つ聞く事があるからな」

「ええっと、なんでしょう?」

「コミュニティの“名”も“旗印”も自分たちで考えるもんだ。なら、再起を果たそうと思うのなら新しく両方ともに用意するのが、道理。新しく作れないのか?」

「そ、れは……か、可能です…………ですが、それではダメなんです……!」

 

 両手を握り締め、黒ウサギは俯いた。

 

「私たちは、何よりも……仲間たちの帰ってくる場所を守りたいのですから……!」

「黒ウサギさん、それは……」

「ええ、茨の道です。星の数ともいえるコミュニティの数々が在る中でその他大勢(ノーネーム)に加入したいと言うプレイヤーは、まず居ません。でも、それでも、私たちは仲間たちの戻ってくる場所を守り、再建していくためには十六夜さんの様な強力な力を持つプレイヤーに頼らざるを得ないのです……!魔王より誇りと仲間を取り戻すためにも、どうかその力を我々のコミュニティに貸していただけないでしょうか……!」

「魔王から、誇りと仲間を、ね」

 

 俯き震える黒ウサギに、礼司はおろおろと彼女と十六夜を見比べる事しかできない。

 とりあえず、泣きそうな彼女へと少し皺の寄ったハンカチを差し出していた。

 小さくお礼を言ってハンカチを受け取る黒ウサギ。そして、十六夜は口を開く。

 

「なあ、魔王って言うぐらいだ、全力で叩き潰しても誰からも咎められる事の無い、素敵に不敵なゲスイ奴なんだろ?」

「えっと……打倒できたのならば、多方面から感謝されるかと……それに、倒す事が出来たのなら隷属させる事も可能ですから」

「……そんな人、居るのかな」

「私からは、何とも……そも、魔王の討伐なんてそれだけで偉業も偉業です。歴史的に名が刻まれてもおかしくありません」

「それって、英雄って事じゃ……?似合わないね、僕。逆廻君や久遠さん、春日部さんは似合うけど」

「いやいやいや、礼司さんもお似合いでは?その……容姿に関して思う所があるようですが、貴方のお姿はとても神々しいデスし」

「出来れば、普通の見た目が良かったよ……」

 

 肩を落とす礼司。その苦労は僅か五年というべきか、それとも五年()というべきか。

 とにかく、話が逸れた事で持ち直せたのか顔を上げた黒ウサギは、真っすぐに十六夜へと向き直っていた。

 

「改めて、お願いします十六夜さん。どうかその力を我々のコミュニ「良いぞ」ティに……って、え?」

「え?じゃねぇよ。良いぜ、協力してやるよ黒ウサギ。ほれ、狂喜乱舞しな」

 

 今一度気合を入れ直していた黒ウサギが、気が抜ける程度にはアッサリと十六夜は了承していた。

 

「え?ええ?そ、そんなアッサリと……」

「何だよ、何なら撤回しても――――」

「ああああっ!待って!待ってください!必要です!必須です!十六夜さんは私たちに絶対必要です!」

「あん?礼司は良いのか?」

「勿論礼司さんも――――ちょっと待ってください?このまま私答えたら、無限ループしません?」

「おっ、気付いたか」

「気付いたか、じゃありませんよ!?で、でもでも、どうして急に……?」

「だって、()()()だろ?」

 

 十六夜は不敵に笑う。

 

「仲間を、誇りを、魔王から取り戻す。良いじゃねぇか、面白れぇ。な、礼司?」

「……僕は、面白さは求めてないよ」

「そう言うなって。何なら、親交を深めるついでに、ちょっと()()()()みるか?」

「勘弁してください……」

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