雷人の詩 作:バリッか
世界の果て。この箱庭の世界には明確な、世界の端が存在している。
「見てください!こんなに大きな水樹の苗を貰えましたよ!コレがあれば、他のコミュニティから水を買う必要が無くなります!皆も大助かりです!」
「すっごく嬉しそう」
「語彙力どうした?……まあ、喜んでもらえて何よりだけどな」
水樹の苗を胸に抱いて小躍りでもしそうなほどにステップを刻む黒ウサギ。
彼女にしてみれば、先の発言もそうだが有望な新メンバーが二人も手に入ったのだからその喜びも一入というもの。
「そういえば、黒ウサギ。一つ質問良いか?」
「どうぞどうぞ!今なら一つどころか、二つでも、三つでも、四つでもお答えします!」
「そりゃ、三段腹な事で」
「誰が三段腹ですか」
「逆廻君、流石に女の人にそれはダメだよ……」
「じゃあ、デブ」
「太っ腹って事は文脈で分かりましたけど、ただの悪口じゃないですか!?」
「ど、どうして、その言葉をチョイスしたのかな?」
喜んだり怒ったりと情緒の激しいウサギと、困惑するコミュ障を尻目に問題児は知らぬ存ぜぬ。
「まあ、どうでも良い疑問なんだけどな。そんなにその苗が良いものなら、お前があの蛇に挑めばよかったんじゃないか、と思ってよ。俺の見立てじゃ、オマエの方が強いだろ?」
「成程、その疑問ですか……ええっとですね。それは、ウサギたちには主催者権限とはまた違う“審判権限”というものを持っている事に繋がるのです。この審判権限を持つ者がゲームに関わった場合、絶対的にルールを破る事が出来なくなり……いえ、正しくはその場で敗北が決まります」
「へぇ、そりゃいいこと聞いたな。なら、黒ウサギと共謀すればズルし放題って事か?」
「違います。ルール違反=敗北となるんです。ウサギたちの目と耳は箱庭の中枢に繋がっており、こちらの意思関係なく敗北が決定して、チップの取り立てなどが出来るのですよ。それでも判定を無理矢理揺るがせようとすれば――――」
「すれば?」
「爆死します」
「爆死するのか」
「いや、そんな重大な事を淡々と言わないでよ……怖い」
「大丈夫です、礼司さん。余程のことが無ければそのような事にはなりませんので。お話の続きとはなりますが、審判権限はその強力な効果と同時に幾つかの縛りが存在いたします。今回の場合ですと一つは、ゲームの審判を務めた場合、その日から数えて十五日間はゲームに参加できません。二つ目は、主催者側からの認可。三つめは箱庭外のゲーム参加禁止。こんな所でしょうか」
「ほーん、強力な手札には相応の条件あり、って事か」
頷いた十六夜を先頭に、三人はそのまま世界の端、流れ落ちるトリトニスの大滝へと足を向ける。
「……」
「器用ですね、礼司さん。星、ですか?」
「まあ、ね。何年もやってれば、これ位できるよ」
「そういえば、オマエの体の電気ってどうなってるんだ?まさか、電気信号をそのまま増幅、何て言わないよな?」
「うーん……僕の感覚としては、電気の残量があって減ると少しずつ増えていく感じ、かな?上限と下限が分からないけど」
「そうなのですか?」
「別に、珍しい事じゃねぇだろ。ぶっちゃけ、
「ッ、十六夜さん!」
「良いよ、黒ウサギさん。逆廻君の言う事はその通りだし、少し前にも似たような事があったから。まあ、こんな見た目だし、ね?」
困った様に微笑んだ礼司は、視線を外しながら左の頬を指で掻く。
修羅神仏や悪魔など人外が珍しくない。故に、礼司の様な見た目も珍しいと言えども完全に浮いてしまうことは無いかもしれない。
だがそれは、箱庭に置いての話だ。元の世界においては、彼の容姿も力も異端でしかなかった。
しんみりとした空気。とはいえ、気にしているのは黒ウサギ位で、十六夜はおろか、当事者である礼司すらもある程度は既に割り切っていた。
「あ、あのあの!お二人は、どうして力を貸してくれるのですか?」
「あん?何だよ、急に。前言撤回してやろうか?」
「だ、ダメです!ダメダメ!違いますヨ!純粋な興味からの質問デス!十六夜さんも礼司さんも、いくら私の説明を聞いたからといって崖っぷちギリギリのコミュニティに所属する必要性は無いのですから……」
自分で言っておきながら、その可能性に黒ウサギは不安が募る。
二人とも、プレイヤーとして申し分ない。ギフトゲームでも特記戦力と呼んで差し支えないだろう。そして、花形選手というものはスポーツのみならず引く手数多となる。
神格ぶっ飛ばすような人間のプレイヤー。それだけでも、十分に他の待遇の良いコミュニティに勧誘を駆けられるのは必定。そして、ソレを止められるだけの手段が彼女らにはない。
最悪の場合は――――まあ、そのような事にはならないだろう。
現に、二人は互いに顔を見合わせて所在なさげな黒ウサギへと視線を向けていた。
「心配性だな、黒ウサギ。面白いから、じゃ納得しないのか?」
「……」
「具体的な言葉が欲しいみたいだよ、逆廻君」
「んじゃ、先に礼司だろ。俺よりも、どっちかって言うとオマエの方があやふやだぞ」
「え?……ええっと……」
水を向けられると思っていなかったのか、礼司は頭を掻いて宙へと視線を彷徨わせる。
「…………まあ、こんな見た目だから元の世界に戻りたくないのが、一つ。後は単純に、自己満足だよ」
「自己満足、ですか?」
「うん……黒ウサギさんたちの境遇を聞いて同情したのもある。けど、僕自身の気持ちの問題だよ。ここで見捨ててサヨナラ、なんてしたら――――本当に僕は
それだけ、と彼はそう締めくくって肩を竦めた。
補足をすると、情けない理由としてはコミュ障故に顔馴染みのいない場所に放り込まれたら、最悪固まって動けなくなるから、というものもあったりする。
そんな情けない内心など知る由も無い黒ウサギ。流れで十六夜へと目を向ける。
「それで、十六夜さんは……」
「うーん……答えても良いんだけど、それじゃ面白くないだろ?ちょいと、黒ウサギにクイズでも出すか」
「クイズですか?」
「さて、問題。なぜ俺は、こうして世界の果てへと足を運んだのでしょうか」
「ええっと…………「7、6、5――――」……制限時間があるんですか!?ちょ、最初にルールに明記の無い制限は――――」
「はい、ブブー。時間切レデス」
「反則です!……って、最後まで聞いてくださいよ!」
「礼司は分かるか?」
「……生憎と、僕は逃げ出してこっちに合流してるんだから、世界の果てに関してのモチベーションは無いよ」
程々に黒ウサギをおちょくりながら笑う十六夜に、礼司は肩を落とした。
そうして辿り着く、世界の果て。四人が呼び出されて数時間が経過しており、夕日が没していく中で水面をオレンジ色に染めていた。
「ま、答え合わせをするなら、この光景、だろうな」
「光景……」
「補足するなら、“ロマンがある”だろ?俺達の世界じゃ、先人が殆どロマンというロマンを掘り起こしちまってな。俺好みのものが殆ど無くなっちまってたんだ。だから、こことは別の世界に行けば俺並みに凄いものにであるかも、とそんな期待をしてきた。この世界の果てを見に来たのも、生きていくために必要な感動を補充しに来たって所さ」
「な、なるほど。十六夜さんはロマンのあるものを見て、感動したいのですね?」
「ああ、感動に素直に生きるのは、快楽主義の基本だぜ?」
「僕としては、俺並みに、とか言える十六夜君のメンタルに感服するよ」
「ハハハッ!礼司も言えばいいじゃねぇか。オマエだって、曲がりなりにもあの雷獣ぶっ飛ばしたんだしよ」
「あれは……た、偶々だから」
「謙遜するなって」
わしゃわしゃと白い髪を混ぜ返して、十六夜は笑う。
「さて、とそろそろ滝だな。落ちるなよ?」
「……お、落ちたらどうなるのかな、黒ウサギさん」
「そうですね……永遠の虚ともいえる場所に落ちていく、とされております。この世界がこのような形となったのも幾つかある世界軸の一つをどこかの誰かが奪ったから、とも言われていますし」
「世界軸。あの馬鹿でかいのか?」
「YES。アレこそがこの箱庭の世界を支えるものです」
「……というか、ここまで大規模な滝で水が流れ落ちてるのに、尽きないってどういう原理なんだろ」
「トリトニスの大滝です。全長凡そ2800m。この規模の滝は十六夜さんたちの世界にも無いのでは?」
「ああ、ナイアガラの滝の大体二倍以上か。にしても、確かにそうだな。この落水量なら、並大抵の水源じゃあ干からびてるだろ」
「さて、どうでしょうか……黒ウサギも箱庭の外には詳しくありませんので。この世界自体も、平面でありながらその表面積は恒星のソレに匹敵するほどに広大なのです。箱庭の上層部にコミュニティを移転すれば、そこで閲覧できる資料で色々と知る事が出来るかもしれませんが」
「それまで協力しろってか?交渉としちゃ、及第点ギリギリだな」
「まあ、黒ウサギさんは腹芸苦手そうだからね」
「そんな事ありませんよ?寧ろ、十六夜さんや礼司さんが抜け目ないだけですからね?黒ウサギのお腹は真っ黒ではありませんけど」
「
「黒ウサギの黒は腹黒の黒ではございません!」
ぷんすかと怒る黒ウサギ。同時に別の感想も抱いていた。
礼司は兎も角、十六夜も話が完全に通じない訳ではない。問題児であるからと、最初から利用しようとしたのがそもそもの間違い。
彼らは、これから志を同じくする
(ジン坊ちゃんは大丈夫でしょうか……)
黒ウサギの心配。それは、悪い形で的中してしまうのだが、今の彼女が知る由も無い。