雷人の詩   作:バリッか

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 日の暮れた噴水広場。外壁と内部の境目近くであるこの場所で黒ウサギの説教が飛んでいた。

 

「厄介な事になってるね」

「まあ、面白そうだし良いだろ。それに、アイツらだって闇雲に喧嘩吹っ掛けた訳じゃなさそうだし。寧ろ、オマエは残念じゃないのか?」

「あの……僕は戦闘狂じゃないからね?あの雷獣さんにしたって、僕の意思というよりも逃げ道を封じられたから仕方なくだからね?」

 

 少し離れて場を静観している十六夜と礼司に至っては、完全に対岸の火事。いや、反応としては間違ってはいないのだがそれにしたって薄情過ぎるというもの。

 とはいえ、このままギャンギャン黒ウサギに吠えさせてもこの場が好転することは無い。

 十六夜が助け舟を出す。

 

「まあ、落ち着けよ黒ウサギ。別にそいつらも、見境なく喧嘩を売ったわけじゃないんだからよ」

「そ、それはそうかもしれませんけど……ですが、十六夜さん。このゲームで得られるものは単なる自己満足なんですよ?見てください、この契約書類(ギアスロール)

 

 黒ウサギの見せるソレは、主催者権限の無いものがギフトゲームを開催するに際して必要なギフトの事。そこには、ゲームの内容、賞品、ルールなどが記載され、主催者であるコミュニティのリーダーが署名する事で効力を発揮する。

 彼女が言及するのは、今回のゲームの勝利報酬。

 

「参加者が勝利した場合、主催者は参加者の言及する罪の全てを認め、箱庭の法の下で正しい裁きを受けた後、コミュニティを解散する……まあ、確かに自己満足だな。時間がかかってもいずれは解決する事を、態々取り逃がすリスクを背負って短縮するんだから」

「それに……もしも負ければ、罪の黙認をするって……」

「今後一切の罪を含めての事ですね。時間が解決する事デスよ。だって肝心の子供たちは……」

 

 急激に勢力拡大を進めていたコミュニティ、フォレス・ガロの闇。彼らの用いた手段は、下種と言う言葉すらも生温い卑劣な物だった。

 仮に、黒ウサギがその場に居たのならば義憤に駆られて同じことをしていただろう。

 表情を暗くして俯く黒ウサギの言葉を、飛鳥が引き継ぐ。

 

「そう、人質は既に居ないの。その部分を追求すれば、時間はかかっても罪は明るみになるでしょうね。でも、私はそんな些細な時間すらも奴らに与えたいとは思わないわ。もしもゲームの制限や法が無ければ、私自身が手を下すわ」

 

 余程腹に据えかねているのか、飛鳥の語気は鋭い。

 

「それにね、黒ウサギ。私は別に正義感に駆られて動いている訳じゃないわ。あの外道が、私と同じ活動範囲に居る事が許せないの。ここで取り逃がせば、間違いなく不意打ちしてくるはずだわ」

「そ、それは……そう、でしょうけども……」

「僕も、ガルドをこのまま野放しにはしておけないよ、黒ウサギ」

 

 ジンも飛鳥の言葉に同調し、真っすぐに黒ウサギを見つめる。

 流石に、ここまで確りと覚悟が決まってしまえば、外野の声でどうこう出来るものではない。

 折れざるを得ず、黒ウサギはため息を一つ。

 

「はぁ……まあ、フォレス・ガロ程度なら十六夜さんか礼司さんが居れば楽勝でしょう」

「何言ってんだよ。俺は参加しねえよ?」

「当たり前よ、貴方なんて参加させないわ。当然、礼司君。貴方もよ」

「……僕は構わないけど……」

「な、ななな何をおっしゃるのですかお二人様!?それから、礼司さんもあっさりと引き下がらないでください!」

 

 十六夜は兎も角として、あっさりと引き下がった礼司へと噛み付く黒ウサギ。だが、引き下がった彼にしてみれば逃げ出したこともそうだが、何より意志の強い飛鳥を自分の言葉で説き伏せる事など出来ないと分かってしまったのだから仕方がない。

 割と感動した少し前の時間を思い出しながら、黒ウサギは肩を落とすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 噴水広場での一幕の後、ジンだけが先にコミュニティへと戻り、残りの一行はといえばぺリベット通りの石畳を進みながらとあるコミュニティの店舗へと足を向けていた。

 整備された道だ。両脇には花を咲かせた街路樹が植えられており、その花びらが風に僅かに散りながら、その隙間より新緑の若葉を覗かせている。

 

「桜の木?……いいえ、違うわね。花びらの形も違うし、そもそも真夏にまで咲いてるはずないもの」

「いや、まだ初夏の筈だぞ?気合の入ってる奴なら、まだ咲いてるんじゃないか?」

「今は、秋の筈だけど?」

「え?まだ春の始まりじゃ……?」

 

 飛鳥の一言から始まった噛み合わない会話に、四人は首を傾げる。補足をするのは、黒ウサギだ。

 

「皆様は、それぞれ違う世界から召喚されているのデス。元居た時間軸でも、文化や歴史、生態系などにも差異が見られると思いますよ」

「パラレルワールドって事か?」

「近しいですね。正しくは、立体交差平行世界論というものなのですけど……今から語り始めると一日、二日は余裕で掛かってしまいますのでこの辺りで。何より、目的地に到着です」

 

 そう言って黒ウサギの示すのは、和の要素も感じられる店構え。旗印は、蒼い下地に互いに向かい合う女神像。

 ただ、間が悪いのか日暮れの結果、今まさに割烹着姿の女性が店の暖簾を下そうとしていた。

 

「待っ――――」

「待ったなしです、お客様。うちは時間外営業はしておりません」

 

 ストップをかけようとする黒ウサギだが、店員の方はバッサリと切って捨てる。流石は大手というべきか、客あしらいもお手の物であるらしい。

 

「商売っ気の無い店ね。まあ、それだけ繁盛してる、って事かしら」

「感心している場合ではございませんよ!そ、それにまだ閉店時間の五分前。入れてもらっても――――」

「文句があるのなら、どうぞ他所へ。あなた方の今後一切の出入りを禁止します。出禁です」

「出禁!?これだけで出禁とか、お客様舐め過ぎじゃありません!?」

 

 喚く黒ウサギではあるものの、女店員は取り合わない。

 

「アレ、お店として良いの?」

「え?うーん……確かに、僕らの元の世界なら……炎上してるかもね。でも、ここは異世界だから」

「ふーん」

 

 三毛猫を撫でる手を止めない耀は気のない返事。問いはしても、彼女自身それほど興味は無かったらしい。

 少し離れた二人の一方で、黒ウサギと入れ替わる様にして十六夜が前へと踏み出していた。

 だが、ここで問題になるのが、コミュニティとして名前が無い事、そして旗印が無い事。

 この箱庭において、それらは単純な象徴や名前、目印ではない。自分たちが何者であるのか、という証明書であるのだ。

 それが、“ノーネーム(その他大勢)”には存在しない。如何に口の回る十六夜でもこれを覆す方法は直ぐに思いつくものではなかった。

 

 補足をすれば、店員も何も意地悪をしたくてこんな事を言う訳ではない。いや、店が早く閉めれれば、早く休めるというメリットはあるが。

 身分証明が出来ないという事は、裏を返せば店で何かが起きて取り逃がした場合、追いかけられない、或いは追いついてもしらばっくれる可能性があるという事。そんな可能性のある相手と商売するぐらいならば、突っぱねる方がマシ、というもの。そして、この店はノーネーム程度突っぱねた位では、その屋台骨はビクともしない。

 分の悪さに、さしもの黒ウサギも引き下がるしかない。

 

「っ、その……私たちに旗印は――――」

「いぃぃぃぃやっほぉぉぉぉぉぉ!久しぶりだ、黒ウサギぃぃぃぃぃぃ!!」

「ふぇ?わきゃーーーーーー……!」

 

 小声で告げようとした黒ウサギだったが、突如店の奥から突っ込んできた小柄な影に勢いよく抱き着かれ、その勢いのままドップラー効果を引き連れて近くの水路へと吹き飛んでいた。

 

「何事かしら」

「女の子?」

「……もっと凄いものに見えたけど……」

 

 三人が見る先の水路では、黒ウサギとそれから若干の幼さが感じられるような甲高い声が聞こえてくる。

 呆れるような飛鳥と耀の一方で、何故か礼司だけは妙な胸騒ぎがして。そっと服の胸元を握り締めていた。

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