イナズマイレブンに似た世界に転生した件について 作:よしたろうex
「やったな、加賀美!」
「よかったぞ!」
「神楽もよくやったな!」
「さあ、この調子で逆転だ!」
「「「おおっ!」」」
「な、なんだと………。」
俺たちが喜ぶ淵で陰島は信じられないといった表情で呟いている。頭の中では無失点で終わる予定だったんだろうか。残念ながらそうはならなかったが。
だがさすがはキャプテンってところか、しばらくした後はチームに発破をかけ指示を飛ばしていた。あの様子を見るにまだまだ油断はできなそうだな。前半も残りわずか、勢いがあるうちに追加点が欲しい中で試合が再開する。
しかし向こうも作戦を変えてきたようで、先ほどよりもわずかではあるがこちらの攻めに対応しており思うように攻めきれない。こちらのFWへのパスがカットされたり、逆に敵の攻撃は東雲先輩を中心にブロックしたり、一進一退の攻防が続く。もどかしい感覚が襲うが、結局前半はこの点差のまま動くことなく終わってしまった。できればもう1点ほしかったが……、まあしょうがない。後半に一気に巻き返してやる。
俺が西ノ宮中に入ったときは、お世辞にも強いとは言えなかった。皆、ルールを知って面白そうだからやっている感じの部活だった。いわゆるエンジョイ勢ってやつだ。監督だけは真剣にやっていたが。そんなだから、小学生からまともに取り組んでやっている俺はすぐにレギュラーがとれると思っていた。まあ実際、レギュラーどころかキャプテンになってしまったわけだが。入りたての1年に実力だけでキャプテンの座を渡す西ノ宮中に心配になりながらも、悪い気はしていなかった。
だが練習試合を何度かするたびに分かったが、このチームでまともに動けるのは俺だけだった。ほかの皆はミスも多く、特別うまいわけでもない。俺はキャプテンの座をもらえたことに納得するとともに、俺が何とかしないといけないという責任感を感じるようになった。
しばらくしてFFが開催した。チームとしての完成度に不安を覚えながらも、俺がいれば優勝とまではいかなくてもいいところまでは行けるだろうとも思っていた。あいつと出会うまでは。
1回戦の相手は天竜中だった。特に周りの学校についてリサーチもしていなかったしする時間もなかったが、俺の今までしてきたサッカーの経験から生まれた自信によって勝てると思っていた。
そうして始まった天竜中戦。俺はボールを受け取り敵ゴールに向かって走り出し、敵のMFである新島が止めに来て……気づいたらボールは新島の足元にあった。取られた……そう認識するまで俺は何が起こったか分からなかった。俺がボールを取られるなんて想像もしていなかった。それも、全国レベルでならまだしもこんな地区予選でだ。取られたボールは敵のFWである影狼に渡り、そのままあっさり一点を取られてしまった。
その後の試合展開はあまり覚えていない。覚えているのは何度新島に挑んでも、ボールを奪われブロックもできない、悪夢にも似た時間だけだった。俺が持っていた自信は、あのときすべて新島に砕かれてしまった。試合の半分以上の時間を、嫌にでも感じさせられる無力感とチームに対する申し訳なさの中で過ごしていた。そして一番悔しかったのが、新島は俺のことなど気にも留めていないだろう、ということだ。あいつにとってはこの程度のプレーは当たり前、俺からボールを取るのも当たり前といった表情だったことだ。実際偵察に行き軽く話した時も、俺が嚙みついている理由が分からなかったみたいだしな。
結局試合には負けてしまい、チームの皆はそれなりに落ち込んでいたが、俺の中を渦巻く感情は筆舌に尽くしがたいほどの悔しさだった。いつかこいつを超えてチームを勝たせてやりたい、今日の雪辱を果たしたい、そんな思いに駆られてより一層練習に励むようになった。新島という名前はその後で知り、新島にライバル意識を持つようになった。
やがて2年になり、FFが始まりやっと雪辱を果たせると思ったのもつかの間。奴ら天竜中は御門中に負けたと聞き、ライバルがFFから消えた虚しさを感じていた。それでも俺たちは順調に勝ち進み、御門中と対戦した。あの新島を倒したチームだからよっぽど強い奴がいると思っていたが、ふたを開けてみればチームとしてはかなり強いものの、個々の強さでは新島にかなう奴はいなかった。まあ、そんな相手でも俺たちは負けているんだからとやかく言うことはできないが。あとで聞いたところ、御門中の選手一人ひとりは全国レベルだったらしく、新島はおそらく全国レベルのトップ層に入るであろうということが分かった。それを知り、俺はより一層あいつを超えたいと思うようになった。
そうして迎えた今、ライバルへのリベンジを果たす絶好のチャンス。しかし新島もただでは終わらず、徐々にこちらの動きに対応しつつある。
「どうするんですか!今のメタ張り作戦が通用しなかったら、地力であいつらに勝つなんて無理ですよ!」
前半と後半のインターバル中に、2年のMFの根津が焦った表情で津田監督に話しかける。実際、俺はともかくほかの奴らじゃまともに正面からやれば太刀打ちできないだろう。今までの試合も、俺の個人技と津田監督の相手を偵察し弱点を突く戦術があったからこそ勝ってこれたんだ。津田監督の戦術が通用せず、俺の個人技も通用しなければ打つ手がない。根津はそういっているんだ。腹立たしいがな。
「おちつけ。今はこちらがリードしている。この1点を全力で守り切れればいいんだ。」
「………監督、俺がもう1点追加で入れれば……。」
「……陰島、お前には悪いがここは守りに入ろう。」
「!でも……」
「お前のシュートは一度止められている。お前のシュートが止められた以上、これ以上点を取ることは厳しいだろうな。」
「!……分かりました。」
苦痛の表情で俺はそう呟く。津田監督も心を鬼にして言っているんだ。誰だってこんなこと好きでいうはずがない。
「とにかく、後半は守りに入るんだ。何としても1点を守り切れ!」
「「「はいっ!」」」
皮肉にも2年前と同じ無力感を味わいながら、俺はグラウンドに立った。この無力感を感じたくなくて必死に練習して来たんだがな……。
こちら側のボールで後半戦が始まった。作戦は前半同様、新島先輩と神楽の作戦を織り交ぜていく感じだ。しかし、相手も守備をガッチガチに固めて対応している。その守備は、DFである俺たちが暇になるくらい徹底されている。敵のFWもコート真ん中付近にいるくらいだ。そんな状況なのでこちらも攻めきれずにいた。敵はボールを取った後パスで回しているところを見ると、どうやらこの1点のリードを守り切る作戦のようだ。ゲームでもよくやっていたが、実際にされるとなかなか腹が立つな。
そんなこんなで敵の思惑通りに時間だけが過ぎていく。気が付けば20分ほど過ぎており、後半の3分の2が何もできずに終わってしまった。くっそ、DFはかなりもどかしい気持ちでいっぱいだ。円堂も御影専農戦ではこんな気持ちだったんだろうか。……いや、まてよ?それなら……。
「東雲先輩、鶴巻、薬師寺先輩!ここは任せます!いくぞ、才治!」
「ええっ!?ぼ、僕!?」
「ちょ、坂上ちゃん!?」
その声を背後に、少し遅れている才治とともに前線へ走っていく。
「神楽!新島先輩!俺たちも使ってください!」
「「坂上!?」」
驚く2人だったが、すぐに冷静さを取り戻し俺たちを人数に入れて戦略を組み立てていく。守りが薄くなっても何故か攻めてこない西ノ宮中を尻目に、戦略通りにボールを運んでいく。もともと拮抗していた前線だったため、2人が攻め手に増えたことで徐々に有利を作る俺達。そして磯貝からのパスで、ついに影狼先輩がゴール前に立った。
「『バウンドフレイム』!」
「くっ、『熱血パンチ』!うあああぁぁぁ!!」
長い長い攻防の末、ついに1点をもぎ取った俺たちは喜びの声を上げた。やった、これで同点だ!とりあえずは一安心だな。
さて、守りに入っていた敵チームはどうするのだろうか。なにやら向こうの監督は頭を抱えてはいるが。
「ナイス判断だったぞ、坂上。よくあんな判断ができたな。」
「まあ、DFは暇だったからです。紙一重だったとは思いますけどね。」
「ちっ、結局こうなるんだったらさっさと攻めとけばよかったんだ。……やっぱり俺が何とかするしかねぇな。」
試合時間残り僅か、西ノ宮中のボールで試合が再開する。できれば延長戦はしたくないからもう1点ほしいという中で、ボールを持った陰島が攻めてくる。
「行かせるか!」
「どけぇ、新島!俺はお前を超えるんだ!『イリュージョンボール』!」
「なに!」
「……よし!やったぞ!」
ブロックに入った新島先輩を『イリュージョンボール』で突破する陰島。その勢いのまま磯貝、神楽、南条先輩を突破しゴールに迫ってくる。ここで1点を取られれば絶望的という状況で、ゴールに向かう陰島を止めに俺は前に立つ。さすがに通すわけにはいかないぞここは。……ただ、陰島相手どころかこの試合一回もブロックできてないんだよな。俺に止められるだろうか。
「通さない!」
「ふん、お前か。お前のディフェンスごときで俺が止められると思うな!」
くっ、確かに俺の本職はGKだし、俺のブロックは拙いものだがしょうがないんだよな。だからここで突破されても……。
……いや、違う!俺は今何を思った?GKだからできなくてもしょうがない?違うだろ!GKだからできないじゃない!GKだったとしても全力でやるんだ!
そうか、俺は気が付かないうちにGKであることを免罪符にしていたんだ!だからブロックが出来なくてもしょうがない、そんな思考になっていたんだ!ダメだろ、そんなんじゃ!どんなポジションでも全力でやる!できなくてもできる限りを尽くす、それがサッカーだろ!
頭の中と決意がまとまっていくと共に、体から力があふれてくる。そうか、俺に足りなかったのはDFとして、そしてサッカープレイヤーとしての志だったのか。今なら練習していたあの技も使える気がする。
陰島を前に俺は背を低くし、タイミングを計って突進しボールを奪う。
「『クイックドロウ』!」
「な、なに!?」
やったぜ!できたぞ、『クイックドロウ』!鶴巻と一緒に練習していた技がやっと完成した!練習に付き合ってくれていた鶴巻のほうを見ると、いい笑顔で親指を立てていた。
「ついにやったな、坂上!」
「ああ!お前のおかげだ!」
「くそが、侮った!……負けたくねぇ!俺が何とかしないと!」
新島先輩にボールを渡すと、ドリブルでどんどん前に上がっていく。このままいけば1点間に合いそうだ、そんな勢いで上がっていく新島先輩の前になんと陰島が立ちふさがる。あいつ、いつの間に!
「お前だけには負けねぇ、負けたくねぇ!」
「陰島。なぜお前がそんなに俺に固執するのかは知らないが、俺は別に1人で戦っているわけじゃねぇ。」
「な、なに?」
そういうと、新島先輩は後ろから来ていた影狼先輩に踵ではじいてバックパスを出す。ボールを受け取った影狼先輩はそのままものすごいスピードで上がっていき、DFを引き付けたところでキラにパスを出す。
「決勝点はくれてやる!加賀美!」
「っ!はい!『ダークトルネード』!」
「うおおおおお!『熱血パンチ』!ぐうううううう!……うあああああ!」
キラの本日2回目の『ダークトルネード』によって3-2となり勝ち越し、そして試合終了を告げる笛が鳴り決勝点となった。
やった、勝ったんだ!正直DFだったこともあり不安だったが、何とか勝つことができた!
「やったぞ皆、勝ったんだ!1回戦突破だ!」
新島先輩が勝利の雄たけびを上げ、それに反応するかのようにみんなが喜びを表現する。普段のチームメイトからは想像もできないくらい喜んでいる。1年は特にだな。やっぱり勝てるか不安だったんだろう。……南条先輩はいつも通りクールというか物静かだったが。
「やったね和也!」
「ああ、ナイスシュートだったぜ、キラ!」
「負けた……またしても………新島に…………。」
ふと敵チームを見れば落ち込んでいる西ノ宮中イレブンと、それ以上に目に見えて落ち込んでいる陰島を発見する。しばらくそのまま動かなかった陰島だが、やがて顔を上げ新島先輩の元へ歩いてくる。
「悔しいが………俺たちの負けだ。新島、絶対優勝しろよ。」
「陰島………ああ、ありがとう。」
「ふっ……結局、最後までお前には敵わなかったよ。」
「何言ってんだ。高校でサッカーしないのか?俺はお前とまた高校でサッカーする気でいたんだがな。」
「!……当たり前だ!高校では絶対にお前を超えてやる!」
話しているうちに元気になってきた陰島を見つつ、俺たちは勝利の余韻に酔いしれていた。なんだ、結構バチバチしてたけどなんだかんだ言っても仲いいんだなあの人たち。ちょっぴりあの関係性がうらやましくなった。
「小さくて、とても重い一歩だね、和也。」
「ああ、こっからさ。俺たちが目指す世界はまだまだ上にあるんだ。」
2人の会話を聞きながらキラと決意を新たにし、俺は右手を握りしめた。
・クイックドロウ
原作では主にマックスが使用。アニメの登場機会は少ないが、ゲーム、特に無印だと使用キャラが多い上に秘伝書の入手も早く、愛用した人も多いはず。総じてゲームのほうが印象深い技。威力は下の下。
試合中の描写が納得のいくものになかなかなりませんでした。今後、時間があれば試合中の描写を書き直すかもです。
もっと短くまとめる予定だったんですけど、陰島の回想がかなり長くなりました。
今年の投稿はこれで最後です。まだまだ続きますので、来年もどうかよろしくお願いします。