イナズマイレブンに似た世界に転生した件について 作:よしたろうex
FF地区予選2回戦当日、遅刻することなく俺達はグラウンドに立っていた。今日の相手は楽郷中だ。新島先輩曰く悪魔のような監督がいるという話だが、はてさてどうなるか。
才治との連携技は結構ギリギリだったが完成させることができた。まあ、通用するかは別の話だが。そういえば、神楽の練習はどうなったんだろうか。神楽が練習しているらしいと分かったのは、俺達が技の特訓で河川敷に行こうとした時、偶然サッカーボールを持ちグラウンドに立っていた神楽を目撃したからだ。その時は才治の方を優先したから何も見ていないが、いったいなんの練習をしていたんだろうか。
「村田先生、今日もお願いします。」
(ああ、任せておきなさい。)
「ハァー。今日は疲れてるからダリィんだよなぁ〜。まぁ職員室で仕事してるよりマシか。」
「……建前と本音逆ですよ。」
村田先生と新島先輩のいつものやり取りを見たあと、バスで楽郷中へ向かう。どうも運が悪いらしく、今日も向こうのグラウンドで試合をするらしい。
「神楽ちゃん、大丈夫……?」
「……ええ。大丈夫よ、才治。必ずお父様に分かってもらうわ。この日のために練習してきたんだもの。大丈夫よ。」
バスの中で神楽の様子を心配した才治が声をかける。確かに、目に見えて緊張している神楽を心配するのは才治としては当然だな。……ホントに大丈夫なんだろうか?新島先輩も緊張しているが、あっちは責任感からくる緊張だから多分大丈夫だ。しかし神楽のそれは、どうにも追い詰められている状態から来る緊張のように思える。才治の特訓より神楽の方を優先したほうが良かったかも知れないと今更ながらに後悔する。神楽のやつ、変に力みすぎなければいいが……。というかそもそも東大さんは来るんだろうか?予定があえば見に行くとは言っていたが……。
「なあ。神楽さん、大丈夫かな。」
鶴巻が前の座席から乗り出して、こちらに話し掛けてくる。ほら見ろ、鶴巻にも心配されているじゃないか。鶴巻に続いて鶴巻の隣りにいた磯貝もこちらを向いた。
「あれぁ大丈夫やあらへんで。きっと。」
「ねぇ和也。何とか出来ないかな?」
「何とかしてやりたいのはやまやまなんだがなぁ。根本的な解決となると2人の問題だからな……。」
「確かに、そうだな……。慰めるのは隣りに座ってる才治の役目だもんな。」
隣りに座っているキラに俺と鶴巻で返事をすると、心配そうな顔のままではあるが、何も言わなくなった。その様子を見て前の2人も前へ向き直る。
そうだよな、家族の問題に首突っ込める立場じゃないもんな、俺達。だけど部活存続の危機に何もできないのは、正直もどかしいがな。……そういえば、南条先輩はサッカーをすることに否定的だったけど、いざ潰れるってなるとどうなんだろうか。やっぱり嬉しいのかな?そう考えると不思議だよな。サッカーがしたくないのになんでサッカー部に入ったんだろうか。それか途中から嫌いにでもなったか。薬師寺先輩も口には出さないけどそんな感じだよな。いつか2人の話も聞けるんだろうか。
そんな事を考えているうちに、バスは楽郷中の正門前に到着した。
(さあ、着いたぞ!今日も悔いなく頑張ってこいよ!)
「はあぁ。疲れた。今日はこのまま寝とくか。」
「……建前と本音逆ですよ。」
もう既に聞き飽きた例のやり取りを背に楽郷中の校舎を見上げる。見た感じ、特に特徴もない普通の学校って感じだ。生徒も西ノ宮中のように素行が悪そうなどもなく、ザ・平凡ってところだな。まぁそういうのが大半であるべきなんだろうが。
「よし、行くぞ皆!」
村田先生をバスに追いやった新島先輩のあとに続いてグラウンドへと向かう。
グラウンドに着くと既に楽郷イレブンは、緑色ベースに少し黄色が入ったユニフォームを着て待っていた。向こうはこちらに気が付くと、キャプテンバンドを付けた少年が歩いてくる。
「初めまして。天竜中の方々ですよね?今日はよろしくお願いします。キャプテンの川淵(かわぶち)です。」
「ああ。俺はキャプテンの新島だ。こちらこそよろしく。今日はいい試合にしよう。」
「……ええ。そうなることを……祈っています。」
「……?」
握手した際、何やら不吉な言葉を話した川淵を見ていると、不意に女性の声が聞こえてくる。
「よろしくね。天竜中の皆さん。」
声の方を見ると、楽郷イレブンの横にオレンジ色のウェーブロングにおっとりとした顔の女性が立っていた。
「貴方が天竜中の新島徹くんね?私は大澤(おおさわ)、このチームの監督をしているわ。今日はいい試合にしましょうね。」
「!監督………。このひとが……。」
「?なにか言ったかしら?」
「……いえ、今日はよろしくお願いします。」
え、ええっ!?お、女だったのか……。いや、でも、よく考えたらなんで男だと思っていたんだろう?影山のイメージが強かったからだろうか。とにかく、この人は噂が正しければかなり危険な存在なんだ。気を引き締めていかないと……。
挨拶やウォーミングアップもそこそこに試合が始まろうとしている。こっちのフォーメーションは前回と変わっていない。相手のフォーメーションは4-4-2のオーソドックスな形だ。無印でいうベーシックに似た形だな。
ふと神楽を見ると、何かを探すようにキョロキョロしている。十中八九東大さんを探しているんだろう。そして動いていた頭は、ある一点の方向を向き止まる。俺もつられてそっちを見ると、そこにはSPたちに囲まれた東大さんがグラウンド外に立っていた。
「………!」
「……………。」
お互いに見つめ合い何も言わない、文字にしたらギャグみたいだが、実際に流れている空気はそんな軽々しいものではなかった。長く感じたその時間は、しかし一瞬にして終わり、神楽は相手チームへと顔を向けた。
(何をやってるのよ、わたくしは!……お父様の事を気にしていてもしょうがないわ!今は試合に集中しないと……。そう、集中集中……。)
「……………………。」
深呼吸をする神楽を、東大さんは何も言わずに静かに見つめていた。……今思ったんだが、あそこまで緊張しているのは俺の言葉があったからなんだろうか。俺が見せつけるなんて言わなけりゃ、神楽はもっと楽にできていたんだろうか。いったいなんて言えばよかったんだろう。……考えていてもしょうがないか。それにいずれはああなっていたはずだ。俺にできることは神楽をサッカーで支えることだけだ。
ホイッスルがなり、相手ボールから試合がスタートする。と同時に、相手のFWがドリブルで攻め上がる。
「行くぞ皆!」
新島先輩の掛け声とともに俺たちも走り出し、相手のマークにつく。パスの相手を失った状態で上がってくる相手のFWの前に東雲先輩が立ちふさがる。
「『ザ・ミスト』!」
「…………!」
目の前にあるボールを必殺技で華麗に奪取する東雲先輩。うーん、さすがとしか言いようがないな。綺麗なディフェンスだった。
「才治ちゃん!」
そしてボールは才治へと渡る。そのままドリブルで上がっていく途中、神楽からの声が聞こえてくる。
「才治、新島先輩へ!」
「う、うん!分かったよ!」
「!?まて、伊能!」
俺の静止を求める声も届かず、才治は新島先輩へとパスを出してしまう。
「な、何!?」
新島先輩が驚きの声を上げる。何故なら、ボールは新島先輩に届く前に敵にカットされてしまったからだ。しかし、新島先輩が驚きの声を上げた理由はカットされたからではない。新島先輩がもともと2人にマークされていたからだ。あんなにマークされていてはパスを出したとしてもカットされてしまう。才治はまだ初心者だから、指示を鵜呑みにしてパスを出すことは理解できる。だが、神楽は新島先輩から戦術について聞かされていたはずだ。俺も新島先輩もそう思っていたからこそ、神楽があんな指示を出すことが信じられなかった。
そう思い神楽のほうを見ると、神楽自身も自分が何をしたか分かっていないような、困惑した顔をしていた。
「わ、わたくしは何を……何をしているの……?新島先輩へのパスは悪手以外のなにものでもないのに……。」
どうやら神楽にとっても予想だにしていない指示のようだ。神楽の心中は心配だが、今は試合中だ。失敗は後で考えればいい。
「っDF!止めろ!」
「は、はい!」
新島先輩の悲鳴のような声に反応し俺達は相手のFWのディフェンスに入るが、チーム全体が乱れておりDFの息があまり合わず、間を抜けられゴール前へと相手のFWを通してしまう。
そして相手のFWは宙に浮き、足を光り輝かせ閃光のようなシュートを放った。
「『シャインドライブ』!」
「『バーニングキャッチ』!うわああぁぁぁぁ!!」
薬師寺先輩が『バーニングキャッチ』で応戦するも、力足りずそのままボールはゴールネットへと入っていった。
「えらいわよぉ、皆。その調子で頑張ってねー。」
「くそっ、先制点か……。皆、切り替えていくぞ!」
楽郷中の監督が声援を送る中、俺たちは先制点を取られたにも関わらずある程度落ち着いていた。1回戦での逆転劇があったからだろうか。
「あ……わたくしが……わたくしのせいで……。」
……ただ、こっちはかなり重症かもしれないな。皆が闘志を燃やす中、一人だけ闘志が消えかかっていた。果たしてこの試合、勝てるんだろうか。幸先不安の中、楽郷中の監督が薄い笑みを浮かべていた。
・シャインドライブ
原作では千羽山の田主丸が使用。アニメでは目をくらませ、そのすきにシュートするというせこすぎる技。ゲーム版では普通に必殺シュートなのでこの小説でも普通のシュート技として扱う。威力は下の中。
楽郷中戦も合計3話くらいになると思います。