イナズマイレブンに似た世界に転生した件について 作:よしたろうex
川淵は紳士のような喋り方をする男子です。エドガーを想像すると分かりやすいと思います。
「何をやっているの?貴方達。」
ハーフタイム中、目の前に座っている大澤監督は笑顔で私達にそう言った。一見、私達のことを心配してくれているようにも見えるかもしれないが、そんなことではないというのは私達楽郷イレブンが一番良く知っている。これは私達のミスで取られた1点に怒っており、勝つための非情な戦術を伝えようとしているのだ。
「特に田中君、分かっているの?この1点の責任は半分ほどは貴方にあるのよ。」
「っ!す、すみません!相手のシュートが思ったよりも早く……。」
大澤監督の矛先はGKである田中へと向いた。どうやら敵のFWの必殺シュートを止めることが出来なかったことを責めているようだ。
「私が聞きたいのは言い訳じゃないのよ?」
「す、すみません!次こそは止めてみせます!何としてでも!」
命乞いをするかのような田中の弁明を聞き、大澤監督は矛先を変える。
「それと川淵君、志島君、横井君。貴方達、必殺技を打つとき戸惑っているわね。何故?」
その矛先はDFである志島と横井、そしてキャプテンである私に向かって飛んできた。大澤監督が言っているのは、おそらく『ジャッジスルー』や『キラースライド』を放った時のことだろう。確かに、私は相手の選手を傷つける危険性を考え戸惑いが生まれた。多分、志島と横井もそうなんだろう。
「………すみません。相手の選手が傷つくかもしれない危険なプレイだと思い、躊躇してしまいました。」
「……はぁ。またなのね……。いい?相手は11人丁度しかいないのよ。一人でもプレイ不可の状態にすればそれだけで人数有利が生まれるじゃない。もっと積極的に狙っていきなさい。」
「………っ!」
初めてその笑顔を崩し、呆れたような顔でとんでもないことを言う大澤監督に、私は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
分かっていた。予測できていた。大澤監督がそう言うことは初めてでは無いからだ。練習試合や1回戦でも大澤監督はそう言って来た。勿論初めは私達はそれを拒否しようとしていた。拒否したかった。しかし、大澤監督の言葉が私達を絡め取った。
「貴方達は勝ちたくないの?」
大澤監督が楽郷中にやって来たのは丁度一年前、去年のFFが終わった頃だった。その頃の楽郷中サッカー部は弱小も弱小、私が入学するずっと前から弱小サッカー部だった。私がキャプテンになろうともそれは変わらず、去年のFFも当然のように1回戦敗北、それも10-0という大差だった。別にやる気が無かったわけじゃない。むしろ勝ちたいと思う気持ちは他の学校よりも強かったと思う。たとえマイナーな競技であろうと、皆真剣にやっていた。それでも負ける原因は唯一つ、単純な実力不足だ。テクニックもチームプレーも相手の方が1枚も2枚も上手だった。予想できた結果だったとはいえ、それで納得出来るかと言われたら話は別だ。私達は勝ちたかった。そんなときだった、大澤監督がやってきたのは。
「私が勝たせてあげる。」
笑顔でそう言い放つ監督に皆は呆気にとられていた。おそらく誰も大沢監督のことを信じていなかっただろう。私もそうだった。ただ、それ以上に勝利が欲しかった私達は藁にもすがる思いで言うことを聞いた。すると、今までの連敗が嘘のように練習試合で連勝することができた。監督の作戦はシンプルかつ私達の長所を存分に発揮する理想の作戦だった。監督の言っていた言葉に嘘偽りはなく、本当に私達を勝たせてくれたのだ。この監督についていけばもっと上まで行けるかもしれない、そう思っていた。ことが起きたのは、今年のFFが近づいてきた頃の練習試合の日だった。監督がラフプレーを要求しだしたのだ。
「6番の足を潰しなさい。」
監督の言っていることが理解出来なかった。今まで理想的な監督でいた大澤監督がそんなことを言うなんて信じられなかった。それと同時に、そんなことを笑顔でサラッと言うその姿に恐怖を抱いた。
当然私達は反対した。相手選手を傷つけるラフプレーなんてしたく無い。しかし私達の意見に監督は悪魔の囁きのような一言を呟いた。
「貴方達は勝ちたくないの?」
その一言に私達は黙り込んだ。冷静に考えれば、監督の作戦があるとはいえ相手との差は歴然だった。それほどまでに強い相手だったのだ。ここから勝つためには、それこそラフプレーによる相手選手の負傷くらいしかなかった。
暫くして、チームメイトの1人が賛成の声を上げた。勝利という誘惑に負けたのだ。その声に続くように1人、また一人と賛成の声を上げていく。……そして最後に私が賛成の声を上げた。上げてしまった。勝ちたかったから。
その日を境に楽郷中のサッカーは変わった。勝つためならば相手選手を負傷させることも厭わない、非情なチームになった。大澤監督も以前までよりも勝ちにこだわるようになり、ラフプレーの指示も増えた。さらに、試合中のミスにも厳しくなり、最悪ミスした選手を退部させるなど徐々に本性を明らかにしていった。楽郷中サッカー部は大澤監督に支配されてしまったんだ……。
「何度も言っているでしょう?貴方達が強いチームに勝つためには相手を負傷させるしかないの。川淵君、聡明な貴方なら分かるわよね?」
「……はい、監督。監督の言う通りです。」
そしてこの試合もいつも通りラフプレーの指示が出る。私達も好きでやっているわけではない。何試合ラフプレーをしていたとしても、未だにラフプレーに躊躇してしまう。それでも、最終的には勝利のためといいラフプレーを行ってしまうのだ。
「あの金髪の6番のMFを特に狙いなさい。あの子の動きが良くなってから敵全体の動きも良くなっているわ。きっと中心人物よ。あとはキャプテンのあのMFね。この2人を狙うのよ。分かった?」
「…………はい。監督。」
「よろしい。さあ、後半も頑張ってねー!」
仕方がない。勝つためだ。そう自分に言い聞かせ、グラウンドに走る。……ただ、さっきの相手のプレーを見てから、心の底で引っかかっているものがある。それが何かはわからないが、どうしても気になって仕方ない。……一体何なんだ、この感情は……。
ハーフタイムも終わり、後半が始まる。神楽の調子も戻ったし、こっから一気に逆転していきたいところだな。……ただ、相手チームの雰囲気か前半と比べて違うような……。気のせいだろうか?
後半は俺達からのスタートで、新島先輩を中心に上がっていく。だが敵もやすやすと通してくれるわけもなく、新島先輩の前に相手のDFが立ち塞がり、そのままスライディングでボールを奪おうとする。新島先輩は何とか避けようとするが、勢いのついたスライディングを捌き切ることができず、転んでしまう。
「うわっ!?」
「新島先輩!?」
すぐさま審判が笛を鳴らし、ファールを言い渡す。それを聞いてから、倒れ込んだ新島先輩の元へ皆駆け寄っていく。
「大丈夫ですか!?」
「新島先輩!」
「あ、ああ……。少し痛むが、動けないほどじゃあない。」
どうやら、大きな怪我などはしていないらしい。ホッと一息つくと、新島先輩の掛け声で皆ポジションへ戻っていく。
……しかし、やるんじゃないかとは思っていたがまさか本当にやってくるとはな。さっきの危険なプレイは絶対わざとだ。あのスライディングは初めから新島先輩の足を狙ったものだった。運良く怪我しなかったが、次からも狙ってくると考えると安心はできない。……大丈夫だろうか?
俺の心配事は見事的中してしまい、その後はボールよりも足を狙ったプレイが多発した。ファールを取ることもあったが、それでも彼らはひたすらにラフプレーを続けた。そして、その魔の手は神楽にも襲いかかる。
「きゃあ!!」
「神楽ちゃん!!」
川淵の激しいディフェンスが神楽のバランスを崩させ、そのまま神楽は倒れ込む。それを見て、すぐさま審判がファールの笛を鳴らす。その音を聞きながら、俺は内心冷や汗を書いていた。なんせ、神楽が狙われたのは今回が初めてだ。異性ということもあって狙われてなかったのが狙われるようになった。これは、向こうも容赦がなくなってきたってことだ。ここから先、何が起こるか想像もつかないぞ……。
というか東大さん怒ってないだろうか?いくら仲が悪いっていっても大事な娘のハズだ。即刻中止なんて言ってきてもおかしくないが……。そう思い東大さんの方を見るが、特にそういった気配はなく傍観している。それはそれでどうかと思うんだが……。マジで仲がめちゃくちゃ悪いのか?
「すいません………。しかしこれも」
「作戦、よね?」
「!!」
どうやら怪我は無かったらしい神楽は、立ち上がり川淵と言葉を交わす。
「気にしなくていいわ。スポーツだもの。多少危険なことなんて想定内よ。」
(この人は、こんな非情な戦術を作戦と呼んでくれるのか……。)
言いたいことを言い終え、仲間の元へ向かおうとする神楽を川淵が引き止める。
「貴方は……!」
「?」
「……貴方はどうしてそんなに楽しそうにプレイできるんですか?相手が危険な作戦をとっているのに、どうして……。」
「そうね……。何でって言われてもね……。強いて言うなら、悔いを残さないためかしら。」
「!!悔いを……。」
「わたくしも偉そうなことは言えないのよね。仲間に言われて初めて気が付いたのよ。」
神楽は少し恥ずかしそうに笑いながら、今度こそ仲間達の元へ向かう。一方それを言われた川淵は、何やら考えるように俯きじっとしている。
そんな光景を見ていると、なにやら新島先輩と南条先輩の話し声が聞こえてくる。
「新島、このままこの試合を続けるのか?」
「何?どういう意味だ、南条。」
「どういうもクソもあるかよ!このまま誰かが怪我するまでこの試合を続けんのかって聞いてんだよ!」
「!それは……。」
「新島ちゃん……。」
(確かに、今のままじゃ怪我するまで時間の問題だ。俺にはキャプテンとしてみんなを守る責任がある。キャプテンとしては試合を棄権する方がいいのかも知れない。けど俺は、俺自身としては……。)
「心配ないですわ!」
悩む新島先輩達へ、戻ってきた神楽が自信満々に話し掛ける。
「わたくしに相手に怪我させられることなく点が取れる作戦がありますわ!」
「な、何?本当か!」
「ええ。ですのでまだ棄権するには勿体ないですわ!南条先輩も、棄権の相談は作戦を聞いてからでも遅くはないのではなくて?」
「……チッ、分かったよ。じゃあとっとと作戦とやらを話しやがれ。」
若干の苛立ちを見せる南条先輩の前で、涼し気な顔で立ち振る舞う神楽。あいつ、メンタル無敵かよ……。
「では作戦をお話しますので皆さんを集めてください、新島先輩。」
後半戦は、まだまだ始まったばかりだった。
はい、楽郷中編終わりませんでした。3話程度とか言っときながらすみません。次で終わります。
もしかしてこの話、1回も必殺技使っていない……?