イナズマイレブンに似た世界に転生した件について 作:よしたろうex
イナイレは詳しいですけどサッカーはほぼ未経験なので練習も超次元です。
俺たちは天竜中ユニフォームに着替え、グラウンドへと向かった。ユニフォームのデザインとしては下が白ベース、上が黄色ベースの雷門中のようなものだ。GKは全体的に色の濃さが増しているような感じだ。
早速練習を開始したが、11人で全員でチーム練習、というわけにもいかなかった。なんせ、神楽と才治は初心者だ。そんな状態でチーム練習なんてしてもまともに動けるわけがない。よって、神楽と才治は新島先輩と東雲先輩の指導の下個別練習をすることになり、その間余った俺たちはパス回しやシュート練習など個人技を磨くような練習をすることになった。
「け、結構難しいですわね……。」
向こうでは神楽と才治がリフティングの練習をしている。……あ、落とした。まあ、初めてなんてこんなもんだろう。先輩たちもそれを分かっているからか、あまり強くは言わず見守るように見つめている。
「おーい、坂上!どこ見てんだー?」
声のほうを見ると鶴巻が俺に向かってパスを出していた。そうだ、今俺は鶴巻とパス練習をしていたんだった。
「悪い悪い!」
そういい、ボールを蹴り返す。すると、俺のパスを受けた鶴巻が心配そうな表情で駆け寄ってくる。
「なあ、坂上。どうしたんだ?らしくないぞ?……やっぱり、DFって言ったことまだ悩んでるのか?」
「いや、そういうわけじゃない。あの件はあれでよかったんだ。それにさ、先輩たちも3年生だから来年はいないだろ?来年になったらGKできるからさ、たった1年我慢するだけでいいんだ。」
「あー、そうだ。それよりさ、鶴巻に協力してほしいことがあったんだ。」
「協力?」
納得のいっていない鶴巻を前に、話題をそらすように俺は話を進める。
「ああ。ディフェンス技の特訓さ。」
ああとは言ったものの、やはり1日で身に着くようなものでもない。GKの技、それも『ゴッドハンド』系列の技ならともかく、DF技となると勝手が違い思うようにいかなかった。結局、完成しないまま1日の練習が終わった。神楽と才治も結構こってり特訓したらしく、終わるころにはボロボロになっていたのが印象的だった。それでも神楽はやる気に満ち溢れていたあたり、サッカーへの思い……というかスポーツへの思いが本気なんだと思わされる。才治は……まあ、神楽がやってるからって感じではある。
そんな感じで一週間が過ぎた。その間、練習の他に勧誘も並行して行っていたが成果は実らなかった。結局同学年125人、正確には他クラスに不登校のやつがいるから124人全員に声をかけたものの、反応はイマイチだった。
そんなこんなで放課後、練習開始前に新島先輩が話し始めた。
「みんな!FFへの登録と、トーナメントの組み合わせが終わったぞ!」
いつの間に登録してたんだ……。ていうか、FF始まるの早くね?いや、原作でもだいぶ早かったしこんなもんか。
どうやら、地区予選は16校のトーナメント形式で行われるらしく、4回勝てば全国大会にコマを進めることになる。
「俺たちの1回戦の相手は、西ノ宮中だ。」
「あら、懐かしいわね。その名前。」
どうやら、先輩たちは知っている中学のようだ。残念ながら俺はこの辺の中学どころか、今の中学サッカーの強豪校も知らない。ずっと特訓ばかりしてきたからだ。……知らない間にフィフスセクターとかに支配されていたらどうしよう。
「西ノ宮中は、2年前俺たちがFF1回戦で戦って倒した相手だ。」
「1回倒した相手なら戦略もわかってるし余裕じゃないですか?」
「馬鹿か?2年もたっている。前戦った時と一緒なんてありえないだろ。もっと考えろ。」
「まあまあ、南条。その辺にしておけ。とにかく油断は禁物だ。1回戦まで残り3日、気を引き締めて練習しよう。」
新島先輩の判断により、偵察よりも練習をすることになった。なんでも、偵察なんかしたところでうちに立てられる作戦なんてないから練習したほうがマシということだった。
今日からは神楽と才治も混ぜて11人で練習することになった。あまり見ていなかったが、ボールをしっかり扱えるようになったのだろうか。
練習内容は5・6で攻撃側と守備側に分かれ、コートの半分を使って疑似的な試合をするというものだ。攻撃側はボールを運び守備側が守るゴールから点を奪い、守備側はボールを奪うというルールだ。グループ分けは、攻撃側には新島先輩・影狼先輩・南条先輩・キラ・磯貝の5人、守備側は俺・鶴巻・神楽・才治・東雲先輩・薬師寺先輩の6人だ。
「よし、始めるぞ!」
新島先輩の掛け声でスタートする。新島先輩は磯貝にパスを出しそのまま上がっていく。
「行かせないわ!」
磯貝の前に立つ神楽。磯貝はそれを見て、神楽とは全く違う方向にボールを蹴る。突飛もない行動に神楽が困惑している間に、磯貝は前へ走り出す。そして地面に着いたボールがスピンを始め、神楽を抜き去った磯貝の元へと帰ってきた。
「『ひとりワンツー』!」
「なっ!」
華麗に必殺技で神楽をかわした磯貝は、そのまま南条先輩にパスを出す。
すげー!あいつ『ひとりワンツー』が使えたのか!さすがは小学校からの経験者だ。神楽にしてみれば、必殺技を目の前で受けたのはこれが初めてだな。その表情は悔しそうだ。
パスを受け取り、そのままドリブルで上がっていく南条先輩の前に東雲先輩が立ちふさがる。
「そう簡単には行かせないわよ。南条ちゃん。」
そう言うと、東雲先輩を中心に深い霧が広がっていく。目の前にいた南条先輩はその霧に包まれてしまい、何も見えなくなり立ち止まってしまう。そんな南条先輩の後ろから東雲先輩がこっそりと忍び寄り、南条先輩が持っていたボールを奪い去っていった。
「『ザ・ミスト』!」
「ちっ!」
おー!『ザ・ミスト』だ!髪色も相まって、原作との違いにそこまで違和感がないのがすげぇな。そして当たり前かもしれないが、先輩たちが必殺技を使えることに軽く感動する。ああ、これが超次元サッカーだ。
ボールを守備側がとったため再びポジションに着き、また攻撃側から仕掛ける。今度は新島先輩を中心にパスを回し、何度かの攻防のあと新島先輩がボールを持った状態で、薬師寺先輩が守るゴール前に着いた。そしてボールに回転を加え宙に浮かせ、そのボールを思い切りゴールに向かって蹴り飛ばした。
「『スパイラルショット』!」
くそ低次元なシュート技来たぁ!現実でできるかって言われたらなんか出来そうに見えるくらいには低次元だった技だ。この低次元さを異世界でも見られるとは。
『スパイラルショット』がゴールに迫りくる中、ゴールを守る薬師寺先輩は右手を抑えその場にたたずんでいる。しばらくすると、薬師寺先輩の右手から炎が沸き上がる。その状態で回転しながら飛び上がり、飛んできたボールを炎の手で押さえつけるように突き出した。
「『バーニングキャッチ』!」
しばらく拮抗した2つの技は、やがて薬師寺先輩の手にボールが収まる形で終わった。
「いいぞ、薬師寺!」
『バーニングキャッチ』キタコレ!GOの中で一番印象深い必殺技だ。主にいろんな意味で。というか、俺らのチームのキャッチ技、『バーニングキャッチ』なのか……。これはDFの仕事が増えるな。
薬師寺先輩がボールをとったため、またポジションを戻し攻撃側からボールを回し始める。そして影狼先輩にボールが回ったとたん、加速しDFを抜き去ってゴール前に立つ。滅茶苦茶はえーな、影狼先輩。反応できなかったぞ。……お、もしや影狼先輩も必殺シュートを放つのだろうか。何打つんだろう、とても気になる。
そんな思考を知ってか知らずか、影狼先輩はゴールを見据え立つ。そして、ボールを足で思い切り踏み付けると、ボールが火で包まれていく。そのボールをゴールに向けて蹴り出すと、ボールは左右へ軌道をえがきゴールへ飛んでいった。
「『バウンドフレイム』!」
「くっ、『バーニングキャッチ』!……うわぁ!」
「……ふん。」
おー、影狼先輩のシュート技は『バウンドフレイム』か。……うん、なんか、思ってたより普通だったかもしれない。もっとなんか、『流星ブレード』とかの超次元な技を出すかと思ってた。まあ、『バウンドフレイム』も十分超次元だけどさ。
「……ちっ、これだから天才は……。」
薬師寺先輩が何か言った気がしたが、その意識はそのあと聞こえてきた言葉によってかき消された。
「おーおー頑張ってんじゃん。新島。」
「陰島(かげしま)……!」
そう言いグラウンドに入ってきたのは、オレンジ色のショートのチンピラ風の人だった。誰だろう?同級生だろうか?
「……西ノ宮中のキャプテンが何の用だ。」
「はん、つれないこと言うなよ。ただの偵察さ、偵察。」
「偵察にキャプテンが来るっていうのか?」
「いいじゃねぇか、別に。」
内容だけ聞くと気の置けない友達同士の会話に聞こえるが、実際の雰囲気から察するにあまり仲はよろしくなさそうだ。陰島と呼ばれた人のことを東雲先輩に聞いてみる。
「彼は陰島ちゃん、次の1回戦で戦う西ノ宮中のキャプテンよ。2年前の1年生の時から、チームのキャプテンをしていた実力者ね。2年前新島ちゃんに1回戦で負けて以来、新島ちゃんに対抗心を燃やしているのよ。新島ちゃんはあんまり意識してないんだけどね。」
「まあいいや、今日は面を拝みに来ただけさ。新島、今度こそは勝つからな!首を洗って待っときな!」
「……俺たちだって負けるつもりはない。」
その返事を確認し、陰島は帰っていった。なんだったんだ、嵐のように来ては去っていったな。というか偵察されていたのか。うちに手札はそんなにない中で、その手札の半分くらい見られていたわけだが大丈夫だろうか。
「新島先輩……。」
「ああ、悪かったな。さ、練習を再開しよう。なに、偵察なんか気にするな。それに、偵察を免れて練習なんて選択肢はうちには取れないからな。」
あまり気分がよくなさそうな新島先輩の一言で練習は再開した。
あの後、練習を終えた俺とキラと鶴巻と磯貝は一緒に帰っていた。
「磯貝。経験者のお前から見て天竜中サッカー部はどうなんだ?」
「ん~、まあまあやな。これからってところやろ。神楽はんと才治も、どんどん上手なっとる。まあ、でもそん中でも加賀美はんのキック力には目を見張るものがあるけどな。あんなシュートそうそう見ぃへんで。加賀美はんのシュートを見た先輩らも驚いてたしな。」
「ふふっ、ありがと。」
話を聞いていた俺は、今日の練習を思い出す。たしかに、神楽と才治は上手くなってきている。特に才治は元々格闘技などをやっていたらしいから、体の使い方が上手い。テクニックがない分を、運動神経でカバーしている印象を受けた。
「にしても、西ノ宮中か……。聞ぃたことないな。まあ、この辺で聞ぃたことあるっちゅうたら御門中くらいやがな。」
「御門、中?」
聞きなれない単語を耳にした俺たちに、磯貝は説明してくれた。なんでも、ここ2年ほど連続でここの地区予選を突破しているらしい。もし俺たちが地区予選を勝ち進めば、必ず当たるだろうとも言っていた。
そんな鶴巻たちの会話を聞きながら先頭を歩く俺は、とあるポスターに目が止まった。
「?どうしたのかずや?」
「これ……。」
そういい、指をさした先には大きく【木下藤十郎:サッカーをもっと身近に!】と書いてあるポスターだった。
「ああ、これ。最近このポスターよく見かけるよね。」
「ああ、木下さんか。サッカーを広めるためにいろいろな活動をしている人だよな。」
「うん。ここ数年前、テレビに急に現れては【サッカーを身近なスポーツにします!】……なんて言い出した時には驚いたけどね。」
「噂では、サッカーができない子に寄付金を送っているって聞いたぜ。出来た人だよなぁ。こういう人がサッカーを広めてくれるのは心強いよな。」
どうやら、サッカー界では伝道師として有名らしい。
……サッカーを広める、か。あまり考えたことなかったな。今のサッカーの現状を俺は受け入れてしまっていたんだろう。……そんなんじゃ、ダメだ。俺が変えてやるくらいの意気込みでいかなきゃ、サッカー界隈は良くならない。今のままでいいはずが無い。
そうだな、やることが一通り終わったらサッカーの普及活動に力を入れよう。じゃないと、きっと超次元サッカーは廃れてしまう。
俺はそう意気込んで帰路についた。……その時に見た、磯貝がポスターを珍しく真剣な顔で見つめる光景を、俺はしばらく忘れられなかった。
そして3日が流れ、俺たちはいよいよ地区予選1回戦の日を迎えた。
・ひとりワンツー
原作では虎丸やフィディオが使っていた技。アニメではテロップが出ず影が薄いため覚えていない人もいるのでは?ゲームだと最低クラスの威力で、虎丸やフィディオがこれを覚えたがっかり感も大きい。というか2人はほかの技が弱すぎる。威力は下の下。
・ザ・ミスト
原作では霧野が使っていた技。アニメでの使用数はそんなに多くないのだが、それでも記憶に残っているのは単純に霧野のキャラを覚えているがゆえにセットで覚えているからだと思う。威力は下の中。
・スパイラルショット
原作ではアニメで一ノ瀬が使っていた技。登場回数も少なく、インパクトも薄い。ゲームでもこれを覚えるメインキャラが少なく、空気。特にゲームのみの人はモーションを知っているかさえ怪しい。威力は下の下。
・バーニングキャッチ
原作では我らが三国さんが使っていた技。三国さんの代名詞であり、三国さんを有名にした元凶。GO2のしんすけが序盤覚えるキャッチ技がこれとパンチング技なため、必然的に見る機会が多くなる。威力は下の下。
・バウンドフレイム
原作では万能坂の生徒が使っていた技。バーニングキャッチでゴールを防げた数少ない技(止めたとは言っていない)。ゲームでは磯崎が覚えたのが印象的か。威力は下の中。
次話はいったんキャラまとめ挟んでから、いよいよFF開幕です。