私…生まれ変わったらモブキャラになりたいな(なれるとは言ってない) 作:とんこつラーメン
なんだろう…これは…。
「デュノア君。四番テーブルに紅茶とコーヒーをお願い」
「分かりました」
私の場違い感が物凄く凄まじいのですが…。
「水だ。飲め」
「こ…個性的だね…」
ひょんなことが切っ掛けでメイド喫茶を手伝うことになった私達三人。
デュノアさんは、その見事な手際と容姿で、主に女性客に大人気に。
逆にボーデヴィッヒさんは、その可愛らしい見た目とは裏腹な口調と態度で、一部の特殊で大きなお客さんに呼ばれまくっている。
そんな二人の様子に、臨時で来てくれているお店の店員さんたちもポカ~ンって顔になってるし。
「まぁ…実際に二人は綺麗だしねぇ…。私みたいな地味で芋っぽい女なんかとは天と地ほどの差が…」
「仲森さん。11番テーブルに抹茶フラペチーノを二つお願い」
「了解です」
私も呼ばれてしまった。
ここって意外と和なドリンクも置いてあるから凄いよね。
ちゃんと、どんなお客のニーズにも応えてるって感じ?
「お待たせしました。こちら、ご注文の抹茶フラペチーノです」
「おぉ…! まるで明治時代からタイムスリップでもしてきたかのような着物のメイドさんだ…」
「これはこれで、かなりレアなのでは?」
はいはい。
私じゃなくて、私の格好が珍しいんですよね。
そんなに着物とエプロンの組み合わせが珍しいなら、好きなだけ見て行って頂戴な。
どーせ、私自身には見向きもしてないんだし、個人的ダメージは皆無だしね。
「あ…あの! ちょっといいですか!?」
「なんでしょうか?」
「えっと…写真を一枚、撮ってもいいですか!?」
「写真? あぁ…全然いいですよ? お仕事の邪魔さえしなければ」
写真まで要求されるだなんて、やっぱりあの二人は人気なんだなぁ。
そりゃ、金髪と銀髪の美少女だしね。
普通に考えても凄く珍しいわけで、こうして写真を欲しがるのも凄く納得出来て…ん?
「あ…あの…お客様?」
「なんですか? あ、ちょっとジッとしててください」
な…なんで私に向けてスマホのレンズを向けてるの?
こっちには被写体なんて一つもないですよ?
「いや…そうじゃなくて。あの子達なら向こうにいますよ?」
「何言ってるんですか。俺達が撮りたいのはアナタですよ?」
「わ…私!? な…なんでっ!?」
いやいやいや! 流石に有り得ないから!
私なんかの写真撮っても、面白くもなんともないでしょ!?
「なんでって…なぁ?」
「着物エプロンのメイドさんなんて絶滅危惧種の超絶レアな格好を、黒髪ロングストレートな美少女が着てたら、誰だって最低でも一枚ぐらいは写真を撮りたいって思うでしょ」
く…黒髪ロングストレートの美少女?
えっと…誰の事を言ってる?
あ…篠ノ之さんのことか!
って、彼女は今、ここにはいないっつーの!
「フフフ…私の予想は大当たりね…!」
「て…店長さん…?」
なんかいきなり店長さんが出てきて不敵な笑みを浮かべてるんですが?
それもう完全に悪役…っていうか、黒幕の顔ですよ?
「確かに金髪碧眼の男装っ子や銀髪眼帯のメイド美少女も強力な属性だけど、その中にたった一人の純和風全開の着物エプロン黒髪美少女! 周りが洋風だからこそ、より一層強く輝く存在!! フッ…我ながら、自分自身の戦略眼が怖いわ…」
何言ってんだ、この人は…。
私のは単に悪目立ちしてるだけでしょ。
この格好だって、単純に珍しいだけって話であって、私自身がどうこうってわけじゃないでしょうよ。
「はぁ…貴女のその顔…どうやら自分の魅力ってのを全く理解してないみたいね?」
「魅力って…」
私なんかに魅力なんてないでしょうよ。
そう言うのは、あそこでひっきりなしに呼ばれまくっているデュノアさんやボーデヴィッヒさんに言ってあげてくださいな。
「いい? 仲森さん…いや、佳織ちゃん!」
「は…はい?」
「このご時世で、貴女ほど着物が似合う美少女って本当に貴重なのよ!? それをちゃんと分かってるの!?」
「分かってるのと申されましても…」
私の周りにも着物を着てる女の子は沢山いたしなぁ…。
そんなことを言われても全くピンとこないと言いますか。
「確かに、アナタはデュノアさんやボーデヴィッヒさんに負けず劣らずの美少女で、普通のメイド服も間違いなく似合うわ。私が保証する」
「はぁ…」
そんなことを保証されても困るんだけど。
「でもね…それじゃあ『当たり前』過ぎるのよ! 佳織ちゃんの魅力を最大限に引き出す最強の衣装…それこそが着物なの! そして、そこに敢えて洋風のエプロンを装着する! 佳織ちゃんと着物とエプロンが三体合体することで、互いの魅力を究極まで高め合って最高の効果を発揮するの!! 分かる!?」
「は…はい…」
としか言いようがない。
だって、もしここで『いいえ』とかなんて言ったら、また最初から同じ話を聞かされそうなんだもん。
「さっすが店長さん! よく言ってくれた!!」
「全く以てその通り!」
「もっと自信を持っても大丈夫だぜ! 美人のメイドさん!」
「は…はいぃっ!?」
び…美人って…いやいやいや!
だって…だって!?
「はぁ…前から思ってたけど、佳織って周りの事はよく見てるのに、自分の事になると途端に鈍感になるよね…」
「全くだな。私たちは佳織に救われたと言うこと以上に、佳織の全てを好きになって傍にいることを決めたと言うのに」
「デュ…デュノアさん!? ボーデヴィッヒさんも!?」
私って周りから、そんな風に思われてたの!?
別に自分自身に対して鈍感なつもりは微塵も無いんだけど!?
周りが美少女だらけになれば、相対的にそんな評価になるのは当然の事では!?
「い…いや…だって…今までの人生で一度も『美人』とか『可愛い』とか言われたことないし…」
「それは単純に周りの見る目が悪かっただけよ」
「「うんうん」」
なんか店長さんにズバッと言われたんですけどっ!?
そして、それに全力で賛同しないで!?
「あぅぅ…急に物凄く恥ずかしくなってきた…」
今にして思えば…どうして私…こんなことをしてるんだっけ…?
何もかもが分からなくなってきた…。
「可愛い…」
「可愛い…!」
「いつか絶対にチューしてやる」
なんか変な言葉が聞こえてきたんですが!?
あと、最後に言ったのってデュノアさんだよね!?
ちゃんと聞こえてたからね!?
もぉ~…なんでこぉ~…なるの!!!
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
私の写真騒動から一転、デュノアさんやボーデヴィッヒさんだけじゃなく、何故か私まで沢山の人から指名を受けるようになり、一気に物凄く忙しくなってしまった。
うぅ…恨むからね…店長さん…!
そうして店内を東奔西走して約二時間。
流石に疲れが見えてきたタイミングで『それ』はいきなり起こった。
「全員! その場から一歩も動くんじゃねぇ!!」
「「「は?」」」
お店のドアを蹴破るかのようにして、武装をした三人組の男たちが雪崩れ込んできた。
一見すると、かなりの大ピンチ状態なんだけど…けど…。
「慣れって…怖いなぁ…」
あの人たちの事が微塵も怖くないや…。
だってさ…殺意全開の無人機に追いかけられて、VTシステムなハイドラガンダムとタイマンして、挙句の果てに暴走した福音と戦ったんだよ?
どれもこれも、何かがほんの少し違っていたら確実に死人が出てたような危険極まりない戦いばかりだった。
それと比べると…ねぇ…?
「どうしたの佳織?」
「いやね…危機感が麻痺したと言うべきか…」
「あー…」
微塵も臆してない私を見て、デュノアさんが納得したようにジト目で明後日の方を見た。
うん…もう下手な候補生よりもずっと過酷な修羅場を経験すると、誰だってこうなるよね…。
「…どうする?」
「一先ずは物陰に隠れながら様子を窺おう。流石にすぐに危ないことをする気はないみたいだし…」
「そうだね。佳織の言う通り、まずは状況把握から始めよう」
というわけで、私達三人は揃ってレジの下に隠れますよ…っと。
(おや? これは…)
なんか手に触れたと思ったら、なんか棒みたいな物を発見。
これは…あれかな?
よく100円ショップとかにある、カーテンとかを掛ける用の伸縮自在のつっかえ棒。
今はもうないけど、実家でもよく使ってたっけ…。
(いざって時に何かに使えるかもしれない。念の為に持っておこう)
よし…それじゃあ、まずはここからも見える範囲で外の様子を見てみますか。
どれどれ…?
(どうやら、ちゃんと警察は駆けつけてるみたいだね)
(そうだね。流石は駅の一等地って所か。警察機関の動きがいつもよりも迅速な気がするよ)
(だが、妙に古臭いような気がするのだが…)
ボーデヴィッヒさん、それは言わないお約束だよ。
『あー…立て籠もっている犯人一味に告ぐー! 君たちは既にもう包囲されているー! 大人しく自首しなさい! 繰り返す! 君たちは…」
そんなこと言って大人しく『はい! 自首します!』なんていう犯人がいるわけないでしょうが…。
ここで自首するぐらいなら、最初からこんなことなんてやってないっつーの。
「ど…どうしやしょう兄貴! このままじゃ俺達全員…!」
いや、今のでそこまで狼狽えるんかい!?
さてはこれが初めての犯行だな!?
完全に犯罪者一年生じゃないか!
それが分かった瞬間、更に怖さが半減したんだけど!?
「う…狼狽えてるんじゃねぇ! 別に焦ることはねぇ…こっちには人質がいるんだ。流石の警察も強引な真似は出来ねぇさ」
ふーん…それぐらいの知恵は回るんだー…。
でも、その考えには一つだけ欠点があるよ。
それは…私たちがこの場にいること。
「そ…そうっすよね! なんたって、こっちには大金払って買ったコイツがあるし!」
なんか自慢げにショットガンを持ってるけど…あの持ち方は完全に素人だな。
あれじゃあ簡単に手から離れちゃうよ。
(フッ…流石は我らが姫だ。見事な観察眼と言えよう)
(あなた達に鍛えれましたからねぇ)
門前の小僧、習わぬ経を読む…ってね。
二人の戦いを直に見て、この身で体験していると、自然と私自身にもその手の知識や技術が身についてくるわけで。
はぁ…なんかもう半分ぐらい軍人さんに足を突っ込んでるような気がするのは気のせいだと信じたい…。
「大人しくしてな! ちゃんと俺達の言うことさえ聞けば何もしねぇよ! 分かったか!」
部下っぽい奴が天井に向けてショットガンを威嚇射撃し、それによって騒がしくなった客を大人しくさせるために、今度はリーダーっぽい奴がハンドガンを適当な場所に撃った。
そこから、外にいる警察に対して車を用意するように叫びながら、警察車両に向けても発砲した。
どうやら、今ので完全に調子に乗ったみたいだな。
でも…これはチャンスだ。
調子に乗るってことは、それは隙が出来る可能性が高いってことだ。
これが現役の軍人とかだったら絶対にあり得ないけど、相手は素人同然の犯罪者一年生。
隙なんて見つけようと思えば、幾らでも見つけられる。
そして、こんな時にはとある宇宙海賊少年の魔法の言葉を唱えましょう。
(自分も人間…相手も人間…チャンスは必ずある筈だ…!)
(フッ…佳織の言う通りだな。では…)
(そろそろ…動こうか?)
デュノアさんの言葉に私達は静かに頷く。
さーて…ここからはメイドさんの『もう一つのお仕事』といきますか。
メイドとは単なる従者に非ず。
主人の為ならば、いかなる障害をも全力で排除する忠実なる僕でなければならない。
完全に成り行きだったけどさ…私、地味にこのお店が気に入りかけてたんだよね。
だから…普通にあの人たちにキレてるんだよ。
メイドを本気で怒らせるとどうなるか…あの馬鹿な犯罪者たちに思い知らせてやりますか…!