私…生まれ変わったらモブキャラになりたいな(なれるとは言ってない) 作:とんこつラーメン
犯罪者三人組の様子を窺いながら、私はハンドサインを使って二人に指示を出す。
ボーデヴィッヒさんには私の後ろについて貰って、デュノアさんは人込みに紛れながら、しゃがんだ状態で犯人に近づいて貰う。
そして、肝心の私は…。
「おいでやす~お客は~ん♡」
真正面から堂々と犯人たちの前に出ていく。
こうして私がワザと目立つことで、他二人に視線が行かないようにする。
一種のミスディレクションだね。
ちょっとした興味本位で『サイキョー流マジック講座(チョー初心者編)』を購入して熟読しておいてよかった。
「うを!? な…なんだテメェ!?」
「このお店の従業員で~す♡」
「お嬢ちゃんよぉ…大人しくしてろって忠告が聞こえてなかったのか?」
「その通りだぜ? 俺達の手に握られてる『コレ』が見えねぇのかい?」
おーお…これみよがしに自分たちの銃を自慢げに振りかざしちゃって。
武器さえ持ってれば大丈夫っていう、その驕った考え…ちゃーんと矯正してあげないとね?
「それとも、お嬢ちゃんが俺達の世話でもしてくれんのかい?」
「お! そいつはいいっすねアニキ!」
「よく見たら、この子…めっちゃ可愛いですし!」
遂には犯罪者にまで可愛い認定されちゃったよ…。
ナニコレ…喜んでいいの? それとも呆れた方がいいの?
ま…いいか。そんなことはどうでも。
「お世話をするのはよろしいんですけどぉ~…いいんですか?」
「何がだ?」
「その銃じゃ…脅しには使えませんよ?」
「はぁ…? 何言ってんだコイツは?」
「だってぇ~…」
背中に隠した棒を握る手に力を籠める。
タイミングだけは絶対に間違えるな…!
「それ、セーフティーロックが掛かったままですよ?」
「「「え!?」」」
んなわけねーだろバーカ。
ついさっき馬鹿みたいに乱射してたでしょーが。
もう忘れたんかい。
健忘症ですかコノヤロー。
ってなわけで、見事なまでに隙だらけです。
「アタック!」
「ぐえっ!?」
腕を伸ばしてからの突き攻撃!
「クー・ドロワ!」
「ごっ!?」
真っ直ぐな突き!
「こ…このガキ!! よくも騙しやがって!!」
「ディセー!」
「うぎっ!?」
さっきの嘘を真に受けたままなのか、何故か銃身で殴りかかって来たので、その下を潜らせて、別のラインへと外してから突き!
「何やってやがる! 相手はガキ一人な上に、持ってるのは単なる棒だぞ! こんなのはコイツをぶっ放しちまえば一発で解決…」
「させると思う? バッテ!」
「し…しまった!?」
リーダーっぽい奴が撃って来ようとしてきたので、それを棒で大きく弾いてから、飛んでいった銃を背後にいるボーデヴィッヒさんの方に行くようにした。
こっそりトールギスのハイパーセンサーを使って確認すると、ちゃんと思惑通りにキャッチしてくれてた。
「最後に~…フレッシュ!! デュノアさん!!」
「任せて佳織! えい!」
前の足から素早く飛び込むように前傾して、一気に間合いを詰めての全力の突き!!
思い切りお腹を突き飛ばされたリーダー格の男は、ナイスタイミングでデュノアさんが開け放ってくれたドアから一直線に警察たちがいる場所目掛けて吹っ飛んでいった!
「ア…アニキィ~!?」
「よ…よくもアニキを!!」
「させると思うか?」
激高した舎弟っぽい奴らが銃を向けてきた瞬間、後ろから小さい何かが飛んでいった。
あれ…もしかしてドリンク用に使ってる氷?
ボーデヴィッヒさんが飛ばしてくれたのか…。
「い…いってぇ!? あっ!?」
氷が見事にショットガンを持ってる手に命中し、その痛みで思わず床に落としてしまう。
それをすかさずデュノアさんが拾って回収。
まだ最後の一人が残ってるけど、この人からもちゃんと銃を取り上げないとね。
てなわけで…最後は少し派手に行きますか。
「マルシェ・エ・ファンデル!」
「ちょ…ちょま…ぐぇっ!?」
前進(マルシェ)から続けてフォント(前足を大きく前に伸ばして胴体を突く攻撃)に繋げる連続技でフィニッシュ…ってね。
うん。なんでも勉強しておくもんだ。
今の一撃で当然のようにサブマシンガンを落とし、それは私が回収しましたよ…っと。
んでもって、私達三人並んでからそれぞれに持ってる銃を構える。
「「「まだやる(か)?」」」
「「ま…参りました…」」
「「「よろしい」」」
舎弟たちは両手を挙げながら涙を流して白旗を上げた。
これで一件落着…かな?
「お…おい! 今、店の中から飛んできた奴! 服の中に爆弾を仕込んでたぞ!?」
「気を失ってる今のうちに拘束! 急いで爆弾処理班を寄越すように伝えろ!」
え!? 私がぶっ飛ばした人、そんなのを持ってたの!?
あ…あぶな~…。
変に手加減とかせずに思い切りやって正解だったわ~…。
(流石は我らが姫…見事な剣…否、棒捌きであった)
(門前の小僧、習わぬ経を読む…日本ではそう言うのだったな)
そりゃね…めっちゃ傍で二人の戦いを…特にトレーズ閣下の剣捌きを見たり、体験したりしてたら嫌でも覚えますって。
そのついでに少しだけ勉強したり、練習したりはしてたんだけどね。
「っていうか佳織! フェンシングが出来たの!? 全然知らなかったよ!?」
「実に見事な技の数々だった。流石は佳織だな」
「あはは…実戦で使ったのは今日が初めてなんだけどね…上手くいって良かったよ」
後の事は全部、警察の人達に任せておきますか。
私たちはあくまで巻き込まれただけの正当防衛。
ここからは本職の出番だからね。
「お…終わった…のか…?」
「みたい…ね…」
「助かった…の…? 私達…」
「い…一体何が…」
一時的な恐怖から解放された人たちが我に返りながら、肩を撫でおろしながら互いに安堵し合っていた。
「す…凄いわ…あの子達…! シャルロットちゃんやラウラちゃんは一目見た時から只者じゃないって思ってたけど…まさか、大人しそうな顔をしてた佳織ちゃんも凄かったなんて…私もまだまだね…フッ…」
て…店長さん? なんかニヒルな顔になってるけど…どしたの?
まだショックから立ち直れてない感じ?
「お…俺達…助かったんだ!」
「よかった…本当に良かった!」
「メイドさんに執事さん! それから和風なメイドさんもありがとう!!」
和風なメイドさんて。
ようやく、お客さんたちも精神的に安定し始めたのか、一気に店内が騒がしくなってくる。
それを外で見ていた警察の人達も『もう大丈夫』と判断したのか、一気にこっちに向かってきた。
「ふむ…流石、日本の警察は優秀だな」
「だね~。本当に良かった。良かった」
「って、良い雰囲気になってる場合じゃないよ二人とも! ボクは現役の候補生で、ラウラも元候補生、佳織に至っては無所属の専用機持ちなんだから、下手に公になるようなことは絶対に避けないと!」
「「あ」」
そういえば、そうでした。
ここで千冬さんやIS学園、おじいちゃん五人組に迷惑を掛けるわけにはいかない。
「三十六計逃げるに如かず。急いで荷物を回収してから帰ろう!」
「「了解!」」
そうと決まれば、さっさと逃~げるんだよ~! スモ~キ~!
「ま…待って!」
「店長さん?」
んも~…こっちは急いでるんですけど?
いきなり呼び止めないでよね~。
「何か事情があるんでしょうけど、これだけは言わせて! 本当にありがとう!」
「「「どういたしまして」」」
私たちは単純に理不尽な暴力に抵抗しただねなんだけどね。
ノブリシュ・オブリージュ…だっけ?
専用機って『力』を持つ者の義務…なんじゃないのかな?
「それと、これは今日のバイト代よ! またバイトに来てもいいし、お客としても来てくれてもいいからね! それじゃあ、また!」
「「「お世話になりました!」」」
こうして、私たちのなんとも物騒で騒がしい初めてのメイドさん体験は幕を閉じたのでした。
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お店を後にした私たちは、別の喫茶店で小休止をした後に残りの時間で買い物を済ませ、駅前で解散した。
二回目の登校日でまた会うことを約束して。
別に、どこぞの公園でクレープを食べたりはしてないのであしからず。
で、私は両手に荷物を抱えながら織斑宅へと戻って来たのでした。
「ただいまぁ~…」
「おかえり…って、随分と買って来たな…大丈夫か?」
「うん…なんとかね」
玄関に入ってすぐに出迎えてくれた織斑君に少しだけ引かれた。
主な原因はデュノアさんなんだけどなぁ~…。
「今日は本当に濃密な一日だったよ…はぁ…」
「みたいだな…すっごい疲れてる感じがする。風呂はまだ沸いてないし…部屋でゆっくりしてたらどうだ? 夕飯は俺が作るからさ」
「お願いするね~…」
「ところでさ…その紙袋の中身って、殆どが服だったり?」
「うん。デュノアさんがめっちゃ張り切っててね…ボーデヴィッヒさんと一緒に着せ替え人形にされちゃった…」
「そ…そうだったのか…シャルロットの意外な一面発覚だな…」
「だね…私もそう思ったよ…ハハ…」
流石に、メイド喫茶で臨時のバイトをしたことや、そこにやって来た強盗を三人で撃退したことは…黙ってた方が良いかな。
余り大きな声で言えないことだしね…。
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・・・
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「す…すっかり忘れてた…!」
部屋に戻ってから紙袋の中身を確認しながら整理していくと、中から見覚えのある巫女服が出てきた。
そういや…デュノアさんが自費で買って、私の紙袋に半ば無理矢理入れてきたっけ…。
「しかも…」
なんか見覚えのあるロゴが書かれた紙袋があったので開けてみたら、そこには@クルーズでボーデヴィッヒさんが来てたメイド服と同じのが入ってた。
謎のメモ紙と一緒に。
『佳織ちゃんへ。このメイド服はバイト代のつもりで差し上げます。絶対に似合うから着てみてね!! 店長より』
…………これに対して私はどう反応すればいいので?
(笑えばいいと思うぞ。姫よ)
笑えないよ!! どんな冗談ですかコレ!!
でも…貰った以上は無下には出来ないし…。
「た…試しに…着てみよう…かな…」
一度だけ! 一度だけね!!
着替えるついでだから!!
別に他意とか無いから!!
ボーデヴィッヒさんが着てるのを見て、少しだけ羨ましかったとか、そんなんじゃないから!!
というわけで~…数分後。
「き…着てしまった…」
ちゃんと中身を確認したら、見事なフルセットだったし…。
頭につけてるフリフリ(名前は知らない)も着けちゃった。
調子に乗ってツインテールにもしちゃったりして…。
「…………」
姿見で確認する自分のメイド服姿…。
よもや、こんなのを着る日が来るとは…IS学園に入学した時には想像もしてませんでしたな…。
「はは…ははは……脱ご」
なんか急に虚しくなってきたわ…。
なーにやってんだろ…私…。
居候させて貰ってる家でメイド服なんて着ちゃってさ…。
コンコン。
「え?」
ノ…ノック? だ…誰? 織斑君?
「佳織? 私だ」
ち…千冬さん!? もう帰って来てたの!?
「夕飯が出来たから呼びに来たぞ。大丈夫か?」
「だ…大丈夫でしゅ! すぐに行きますから!」
「む? なんか様子が変だな…入るぞ?」
「ちょ…ちょっと待って!?」
あぁ~! 千冬さんの心配性な所がここで発揮されるとは~!
ぜ…絶対に笑われる~!!
「どうかしたのか? か…おり…?」
「あ…ははは…」
み…見られた…私のツインテールメイド姿を…。
顔が真っ赤になってるのが感覚で分かる…!
「お…お帰りなさいませ…お嬢様~…なんちて…」
「………………」
あ…あれ? 千冬さんが直立不動のまま微動だにしないんだけど…。
「あ…あばばばばばばばばばばばばばばば」
「えええええええええ!?」
急に全身が痙攣し始めたぁぁぁぁぁっ!?
本当に大丈夫なんですかぁぁっ!?
「あわびゅ」
「いきなり大量の鼻血を拭き出してからぶっ倒れたぁぁぁっ!?」
うおおおおおおおい!?
冗談抜きでどうしちゃったんですかぁぁぁぁっ!?
「だ…大丈夫ですか千冬さん!?」
「わ…」
「わ?」
「わ…我が生涯に一片の悔いなし…ガク」
「それでいいんですか千冬さんの人生ー!?」
その後、騒ぎを聞きつけてやって来た織斑君と一緒に、なんとか千冬さんを黄泉の国から連れ戻すことに成功しましたとさ。
恐るべしメイド服…世界最強を殺しかけるとは…。
これはもう永久封印しておいた方がよさそうかな…。