私…生まれ変わったらモブキャラになりたいな(なれるとは言ってない)   作:とんこつラーメン

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夏と言えば夏祭り

 それは、私と織斑君が一緒に家の掃除をしている時だった。

 

「え? 夏祭り?」

「うん。昨日、思い出したんだけどさ…この時期はいつも、箒の実家の『篠ノ之神社』で夏祭りをやってるんだよ。昔はよく千冬姉と一緒に言ってたけど、IS学園に入ってから物凄く忙しかったろ? お陰ですっかり忘れてた」

「そっか~…」

 

 確かに、まだIS学園に入学してから半年程度ぐらいしか経ってない筈なのに、物凄く濃密な時間を過ごしてるもんなぁ~。

 そりゃ、お祭りの事を忘れても無理はないか。

 

「っていうか、篠ノ之さんのご実家って神社だったんだね。知らなかった」

「まぁ…箒はあんまり自分の事を話したがらないしな」

 

 篠ノ之さんも篠ノ之さんで色々とあったみたいだしね…。

 何か一つでも思い出すと、連鎖的に嫌なことまで思い出しそうになるから、あまり過去語りをしたくないって気持ちはよく分かる。

 

「神社の敷地内に道場があってさ、そこで箒の親父さんが剣道場を開いてたんだよ」

「じゃあ、織斑君や千冬さん達って、そこで…?」

「あぁ。そこで剣道を習ってた。箒と一緒にな」

「そっかぁ…」

 

 私は習い事の類は…一度もやったことが無いなぁ…。

 家の空気がそれを許さなかったってのもあるけど、それ以前に余り興味も無かったしね。

 そう言うのはお金も沢山かかるから、両親に負担を掛けたくなかったってのも割と大きいけど。

 

(そんな私が、今ではちょっとしたお金持ちさんになっちゃって…)

 

 去年までの私じゃ絶対に考えられなかったなぁ…。

 急転直下の人生とは、まさにこのことかもしれない。

 

「けど、神社の娘ってことは、篠ノ之さんや束さんも巫女服を着たりするのかな?」

「束さんはともかく、箒は着るんじゃないか? 祭りともなれば色々と忙しくなるだろうし。運営の手伝いをする為に巫女服を着て仕事をすると思う」

「篠ノ之さんの巫女服…」

 

 元々が和風な雰囲気を醸し出す女の子だからか、彼女の巫女服姿は容易に想像が出来る。

 この間、デュノアさんがしれっと私の荷物に入れていたコスプレ用のミニスカ巫女服とは全く違うんだろうねぇ…。

 因みに、あの巫女服は私の部屋のクローゼットの中にメイド服と一緒に永久封印の真っ最中だ。

 今後も外に出す予定は全くない。

 

「なんとなくだけど、仲森さんも巫女服が似合いそうだよな」

「そうかな~?」

「そうだって。仲森さんって、和服の着こなしが物凄いし」

「着こなしが凄い…」

 

 なんだろう…転生後の15年の人生の中で初めて言われた誉め言葉なんですが。

 これは喜んでいいのかにゃ…?

 

「その夏祭りっていつなの?」

「明日。ほんとギリギリのタイミングで思い出せたよ」

「そうだね…」

 

 当日に思い出すよりは少しだけマシかな…。

 織斑君なら十分にあり得るけど。

 

「箒も喜ぶと思うし、一緒に行かないか?」

「そうだね…今思えば、まだ今年は夏っぽい事って何もしてないし…良いかもね」

 

 臨海学校…は少し時期が早かったし、あれはあれで最終的には楽しむどころじゃなかったしね。

 夏休み入る直前も個人的にゴタゴタして大変だったし、こっちに来てからやったことと言ったら、女の子友達と一緒に買い物に行ったことぐらい。

 それはそれで普通に楽しかったし、充実した一日を過ごせたとは思うけど、夏ならではと言われれば全く違う。

 その気になれば他の季節でも普通に買い物に行けるしね。

 

「そういや、まだ今年はスイカも食ってねぇなぁ…。最近は高くなってるけど、今の俺達なら買おうと思えば幾らでも買えちまうしな…。そう思うと『別に明日でもいいか』って思って、結局は食わず仕舞いになるのがオチなんだよなぁ…」

「うんうん。よーくわかるよ…その気持ち…」

 

 その気になれば、店中のスイカを買い占めることも可能だけど、そんなことは無意味なので絶対にしません。

 それとは別にスイカは食べたいけどね。

 

「確か、去年まで着てた浴衣があった筈だから、後で出してみようかな」

「いいんじゃないか? 本当は千冬姉も一緒だといいんだろうけど、明日は仕事があるらしいし…」

「何かお土産でも買って帰ればいいんじゃない?」

「それもそっか」

 

 ということで、私たちは一緒に篠ノ之さんのご実家である神社で開催される夏祭りに行ってみることに。

 篠ノ之さんに行くことを伝えておいた方が良いのかな?

 でも、現場で出会えるとも限らないし…もし会えたら、その時にちゃんと事情を説明すれば大丈夫か。

 

 因みに、夜に帰って来た千冬さんに明日の夏祭りの事を伝えたら、何故か織斑君に私の浴衣姿を写真撮影し、千冬さんのスマホに送るようにと強く言われていた。

 物凄い迫力だったな…目が血走ってたし。

 

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「「おぉ~…」」

 

 次の日。夏祭り当日。

 浴衣を着た私は、織斑君と一緒に夏祭り会場である『篠ノ之神社』に足を運んでいた。

 

「物凄い賑わいだね~。これはちょっと想像以上だった…」

「いや…俺も普通に驚いてる。明らかに昔よりも賑わってるだろ…これ」

 

 色んな種類の色んな屋台が所狭しと並んでいて、その間にある通路を大勢の人たちが楽しそうに歩き回って散策している。

 うん…やっぱりいいね。これ。

 見ているだけで心がウキウキしてきます。

 

「そう言えば、千冬さんに写真撮影を頼まれてなかった?」

「おっと、そうだった。って、撮影するのは仲森さんの浴衣姿なんだけどな?」

「そうでした」

 

 なんで、そんなものを欲するのか…それは敢えて問うまい。

 世の中には知らない方が良いことも沢山あるから。

 

「んじゃ、鳥居の所に立っててくれ。適当に撮るからさ」

「分かった」

 

 今日、私が着てきた浴衣は薄い桃色の浴衣で、真っ白な百合の花が模様として描かれていて、巻いている帯は朱色で、翼っぽい刺繡が入っている。

 んで、私の無駄に長い後ろ髪は後頭部でお団子にして纏めてあります。

 

「…………」

「どしたの?」

「いや…さ…。この構図って、まるで彼女の浴衣姿を撮影しようとしているッぽく見えるなーって思って…」

「えっ!?」

 

 い…言われてみれば確かに…。

 年頃の男女が二人きりで夏祭りに行くって…これもう完全にデートじゃんか!?

 別に私と織斑君は彼氏彼女の間柄じゃないってのに!?

 

「は…早く済ませようか…」

「そ…そうだな…」

 

 意識すると急にめっちゃ恥ずかしくなってきた…。

 道行く人たちは、私たちの事を生暖かい視線で見つめてくるし…。

 

 結局、写真を撮り終えるまでずっと通行人から無言の祝福を受け続けた私達なのでした。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 めっちゃくちゃ気恥ずかしい写真撮影を終えた私たちは、まずは篠ノ之さんに会いに行こうと言うことになった。

 うーん…こうなるなら、やっぱりちゃんと連絡しておけばよかった…。

 

「うわぁ…至る所から良い匂いが…」

「流石は夏祭り…見事に『粉物三巨頭』の屋台が沢山あるな…」

 

 『粉物三巨頭』

 様々な祭りに出展される食べ物系屋台の中で最もポピュラーとされている『たこ焼き』『焼きそば』『お好み焼き』の三つを指す言葉。

 誰もが真っ先に思いつき、誰もが一度は出そうと考えるので、とても競争率が高いとされる。

 故に、店々ごとに様々な工夫を凝らし、他の屋台よりも少しでも多くの集客を狙う為に、店の者達は常日頃から味の追求をし続けていると言う。

 

 民明書房刊『夏祭り百人一首』より抜粋。

 

「なんだろう…急にどこからか謎の説明をされたような気がする…」

「俺もだ…」

 

 不思議と信じ込んでしまいそうな謎の口調…。

 何故だか落語の勉強の参考にしたいと思わせるな…。

 

「そう言えば、篠ノ之さんがどこにいるのかは分かるの?」

「うーん…多分、今はお守り販売の手伝いとかしてるんじゃないか? さっき、舞台で舞を踊ってたし」

「綺麗だったよね~」

 

 まさか、篠ノ之さんにあんな才能があったとは。

 あれは見事に魅了された。

 久し振りに私の中にある『芸人』の血が騒ぎだしたのは秘密。

 

「あれを見てたら、私も久し振りに舞ってみたくなったな…」

「え? 仲森さんも舞が出来るのか?」

「出来るよ? 中学の時に、芸事の練習として舞を始めとした踊りの練習は徹底的にやったから」

 

 すっごい厳しくて大変だったけど、すっごいやり甲斐があって楽しくもあった。

 今となっちゃ良い思い出ですなぁ…。

 ISに関わってからこっち、そんなことをする暇も無かったんだけど。

 

「そっか…仲森さんの舞も見てみたいな…」

「機会があったらね。今は篠ノ之さんの所に行こうよ」

「そ…そうだな。確か、お守りの販売所はこの辺だった筈…」

 

 周囲をキョロキョロとする織斑君に合わせて、私も一緒にキョロキョロ。

 篠ノ之さんはどこにいるのかな~?

 もし良さげなのがあったら、私もお守りを買おうかな~。

 

「あ。いた」

「どこだ?」

「あそこ。販売所の所で巫女服着てる」

「ホントだ」

 

 意外と呆気なく見つかりましたな。

 てなわけで、手を振りながら販売所に近づいてみることに。

 

「「お~い」」

「な…なぁっ!?」

 

 あ。向こうもこっちに気が付いた。

 すんごい顔をして私達を見てるや。

 

「よっ。お疲れさん」

「こんばんは。篠ノ之さん。来ちゃった」

「か…かかかかかか佳織!? それに一夏も!? 何故ここに!?」

 

 案の定、面白いように驚いてる。

 篠ノ之さんの、この反応は新鮮で面白いな。

 

「織斑君に、この神社と夏祭りの事を教えて貰って、一緒に行ってみようって話になったんだよ」

「そう言うこと。思い出したのは昨日なんだけどな」

「そ…そうだったのか…」

 

 あ…あれ?

 篠ノ之さんがいきなり俯いて震え始めた?

 やっぱり、いきなり来たのは拙かったかな…。

 

「い…一夏…」

「なんだ?」

「…本当によくやった…!」

 

 まさかのサムズアップ。

 そんなに嬉しかったのか。

 

「よもや…佳織の浴衣姿を拝める日がやって来ようとは…! 我が生涯に一片の悔いなし…!」

 

 いや、君もかい。

 この間、私のメイド服姿を見た千冬さんと全く同じ反応をしとりますがな。

 

「あ…このお守り可愛い」

「む? お守りを買っていくか? 佳織ならば特別にタダで売って…」

「いやいやいや…ちゃんとお金は払うから…」

 

 これぐらいなら余裕で払えるから。

 もう昔みたいに金銭面では困ってないから。

 

「あれ? このお守り…」

「安産祈願だな…」

 

 よく見てなかった…。

 完全に見た目だけで買おうとしてたわ…。

 でも、このデザイン…個人的に好みなんだよなぁ…。

 

「……今はまだ未成年だけど、将来的には必須だから大丈夫ってことで。これください」

「わ…分かった。300円だ」

 

 300円ね。

 小銭はー…あった。

 いざって時の為に、常に財布の中には小銭が入っているようにしてるからね。

 

「安産祈願を持つ佳織…いい…」

「「何が?」」

 

 別に普通のお守りだよ?

 そりゃ、女子高生が安産祈願ってのは流石に変だけどさ。

 

「包装は必要か?」

「大丈夫。このまま巾着につけるから」

「分かった」

 

 ってなわけで、安産祈願のお守りゲット。

 少しだけ恥ずかしいけど、こんな細かい所まで見ている人はいない…と信じたい。

 見た目は普通のお守りだしね。

 

「ところで箒。いつ出られる?」

「私か? 悪いが、もう暫くは…」

「それなら大丈夫よ」

「「「え?」」」

 

 篠ノ之さんが困り顔になっていると、奥の方から着物を着た美魔女さんがやって来た。

 この人はどなたかしらん?

 

 

 

 

 

 

 

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