私…生まれ変わったらモブキャラになりたいな(なれるとは言ってない) 作:とんこつラーメン
そこまで長引かせるつもりはありません。
クラス対抗戦終了直後ぐらいまで、ですかね。
思わぬ珍入者によって勉強する気力を奪われ、結局は何もしなかった次の日。
私はいつものように布仏さんと一緒に食堂で朝食を食べていた。
メニューは『卵焼き定食』。
ありそうでないシンプルなメニューではあるけど、だからと言って侮るなかれ。
醤油なんて必要ない程に濃厚な味付けがされたフワフワな出し巻き卵が食欲をそそりまくる。
食堂のおばちゃんに頼めば、特別にTKG専用の生卵と特製醤油もくれたりする。
控えめに言っても最高かよ。
「今日のかおりんは卵尽くしだね~」
「実は、このお味噌汁の中にも卵が入ってたりして」
「本当に卵尽くしだ……」
布仏さんも絶句する程の拘り。
IS学園の食堂…出来るわね。
「あ…こんな所にいた」
「「ん?」」
いきなり誰かと思ったら、昨夜のツインテールさんではありませんか。
まさか、また私に対して愚痴を言ってくるつもりなんじゃ。
「昨日はゴメン。頭に血が上り過ぎてて、アタシもどうかしてたわ」
「えっと…どなたですっけ?」
「昨日あんたの部屋に行った転入生の凰鈴音よ! もう忘れたってのっ!?」
「そうでしたそうでした。ファン・ファンファンさん」
「名字しか合ってない! ふざけてんのッ!?」
「すみません。噛みました」
「いや、絶対にワザとでしょ」
「かみまみた」
「…もういいわ。無表情でされると普通にキツいわ…」
もう終わり? メンタル弱いわねー。
そんなんじゃ上を目指せないわよ?
「かおりん、お知り合い?」
「ううん。正真正銘、赤の他人よ」
「うぐっ…! 間違ってはないけど、真っ向から言われるとグサってくるわね…」
そうされるような事をしたのが悪いんでしょうが。
「そういやアンタさ…あの後、千冬さんにチクったりした?」
「千冬さん…あぁ、織斑先生の事ね。うん。言ったけど? それがどうかした?」
「ついさっき、ここに来る途中で凄い怒られたから。転入早々何をやってるんだって」
おぉー…流石は織斑先生。ちゃんと有言実行してくれる。
そこに痺れる、憧れるー。
「その時、ついでにアンタの名前も聞いたわ。昨日はどれだけ聞いても教えてくれなかったし」
「だって、教えたくなかったし」
「どうして、そこまで拒絶すんのよ…」
「赤の他人だから?」
寧ろ、それ以上の理由なんて存在しないでしょ。
織斑先生は担任だから別にいいし、布仏さんはもう私にとっては赤の他人じゃない。
恐らく、生徒会もいずれはそうなっていく可能性が高い。
だが、原作ヒロイン…テメー等はダメだ。あと、漬物も。
「それは…そうかもしれないけど…だからと言って…」
正確には『自分にとって確実に害になる他人』を拒絶してるんだけどね。
だから、布仏さんとの初対面でも拒絶はしなかった。
更識先輩と織斑先生も最初は警戒してたけどね。
「…ねぇ、ここで一緒に食べてもいい?」
「残念。実は……」
話しながらも私も布仏さんもちゃんと食事は続けていた。
そして、箸には卵焼きの最後の一切れが。
「あむ。これで終わり。ごちそうさまでした」
「ごちそーさまでしたー」
「えぇっ!?」
これに関しては私達は悪くない。
しいて言えば、タイミングが悪すぎたって感じ?
「それじゃ、私達は行くから」
「ちょ…待っ…」
「それに、本当は私達なんかじゃなくて、愛しの王子様と一緒に食べたいんでしょ? 変に気を使わなくてもいいよ」
「べ…別に一夏となんてあたしは……」
「誰も織斑君の事なんて一言も言ってないけど。ねー布仏さん」
「うん。かおりんはおりむーの事なんて一言も言ってないよねー」
「「ねー」」
「…あんたら…本当に仲がいいわね…」
「「それほどでも~」」
「照れてるの、そっちの子だけよ?」
失敬な。私だってちゃんと照れてるわよ。
感情が表に出にくいだけで。
「ほら、噂をすれば来たよ」
「え?」
私が出入り口の方を指差すと、そこには織斑君が今日も今日とて篠ノ之さんとオルコットさんの二人を侍らせながらやってきた。
両手に花で羨ましいなー(棒読み)
花は花でも毒花だけどね!
「布仏さん、行こ?」
「うん! それじゃーねー。えっと…リンリン!」
「あたしはパンダかっ!? それと、ちょっとだけ思い出せてなかったでしょっ!」
あーあー聞こえないー。
なんかまだ言ってるけど、気にせずに私達は食堂から出ていくことに。
「そういえば、もう額の怪我は治ったの? ガーゼが取れてるけど」
「みたい。朝起きたら殆ど治ってた。まだうっすらとだけ傷跡が残ってるけど、これぐらいだったら毎日オロナインでも塗っておけば治るでしょ」
「よかったねー」
「そうね。ガーゼってつけてると妙に痒くなるから大変よね。そのせいでカサブタを弄っちゃったし…」
これからは今まで以上に気を付けないといけないかな。
授業中だからと言って油断はしない。
「あ…仲森さん。おはy…」
「一時間目って何だったっけ?」
「えっとね~」
食堂を出る直前に誰かさんが話しかけてきたけど、咄嗟に布仏さんに話しかける事で見事に回避。
これが本当の精神コマンド『ひらめき』。
手を上げかけた状態で固まってヒロイン×2が戸惑っているけど、私には関係ナッシング。
私達と同じように朝食を終えた子達が各々の教室に向かっている流れに沿って歩いていると、ふと廊下の真ん中にある掲示板に目が行った。
「どうしたの? かおりん」
「あれ」
「あれー?」
掲示板には、今度開催されるというクラス対抗戦のトーナメント表が貼ってあった。
私が注目したのは、一回戦の第一試合の所。
「一組と二組だねー」
「うん。って事は、織斑君と凰さんが試合をするって事になるね」
「さっきの子だねー。あの子って確か、中国の代表候補生なんだよね?」
「みたい。詳しくは知らないけど」
「ってことはー…最初から専用機持ち同士の対戦になるんだねー」
「…一回戦からクライマックスってどうなんだろ」
このトーナメント表を考えた奴、絶対に適当に考えたでしょ。
ま…どうでもいいけど。どうせ、例の兎さんの無人機の介入で全部が台無しになるんだし。
「かおりんは見に行くのー?」
「どうしようかな……」
正直に言えば行きたくない。
今回のは間違いなく命に関わるレベルで危ないから。
布仏さんにも行って欲しくはない。
けど、私には彼女を引き留める理由が思いつかない。
「…まだ時間はあるし、その時になってから考えればいいんじゃないかな」
「それもそうだねー」
…お願いだから、当日になって偶然にも風邪を引いたりお腹が痛くなったりしますように。
この際、体調不良なら何でも可。
まるで泳げない生徒がプールの授業前日に風邪を引くか雨になるように祈るような気持ちで日々を過ごす私なのでした。
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あれから数週間が経過し、今はもう五月。
私は生徒会室にて机に座ってから参考書とノートを開いてから勉強をしていた。
ついさっきまでは生徒会の仕事として書類の整理なんかをやっていたんだけど、意外と早く終わったので、こうして空いた時間で勉強をしているのです。
「佳織ちゃんは真面目ねー。空いた時間ぐらい、ゆっくりと休めばいいのに」
「休むのなら自分の部屋でも出来ますし、こんな機会でもないと集中して勉強出来ないですし」
正直、現在の私はギリギリのところで授業に付いて行っている状態だ。
分からない所があれば迷うことなく先生に聞きに行っているし、山田先生や織斑先生に頼んで補習授業をやって貰ったことも一度や二度じゃない。
そこまでしてようやくなので、勉強できる機会だけは有効に活かしていきたい。
「…ところで、更識先輩はさっきから何をしてるんですか?」
「佳織ちゃんの髪が長くて綺麗だから、色んな髪型にしてみようかなーっと思って」
「…変なのにしないでくださいね」
「大丈夫よ。お姉さんに任せなさい」
大丈夫かなぁ…。
心配だけど、後で解けばいいだけの話だし、ここは放置でいいでしょ。
それよりも勉強、勉強…っと。
「えっと…ここは……」
「やっぱり、王道はツインテールかポニーテールよね。佳織ちゃんはかなり髪が長いから、髪型の幅が広くていいわね」
頭を僅かに揺らされるような感覚を横に、私は頭を回転させていく。
因みに、布仏さんはさっきからそこのソファで昼寝をしている。
「ツインテール完成。うーん…思った以上に様になってる」
「あの…更識先輩」
「どうしたの? もしかして邪魔しちゃった?」
「いや、そうじゃなくて。実は夏の暑い日とかになると、よくツインテールに髪を纏める事があるから、これは私的にはそこまで変な髪型じゃないんですよね」
「意外ね…なんだか、佳織ちゃんがどんな私服を着るのか気になってきたわ」
「大したものは着てないですけどね」
大半が自分だけのセンスで買ってる物だし。
他人からどう見られているとか、今まで一度も聞いたことが無い。
「それじゃ、今度は結ぶんじゃなくて纏めてみようかしら」
「お手柔らかに」
私の髪に櫛を通しながら、再び弄り出す更識先輩。
なんか慣れてきたので、気にせずに勉強再開。
「ところで佳織ちゃん」
「なんですか?」
「佳織ちゃんは今度のクラス対抗戦は見に行くの?」
「どうしようか迷ってる所です。先輩も出場するんですよね?」
「一応ね。去年は優勝してるから、確実に警戒されてるでしょうね」
「そりゃ…ロシア代表を警戒しない訳が無いでしょ…」
私なら、試合をする前に降参するけどね。
同じ負けるなら、痛い思いをしない方がずっといい。
「どこか分からない所とか無い? お姉さんが教えてあげるわよ?」
「んー…今はまだ大丈夫です。だけど…」
「だけど?」
「その時が来たら遠慮なく頼らせて貰います」
「か…佳織ちゃんが…遂にデレた…!」
「人を気性の荒い動物みたいに言わないでください」
…割と早目の段階からデレているつもりではあったんだけどね。
もうちょっと顔に出した方がいいのかな…。
けど、私の笑顔なんて気持ち悪いし、誰得って感じだし…。
「仲森さん。勉強お疲れ様です。少し休憩をなさったらいかがですか?」
「虚先輩…ありがとうございます」
奥の部屋から虚先輩がやって来て、ノートの横に紅茶とクッキーを置いてくれた。
丁度、小腹が空いてきた頃だったから有り難い。
「ん…お姉ちゃんの紅茶の匂いがする…」
「匂いで起きるんだ…」
「まるで犬みたいね……」
「はぁ…全くこの子は……」
犬耳の布仏さん…可愛いのでは?
少なくとも、私はそう思う。
そして、全力で愛でる。
こうして、私の穏やかな放課後は過ぎていく。
だが、私は完全に油断していた。
まだ一日は終わってはいない。
最後の最後まで油断は禁物なのだという事を。
仮にヒロインにならなくても、鈴ちゃんは最終的には良い親友ポジションぐらいにはしたいと思っています。
一夏に靡きっぱなしにするかどうかまでは分かりませんが。