私…生まれ変わったらモブキャラになりたいな(なれるとは言ってない) 作:とんこつラーメン
それじゃ、そっち方面の話を考えなきゃな…。
いきなり教室に入ってきた二人の転入生。
その片方の姿を見た途端、教室全体が一気に静まり返った。
「皆さん初めまして。フランスから来た『シャルル・デュノア』です。来日したのは今回が初めてで、日本の生活には不慣れな点が多く見受けられると思いますが、どうかよろしくお願いします」
なんか言ってるけど耳栓をしている私には何も聞こえない。
本人には申し訳ないと思っているけど、話している内容はなんとなく想像出来るし、名前も知っているので今はそこまで聞く必要性は無い。
「お…男の子…?」
不意に顔を向けた先で一人の女子が何かを呟いた。
それに反応して、デュノアさん…いや、今はまだデュノア君かな?
彼がまた何かを話しだした。
「その通りです。こちらに僕と同じ境遇の人物がいると聞いて海を渡って日本のIS学園に……」
話は聞こえないけど、その立ち振る舞いから恐ろしく礼儀正しいことが分かる。
礼儀正しい…いや、礼儀正しすぎる。
まるで必死に自分の描く理想の男性像を演じているかのように。
前にガンちゃんが面白半分で男装をしたことがあったけど、今のデュノア君はそれに最も酷似している。
因みに、男装した時のガンちゃんは本当にカッコよくて、割と本気で胸キュンしてたりする。
もしも、あのままIS学園に入らずに皆と一緒に高等部に上がっていたら、普通にガンちゃんに告白をしていたかもしれない。
「きゃ……」
むむ…! この感じ…来るぞ! 私、耐ショック防御!!
気合を入れて耐えるぞー!
「「「「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」」」」」」
パァンッ!!!
(さ…叫び声の余りの威力に…耳栓が一瞬で破裂した…!)
な…なんで…? こんな事って現実に有り得るの…?
コストパフォーマンスを重視して、100円ショップで買ったのが拙かったの…?
こんな事なら…ちゃんとしたのをネット通販とかで買っておけばよかった…!
咄嗟に耳を手で塞いだけど、時既に遅し。
女子達のテンションは最高潮に達していた。
「男子よ男子! 二人目の男子ー!!」
「しかもウチのクラスに!!」
「すっごい美形! 母性がくすぐられる系の!!」
冗談抜きで…どうしてこんな事でここまで興奮できるのか本気で理解出来ない…。
どんだけ男に飢えてる人生を送ってきてるのよ…。
聞いてるだけでなんだか悲しくなってくるんだけど…。
(あんな超お粗末な男装すら見抜けないなんて…盲目的になって視野が狭くなるって本当に怖いわー…)
こんなんだから日本人はよく交通事故とか起こすんだよ。
もっと物事は冷静沈着に、視野を広く捉えるようにしようよ。
じゃないと、いつの日か必ず取り返しのつかない事故とかに繋がりかねないよ?
「静かにせんかっ!! まだ自己紹介は終わってないぞ!!」
ここで織斑先生の鶴の一声。
や…やっと静かになった……。
まだ耳がキーンって鳴ってるけど…大丈夫だよね?
鼓膜は破れてないみたいだけど…血とかは出てない…出てないね。安心した…。
後で絶対にスマホでヒーリングミュージックとか聞こう…。
「ボ…ボーデヴィッヒさん。挨拶をお願いします」
「…………」
「えっと……」
「ボーデヴィッヒ。挨拶をしろ」
「了解しました。教官」
はいキター。ハイパーコミュ症ダブルツインダッシュマークⅡセカンドな銀髪ロリっ子軍人ー。
山田先生の事を完全無視からの織斑先生に対する『教官』呼びキター。
この一連の流れだけで、彼女が普通じゃない事が一発で分かるね。
「ここは軍ではなく学校だ。私は教師であり、お前は生徒。故にここでは私の事は織斑先生と呼べ。いいな」
「はっ!」
そこで敬礼をしちゃ意味が無いでしょうが…。
世間知らずもここまで行けば勲章物だわ…。
彼女の出生が幾ら特殊とはいえ、それでも限度があるよね…。
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
ハイ終了。
最強に簡潔な自己紹介、ありがとうございました。
なんだか、入学した時の織斑君を彷彿とさせるよね。
(あ…ちょっと待って。織斑君と言えば……)
この後、ボーデヴィッヒさんに気持ちのいい一発を貰ってたよね…。
あの様子からすると、きっと……。
パチンッ!!
(やっぱり……)
完全に戸惑っている山田先生の前を堂々と横切ってから、織斑君の席の前まで来てからのビンタ一発。
聞いていて清々しさすら感じるような音が教室内に響いた。
それから、お約束の『認めない』宣言からの織斑君が激昂する。
後ろじゃ織斑先生が頭を抱えながらの盛大な溜息。
激しく同情しますよ…先生。
「はぁ……では、これで朝のHRを終了する。この後、すぐにISスーツに着替えてから第二グラウンドに集合するように。今日の午前はまず、隣りの二組と合同でISを使った訓練を執り行う。以上だ」
このままじゃ埒が明かないと判断したのか、織斑先生によって半ば強制的にHRが終了した。
先生…めっちゃ英断だと思います。
その後、織斑君がデュノア君の面倒を見るように言いつけられて、二人一緒に教室を出てから更衣室へと向かって行った。
途中で色々とあるとは思うけど…まぁ頑張って。
それよりも問題は……。
「…………」
こっちの方…だよねぇ…はぁ……。
めっちゃ仏頂面で腕組みして席に座ってるし…。
可能な限り、近づきたくは無いな~…。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
織斑君と言う男子がいるせいなのか、今日みたいに外での実習になると基本的に女子は教室で着替えて、彼は更衣室まで移動してから着替える事となっている。
本当は逆だと思うんだけど、恐らく男女の比率が極端になっているせいなんだろうね。
皆でゾロゾロと移動するよりは、一人がそそくさと移動をした方が時間が掛からなくて済むし。
今回の場合は二人になってるけど。それも今の間だけだから気にしない。
(さて…と。それじゃあ、私も早く着替えますかね。遅刻はしたくないし)
着替えると言っても、実際には制服を脱ぐだけなんだけどね。
前にも何回か言ったとは思うけど、私は制服の下にISスーツを着用しているのでパパッと着替える事が可能になっている。
それは何も私だけじゃなくて皆もそうで、実際に周りの女子達も制服を脱ぐと、その下からISスーツが見えてくる。
「かおりーん。終わったー?」
「あと少しだけ。ちょっと待ってて」
先に着替え終えた布仏さんがニコニコ笑顔でこっちにやって来る。
…いっつも思うけど、この子って顔に似合わず胸のサイズが凄いよね…。
これが本当の『ロリ巨乳』ってやつですか…ちくせう。
虚しい現実に嘆きながら制服を脱いでいく。
スーツ姿になってから長い髪に手をやって、首を軽く振ってから整えた。
「…かおりんって…綺麗だねぇ~…」
「それ…布仏さんが言う?」
そっちだって十分に美少女と言っても過言じゃないでしょうに…。
皆の前じゃ、私みたいな地味女なんて一瞬で霞んじゃうって。
髪の長さなら篠ノ之さんだって負けてないし、胸の大きさなら圧倒してるし…。
…なんか自分で言ってて悲しくなってきた。
「それよりも、早く行こう?」
「うん!」
着替え終わった子から次々と教室を出ていく。
私達もそれに続く形で廊下に出る事に。
去り際にチラッとボーデヴィッヒさんの事を見たら、一人で静かに着替えをしていた。
どうやら、彼女は制服の下にISスーツを着てこなかったみたいだ。
因みに、オルコットさんと篠ノ之さんの二人は終始、黙ったまま着替えていた。
幾らなんでも引きずり過ぎでは…?
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
教室から出ると、同じタイミングで二組の教室から出てきた凰さんと合流した。
向こうもちゃんとISスーツに身を包んでいた。
布仏さんの胸を見ると、一瞬だけ鬼の形相になってたけど。
「さっき振りね、二人とも」
「そうだね」
本当についさっき振りだ。
別れてから15分ぐらいしか経ってないし。
「そういや、さっきの絶叫は何だったの? 二組の教室は愚か、余裕でこの階にある全部の教室に響き渡ってたわよ?」
「えっと…それは……」
ここで私は魔法カード『かくかくしかじか』を手札から発動する!
これにより、詳しく説明をしなくても、なんとなくこちらが言いたい事が伝わってしまうのだ!
「かくかくしかじか…」
「まるまるうまうま。成る程ね。こっちのクラスでも噂になってた転入生が来た影響だったのね」
「うん…本当に耳が壊れるかと思った…。実際に耳栓は壊れちゃったし…」
「あぁー…あの100円耳栓ね。幾ら安物だからって、耳栓が壊れる絶叫ってどんだけよ…。よく無事だったわね…」
「自分でも奇跡的だと思う」
もしかして、私の知らない所でまたトールギスが守ってくれたのかな?
「しっかし…まさか一夏以外の男性操縦者がいるとはね……」
「そう…だね……」
立ち止まったまま話をしていては遅刻をしてしまうので、私達は歩きながら情報共有をすることに。
「何よ。妙に歯切れが悪いじゃない。どうかしたの?」
「かおりん…?」
「ん…ちょっとね……はぁ……」
これからの事を考えると普通に憂鬱になると言いますか…。
あの二人は今まで以上のトラブルを運んでくるしね…。
織斑君と普通に話す仲になってしまった以上、もしかしたら私の所に頼ってくる可能性も無きにしも非ずなわけで…。
それを思うと溜息が止まらないんだよね…。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
佳織の顔色が妙に優れない。
別に体調が悪いって訳じゃないでしょうし…。
実際、今朝は普通に朝食を食べていた。
(もしかして、例の転入生が関係しているのかしら…?)
聞いてる限りじゃ、明らかに訳ありっぽい感じだし…。
一つのクラスに二人って時点でおかし過ぎでしょ。
しかも、うち一人は男で? もう一人はいきなり一夏に向かってビンタをした?
…佳織じゃなくても溜息をつきたくなるわ。
「ねぇ…本音」
「どーしたのー?」
「一組に来た二人の転入生って、どんな感じの奴等だったの?」
「うんとねー……一人はフランスから金髪の男の子?…で、もう一人は銀髪で眼帯をしててー…すっごくビシッって感じのちっちゃな女の子」
「どうして男の子の所だけ疑問形?」
「なんでかなー…私には彼が男の子には見えにくかったんだよねー」
「男には見えない…? その根拠は?」
「なんとなくかなー」
…本音にちゃんとした説明を求めたあたしが馬鹿でした。
この子はあれね。直感で何かを感じたんでしょうね。
(まだ本人を見ていない段階じゃ何とも言えない…か)
まずは実物を見てから判断しましょ。
そうすれば、どうして佳織が落ち込んでいるのかも分かるだろうし。
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・・・・
・・・
・・
・
グラウンドに出てから、あたしは既に来ていた二組の子達の列に並ぶことに。
佳織と本音も同じように、一組の列に並んで整列をしていた。
まだ落ち込んでいる様子のセシリアと箒を余所に、一組の子達はさっき来たという転入生たちの話題で持ちきりの様子。
それは二組にまで伝染し、ウチのクラスの子達も一組の転入生について話し始めた。
といっても、話の内容は主に例のフランス男子についてだけど。
(…で、もう一人の転入生が……あいつね)
本音から聞いた特徴を参考に探してみると、すぐに見つかった。
銀髪で眼帯で小柄な体格。
ここまでのヒントがあれば見つけるのは容易だ。
(…まるで軍人みたいに綺麗な立ち姿ですこと)
他者を完全に寄せ付けない立ち姿。
あれは意識的に壁を作ってるわね。
自分はお前達とは違うって顔をしてるわ。
(あんなのが自分のクラスに転入して来れば、そりゃ溜息の一つも吐きたくなるか……)
佳織には凄く同情するわ。
よし。今夜も遊びに行って、あの子のストレス発散に協力してあげよう。
(けど、こっちの子は基本的に自分から近づかなきゃ問題は無いわよね? 問題がありそうなのは……)
あっちの方か。
そんな事を考えていると、最後に一夏が見慣れない子と一緒に走ってきた。
もう既に千冬さんの眉間はピクピクしている。
「「遅れました!」」
「遅い! とっとと並べ!」
金髪の男子って、あの子の事よね…。
なんか一夏と仲が良さそうにしてるけど、あれって……。
(体付きや線の細さ…歩き方とかもそうだし、なにより喉仏が無い…。どう見ても男装をした女の子じゃないのよ!!)
いや…あれはもう男装なんてレベルじゃない。コスプレよ!
ううん…コスプレでも、もっと上手に化けるわよ!
どうして一組の子達は気が付かないのッ!?
はっ!? ちょっと待ってよ…?
(もしかして…佳織はクラスの中でただ一人だけ、アイツの正体に一目で気が付いてしまって、それを言いたくても言えないから落ち込んでいたのっ!?)
それなら全ての辻褄が通る!
あれだけの実力を持つ佳織なら、候補生以上の優れた観察眼を持っていても決して不思議じゃない!
あたしたちが気が付いてるんだから、まず間違いなく千冬さんだってアイツの正体を感づいている筈…。
なのに何も言わないって事は、何か考えがあるって証拠…。
それを分かっているから、佳織も黙ってるんだわ!
(…今夜、遊びに行った時にでも聞いてみようかしらね。それで少しでも佳織の心の負担が軽くなれば……)
性別を偽ってまで転入してくるって事は、かなりの大きな理由が有る筈。
佳織もそれを分かっているから、ああしてもどかしい気持ちになっているに違いない。
つーか、どうして一番近くにいる一夏が気が付かないのよッ!?
遠目から見たあたし達でさえ一発で分かったってのに!
そんなんだから昔から『鈍感神』って呼ばれんのよ!
なんか思い出したら急に腹立ってきた…!
鈴ちゃん、地味に強化。主に精神的な部分が。
これなら、もしかしてラウラとのイザコザも…?