私…生まれ変わったらモブキャラになりたいな(なれるとは言ってない)   作:とんこつラーメン

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今回は繋ぎ&フォローのお話。

箒に切っ掛けを与えたんだから…ね?







こんなのは私の役目じゃないでしょ…

 外も暗くなり、皆は寮の自室にて過ごしている時間帯。

 それは私も例外じゃないんだけど、今回は少し違った。

 

「織斑先生。いますかー?」

 

 私は織斑先生の部屋のドアをノックしていた。

 本当はもっと早くに訪れるつもりだったが、色々とあって今になってしまった。

 

「こんな時間に誰だ…って、仲森か?」

「はい。仲森です」

 

 ドアを開けて出てきた織斑先生は、まさかのジャージ姿。

 着たくなる気持ちは分かるけど…予想の斜め上を行っていた。

 部屋着がジャージとか、まるでマリーさんみたい。

 

「一体どうした? また勉強で分からない所でもあったか?」

「いいえ。今回はそう言うのじゃなくてですね…はい」

 

 私は、手に持っていた小さなタッパーを織斑先生に手渡した。

 タッパーの中には、お昼に食べたカレーの残りが入っている。

 全部食べきれると思ったけど、少しだけ余ってしまったので、良い機会だから先生達に御裾分けしようと思ったのです。

 

「これは?」

「私がお昼に食べた『手作りカレー』の余りです。良かったらどうぞ」

「ひ…昼に手作りカレー? 食堂のじゃなくて…か?」

「はい。私が作りました」

「色んな意味で凄いな……」

 

 それ、織斑君や凰さん達にも言われたけど…教室でいきなり鍋を始めようとするマリーさん達に比べればはるかにマシだと思うんだけど…。

 時には落語部部室で闇鍋をやった事もあったし。

 

「しかし、仲森は料理が出来たんだな」

「一応。実家じゃ家事の殆どを私がしてましたから」

「そうか……」

 

 最初は四苦八苦してたけど、数をこなして慣れてしまえばこっちのもの。

 今じゃ普通に色んな料理が作れるようになった。

 

「普段から先生達にはお世話になりっぱなしですから、これぐらいのお礼はしないとと思って」

「本当に…お前は良い奴だなぁ…仲森。他の生徒達にも見習わせたいよ…」

「尊敬する年上の人に敬意を払うのは当たり前の事だと思いますけど…」

 

 この精神は中学の頃に徹底的に叩き込まれてきた。

 私自身、この考えは決して間違ってはいないと思っているし、それはマリーさん達も同様。

 なので、改めて言われなくても普通に受け入れていた。

 

「…ところで、さっきからずっと気になっていたのだが……」

「なんですか?」

「…お前が着ているソレは…なんだ?」

「実家から持ってきた愛用の『牛さん着ぐるみ風パジャマ』ですけど?」

「パジャマだったのか…それ」

 

 そういや言い忘れていたけど、今の私は風呂上り後という事もあってパジャマ姿になっている。

 この牛さんパジャマ、見た目以上に着心地が良いんだよね。

 因みに、頭を模したフードに付いている目と角がチャームポイント。

 

「…思ったよりも触り心地が良いんだな」

「でしょ? 私のお気に入りなんです。これを着てると朝までグッスリです」

「それはそれで羨ましいな」

 

 織斑先生が徐にフードの上から私の頭を撫でてきたけど、その程度じゃもう怯まない。

 

 って…おっと。織斑先生の貴重なプライベート時間なのに長居をし過ぎてしまった。

 

「あの…山田先生の部屋ってどこにありますかね?」

「山田先生の部屋? もしかして、彼女の所にも持っていくのか?」

「はい。あの人にもお世話になってますから」

「そうだな。きっと喜ぶだろう。持って行ってやると良い」

 

 それから、教員寮にある山田先生の部屋の場所を教えて貰ってから織斑先生に『おやすみなさい』をした。

 山田先生の部屋まで行って同じ事を言ったら、先生は喜びに打ち震えながら私に抱き着いてきた。

 巨乳って…時には凶器にもなり得るのね……。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「く…苦しかった……」

 

 危うく、山田先生の巨大メロンによって窒息死をするところだった…。

 世の男子からすれば最高に幸せな死に方かもしれないけど、実際にされる方は溜まったもんじゃない。

 

「ん?」

 

 自分の部屋に戻る為に寮の廊下を歩いていると、廊下と廊下を繋ぐ十字路の所に設置してあるソファーに誰かが座っていた。

 さっきここを通った時には誰もいなかったよね?

 ということは、私が教員寮に行っている間に来たって事?

 でも、一体誰が……。

 

(あ…)

 

 ソファに座って俯いていたのはオルコットさんだった。

 こんな所でどうしたって言うの?

 しかも、まだ制服を着ているって事は…お風呂にも入ってないんだよね。

 

(なんか…物凄く落ち込んでる…?)

 

 もしかして、お昼の事が原因かな。

 織斑君が連れてきたとはいえ、私も悪い事をしてしまったとは思ってるし…。

 

「はぁ……」

 

 今回の事は私にも少なからず非はあるし、あんな空気を明日以降も出されるのは普通に困る。

 無駄に騒がしいのは苦手だけど、それと同じぐらいに空気が重くなるのも苦手なのです。

 というか、重苦しい雰囲気が得意な人なんてこの世のどこにもいないでしょ。

 

(こういうのこそ本当は織斑君の出番なんじゃないの?)

 

 きっと彼は今頃、自分の部屋でデュノア君とキャッキャウフフしてるんだろうね。

 あれからちゃんと一言謝るぐらいはしたのかしら?

 まぁ…それに関しては私も人の事は言えないけど。

 

(行くしかない…よね…)

 

 ここを普通にスルー出来る人間がいたら、それこそマジで鬼畜だわ。

 流石にそこまでは落ちぶれてはいない。

 あくまでも自然に…自然な感じで近づいて行って……。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 同じ部屋の子は『今日は友達の部屋に泊まる』といって出て行ってしまい、残されたのは私一人だけ。

 あの広い部屋に一人と言うのは、今の私にとってかなり辛かった。

 なので、気分転換にと思って廊下に出たのだけれど…。

 

(誰もいない…ここでも一人なんですのね…)

 

 今思えば、私の学園生活は最初から波乱の連続だった。

 愚かな考えを持っていたせいで一夏さんや日本を侮辱するような真似をしてしまっただけでなく…あろうことか命の危機に陥っているクラスメイトを見捨てようとしてしまった。

 それは人として、力を持つ代表候補生として絶対にあってはならない事。

 結果として仲森さんの専用機の圧倒的な力と彼女自身の卓越した技量のお蔭で一夏さんも鈴さんも無事で事なきを得た…けど、私が仲森さんの命を軽視してしまったという事実は永遠に覆らない。

 

 それから、私はクラスメイトだけでなく一夏さん達とも碌に話さなくなった。

 いや…違う。私が一方的に避けているだけだ。

 あんな事を考えてしまった私にはもう、一夏さんをお慕いする資格が無いと…そう思って。

 

 鈴さんの怒りが特に凄かった。

 大切な親友の事を私が見捨てようとしてしまったのだから当然だ。

 私だって同じような事をされれば決して許さないだろう。

 その気持ちを知った今だからこそ理解出来る。

 もしも何かが一つだけでも掛け違っていたら、取り返しのつかない事態になっていたということを。

 

 謝らないといけない。鈴さんに…布仏さんに…なにより仲森さんに。

 だけど…拒絶されるかもしれないと思うと…私は怖い。

 怖くて…何も言いだせない。

 今日のお昼だってそう。

 折角、一夏さんが機会を設けてくれたのに…私は何も出来なかった。

 ただ、皆が楽しそうに話している姿を見ていただけ。

 本当に…心の底から自分の事が嫌になった。

 

「…オルコットさん」

「っ!? な…仲森…さん…?」

 

 いきなり声を掛けられて過剰な反応をしてしまった。

 誰かと思って慌てて振り向くと、そこには牛を模したパジャマ(?)を着ている仲森さんが立っていた。

 今、最も会わなくてはいけなくて、同時に会いたくない人物。

 それが向こうから話しかけてくるなんて…。

 

「そんな所に座ってどうしたの?」

「べ…別になんでもありませんわ…」

 

 …どうして私はこうも素直じゃないのか。

 本気で自分が嫌いになる。

 

「…今日のお昼はゴメン。完全にオルコットさんの事を無視するような形になっちゃった」

「な…なんで貴女が謝るんですの…」

「だって、私もあの場にいた当事者だし。あんな状況を作ってしまったのは私だし。謝るのは当たり前だと思うけど」

 

 あぁ…情けない…! 本当に情けないですわ…セシリア・オルコット…!

 本来ならば私の方こそが謝罪をしなければいけないのに…その相手に気を使われた挙句に謝られるなんて…!

 

「織斑君は謝ってくれた?」

「え…えぇ…。あの後すぐに…『セシリアの気持ちを蔑にしてしまった。本当にゴメン』…と」

「ふーん…ちゃんと最低限の事はしたんだ」

 

 一夏さんも何も悪くは無い。

 悪いのは、謝る勇気すら持てない私。

 

「…もしかしてさ、まだクラス対抗戦の時の事を引きずってる?」

「そ…れは……」

 

 いきなり核心を付かれてしまった。

 どうしよう…何を言われる?

 混乱で頭が上手く回らない…!

 

「あの時の事なら織斑先生に一通りは聞いてる」

「…………」

「だけど、あれはもう過ぎた事…終わった事だよ。気にし続けているって事は、オルコットさんの中に良心の呵責があるってこと。後悔をして、反省をしているんなら…それで十分でしょ」

「十分じゃありませんわ!」

 

 仲森さんの一言に反応して、思わず大声を出しながら立ち上がってしまった。

 自分でも何をやっているんだという自覚はあるけど、己の意志じゃ止められそうにない。

 

「私は…私はあの時……貴女の事を…!」

「うん。知ってる。聞いたから」

「だったら!」

「でも…私が直接、オルコットさんから言われた訳じゃない」

「だとしても…!」

 

 そんな理屈が通用すれば誰も悩んだりはしない。

 聞いていないからなんて単純な話じゃないのだから。

 

「紆余曲折はありはしたけど、結果として皆無傷で助かってる。それでいいじゃない」

「それは結果論ですわ…」

「そうだね。結果論だよ。それの何が悪いの?」

 

 フードからはみ出している長い髪を弄りながら、仲森さんはいつもと変わらぬ口調で話をしながらこちらを見た。

 その真っ直ぐな瞳に、私は思わず見入ってしまった。

 

「周りが何かを言ったとしても、少なくとも私はもう気にしてない。『もしも』の事なんて考えても意味無いじゃない。オルコットさんは結局は未遂で終わっている。私に対してオルコットさんは何もしてないんだよ。これ以上、気に病む必要はどこにも無い」

「どうして……どうして貴女は…そんな事が言えるんですの…」

「さぁね。もしかしたら、私が15歳って言う年齢だからなのかもしれない」

「15歳だから…?」

「そう。15歳って半分子供で半分大人なんだよ。だから、大人を頼りにしながらも、色んな事を一人で考えていくようにならなくちゃいけない…と私は思ってる」

 

 半分子供で…半分大人…。

 幼い頃に両親を亡くして以降、ずっとオルコット家を守る為に頑張ってきたけど…そんな風に考えた事なんて一度も無かった…。

 

「でも…私は……」

「まだ自分を許せないって顔をしてるね」

「当然ですわ…。仲森さんが幾ら許してくれても…そう簡単には……」

「ふぅ…仕方がない。ちょっと来て」

 

 そう言うと、いきなり仲森さんは私の手を引っ張ってから、どこかへと連れて行こうとした。

 突然の事に戸惑ったが、不思議と抵抗しようと気は起きなかった。

 

「ど…どこに連れて行くつもりなんですの?」

「私の部屋」

「仲森さんの…お部屋…?」

「そ。本当は余程の事が無い限りは他人を自分から招き入れるなんて真似は絶対にしたくない」

「なら…どうして…」

「今回は『余程の事』だからだよ」

 

 程無くして廊下の端にある仲森さんの部屋に到着した。

 彼女の部屋がこんな場所にあったとは知らなかった。

 

「入って」

「し…失礼しますわ」

 

 仲森さんの部屋にはベッドが一つしか無く、彼女が一人部屋であることが伺えた。

 部屋自体はそこまで散らかっている訳ではなく、かといって殺風景というわけでもない。

 良くも悪くも『歳相応』といった感じだった。

 

「そこに座って、少しだけ待ってて」

「は…はい」

 

 備え付けの椅子に座ってから仲森さんの行方を目で追うと、彼女はキッチンに移動して何かをしていた。

 

「よし。出来た」

 

 そう言って彼女がトレーに乗せて運んできたのは、二人分のコーヒーカップ。

 中には真っ黒なコーヒーが入っていて湯気を出していた。

 

「ミルクと砂糖はお好みでどうぞ」

「あ…ありがとうございます…」

 

 事態が急転直下すぎて訳が分からなかった。

 仲森さんは私とは向かい合うような形で座り、コーヒーの中に角砂糖とミルクを入れていた。

 

「…嘗て、とあるお医者さんが、こんな言葉を残してる」

「お医者さん…?」

「『大概の問題は、コーヒー一杯飲んでいる間に心の中で解決するものだ。後はそれを実行出来るかどうかだ』」

 

 コーヒーを飲んでいる間に心の中で解決…?

 まさか、それを言う為だけに私を部屋に入れて、コーヒーを御馳走して…?

 

「オルコットさん。あれから一度でも、こんな風にお茶を飲んだりした?」

「いいえ…そんな気分でもなかったので……」

「だと思った。だから、いつまで経っても気分が落ち込んだままなんだよ」

「どういう意味…ですの?」

「心をリラックスしろってこと。多少、無理矢理にでもいいから心を休ませてあげないと、本当に潰れちゃうわよ?」

 

 心を…休ませる…。

 彼女が言った事を反芻しながら、私は角砂糖と一つとミルクを少し入れてから、そっと仲森さんが淹れてくれたコーヒーを一口飲んだ。

 

「美味しい…」

「どこにでも売ってる普通のインスタントだけどね。それでも工夫次第じゃ意外と化けたりするんだよね」

 

 そういえば…コーヒーを飲んだのなんていつ以来だろう…。

 普段は紅茶しか飲んでいないから、なんだか懐かしく感じる…。

 

(そういえば…お父様がよく淹れてくれたコーヒー…美味しかったですわね…)

 

 まだ両親が二人とも生きていた頃。

 休みの日になると父が時々、私と母にコーヒーを淹れてくれた。

 料理は出来ないのに、なんでか父のコーヒーだけは幼かった私にも分かるほどに絶品だったことをよく覚えている。

 

「オ…オルコットさん? どうしたの? なんか涙出てるけど…ゴミでも入った?」

「え…?」

 

 仲森さんに言われて頬に手を当てると、そこには確かに涙が流れていた。

 コーヒーを飲んで、昔を思い出したから?

 あの頃が懐かしくなんて泣いているの…?

 

(もう…お父様もお母様もいない…。私は…自分と同じような悲しみを仲森さんのご家族にも味あわせるところでしたのね……)

 

 今…本当の意味で思い知った。自分が犯しかけた罪を。己の愚かさを。

 これまでは上辺だけの罪悪感から気落ちしていたけど…それはどこまで行っても表面的なことに過ぎない。

 あのまま謝っていたら、また同じ愚行を繰り返していたかもしれない。

 けれど…もう私は迷わない。立ち止まらない。

 人間として一番大切な事を思い出せたような気がするから。

 

「仲森さん」

「なに?」

「あの時…私はあなたの事を見捨てようとしてしまいました。本当に…申し訳ございませんでした…」

「…うん。その謝罪は受け取るよ。上辺だけの言葉じゃない。今のオルコットさんは心の底から謝ってる感じがしたような気がしたから」

「ありがとう…ございます…」

 

 言えた…やっと言えた…。

 誰かに対して心からの謝罪をするのは…本当に勇気と覚悟がいる行為なんですのね…。

 今…知りましたわ…。

 

「なんか…今のオルコットさん。凄くスッキリした顔になってる。まるで憑き物が取れたみたいに」

「そ…そうですか?」

「うん。やっぱり、オルコットさんにはそっちの方がいいと思う。落ち込んでるオルコットさんは、なんていうか…らしくないような気がするから」

「らしくない…そうですわね」

 

 自分らしくない…か。確かにそうだったかもしれない。

 私はオルコット家当主にしてイギリスの代表候補生。

 もう二度と、家の名と杭を汚すような真似はしないと誓いますわ!

 そして……。

 

「仲森さん。私の全てを賭して、必ずやあなたの事を守ってみせますわ」

「え? あ…うん。ありがと…」

 

 織斑先生の仰っていた事が真実ならば、仲森さんは常に危険と隣り合わせという事になる。

 どこの誰が彼女を狙っているかは知らないけれど、これ以上好きにはさせない。

 私が…仲森佳織さんの騎士になってみせますわ…!

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 




まだ…まだヒロインにはなってない。

本格化するのは『あのシーン』以降になってからだ…!





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