私…生まれ変わったらモブキャラになりたいな(なれるとは言ってない) 作:とんこつラーメン
この四つを無理矢理に乗っけたトールギスは浪漫の塊だと思うのは私だけでしょうか。
入学式を終えた次の日。
早くも生徒達は学園に馴染み始め、朝の寮の食堂は朝食を食べる生徒達で賑わっていた。
学生にとっての朝というのは忙しく、のんびりと会話をしながら食事をするなんてことは時間が許してくれない。
そんな者達を寮長であり教師でもある『彼女』が許す筈も無く…。
「何をダラダラと食事をしている! もしも遅刻をしたらグラウンド十周走らせるぞ!」
もう既にスーツに着替えている千冬が、生徒達に向かって叱咤する。
それは勿論、自分の弟に対しても向けられるわけで。
「織斑。何を他人事のような顔をしている。お前とて例外では無いぞ」
「わ…分かってるって! もうちょっとだけ待ってくれよ! って、箒っ!?」
「悪いが、私はもう食べ終えたのでな」
「ちょ…マジかよッ!?」
「先に行くぞ。お前を待っていてやりたいのはやまやまだが、遅刻はしたくない」
現実は無常なり。
学園で数少ない信頼のおける幼馴染は、スタスタと食堂から出て行ってしまった。
「そういえば、あいつは……」
ここでふと、千冬は食堂を見渡してから『ある人物』の姿を探した。
数秒間ほど目を動かしていると、一番右端の方で一人ひっそりと朝食を食べている黒髪の少女の姿を見つけた。
黒くて長い髪という特徴だけでは判別しにくいが、彼女の場合はその髪がかなり長く、膝の辺りまであったりするので意外と分かり易い。
パッと見、椅子に座った状態で後ろから見れば真っ黒な塊だ。
「お魚…美味しい…もぐもぐ…」
朝食の焼き魚定食を食べながら、満足げにしている探し人『仲森佳織』。
まだ友達などは出来ていないようだが、本人はそれで十分に満足しているので無問題。
「ふぅ…どうやら、あれから特に何かが起きたという事は無いようだな」
IS委員会に連絡先が知られている(と千冬は思い込んでいる)佳織にとって、学園内に安全地と言える場所は少ない。
ああして元気な姿を見られるだけで安心できた。
「千冬姉…どこを見てるんだ?」
「ここでは私の事は『織斑先生』と呼べと…何度言えば分かるっ!」
「ぶべらっ!?」
ばちこーん!
そんな音が食堂内に響き渡り、食事をしている他の生徒達を更に慌てさせた。
因みに、佳織は長い髪に隠れて後ろからは見えていないが、ワイヤレスイヤホンで音楽を聞きながら食事をしていたので、千冬の声や突然の炸裂音は全く聞こえていなかった。
その後、佳織は普通に食事を終えてからちゃんと教室へと向かい、一夏は痛む頭を擦りながら遅刻してしまった。
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それは、千冬が食堂に来る前の出来事。
彼女は副担任である『山田真耶』と一緒に理事長室へと呼び出されていた。
「こんな朝早くから来て戴いて申し訳ありません」
そう言って二人に謝罪をしている机に座っている初老の男性こそが、このIS学園の理事長である『轡木十蔵』その人である。
表向きは学園の用務員として振る舞っているが、有事の際は理事長としての権限をいかんなく発揮する事が出来る。
見た目は優しそうな好々爺であるが、その中身は千冬ですら敵わない程の実力者であり、誰が言ったか『封印を解き放たれたゴジラ』。
「いえ…それよりも、我々を呼び出したという事は、もしかして…」
「はい。一組の生徒についてです」
それを聞いて二人は真っ先にある人物の事を頭に思い浮かべるが、千冬と真耶とではその人物が全く違った。
「まず、織斑君に対して専用機が用意されるかもしれないという事でしたが、それが正式に確定しました。データ取得用の機体が倉持技研で用意され、彼に与えられるとの事です」
「やっぱり、そうですか…」
「昨日までの段階では『もしかしたら』でしたが、政府はよっぽど男性がISを動かしたメカニズムが気になるようです」
「無理もありません。あいつに関しては誰もが想像すらしていなかった事なのですから」
一夏がISを動かした時、文字通り瞬く間にその情報が世界中に広がった。
同時に、色んな研究者たちなどが彼の元に殺到し、その身柄をなんとかして確保しようと錯綜した。
その問題は彼が『IS学園に入る』という選択肢をしたことでご破算になったが。
「織斑君の専用機に付いての詳細については、後でそちらに送られてくる手筈になっています。確認しておいてください」
「分かりました」
これで話は終わりか。
真耶はそう思っていたのだが、轡木や千冬の表情から、まだ終わりじゃないと察して何も言わずに立ち尽くしていた。
「さて…本題はここからです」
「…仲森佳織の件…ですか」
「え?」
どうして、そこで佳織の名前が出てくるのか。
思わず真耶は間抜けな声を上げてしまった。
「彼女の名前を上げるという事は、織斑先生はもう既にご存じなのですか?」
「理事長が話そうとしている内容が私の想像通りならば『はい』と答えます」
「お…織斑先生? 一体何を話しているんですか?」
自分だけ全く話が分からない。
混乱しながらも千冬に尋ねると、彼女は険しい顔をしながら静かに告げた。
「どうやら…IS委員会から仲森に専用機が送られてくる…らしい」
「な…仲森さんに専用機…!?」
真耶も、副担任として彼女の事情はちゃんと把握している。
ある日突然に『S』という驚くべき適性を出してしまった普通の少女。
その結果、半ば強制的にIS学園へと来ることになってしまった。
境遇だけで言えば、一夏と最も酷似していると言っても過言ではない。
「織斑先生の仰る通り…どうやら、委員会直々に彼女に専用機が与えられることになりました」
「それは…彼女が『S』だから…ですか?」
「恐らくは。世界規模で見ても非常に希少な『S』ランクを放置しておくことなんて彼らには出来ないのでしょう。何としても優秀な操縦者に育て上げ活躍してほしいと思っているに違いありません」
「その言い方だと、まるで将来的には仲森さんを代表候補生にでもしようとしているように聞こえますが……」
「まだ断定は出来ませんが、企んではいるでしょうね…」
どこまで彼女の人生を翻弄すれば気が済むのだ。
ただ、ISで高い適性を出したというだけで、勝手に進学先を決められ、更には将来すらも決められて。
佳織のこれからの事を思うと、不憫で仕方がない真耶だった。
「ところで、織斑先生はどこでその事を知ったのですか?」
「それは……」
千冬は昨日の放課後にあった事を全て話した。
廊下で佳織が電話をしていた事。
その時に耳にした内容の事を、自分の知っている範囲で事細かく。
「恐らく、その電話の相手こそが仲森をIS学園へと招いた張本人だと思われます。専用機を渡そうとしているのも……」
「その人物である可能性が非常に高い…ですか」
「はい。仲森の口からはっきりと『専用機』と聞きましたから」
「やりきれませんね……」
何から何まで大人達の掌の上。
しかも、その相手は今の世で最も強大な権力を持っている者達の一人。
普通の人間では相手をする事すら出来ない。
「実は、私の方にも今朝になってから仲森佳織さんに専用機を与える事を委員会が通達してきました」
「その理由はなんと?」
「『世界的にも非常に希少なSクラスの操縦者を守る為』…だそうですが、そんなのは表向きの理由でしょう。間違いなく、その裏には別の理由が有る筈」
轡木の鋭い勘が告げている。
このまま奴等の好きにさせてはいけないと。
文字通り、一人の少女の全てが掛かっている事なのだ。
教育者として、大人として、決して軽視していい事ではない。
「いつ頃、彼女の専用機が届けられるかはまだ不明ですが、もし到着した時は…」
「徹底的にこちらで調査をする…ですね」
「えぇ。何か危ないシステムか、もしくは盗聴器などの監視機能のある何かが仕組まれている可能性がある。例え僅かな可能性であっても、その芽は摘むべきでしょう」
「「はい」」
こうして、本人が知らない所で佳織の重要度が高くなり、彼女の望む『静かな生活』から激しく遠ざかっていくことになる。
「ところで、専用機の事に関して本人には……」
「正直、話すべきかどうかは迷いますね。ですが、遅かれ早かれ彼女は知ることになるのですから、それならばいっそのこと…」
「早めに話してから心の準備をさせておく…ですか」
「酷かもしれませんが、ある日突然に知らされるよりはマシでしょう」
「そうですね。では、機会を見つけて私から話しておきます」
「お願いしますね。織斑先生」
偶然とはいえ話を聞いてしまった手前、佳織に対して責任感のような物を感じている。
それは何も影から通話を聞いてしまった事だけが原因ではない。
彼女の人生を壊そうとしているISの根幹に深く関わっている人間として、どうしても放っては置けないのだ。
これが切っ掛けとなり、千冬の運命もまた変わっていくことになるのだが…その事をまだ彼女は知らない。
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入学してから二回目となる朝のホームルーム。
通達事項は私にとっては殆ど他人事に等しい。
途中で織斑一夏くんに専用機が与えられることになって、女子達がまたもやワーキャー騒いだり、その流れで篠ノ之箒さんが、あのISの生みの親である『篠ノ之束』の実の妹であることが発覚して、また一騒ぎあったりと賑やかさが全く収まる気配が無い一年一組。
このお祭りテンション状態がいつまで続くか見物ね。
授業は授業でまたいつも通りで、私は頑張って予習したお蔭で辛うじて着いていけている状態。
で、原作通りに参考書をゴミ捨て場にポイするという前代未聞の不祥事をかました主人公くんは、ウンウンと唸りながら必死に頭を捻っていた。
余談だけど、山田先生が皆に向けて『分からない所はありますか?』って聞いた時、私は手を上げなかった。
いや…本当は手を上げたかったけど、誰一人として手を上げようとしなかったんだもん。
あんな空気の中で一人だけ手を上げるとか絶対に無理ですから!
私にそんな度胸なんてないから!
その後も昼休みに見事な一本背負いが見られたり、意味不明な大名行列が見られたりして退屈だけはしなかった。
あくまでモブ目線で…だけどね。
このまま今日も何事も無く一日が過ぎていく…と、そう思っていたんだけど…。
専用機をゲットした辺りから勘違いが加速していく予定です。
それまでは少しだけお待ちください。