私…生まれ変わったらモブキャラになりたいな(なれるとは言ってない)   作:とんこつラーメン

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年末に差し掛かるにつれて、やる気が吸い取られていく気がします。

一年の疲れが一気に押し寄せてきてるんでしょうか?







焦りは禁物

 更識先輩がやって来て、布仏さん以外の全員が大きく目を見開いて彼女の事を見ていた。

 無理も無い。まさか、生徒会長が直々にやって来るだなんて誰も想像もしていなかっただろうから。

 

「え…えっと…仲森さん? この人は一体…」

「この人は二年生の更識楯無先輩。IS学園の生徒会長にして、自由国籍って制度を使って日本人であるにも拘らずロシアの国家代表も務めている凄い人だよ」

「せ…生徒会長でロシア代表ッ!? この人って、そんなにも凄いのかよッ!? っていうか、なんで皆はたったそれだけのリアクションなんだっ!?」

 

 なんでと言われてもね…なんとなく想像はつくけど。

 

「いや…この人についてはIS学園のHPにも堂々と載ってるわよ?」

「IS委員会の公式サイトにも記載されていましたわ」

「私達が驚いたのは、佳織がこの人を呼んだことについてだ」

「生徒会所属は伊達じゃない…ってことなんだね…」

「かいちょーだもんね~」

 

 これが普通のリアクション。

 生徒会長って一年生に取っては遠い存在に等しいしね。

 私にとっては、かなり身近な存在になってるけど。

 

「ほ…箒も知ってたのか…?」

「当たり前だ。自分の通っている学校の生徒会長の顔と名前ぐらい知っていくのが常識と言うものだろう」

「うぐっ…!」

 

 篠ノ之さんから織斑君に対してのダイレクトアタック。

 これは手痛い一撃だわ…。

 

「いや~…佳織ちゃんに『凄い』って言われると照れちゃうわね~」

「口には出してないけど、常日頃から凄いとは思ってますよ」

「…佳織ちゃん。その言葉は反則だと思うわよ…」

「何故に?」

 

 私はシンプルに自分が思った事を言っただけなんだけど。

 多少の照れぐらいはあるかもだけど…先輩の顔がめっちゃ真っ赤になってるのはなんで?

 

「あ…えっと…お茶です。どうぞ」

「あら。ありがとう、織斑一夏くん」

「俺の事…知ってるんですか?」

「知ってるも何も、今の君は世界一の有名人よ? この学園の中だけじゃなくて、IS関係で織斑君の名前と存在を知らない人間は一人もいないんじゃないかしら」

「マジかよ……」

 

 残念ながらマジだよ。

 君の存在は、それだけ世界的にも貴重だって事を認識しようよ。割と本気で。

 

「それで……話はどこまで進んでいるのかしら? 出来るだけ具体的に教えてくれる?」

「了解しました」

 

 そこから私は、さっきまでの話の事を説明した。

 といっても、流石にイグニッション・プランについての話とかは略したけどね。

 重要なのはそこじゃないし。

 

「どうやら、今回の事は国からの命令じゃなくてデュノア社の社長である彼女のお父さんの独断みたいです」

「やっぱりね。なんとなく、私もそうじゃないかとは思ってたのよ」

「ですよね。もしもこれに国が絡んで来ていたら、この時点で完全に詰みですもんね」

 

 幾ら『暗部』とはいえ、国と真っ向から対峙できるほどの力は持ち合わせてはいない。

 精々が場を混乱させるぐらいしか出来ないだろう。

 

「な…なぁ…。さっきから思ってたんだけど、どうして生徒会長なんだ? 頼りにはなるかもしれないけど、それでもこれは……」

「大丈夫。訳あって、この人は私達でさえも絶対に知りえないような色んな『裏事情』にも非常に詳しい人なんだよ。ね? 布仏さん」

「うん。かいちょーは頼りになるよ~」

「二人がそこまで言うんなら……」

 

 そうそう。それでいいんだよ。

 何事も素直が一番なんだから。

 

「…で、あなたが今回の一件の中心にいるシャルル・デュノアさん…いえ、もう女である事がバレているのだから『シャルロット・デュノア』ちゃんと呼ぶべきかしら?」

「な…なんでボクの本当の名前を…!」

「お姉さんに掛かれば、これぐらいは朝飯前なのよ」

「今は夕飯前ですけどね」

「一本取られちゃった。流石は元落語部ね。座布団を一枚あげたいわ」

 

 いいわねー。いつの日か、私も皆と一緒に『あの舞台』に上がってみたいもんだよ。

 その場合、司会は誰になるんだろう?

 

「シャルロット…それがシャルルの本当の名前なのか?」

「うん…お母さんが付けてくれた、僕の名前だよ」

「そうか…」

 

 ここでようやく本名発覚…ってか。

 でも、それを堂々と名乗れるのは、まだ先の話なんだけどね。

 

「あ…あの…仲森さんが言ってたんですけど…本当にシャルル…じゃなくてシャルロットを助けられるんですか?」

「佳織ちゃん…なんて言ったの?」

「『どうにかできる可能性を秘めた人』って言いました。なんか期待し過ぎて拡大解釈しちゃってるみたいですね」

「はぁ……」

 

 流石の先輩も溜息。

 そりゃ、変な期待を掛けられちゃそうもなるか。

 

「言っておくけど、私はあくまでも『可能性を提示』するだけよ? 絶対に助けてあげられる保証はどこにも無い…というか、そんなものは誰にも保証なんて出来ないわよ」

「分かってます…それでも…少しでもこいつが助かる可能性があるなら…」

 

 …本当にわかってるのかな?

 そもそも、さっきから織斑君ばかり話して、当の本人は殆ど喋ってないし。

 

「…シャルロットちゃんもそう思ってる? 貴女の言葉で聞かせて頂戴」

「ボクは…ボクは……」

 

 ボクは? その先は?

 

「もう…皆に嘘をつき続けたくない…! 女の子に戻りたいです…!」

「…その言葉を聞きたかったのよ。ね、佳織ちゃん?」

「そうですね。織斑君の『彼女を支えたい』って気持ちは理解出来るけど、一番最後に必要なのは『本人の意志』だし。それが無いと何も始まらない」

 

 まずは『自分の足』で前に進もうとする意志が必要なんだよ。

 そうじゃないと、いつまで経っても彼女は成長しない。

 原作の彼女が、その最たる例じゃない。

 

「だけど、行動する前にやる事がある…ですよね。先輩」

「そうね」

「やる事とは何なんですの? 佳織さん」

「デュノアさんの家族についての詳しい調査」

 

 それをしない事には、先輩だって行動の指針すら決められない。

 闇雲に動いても何の成果も得られないんだよ。

 私達は調査兵団じゃないんだからさ。

 

「なんで、そんなのを調べるんだよ? シャルル…じゃなくてシャルロットをこんな目に遭わせた奴だぞ? 悪い奴等に決まってるじゃねぇか!」

「織斑君。それは幾らなんでも短絡的すぎるよ。完全に子供の発想になってる」

「こ…子供……」

 

 別に落ち込むような事じゃないでしょ。

 実際に私達は子供なんだからさ。

 

「この世の中には色んな可能性が転がっている。例えば…実はデュノアさんのご両親がしていた事は全部お芝居で、本当は別の意図があった…とか」

「そんな馬鹿なっ! そいつらはシャルロットの事を殴ったんだぞ!」

「殴った…ねぇ…」

「な…なんだ? 何か変な事でも言ったか?」

 

 …やっぱり、織斑君は『理解』をしていないんだ。

 『今の世の中』がどんな事になっているのか。

 だから、こんな違和感にも気が付かない。

 

 私以外にも皆も『あ』って顔になってるし、更識先輩に至っては私の話を聞いている時点で気が付いたっぽい。

 何にも気が付いていないのは、織斑君とデュノアさんの二人だけだ。

 

「デュノアさん…君は継母さんに『この泥棒猫の娘が』って言われながらビンタされたんだよね?」

「う…うん……」

「なんと言うかまぁ…随分と『優しい』こと」

「優しいって…なんだよ…! どこが優しいってんだよ!」

 

 おぅ…なんか怒り出したし。

 ちょっとだけビビったけど、無人機に追われた時の恐怖に比べたら割と平気。

 私って昔からそうで、最上級の痛みとか恐怖とかを経験すると、耐性が付いて生半可なことじゃビクともしなくなるんだよね。

 

「優しいよ。優しすぎる。もしも本当に彼女の事を心の底から憎んでいるのなら…その場で殺すか、どこかに人身売買とかしていると思うよ。なのに、実際にしている事は罵倒とビンタだけ。どう考えても本気で憎んでいる人間の行動じゃない」

「こ…殺すって…人身売買って…なんだよそれ…」

 

 …そんな反応が許されるのは『旧時代』までだよ…織斑君。

 

「ISが誕生して以降、世界は明らかにおかしな方へと歪んでいった。その一番の例が『女尊男卑』だよ」

「女尊男卑……」

 

 私は自分のスマホを操作して、最近のニュース記事を出してから画面を彼に見せた。

 刺激が強いかもしれないけど、ISに関わっている以上はいつの日か必ず直面しなくちゃいけない事だ。

 

「これを見て」

「『32歳男性…地下鉄にて痴漢の冤罪で逮捕…そのまま死刑に』…!? 嘘だろ…!?」

「本当よ。こんなのは一部の例に過ぎないわ。もっと酷いのは…」

「生まれたばかりの赤ん坊を殺してるってヤツね。あたしも知ってるわ」

「鈴…!?」

 

 ここで凰さんが口を挟んできた。

 その表情は苦虫を噛んだようだったけど。

 

「生まれた子供が男だったから…そんな理由で胎児が殺されている事例が山ほどあるらしいわ」

「男だったから…生まれたばかりの赤ん坊を殺す…? なんだよそれっ! そんなの…うちの近所じゃ全然…」

「当然じゃない。あそこら辺は比較的、女尊男卑の影響が少なかったんだから。でも。都会に行けば違ってくる。あっちの病院には鳴き声すら出せずに死んでいった赤ちゃんの死体の山があるって聞いたことがあるわ…」

「そんな……有り得ない……」

 

 流石にショックだったかな。

 けど、これは同時にどれだけ織斑先生が彼に対して『ソレ系』の情報を知らせないようにしていたかっていう証拠にもになる。

 

「有り得ない。その言葉が出ている時点で、織斑君がどれだけ世間知らずなのかが伺えるね」

「べ…別に俺はそこまで世間知らずじゃ…ニュースだってちゃんと見てるし…」

「ニュースの種類にもよるけどね」

 

 どうせ、ISや女尊男卑には一切関係のないニュースでしょ?

 一発で分かるよ。

 

「織斑君の『常識』は、今の世の中じゃもう『非常識』になってるんだよ」

 

 はぁ…言ってて自分で嫌になる。

 私って、こんなキャラじゃなかったような気がする。

 

「そんなのが普通にある今の世の中だからこそ、普通じゃ考えられないような事があっても不思議じゃない。それこそ映画やドラマみたいに『何らかの事情で娘を守る為に、敢えて憎まれ役を案じて娘を逃がそうとした』…とかね」

「父さんたちが…そんなことを…?」

「いや。今のはあくまで『そうかもしれない』ことを言っただけだから。本当かどうかは分からないよ。でも『事実は小説よりも奇なり』って言葉もあるぐらいだしね…」

 

 …どうやら、私にも織斑君の楽観主義がうつってしまったみたい。

 けど…話を聞く限りじゃ割と濃厚ではあるんだよね…。

 

「そもそもさ、ISの存在だって半分はフィクションみたいなものじゃない。女だけが動かせる、空を自由に飛ぶことが出来るパワードスーツなんて普通じゃ考えられないよ?」

「それ…は…そうかも…しれないけど……」

 

 もう完全にSFの世界に足を突っ込んでるよね。

 何が起きても素直に受け入れられる世の中になってきつつあるのが普通に怖い。

 

「全てを明らかにする為にも、まずは調べる事から始めないといけない。もしも佳織ちゃんが言った通りだった場合もそうだけど、違った場合にはシャルロットちゃんには文字通り『命』を賭けて貰う事になるかもしれない」

「命を…賭ける…!?」

「そうよ。もうこれはシャルロットちゃんだけの話じゃない。下手をすれば国家同士の話になる危険性も秘めているんだから。一時の感情で動いたら、それこそ取り返しのつかない事になりかねない」

 

 先輩の言う通り。

 そして、最も最悪なシナリオは…想像もしたくない。

 

「この状況を覆すには、生半可な覚悟じゃ不可能よ。織斑君が言ってた特記事項なんて論外中の論外。時間稼ぎにすらなりはしない。自分の身と故国に迫った危機を知らずに現実から目を背けていると同じ事になる」

 

 織斑君が言っていた事は、今の状況では最も危険な麻薬だ。

 デュノアさんにだけ通用する麻薬だ。

 例え、本人にその気が無くても…織斑君の言葉は本当に危険だった。

 

「流石に『死ね』と言うつもりはないけど、本気で命を賭けるぐらいの覚悟はしておいて。仮にも代表候補生なら、それぐらいは分かるでしょ?」

「は…はい」

 

 これで…どうにかはなりそうかな?

 後は調査結果次第だけど…。

 

「と言っても、実はもうかなり前から調査は始めてるのよね」

「そうなんですか?」

「うん。シャルロットちゃん達が転入してくる前に、生徒会室で佳織ちゃん達と彼女達について話をしていた時に今回みたいな話になって、念には念をと思って少し早めに動いていたの」

「知らなかった…」

 

 流石は生徒会長にして暗部の長。

 私達に出来ない事を平然とやってのける。

 そこに痺れもしないし、憧れもしないけど…普通に凄いとは思った。

 

「じゃあ、一先ずはそういうことで。万が一の時には、ちゃんとこっちでなんとかするようにしてあげるから。そこだけは安心しておいて」

「わ…分かりました」

「調査が完了するまでまだ時間が掛かるから、それまでの間は申し訳ないけど今まで通りに男装で過ごして貰うわ。織斑君、ちゃんとフォローしてあげるのよ?」

「も…勿論です!」

「よろしい」

 

 一件落着…には全くなってないけど、今回の話はこれで終わりか。

 まだ何も解決はしていないけど、それでも先が見えただけでも大きく前進したと見るべきだろうね。

 原作よりはずっとマシな状態だとは思う。

 

「それから、佳織ちゃんにもちゃんと感謝しておきなさいよ? 今回の話、この子が君達と私との橋渡し役をしてくれたから成立したんだから」

「そ…そうだよな。仲森さんがいなかったら、どうなってたか分らなかったもんな……」

 

 別に私は大したことはしてないつもりですけど?

 ただ、話を聞いて、先輩を呼んだだけ。

 それだけじゃない。

 こんなの誰にだって出来るわよ。

 

「あと、このことは私から織斑先生にも報告しておくから」

「ち…千冬姉に? それは……」

「あの人は君達の担任よ? 知る権利はあるし、聞く権利もある。違う?」

「…違いません」

「でしょ? それじゃ、そーゆーことで。佳織ちゃん、本音ちゃん、それから他の皆も…またね~」

 

 先輩を呼んだ事は正解だったね。

 私なんかよりも遥かにいい説明になったし。

 ちゃんと僅かではあるけど光明も見えたしね。

 

 調査が終わるまでは時間が掛かるから仕方がないとして…それまでの間にほぼ確実に『別の問題』も発生するよね…はぁ…気が重いなぁ…。

 

 

 

 

 

 

 

  

 




まずはデュノア社…と言うか、デュノア家の調査から。

語られているのはどこまでも『シャルロットの主観』での話だけですから。

ちゃんと第三者目線で物事を見ないといけません。




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