私…生まれ変わったらモブキャラになりたいな(なれるとは言ってない) 作:とんこつラーメン
これまでは『友人』でしたが、ここからは完全に別の感情が芽生える事になります。
最近の私はいつも放課後の予定が生徒会室で過ごすことになりつつある。
いや…生徒会役員なんだから、ある意味では当然のことなんですけどね?
「あの…今日はお仕事をしなくてもいいんですか?」
「大丈夫よ。佳織ちゃんが手伝ってくれてるお蔭で、溜まっていた仕事は殆ど終わったから。今日ぐらいはのんびりしてもバチは当たらないわ」
「そうなんですねー…」
なんか、私の中のイメージだと生徒会っていつも何らかの仕事しかしていないイメージしかないけど、それは単純に私が日常系アニメを見過ぎているから?
「お嬢様の場合は学校生活の大半をのんびりと過ごしてますけどね」
「ぐはぁっ!?」
あ。虚先輩の遠慮なき一言が更識先輩の精神に会心の一撃を与えた。
これもまたIS学園生徒会のいつもの光景だ。
「かおり~ん。お口拭いて~」
「はいはい」
んで、布仏さんがクリームだらけの口をこっちに向けて、それを私がティッシュで拭いてあげる。
これは私と彼女の間にある日常風景だ。
「はぁ…全く、本音ったら…」
「いいじゃないの。仲睦まじくて」
最初は戸惑いはしたけど、今じゃもうすっかり普通になってきてるしね。
慣れってのは本当に恐ろしいもんですたい。
「ごく…ごく…ふぅ…」
いつ飲んでも、虚先輩の淹れてくれる紅茶は絶品ですにゃ~…。
本当に心からリラックスできるよね~。
入学前まではあんまり紅茶とか飲まずに緑茶ばっかり飲んでたけど、これからは紅茶派になりそうだよー。
(けど…なんだろう? 何か重要な事を忘れているような気が…なんだっけ?)
喉まで出かかってるんだけど…上手く思い出せない。
因みに、期末テストの時などに同じ現象に陥ったら、最後の最後まで諦めない事をお勧めする。
意外と必死さが活路を開く事もあるかもしれないから。
「そういえば、デュノア君の事って何か進展がありました?」
「少しずつではあるけどね。もしかしたら、佳織ちゃんの予想…当たってるかもしれないわ」
「マジですか」
「大マジ。それっぽいことを示唆する証拠が出始めてるのよ。ちゃんとした結果が出るのは、もう少し先になるとは思うけど」
「学年別トーナメントが終了する頃には明確な結果が出ているかと」
更識先輩の説明を補足する形で虚さんが追加で言ってくれた。
学年別トーナメントって言えば、やっぱり私も出場しなくちゃいけないのかな~?
イヤだな~…出たくないな~。
開催日当時になって都合よく病気になったりしないかな~。
なんて小学生みたいな現実逃避を脳内で繰り広げていたら、いきなり生徒会室にある内線が鳴り出した。
ここにも職員室みたいな内線用の電話がありはするんだけど、基本的には各人のスマホに連絡が来るから余り使用はされれない。
ぶっちゃけ、これが鳴っているのを見たのは今日が初めてだ。
「内線が鳴るだなんて…何事かしら?」
更識先輩も疑問に感じながらも受話器を手にする。
誰が何の用で掛けてきたのかな?
「もしもし? ……なんですってっ!?」
え? なんか急に真剣な顔になったんですけど…?
「うん…うん。分かったわ」
受話器を置いてから、先輩は珍しく真剣な顔になって私の忘れかけていた事を一気に呼び起こす一言を放った。
「…第3アリーナで例のドイツから来た子が暴れて、凰さんとオルコットさんが危ないらしいわ。急いで現場に向かわないと…!」
「………え?」
そうだ…思い出した…!
織斑先生との会話の後に発生する事件…!
ボーデヴィッヒさんが凰さんとオルコットさんに対して一方的に喧嘩を吹っ掛けてズタボロにしていた…!
なんで、こんな重要な事を忘れていたのよ私は!!
「凰さん…オルコットさん…!」
「ちょ…佳織ちゃんッ!?」
「かおりんっ!?」
「仲森さんッ!?」
いても経ってもいられず、私は立ち上がってから生徒会室を出て、急いで第3アリーナへと向かって走って行った。
正直、自分でもどうしてこんな事をしたのはよく分らない。
けれど…絶対に放っては置けない…そんな気がした。
だから私は、自分の体力なんてお構いなしに廊下を全力疾走していった。
・・・・・
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・・
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「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…!」
間違いなく、今までの人生での新記録を叩き出している程の速度で走った。
膝は爆笑しているし、全身から汗が噴き出している。
でも止まれない。止まってはいけない。
そんな衝動が私の心を支配し、体を突き動かす。
「オルコットさん…凰さん…!」
震える手でピットの扉を開き、中へと入る。
そこから見えた光景が視界に入った時、私の頭は真っ白になった。
ティアーズの装甲が破壊され地に伏しているオルコットさん。
ワイヤーによって首を絞められて苦しそうにしている凰さん。
そして、二人を痛めつけて楽しそうにしているボーデヴィッヒさん。
二人が傷ついた姿を見て、ようやく私は自覚をした。
少し前までは鬱陶しい人達だと思っていたけど、一緒に過ごすうちに私の中で彼女達の存在は想像以上に大きくなっていたのだと。
人間というのは、怒りの感情が振り切れると逆に何にも考えられなくなる。
生まれて初めて…私は本気で怒髪天を突いた。
無意識のうちに、首からぶら下がっている専用機の待機形態を握りしめて呟いた。
「トールギス…!」
(友を傷つけられ怒りを露わにする君の感情は人として非常に正しい…。いいだろう。私も喜んで力を貸そうではないか)
自分の身体が光る瞬間、どこかで聞いたような声が聞こえたような気がした。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
それに気が付いたのは鈴が最初だった。
朦朧とする意識の中、うっすらと開いた目に映ったのは想い人の乗る純白の騎士の姿。
「あ…あれは…まさか…!」
「ト…トールギス…なんですの…!?」
原初に産み出されし最強にして頂点に君臨する、もう一つの白騎士。
それが凄まじい速度で自分達が出てきたところから反対に位置するピットから発進し、こちらに向かって来ていた。
無論、それに気が付かないラウラではなく、すぐに敵機の接近に彼女の専用機『シュヴァルツェア・レーゲン』が警告を出す。
「なんだ? 高速接近反応だと?」
ワイヤーで拘束していた鈴をゴミのように地面に放り投げ、そのまま見向きもせずに背後を向く。
「全身装甲…だと? あんな機体がこの学園にあったのか。だが、このシュヴァルツェア・レーゲンの前では有象無象の雑魚に過ぎん。貴様もこの『AIC』で……」
自分の勝利を確信した笑みでゆっくりと右手を上げる。
だが、それは完全な悪手だった。
「か…佳織!! そいつに近づいちゃダメよ!!」
「彼女との接近戦は絶対に避けてください!!」
必死に叫ぶ鈴とセシリア。
このままでは佳織もAICの餌食になってしまう。
そんな彼女達の心配を知ってか知らずか、なんとトールギスは更に速度を上げた。
そして知る。
トールギスの真の恐ろしさ…その片鱗を。
「な…なに…!?」
シュヴァルツェア・レーゲンの腕部に装備されている『慣性停止結界』こと『AIC』。
文字通り、あらゆる慣性を完全停止させる空間を作り出す事が出来る特殊装備ではあるが、それだけ優れていても所詮は人間が作った装置。
起動から発動までの間にはコンマ数秒ではあるが、確かなタイムラグが存在している。
AICを完全に過信しているラウラは、この事実を当然のように知らない。
もし仮に知っていても彼女は自慢げにこう言うだろう。
『そんな短い時間で攻撃できる人間など、織斑教官以外に存在しない。弱点を知られていても、それを突かれる前に私によって倒されているだろう』
だからこそ想定しない。
織斑千冬以外にAICの弱点を付ける存在を。
その『心の隙』を見逃すほど、今の『彼女』は慈悲深くは無い。
「嘘…でしょ…!?」
「発動前に…斬った…!?」
それは神速の抜刀術。
シールド内にあるサーベルラックから引き抜くと同時に刀身を展開。
刹那の煌めきの間にレーゲンの腕部を一刀のもとに斬り裂いてみせた。
「AICが発動しない…だとっ!? まさか、発生装置のみをピンポイントで斬ったというのかっ!?」
「…………」
返事は無い。する必要が無いから。
「この私を無視する気か…貴様ぁぁぁぁぁっっ!!」
まだ破損していなかった両手首のプラズマ手刀で斬り掛かろうと試みるも、次の瞬間には懐に潜り込まれてから、その腹部に強烈な蹴りを喰らった。
「ぐはぁっ!?」
その威力によって大きく吹き飛ばされ、それを追い駆けるようにトールギスのスーパーバーニアが完全展開、過剰とも言うべき大型ブースターに火が点き、超絶的で殺人的な速度で未だに吹き飛んでいる最中のラウラを追い抜き急速転回。
ほぼ直角的な動きで背後に回り込み、無防備な背中を一閃する。
「ば…かなぁ…!?」
自分が完全に翻弄されている。
名も知らぬ機体と操縦者に。
自分こそが強者で勝者であると信じて疑っていなかったラウラにとって、それは絶対に受け入れられないことだった。
だが、確固たる事実として自分は手も足も出ない状態で一方的に蹂躙されていた。
先程まで彼女が鈴やセシリアにしていたように。
「私が…この私が…織斑教官に指導して頂いた私が…こんな輩に敗れるなどと…!」
ビームサーベルで斬られた衝撃で地面に転がり、顔に砂を付けながら上を向くと、目の前には光の剣の切っ先が。
逆光になって暗くはなっているが、トールギスのカメラアイだけが光り、まるで中にいる佳織の怒りを表現するかのように反応した。
「…二人とも…大丈夫?」
「う…うん。カッコ悪いところを見せちゃったわね…」
「申し訳ありません……」
背中を見せたまま佳織が話しかけてきた。
騎士のような装甲の姿から彼女の声が聞こえてくるのにはかなりのギャップがあった。
「ううん…二人が無事なら、それに越したことは無いよ」
友たちのことを確認した後に、今度は目の前のラウラと向き合う。
そこでラウラはある事に気が付いた。
トールギスの右肩にあるドーバーガンを。
さっきまでの戦闘で佳織が一切、射撃武器を使っていない事実を。
(ま…まさか…奴は…!)
「ボーデヴィッヒさん。今日の所は大人しく引いてくれるかな?」
「なんだと…!?」
自分は手加減をされていた。
あれ程までの攻撃をしていながらも、佳織は…トールギスはその兵装の一部しか使っていなかったのだ。
「お願いだから…私に…この機体に本気を出させないで。命の保証…出来なくなっちゃうから……」
命の保証。
それは即ち、その気になればいつでも自分を殺せるということ。
普通ならば冗談か虚仮脅しとしか考えないだろうが、それが出来ると裏付ける事実をこの身に刻まれている。
「仲森の言う通りだ」
「「「「!?」」」」
いきなり第三者の声が聞こえてくる。
誰かと思い全員が振り向くと、そこには腕組みをしていつの間にか近くまで来ていた千冬だった。
「織斑先生……」
「駆けつけるのが遅くなって済まない。よく、ボーデヴィッヒを止めてくれたな。感謝する」
「いえ……」
千冬を顔を見て『もう大丈夫』と判断したのか、サーベルの刀身を消してからラックに収納。
それからISを解除させてから制服姿の状態で地面に着地した。
「ここは私に任せて、お前はアイツ等の所に行ってやれ」
「はい…ありがとうございます」
ペコリと頭を下げてから、佳織は倒れている鈴とセシリアの元まで駆け寄った。
それを見つつ、千冬はラウラの事を鋭く睨み付ける。
「貴様…自分が何をしたのか理解しているのか?」
「わ…私は…教官に戻って来て貰おうと……」
「それに関してはさっきも言った筈だ。同じことを二度も言わせる気か?」
「い…いえ……」
さっきまでとは違い、完全に委縮するラウラ。
彼女は恐れていた。尊敬する千冬に見捨てられることを。見放される事を。
「他国の候補生を痛めつけ、専用機まで破損させた。この事はドイツに学園側から報告しておく。後にイギリスや中国から正式な抗議がドイツに向かってされるだろうな」
「なっ…!?」
どうしてそんな事になるのかラウラには分からなかった。
自分は正しい事をした筈だ。
強者である自分が弱者である彼女達を痛めつけて何が悪いというのか。
奴等こそ、自分達の弱さを断じられるべきなのではないかと。
「それと、お前に対して手加減をしてくれた仲森に感謝しておくんだな」
「矢張り…あの女は手を抜いて…!」
「もしも仲森が…いや、トールギスが最初から全開で戦っていれば……」
離れた場所で鈴とセシリアを心配している佳織を見ながら、千冬はハッキリと言った。
「…お前は確実に死んでいた」
「……っ!?」
「仲森は大人しい性格をしているから本気を出す事は無いかもしれんが…それでも、お前程度ならば剣一本でも圧倒できる程の実力は備えている」
ラウラは興味のない存在には目もくれない。
仲森佳織という名前も今初めて知ったし、顔だって初めて見た。
そんな少女に自分が倒された。しかも、手も足も出ずに。
「今日から学年別トーナメントまでの間、一切の私闘の類を禁止とする。それとボーデヴィッヒ、貴様はトーナメントまで反省室にて謹慎処分とする」
「そ…そんなっ!?」
「退学にされないだけ、まだマシだと思え。ちゃんと反省文も書いておけ。では、とっとと戻れ」
「は…はい……」
倒れたラウラに手を貸そうともせず、千冬は彼女を一瞥すらせずに佳織たちの元まで歩いて行った。
一人取り残されたラウラは、視線の向こうにいる佳織に対して強い怒りの感情を燃やした。
「おのれ…仲森…佳織ぃ…!」
そうして、事態が一応の収束を見せた頃…一夏と箒、シャルルの三人は話を聞きつけてアリーナまでやって来たのだが…。
「あ…あれ? 千冬姉に…仲森さんもいる?」
「オルコットさんと凰さんが倒れていて、その傍に仲森さんがいるって事は…」
「どうやら、私達よりも先に佳織が駆けつけて、この場を収めてくれたようだな…」
完全に出遅れて唖然となっていたという。
こうして、なんとか最悪の事態だけは避けられたのだった。
次回、セシリア完全にヒロイン入り?
そして、ラウラと戦っていた時の佳織の心情などが明らかに?