私…生まれ変わったらモブキャラになりたいな(なれるとは言ってない) 作:とんこつラーメン
一番怖いのは雨じゃなくて停電だったり。
それは、本来ならば誰もが怯え戸惑うような光景。
黒き異形が少女の体を取り込み、破壊の化身となって暴走する。
阿鼻叫喚。
それが起きていても決して不思議ではない。
だが…実際には違った。
少女を吸収した黒き破壊の化身と戦っているのは、白き鎧を纏った騎士。
宙を縦横無尽に飛び回り、光の剣を手に持ち果敢に立ち向かう。
それはまるで、かの『白騎士事件』を彷彿とさせた。
違うのは、相手が異形の化け物か、ミサイルかということだけ。
騎士が誰かを守るために戦っているという事実は全く変わらない。
誰も逃げなかった。誰も悲鳴を上げなかった。誰も目を逸らさなかった。
目の前にある『白い希望』を信じていたから。
彼女が勝つと信じていたから。
彼女の勝利を願っていたから。
人々が、友が、恩師が見守っている中、少女騎士は飛翔する。
妄執に憑りつかれた暗黒の破壊将軍に捕らわれた少女を助け出す為に。
彼女はもう…迷わない。
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「まずは…そのライフルを破壊する!!」
その異常なまでの速度を活かし、トールギスが偽ハイドラへと目掛けて突貫する!
まず最初に破壊すべきは、相手の唯一の遠距離武装であるバスターカノン(レールガン使用)。
それさえどうにか出来れば、戦況は一気にこちらへと傾く。
だが、相手も黙ってやられてはくれない。
『トレェェェェェェェェズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!』
獣のような咆哮を上げながら、偽ハイドラがバスターカノンを両手で構える。
こちらに突っ込んでくるトールギスを狙い撃つ算段だ。
だが、そんな事は彼女達も既に承知している。
「甘いぞ友よ! 私の知っている君は、そんな愚直な攻撃はしない筈だ!」
引き金が引かれ、凄まじい速度で実弾が飛んでくる。
並の者達ならば、そのまま直撃は免れないだろう。
しかし彼女達は違った。
「はっ!」
あろうことか、命中する寸前に僅かに鋭角的な機動をする事でバスターカノンをギリギリのタイミングで回避、一切の無駄が無い動きを見せつけた。
そんなに優れた機体でも、射撃後には必ず僅かな隙が生じてしまう。
その勝機を見逃すほど、今の彼女達は甘くは無い。
「今だっ! そこっ!!」
トールギスがその気になれば、相手の懐に潜り込むのなんて本当に一瞬だ。
ビームサーベルの距離にまで近づくことに成功し、斬り上げるような一撃で右腕ごとバスターカノンを胴体から切断する!
『ウガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!』
右腕を斬られたことで激高したのか、左腕にビームサーベルを展開して斬り掛かろうと試みるが、咄嗟に動いたトールギスの左腕によって阻まれた。
「悪いが…これ以上、君を暴れさせるわけにはいかんのだ」
『トレェェェェェェェェェズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!』
トールギスは偽ハイドラの左肘の部分を掴み、それ以上もう腕を下げられないようにした上で、空いた方の手で自分のビームサーベルを掴んだ。
「生体反応…確認! そこかっ!! はぁっ!!」
反応があった場所を縦一文字斬りすると、そこには体を丸めた状態で意識を失っているラウラの姿があった。
僅かに体が外に出た事で太陽光が彼女の網膜を刺激したのか、僅かではあるが意識を回復させてこちらを見つめる。
「あ…ああぁ…!」
その時、彼女達は見た。
涙を流しながらも、必死に自分に向かって手を伸ばすラウラの姿を。
「た…す…けて……」
瞬間、トールギスの全ての制御が『トレーズ』から『佳織』へと移行した。
(チャンスは今しかない!! 姫!!)
(うんっ!!)
トールギスのカメラアイが一瞬だけ力強く光り輝く。
佳織は何も考えず、伸ばされたラウラの手を掴み、そのまま偽ハイドラの中から引きずり出す!!
「これでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
刹那、二人の意識が遠い場所へと飛ばされた。
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どうして…私のことを助けようとする…?
「そんなのコッチだって分からないよ。というか、ここ何処?」
私はお前の友を傷付けた。
「…そうだね」
お前や織斑一夏に対して、一方的な憎しみをぶつけた。
「そうだね」
さっきの試合の時もそうだ。
私はお前への憎しみだけで戦っていた。
それなのに、お前はずっと私に対して全く負の感情を抱いていなかった。
「うん…だね」
何故だ…何故、お前はそうなんだ。
自分の身の危険も顧みず、なんで助けてくれようとしたんだ…?
「…そりゃね、私だって何にも思ってないって言えば嘘にはなるよ」
そう…なのか…。
「けど、それはそれ。これはこれじゃない」
…どういうことだ。
「目の前に涙を流して、必死に手を伸ばして『助けて』って言ってるクラスメイトがいるんだよ? それを見捨てる道理なんて何処にもない」
…それだけ? たったそれだけの理由でお前は戦ったのか?
「誰かを助けるのに御大層な理由なんて必要ない。それに…」
それに?
「私がそうしたいと思った。そうするべきだと思った。しないと絶対に後悔すると思った。私は綺麗事は好きじゃない。だからハッキリと言う。私は私の勝手でボーデヴィッヒさんを助けた。ここで助けなきゃ、私はきっと自分で自分の事を一生許せないから。極論を言えば、完全な自己満足だよ」
自己…満足…。
「そう。そこら辺はボーデヴィッヒさんと大差ないよ。だから、私に礼を言う必要はない」
だが…私はお前に命を救われた。
その事実に変わりは無い。
「…仮に私がしなくても、どこかの誰かさんがきっと同じことをやってくれたよ」
確かにそうかもしれない。
けど、実際に助けてくれたのはお前だ。
だから…言わせてくれ。
「何を…」
私を…『助けて』くれて…ありがとう…。
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何も無い空間。
そこで、二人の男が向かい合っていた。
「私は…敗れたのだな」
「そうだ。我が友よ」
「トレーズ…」
赤髪の男…ヴァルダー・ファーキルは、まるで憑き物が取れたかのようにスッキリとした顔をし、トレーズの顔を見続けた。
「私は…ずっとお前に勝つ事だけを考えていた。あの『ハイドラ』も、お前が製作した『エピオン』に勝利する為だけに産み出された。だが……」
「MO-Ⅴで起きた事は私も『知っている』。私達はお互いに『ガンダム』に敗れた。だが、それは決して無駄な敗北ではない筈だ」
「トレーズ…?」
微笑を浮かべ、トレーズはヴァルダーの手をそっと握りしめる。
「我等の命は尽きても、その思いは、志は、必ず次の世代へと受け継がれる。私も君も、最初は同じように平和を願い戦場に立っていた筈だ」
「あぁ…そうだな」
「我等の道は…一体どこで違えてしまったのだろうか…」
トレーズには友と呼ぶ者達が多くいる。
トールギスの本来の操縦者であるゼクスもそうだし、この場にいるヴァルダーも同じであり、主君として守ると誓った佳織もまた彼にとっては掛け替えのない友人だった。
「我が友ヴァルダー…君は存分に戦った。もうそろそろ、ゆっくりと休むべき時ではないのかな?」
「…そうだな。あの時からは考えられない程に、今はとても晴れやかな気分になっている。何故だろうな…」
「それはきっと、少女達の想いに触れたからだろう」
「想い…?」
「そうだ。君はあの『ラウラ・ボーデヴィッヒ』の妄執に、私は我が姫『仲森佳織』の友を守りたいと願う友愛に触れた。戦いの果てに君は己の負の感情から解き放たれ、私は改めて、彼女の強さを知った」
「…今…理解した。俺はお前に負けたのではなく、友を助けたいと願う一人の少女に敗れたのだな」
生きている頃ならば、そんな思いは一笑に付していただろうが、何故か今はそんな事は微塵も思わない。
寧ろ、彼女の事を誇らしいとさえ思った。
「…俺はもう逝こう。お前はどうするのだ?」
「私にはまだやらねばならない『使命』がある」
「使命?」
「我が姫を想う『神』から与えられた使命だ。無論、神などと言う曖昧な存在に従うつもりは毛頭ないが、そんな事は抜きに私は彼女を守りたい。我が友ゼクスも同じ考えだ」
「ゼクス・マーキス…あの『ライトニング・カウント』か」
ゼクスの名はヴァルダーもよく知っていた。
あのトレーズに比肩する程の、超人的なまでの操縦技術を持つ士官。
「…我が友ヴァルダー・ファーキル。いずれ…私も君の元へと逝くだろう。その時まで…さらばだ」
「あぁ…さらばだ。俺の唯一無二の好敵手…トレーズ・クシュリナーダ…」
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それは、有り得ない『奇跡』。
存在しない『記録』。
『トールギス』『仲森佳織』『トレーズ』
この三つの『要素』が揃った事により発生した『偶然』。
ラウラは今、『融合』した『真実』にて『偽り』の記憶を垣間見る。
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とある研究所の格納庫。
そこに一台の真っ白なISが鎮座し、その目の前に一人の老人が立っていた。
「完成…したか。だが、この機体は……」
怪訝な表情を見せる彼の前に、士官候補生の軍服を着た一人の幼き少女がやって来る。
黒く長い髪を靡かせ、人畜無害そうに見えて、その目の奥には常人では計り知れない『何か』を宿す少女が。
「素晴らしい機体ですね。ハワード博士」
「…お嬢さんはどなたかな?」
「失礼。士官候補生の『カオリ・ナカモリ』であります」
「…こんなにも幼い日本人の少女が候補生にいるとは初耳だが…」
カオリはハワードの言葉に返事をせず、そのまま目の前にある『白いIS』を眺める。
「とてもエレガントな機体ですね。素晴らしい」
「見た目はそうかもしれんが、中身は…」
ハワードが機体の説明をしようとすると、いきなりカオリが柵から乗り出すようにしてISの装甲に触れる。
「博士。一つだけお願いがあります」
「ほぉ?」
「この機体にはいずれ、私が搭乗したいと考えます」
「お主が…この『トールギス』に? 正気か?」
「正気です。ところで、この機体色はどうなさるおつもりで?」
「実用性を考慮し、迷彩色にする予定ではあるが…」
「迷彩…それでは、この機体の良さを生かし切れません」
「というと?」
まだ幼女とも言うべき年齢の少女に見つめられ、ハワードは思わず固まった。
その目は紛れも無く『戦士』だったから。
「戦場に必要なのは、機能不全に陥りがちな大部隊の兵士ではなく、圧倒的な力を持った、たった一人の『英雄』さえいればいい」
「『英雄』…それがお主だと?」
「さぁ? それは私ではなく時代が決める事です」
愛おしそうにトールギスを撫でるカオリからは、幼き少女とは思えない迫力を感じた。
ハワードは確信した。
この少女はいずれ、必ず歴史に名を残すような人物になると。
「迷彩色なんて『英雄』の色には相応しくは無い。もっと相応しい色がある筈です」
「…それはワシも同感だった。お嬢さん、君はどんな色が良いと思うね?」
「無論…エレガントな色に……」
こうして、『もう一つの白騎士』こと『トールギス』は完成したのだった。
最後の回想シーンは、トレーズの記憶を佳織の姿で再生した感じです。
当然ですが佳織の過去には、こんな出来事は全くありません。
けど、ラウラはこれを見てしまったわけですね。
ということは…?