私…生まれ変わったらモブキャラになりたいな(なれるとは言ってない) 作:とんこつラーメン
本当に自分自身がお恥ずかしいです。はい。
IS学園保健室。
ラウラはそこにあるベッドの上で目を覚ました。
「う…んん…?」
「気が付いたか」
目を開けると同時に誰かに声を掛けられ、自然とそちらの方に顔を向ける。
そこには、腕組みをしたまま椅子に座った千冬がいた。
「きょ…教官…?」
「織斑先生と呼べ…と言いたいが、今ぐらいは良いだろう」
無事に死地から戻って来たばかりなせいか、流石の千冬の声色もどこか柔らかい。
「私は…一体何が……?」
「本来ならば機密事項ではあるのだが…お前は当事者だからな。知る権利ぐらいはあるだろう」
一瞬、どう説明するべきか考えた千冬だったが、回りくどい言い方をしても意味が無いと判断し、ストレートに伝えることにした。
「VTシステム」
「え?」
「整備班の分析の結果、それがお前の機体に巧妙に隠された状態で内蔵されていた形跡があった」
「ヴァルキリー・トレース・システム…あれは確か、あらゆる国家や研究機関などで開発・研究・使用の全てがが禁止されている代物では…」
「その通りだ。あれは機体に無理矢理、過去のモンドグロッソにおける『ヴァルキリー受賞者』のデータを盛り込み、その動きを再現する装置。発動した場合、操縦者の意志を完全に離れシステムの傀儡となってしまう事から『非人道的装置』として禁じられている。だが、お前の機体にそれがあった。何か心当りなどはあるか? 例えば、整備の際にどこぞの施設に預けたりなどは…」
「そう言えば……」
自分の顎に手を当てつつ過去の出来事を紐解いていく。
すると、たった一つだけ該当しそうなことがあった。
「…日本に来る直前、レーゲンを開発した研究所で本格的なオーバーホールをすると言って預けた事があります」
「そうか。戻ってきた機体を調べはしたのか?」
「本当はそうしたかったのですが、戻ってきたのは日本行きの飛行機が出る日の朝だったのです。なので、碌な調査は出来ず、そのまま……」
「もしかしたら、そうなることも想定した上で搬送時刻を調整した可能性があるな…」
だとすれば、どこまでも巧妙に仕掛けられたこととなる。
昔の事とはいえ、自分の教え子を実験動物扱いされて何も思わない程、千冬は人間が出来ていない。
冷静な顔をしながらも、その心の中は憤怒の炎で燃え上がっている。
「どうやら、操縦者の精神状態や機体のダメージ、そこに操縦者自身の意志が加わることがシステム発動のキートリガーになっていたようだ」
「私が望んだ…いや、『望んでしまった』から…なのですね…」
あの時、圧倒的な力を持つ佳織に敗北しそうになった時、その悔しさから更なる力を求めてしまった。
その際、ラウラは『黒い蛇』に飲み込まれてしまったのだが、その時のことは覚えてはいないようだった。
「教官…私は彼女に…仲森佳織に命を救われた…のですね」
「あぁ。別に、仲森に勝てなかった事を恥じる必要はない。アイツの実力は、この学園は愚か、世界規模で見ても最上位に位置している。なんせ…あの『トールギス』を易々と使いこなしているのだからな…」
佳織の実力は最早、常人のそれを遥かに凌駕しつつあった。
暴走したVTシステムに単独で立ち向かい、それを無傷で制圧してみせた事がそれを物語っている。
「トールギス…そうか…あれが噂で聞いた『原初のIS』…」
「お前も知っていたか。ならば、私から特に説明する必要はないな」
IS関係者…特に軍人であるラウラは、当然のようにトールギスの事を知っていた。
とはいえ、その情報はこれまた極秘事項扱いとなっていて、ラウラ自身も名前と簡単な話を知っているぐらいだった。
「現在、学園からドイツに対して問い合わせをしている最中だ。恐らく、近日中にIS委員会からも調査の手が入るだろう」
「そうでしょうね…」
「お前に関しても、色々と聞かれるかもしれん。今回のことだけを見れば、お前は完全な犠牲者だが、それ以前に好き放題し過ぎてしまったからな。それ相応の処分は覚悟しておいた方が良いだろう」
「承知…しております」
こうして物事を冷静になって考えられるようになって、ようやく自分がどれだけの事をしてきてしまったのかを自覚したラウラ。
暴言を吐き、自分勝手な理由で他国の候補生を傷つけ、挙句の果てに…。
「そうだ。教官、仲森佳織は今、どこにいるのですか?」
「仲森か? アイツならば、今頃は食堂で休んでいる筈だ。なんせ、休む暇もなく二連続で全力の戦いを繰り広げたんだ。その疲労は相当のようでな。ISを解除した直後に倒れそうになっていた。本当ならば、あいつも保健室で休ませるべきなのだが、本人が頑なに遠慮してな。多分、お前にゆっくりと休んで貰う為だろう」
どこまで自分は佳織に借りが増えていく。
自分がどれだけ彼女の事を罵倒しても、佳織は絶対に差し出した手を引っ込めようとはしなかった。
今回、自分はその底抜けの優しさに救われた。
「…仲森佳織に救出された直後、不可思議な夢を見ました」
「夢…もしや、『クロッシング・アクセス』か?」
「かもしれません。そこで、私は彼女と話しました。あいつは言っていた…私を助けたのは自分勝手な理由だからだと。けど、そんなことで命を掛けてまで戦おうとするとは思えない…」
「…仲森は自分の事を過小評価しているからな。自分がどれだけの事をしたのか自覚をしていないんだろう」
どれだけの偉業をなしても『自分は何もしていない』と言い放つ。
それらを言えば、誰もが認めるような英雄になれるというのに。
ラウラには全く理解が出来ない感情だった。
「あいつは『平穏』を望んでいる。自分が騒動の中心にいる事を嫌がっている。だからこそ、今回も仮面を被り、偽名を名乗ってから出場したのだからな」
「平穏……」
軍人である自分が最も守らなければいけないもの。
本分であり使命でもあること。
「私…は……」
軍人として、一人の人間として、こうして命を救って貰った以上、絶対にその礼はしなくてはいけない。
だが、その前にまずは彼女や、その友人達に謝罪をしなくては。
勇気がいる事ではあるが、それでも必ずしなくてはいけない。
「そういえば……」
「どうした?」
「いえ…夢の中で仲森佳織と話をした後、また別の変な夢を見たのです」
「ふむ…その内容は?」
「それは……」
尋ねられ、一瞬だけ言葉に詰まったが、すぐに自分が見た事をそのままに話し始めた。
「…私が見た夢の中では…仲森佳織がどこかの軍の士官候補生の軍服を着ていました」
「あいつが…軍服を…?」
それは一体どういう事だ。
あの虫も殺せないような大人しい少女が軍に所属していたなどと。
「かなり幼く、恐らく7~8歳ぐらいかと」
「そんな馬鹿な…! まだ10にも満たないような子供を軍人にするなどと…」
どんな非常識な軍隊だと言うのだろうか。
それとも、幼い頃から佳織の能力が高かったか。
「そして…彼女は科学者と思わしき白衣を着た老人と話をしていました……格納庫に固定してあるトールギスの前で」
「なんだとっ!?」
「仲森はこう言っていました。『いずれ、このトールギスに乗ってみたい』…と」
「信じられん……」
千冬は知っている。トールギスを見た時の佳織の表情を。
あれは決して芝居などではなく、本当に心の底から恐怖している顔だった。
もしも、あの時の反応が『白騎士に恐怖していた』のではなく、『最初からトールギスの恐ろしさを知っていた』からなのだとしたら…。
(まさか…仲森はトールギスのテスト飛行の光景を幼い頃に目撃していた? 流石の開発陣も幼女をISに乗せようとしはしない筈だから、見学と言う形で見せていたが…そこで仲森は見てしまった。未来の自分とは違い、トールギスの殺人的加速に耐えられずに無残な姿となった操縦者を。それがトラウマとなって軍を辞めさせられ、その際に当時の記憶をショックで失い、そのまま一般家庭に預けられて…?)
今までバラバラになっていたピースが一つに組み合わさっていく感覚。
千冬の中に謎めいた確信が生まれつつあった。
(仲森をずっとストーキングしていたのは、当時のトールギスの開発に携わっていた何者かで、実際にはストーキングではなくトールギスの事を知っている仲森を監視する為に…? その後、その人物はIS委員会の幹部になり、成長した仲森を今度こそトールギスに乗せる為に色々なお膳立てをして…!)
思わず千冬は自分の手で顔を覆う。
何と言う事だ。こんな事で全ての真実が明らかになるとは。
まだこれが絶対に正しいとは限らない。
だが、それでも納得が出来る答えでもあった。
「もしも…お前が見た『夢』が真実ならば…仲森の人生は私達の想像を遥かに超えるレベルで波乱万丈すぎる…!」
まだ『どうして佳織が幼少期から軍に属していた』とかの疑問は残るが、それらを突き止める事は非常に難しいだろう。
もう何年も前の話だし、連中だってとっくの昔に記録は抹消している筈だ。
それに加え、肝心の佳織が何も覚えていない(と思っている)。
これでは流石にお手上げだ。
「仲森佳織とは…何者なのでしょうか…」
「それは私の方が聞きたい。一応、一般家庭のごく普通の少女なのだが…」
「常人を遥かに超える戦闘能力に加え、あの夢の内容を考えると、絶対にごく普通の一般人とは思えないのですが…」
まさかのラウラからの正論パンチ。
千冬だってそう思わずにはいられない。
本当は『違う』と言って欲しいが。
「仲森の過去などについては非常に高い確率での推測は出来たが…そのお蔭で増々、謎が増えてしまった気がする…」
仲森佳織という少女には、どれだけの秘密が隠されているのか。
守りたい。救ってやりたいと常日頃から思っている千冬ではあるが、事件が起きる度に結局は佳織の力に頼ることになってしまう。
これ程までに自分の無力さを痛感したことは一度も無い。
世界最強だ。ブリュンヒルデだと周囲から持て囃されても、結局は自分が教え子一人すらも守れない情けない人間であることを思い知らされてしまうのだ。
「…ボーデヴィッヒ。お前はこれからどうするつもりだ?」
「…分かりません。ただ…」
「ただ? なんだ?」
「あいつを…仲森佳織の力になってやりたいと…思っています。私はアイツに助けられた。命を掛けて救ってくれた。その恩返しがしたいのです」
「……そうか」
佳織の周りには、不思議と人が集まっていく。
最初は全く接点も無かったのに、会話すらもしたことが無かったのに、佳織の優しさに触れ、いつの間にか自然と彼女の周囲が賑やかになっていく。
「全く…罪な女だな…あいつも」
「教官…?」
そして、自分のまた『その一人』なのだという事を千冬は知っている。
教師としてではなく、今の時代を生み出してしまった『原因』の一人として、なにより一人の人間として今度こそ守ってやりたい。
あらゆる理不尽から。あらゆる悪意から…必ず。
「ならば、存分にアイツの事を支えてあげてくれ。もうこれ以上…仲森を『戦場』に立たせないために…」
「了解であります」
こうして、本人が知らない所でまた盛大な勘違いが生まれ、それと同時に一人の少女が佳織の周囲に集う事になるのだった。
本当は佳織たちの様子とかも一緒に書く予定だったのにぃ~!
ま~たキャラ勝手に動きやがりましたのよ~!
チックショ~!