私…生まれ変わったらモブキャラになりたいな(なれるとは言ってない) 作:とんこつラーメン
そして、ここから佳織の運命も本格的に動き始めます。
窓の外を凄い勢いで景色が横切っていく。
私は、臨海学校へと向かうバスの中にいた。
「何と言いますか…まだ到着すらしてないのに皆…元気だねェ~…」
「いや…これが普通なんじゃないか?」
「そーゆーもんなのかな? よく分からないや」
「仲森さんの言葉が凄い老齢してる気がする…」
誰が精神的に老けてるだコノヤロー。
私の隣に座っている織斑君が困った顔でこっちを見ている。
「ところでさ…」
「ん~? どったの?」
「さっきから箒たちが凄い形相でこっちを睨み付けてるんだけど…」
「あぁ~…」
バスの座席はくじ引きで決定されて、私の隣は織斑君となった。
他の女子達には羨ましがられたが、私は普通に無視した。
それよりも、いつもの皆が織斑君を見る目が怖かったから。
一言で言えば『阿修羅のような形相』をしていた。
これが俗に言う『阿修羅をも凌駕した存在』ってやつか。
「特に千冬姉の顔が一番怖いんだが…」
「ここまで負のオーラが届いて来てるみたいだしね…」
気のせいか、織斑先生の全身から紫の気が出てるような気さえしてくる。
このまま殺意の波動にでも覚醒しないでしょうね。
「ところで仲森さん」
「なに?」
「さっきから何をやってるんだ?」
「ゲーム。ウィザードリィ」
「また随分と渋いゲームを…」
このシリーズ普通に好きなんだよね。
ゴチャゴチャしたグラフィックよりも、この深い迷宮に潜る何とも言えない緊張感が溜まらんのです。
キャラメイクだけでも十分に時間を潰せるしね。
「あ」
「どうした?」
「敵の修験者の気合いの手刀で、織斑君の首が吹っ飛んで即死した」
「ゲームの中の俺――――――!?」
うーむ…これは地味にピンチだ。
後で復活させるのにも金が掛かるしな…。
「因みに、俺の職業って?」
「戦士。ゴリゴリの重装備で前衛に立って、敵のヘイトを稼ぎつつ攻撃してくれる。だけど、今回はそれが裏目に出ちゃったね」
「戦士の俺か…」
割と金掛けてた分、少しショックだな。
ここは残りのメンバーに頑張って貰おうか。
「まずは魔法使いのオルコットさんに攻撃魔法を撃って貰って、その後にビショップのデュノアさんに回復をして貰って…」
「ビショップ?」
「ドラクエで言う賢者だよ。ゆっくりと魔法使いと僧侶の魔法を全て覚えていって、しかもアイテムの鑑定能力も持つ上位職。色んな武器を扱えるデュノアさんに似合ってると思って」
「意外と考えてるんだな…」
後は…ここをこうして…こうかな。
「お。格闘家の凰さんがクリティカル出した」
「それだけは、なんとなく分かる気がする…」
「でしょ?」
まんま中国イメージから格闘家にしました。
本人も普通に得意そうだし。
「すげ…侍の篠ノ之さんが居合斬りで敵を一掃した」
「箒は侍なのか…」
「けど、織斑君がイメージしてるような侍じゃないよ。このゲームにおける侍は、魔法使いの魔法も覚えられる魔法剣士的なポジだから」
「迷宮世界の侍は強いんだな…」
「勿論、上級職です」
「だと思った」
なんとか危機を乗り切った。
もう今回は町に戻って休憩しよう。
「思い切ってパーティー編成を変えるか」
「誰を誰に?」
「戦士の織斑君を、忍者の織斑先生に」
「千冬姉が忍者なのか」
「だって最強なんだもん。盗賊の能力を持っていて、レベルが上がる度に爆発的に防御力が上昇。一撃必殺のクリティカル攻撃が使えて、ステータスも全職業の中でも一番高い。その代り、なるのは中々に難しいけどね」
「その説明だけですぐに理解した。千冬姉は忍者だわ」
なんて分かり易い説明なんでしょう。
私ってばエライ。
「あれ? なんか歌ってる?」
「このバス、カラオケが設置されてるっぽいな」
「ふーん…織斑君って歌が上手な人?」
「どうだろうな。カラオケって行った事無いし。仲森さんは?」
「中学時代に良く皆と遊びに行ったけど、私は基本的に聞いてるだけかな。自分の歌唱力にはあんまり自信ないし」
「俺は…仲森さんの歌を聞いてみたいけどな…」
「ん?」
なんか言ったか?
バスの走行音のせいで良く聞こえなかった。
「おのれぇ~…! 佳織と仲睦まじく会話を楽しみおって…!」
「まだですわ…まだ焦る時間じゃないですわ…!」
「一夏…ボクは負けないからね…!」
「かおりん…私…」
「しゅぴ~…むにゃむにゃ…」
なんかまた聞こえてきた気がするけど…。
あと、約一名だけ寝てませんかね?
「フッ…私はここで焦るような愚行は犯さん。大人の余裕で華麗に勝利してやろう」
…で、織斑先生はなんでコッチをみながらニヒルな笑顔を見せてるの?
(あ…海だ)
何にも知らなければ無邪気に楽しめたんだろうけど…私は知っている。
この臨海学校は、私達にとって大きな事件になる事を。
機械仕掛けの天使との戦いが待っている事を。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「「ほぇ~…」」
バスを降りて私達が見上げたのは、明らかに『ザ・高級旅館』と言った感じの場所だった。
中学の時はホテルだったから、なんだか新鮮だなー。
「ここが、今日から三日間お世話になる花月荘だ。全員、従業員の皆さんに迷惑を掛けないように注意しろ」
「「「「はい!」」」」
普通にしていれば特に迷惑を掛けるような事はしないと思うけどね。
ま、いつも無駄にはしゃいでいる子達には難しいことかもだけど。
「私がこの花月荘の女将の『清州景子』です。こちらこそ、よろしくお願いしますね」
うーむ…和服美人…。
私もよく昔は和服を着てたけど、お世辞にも着こなせていたとは言い難いしな…。
やっぱり、似合う人は似合うなぁ~…。
結構マジで羨ましいかもしれない。
「ふふふ…今年の一年生も活気があっていいですね」
活気と言うか、無駄に元気と言うか。
何事も言い様だよね。
「それで、こちらが例の…?」
「えぇ。今回は男子が一人いるせいで面倒なことになってしまい申し訳ありません」
「いえいえ。そんなに気にしないでください。こちらも仕事ですので。それに、なんだかしっかりしてそうな男の子じゃありませんか」
「そんな気がするだけですよ。ほら、お前も挨拶をしろ」
「は…はい」
大人な会話だ~。
その中に強制的に放り込まれる織斑君…哀れな。
「お…織斑一夏…です。よろしくお願いします」
「はい。こちらこそよろしくお願いしますね」
おやおや…織斑君も緊張している御様子。
女に抵抗力が少ない彼に、年上の和服美人は刺激が強すぎたかしらん?
「それでは皆さん。どうぞ中にどうぞ。海に行かれる方は別館の方に更衣室がありますので、そちらを利用してください。もし場所が分からなかったり、困ったことが有ったら遠慮なく従業員に尋ねてくださいね」
それが出来たら苦労はしないんだけど…いざって時は勇気を振り絞るしかありませんな。
因みに、初日は完全自由時間になっている…んだけど、どうせみんなは海に行くんでしょうな。そうでしょうな。
はぁ…流れ的に私も海に行かないといけないんだろうなぁ…。
私のようなインドア派の女の子に常夏…にはまだ少し早いけど、海自体が眩しすぎる。
ま…取り敢えず、部屋に荷物を置きに行きますか。
何をするにしても、まずはそこからですよ。
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旅館における部屋割りもくじ引きで決まった。
最初は話し合いで決めようと思ったんだけど、そうなると殆どの女子達が織斑君との相部屋を希望し始めると織斑先生が判断し、すぐにくじ引きへと変更された。
その後、実は織斑君は『教員室』にて先生達と一緒に部屋になると聞かされた時の女子達の阿鼻叫喚には本当に草が生えた。ザマァ。
「私達の部屋は~…っと」
「こっちではないか?」
「お部屋がいっぱいだね~」
「これがジャパニーズ・ホテルか。なんだか不思議な匂いがするな…」
寮の時とは違い、今回は一班に付き4人となっていて、ウチの班は私に篠ノ之さん、本音ちゃんにボーデヴィッヒさんとなっている。
これに決まった時、デュノアさんとオルコットさんが悔しそうにしていたのは内緒。
「あ…ここだ。預かってる鍵を使って…っと」
そういや、班長を決める際にどうして満場一致で反論の余地も無く私に決まったんだろう。解せぬ。
しっかりしている篠ノ之さんか、隊長経験のあるボーデヴィッヒさん辺りが妥当だと思うんだけどなぁ~。
「「「「おぉ~…」」」」
そこは、学園の寮部屋にも勝るとも劣らないような広い部屋だった。
外側の窓が一面窓になっていて、そこから見渡せるのは見事なオーシャンビュー。
トイレや備え付けのユニットバスもセパレートになっていて、洗面所まで専用の個室になっている徹底っぷり。
特にこの浴槽さ…私一人じゃ大き過ぎるぐらいの広さじゃない?
その気になれば、私とボーデヴィッヒさんと本音ちゃんの三人同時に入っても余裕でしょ。いや…入らないけどね。
「これはまた見事なものだな…実に素晴らしい…」
「ほわぁ~…言葉を失うねぇ~」
「不思議と落ち着く空間だな…」
いやはや…こいつは参った。
この部屋を四人ってのは普通に凄いや。
流石はIS学園…金が掛かってますにゃ~。
しかも、ここって毎年のように使ってるんでしょ?
どんだけ金が余ってるんだって話だよ。
「そう言えば、ここには大浴場もあるんだったな」
「うん。普段は時間で男女割りをしているらしいんだけど、今回の場合は男子は織斑君一人だけでしょ? だから、彼は基本的に決められた時間帯しか使えないようにしてあるらしいよ」
「それは仕方あるまい。恐らくは、それでも相当に妥協をしたのだろうな」
「かもしれないね。旅館側の負担とかも考えないといけないし」
こっちの我儘で迷惑を掛けるのは論外中の論外だしね。
どう考えても、譲るのはこっち側なんだし。
「ということは、我々は一夏が入る時間以外はいつでも好きなタイミングで入浴可能と言うことなのか?」
「そうなんじゃないかな? 一般開放されている時は普通に24時間使える仕様みたいだし」
だからと言って、そこまで何回も入る趣味は無いけどね。
一回か二回入ればいい方でしょ。
「では、荷物を置いたら早速、海の方に向かうか」
「さんせ~!」
あぁ…やっぱし行くのね…。
ボーデヴィッヒさんも目をキラキラさせながらワクワクしてるし…。
「その為にはまず、更衣室のある別館に行かなくてはな。どう行けばいいのだ?」
「どこかに館内案内図があると思うから、それを見て調べればいいと思う。もしくは、旅館の入り口にあるパンフレットを見るとか。最後の手段は従業員さんに聞く…だけど。可能な限りは自分達で調べた方が良いと思う」
なんて言い訳をしてみたけど、実際には従業員さんに話しかける勇気が無いだけです。はい。
だって、普通に緊張しない?
特に仕事中とかだったりしたら。
「それもそうだな。まずは己の力でなんでもやってみなくては」
「旅館の中を探検だ~!」
「なんだか昔を思い出すな。よくこうして捜索任務の訓練を行ったものだ」
ほっ…どうにか説得に成功したようだ。
けど、この時の私は知らなかった。
まさか、『あの人』が私に接触して来ようとしてくるとは…。
それが私にとって大きな人生のターニングポイントになるとは、まだ想像すらしていなかった。
次回、遂にウサギさんと接触…?