私…生まれ変わったらモブキャラになりたいな(なれるとは言ってない) 作:とんこつラーメン
ですが、そう簡単に行かないのがかおりんサイド。
人生ハードモードなのかイージーモードなのか、分からなくなる瞬間ですね。
束さんに貰ったトールギスの追加武装である大型ヒートランス『テンペスト』の使い勝手を確かめて、それが終わって地上に降りてきた瞬間、山田先生が凄く慌てた様子で旅館の方向から走ってきた。
私は『コレ』を知っている。この『光景』を知っている。
『コレ』が何の前触れなのかも。
「一体どうした山田先生、そんなに慌てて。追加の貨物が来るまで旅館の方で待機をしているんじゃなかったのか?」
「私もそのつもりだったんですけど…まずはこれを見てください」
「ん…? こ…これは…!?」
場が急に不穏な空気に包まれ始める。
傍にいる私達もどうだけど、それ以上に後ろにいる他の皆も困惑して無言でオロオロし始めていた。
「なんと言うことだ…!」
山田先生が持ってきた小型のタブレットを見て織斑先生が顔を青くして呟く。
まぁ…実際問題、それぐらいの事態ではあるよねェ…。
「特務任務レベルA…現時刻より早々に対策を始められたし…だと…?」
「はい…そ…その……あ」
山田先生が私達の視線に気が付いて、すぐに口を使った会話ではなくて、なんか見た事が無い手話…っていうか、恐らくは軍用のハンドシグナルを使って話を続けた。
二人とも、昔は国家代表や代表候補生だから、その時にこれ系の技術も勉強したんだろうな。
あれ? って事は、ここにいる候補生の皆も先生達の会話の内容が分かるって事になるんじゃ…?
「そ…そんな…!?」
「冗談…でしょ…?」
「だったらいいけどね…」
「教官や山田先生のあの顔から察するに…我々の想像以上にヤバい状況のようだな…」
あ…やっぱり、皆分かるんだ…。
特にボーデヴィッヒさんは、少し前までは現役の軍人さんだったから、他の皆以上に詳細に読み取れるんだろう。
「な…なんだ? いきなりどうしたんだよ?」
「ちんぷんかんぷんだな…」
「う~?」
で、織斑君や篠ノ之さん、本音ちゃんは当然のように首を傾げる。
うんうん。それが普通の反応だよ。
「ねぇ…佳織。アンタも分かるんじゃない? 先生達が手話で何を話しているのか」
「え? ま…まぁ…一応…」
「やっぱりね。流石はあたしの佳織だわ」
いや…手話の内容はマジで分からないけど、これから何が起きるのかは知ってるからね…。
あと、別に私は誰のものでもないよ凰さん。
「…専用機持ちは?」
「それは…仲森さんもカウントして…ですか?」
「……あぁ」
「四組の子が欠席していますが、それ以外は全員揃っています」
「そうか…」
あ。なんか小さくだけど聞こえた。
もしかしてとは思っていたけど、やっぱ私もカウントされるんですねハイ。
それと、山田先生が言ってた『四組の子』ってのは、間違いなく『更識先輩の妹さん』の事だよね。
姿を見ないとは思っていたけど、やっぱり臨海学校に来てないんだ…。
「…あれ?」
「どうした佳織?」
「いや…さっきまでソコにいた束さんがいつの間にかいなくなってて…」
「なんだと? …本当だ。なんだか大変なことが起きそうだというのに、一体どこに消えてしまったんだ姉さんは…全く。やりたい事だけや言いたい事だけを言ってから…相変わらず神出鬼没と言うか…はぁ…」
篠ノ之さんが頭を抱えながらの大きな溜息。
普段から苦労をしてるんだろうなぁ…ってのが良く分かる光景ですな。
「じゃ…じゃあ、私はすぐに他の先生方に連絡をしてきます!」
「頼んだぞ。全員注目!」
わっ! び…ビックリした…。
山田先生が再び旅館に向かって全力ダッシュをしていき、それを見届けた後に織斑先生が手を叩きながら叫んで皆を注目させる。
「現時刻を持ってIS学園は特殊任務行動へと移行する。本日のテスト稼働は中止とし、各班速やかにISや各種機材を片付けてから旅館の部屋に戻れ。こちらから連絡があるまで部屋からは決して出ずに待機しているように。以上! 行動開始!」
織斑先生からの『命令』が下るが、一般の子達は何が何だか訳が分からずに上手く行動に移せないでいる。
無理もないけど、早くしないと普通にヤバいと思うよ?
「え? ちゅ…中止? 特殊任務行動って…?」
「な…何がどうなってるのよ…?」
はいはい。まずは口よりも手を動かした方が良いよ。
じゃないと…。
「何をやっている! 早く片付けて部屋に戻れ! もしも許可なく室外へと出た場合、容赦なく強制拘束する! 分かったら早くしろ!」
「「「「は…はい!」」」」
ここまで言われて初めて弾かれるように動き始める生徒達。
さーて…私達はどうするのかな?
「専用機持ちは全員、私に着いて来い。篠ノ之、布仏。お前達はアイツ等を手伝ってから部屋に戻っていろ」
「わ…分かりました」
「はい…」
今回の篠ノ之さんは一般枠だから仕方がないか。
それに本音ちゃんもそれは同様。
幾ら暗部とはいえ、専用機を持ってはいないからね。
二人にはなんだか申し訳ないから、学園に戻ったら埋め合わせぐらいはしてあげようか。
「ボーデヴィッヒ。今のお前は専用機持ちではないが、それでも元候補生で軍隊経験者だ。アドバイザーとして同行して貰う。いいな?」
「了解しました」
おぉー…ボーデヴィッヒさんはこっちに来るんだ。
ま、普通に頼りになるから当然か。
「…それと…仲森。お前も一緒に来てほしい」
「ですよねー…」
「済まない…だが、場合によってはお前とトールギスの力を借りなければいけないかもしれないんだ…」
「分かりました。だから、織斑先生が気に病む必要は無いですよ」
「…すまない」
あうぅ~…なんかめっちゃ心苦しんですけど~…。
まだ何もアクションが起きていないのに、もう既に暗いムードになって来てるし…。
「よし。では行くぞ」
こうして、私達は片づけをしている皆を余所に織斑先生の後に付いて行くのでしたとさ。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「それでは、状況の説明を開始する」
私達が連れてこられたのは、旅館の一番奥に位置している宴会用の大座敷である『風花の間』と呼ばれる場所。
本来ならばお偉いさんが歌えや騒げやの大賑わいであったであろう部屋は、今は簡易的ではあるが各種機器やレーダーなどが設置された即席司令室と化していた。
そのの中心に置かれた長テーブルの周りに私達は座り、そのテーブルの上に大型の空中投影型のディスプレイが静かに浮かんでいた。
「今から約二時間ほど前、ハワイ沖で試験稼働を行っていたアメリカとイスラエルが共同開発した第三世代の軍用IS『
最初から分かっていても…改めて誰かの口から聞かされると緊張するな…。
冷静に考えたら、いや…冷静に考えなくても大変な事態だってのは子供でもよく分かるからね…。
試しにチラっと横目で皆の様子を見てみると…。
「「「「「…………」」」」」
目に見えて困惑しているのは織斑君だけで、他の皆は非常に険しい顔をしている。
彼女達は知っているんだ。
今の状況の大変さを。恐ろしさを。
「監視空域から姿を消した後、すぐに監視衛星を使っての追跡を開始した。その結果、暴走した福音はここから約二キロ先の空域を通過することが判明した。時間にすれば約五十分程度。学園上層部からの通達に従い、我々がこの事態に対処をする事になった」
普通に考えれば『どうして一介の学生にそんな事を任せるんじゃい』ってなるんだろうけど、生憎とこの世界は『普通』じゃないからなぁ…。
悲しいことに『専用機』って戦力は、既存の兵器は愚か、その辺の量産機よりも高い性能を誇っているから質が悪い。
こんな緊急事態の場合、否が応でも専用機持ちは最前線に送られてしまう。
だって、自軍の最高戦力を持てあます理由なんて何処にも無いから。
「学園の教員たちは持ってきた訓練機を使って戦闘空域及び海域の封鎖を行う。つまり、今回の作戦の最大にして唯一の要は専用機持ちであるお前達と言うことになる」
うん。知ってた。
「それでは、これから緊急の作戦会議を行う。意見がある物は遠慮なく挙手するように」
意見…か。
私が何も言わなくても、他の皆が色々と聞いてくれる…よね?
「はい」
「オルコットか。なんだ」
「今作戦のターゲットであるISの詳細なスペックデータの開示を要求します」
だよね。
まずはそこからだよね。
『敵を知り、己を知れば百戦危うからず』…ってね。
「いいだろう。ただし、今から見せるデータは二ヵ国の最重要軍事機密となっている。決して口外などはしないように。もしも何らかの形で情報が漏れた場合、お前達には査問委員会による裁判と、最低でも二年の監視が付けられることになる」
裁判や二年の監視は嫌だな~。
ま、どうせこの作戦が終わったらすぐに忘れるだろうけどさ。
そもそも、普段の勉強ですら苦労している私が、軍用機のスペックを覚えるのに脳の容量を割ける筈がないでしょうが!!
出来たとしても精々が一時的に覚えるのが精一杯だよ!
なんて言ってる間に福音のデータがディスプレイに移し出された。
ちゃんと私や織斑君にも分かるように日本語訳してある。優しい。
「広域殲滅を目的とした特殊射撃特化機…私の機体と同じオールレンジ攻撃を主体としているようですわね」
「攻撃力と機動力の両方に特化した機体…か。それだけを聞くと、まるで佳織のトールギスの下位互換機みたいに感じるけど…」
「実際には全く違うだろうね。確かに佳織のトールギスは全方位に置いて万能に近い性能を有しているけど、一度に複数の相手に攻撃は出来ない」
「攻撃範囲だけで見るならば、どのISをも完全に凌駕しているな。しかも、このデータだけではまだまだ未知な部分が多い。例えば接近戦時の性能や所有しているスキルなどがな。もしも接近戦が苦手ならば、佳織のトールギスを主力に出来るのだが…。偵察行動などは出来ないのですか?」
え? なんか私を中心戦力にする的な話になってません?
ここは一撃必殺の攻撃力を誇る『零落白夜』を持つ織斑君が主役になるんじゃ?
「我々も偵察をしたいのは山々なのだが…残念ながら不可能だ。福音は現在進行形で超音速飛行を続けている。これに追従できるのは恐らく仲森のトールギスだけだろうが…」
「佳織は間違いなく、今回の作戦の要となる。安易に偵察をさせて消耗させるわけにはいかない…ですね」
「その通りだ。故に、こちらからの接敵は一回…奇跡的な偶然が重なったとしても二回が限界だ」
「実質的に交戦可能なのは一回が限界…。高い機動力と高い攻撃力を持つ機体が必須ですね」
原作ならば、この状況でその条件に該当するのは織斑君の白式だけだった。
だけど、今回は全く違う。
皮肉なことに、零落白夜に匹敵する攻撃力と、白式以上の機動力と運動性を誇る機体が目の前に存在している。
そう…それは…。
「私のトールギスか、織斑君の白式…ですね」
「そうなる。だが、織斑の操縦技術では、暴走した超高機動機に直撃させるのは至難の技だろう。違うか?」
おっふ…織斑君に注目が集まってるですよ。
さぁて…この状況で男の子がどう答えるのかな?
「やってみなくちゃ分からない…って言いたいけど、あんまし自信は無い。なぁ…それって、全力で動くトールギスに攻撃を当てるのと、どっちが難しい?」
「…正直、どっちもどっちだ。トールギスの異次元級の機動力と速度は言わずもがな。通常時ならばともかく、暴走状態となっている今は機体のリミッターが外れている可能性がある。単純な速度や機動力だけで言うなら、トールギスとほぼ互角と考えた方が良いだろう」
「やっぱりか…」
機動力だけなら互角…か。
でもそっか。
『暴走』ってのは、そういう事だもんね。
制御が効かないからこそ、凄まじい事になってるんだし。
「やりたい…やってみせるって言いたい…けど…!」
「自信が無いか?」
「…ごめん」
「謝らなくていい。寧ろ、それが普通だ。お前は他の連中とは違う一般人だ。無理に作戦に参加をする必要は無い」
織斑君が普通の感性になってる…。
いつもなら『やってやるぜ!』的な感じなのに…。
「すまねぇ…仲森さん…君に押し付けるような事になっちまって…」
「ううん。気にしてないよ。織斑君は悪くない」
私としては、その『怖い』って感情を大事にしてほしい。
その気持ちはこれから生きていく上で絶対に大事になるから。
恐怖心を忘れてしまったら…本当の意味で人間は終わりだよ。
「…佳織。お前はどうする?」
「…正直に言うと、私も凄く怖いです」
「…そうか」
「でも、私は織斑君に託されました。だから…行きます。私とトールギスが力になるのなら」
「…本当に済まない……ありがとう…」
…織斑先生…唇を噛み締めながら体を震わせてる…。
これは意地でも頑張らなきゃダメだな。
(よく言った姫よ)
(お前の勇気に敬意を表する。我々も全力でお前を守り、任務を遂行すると約束しよう)
トレーズ閣下…ゼクス…ありがとう…。
「大丈夫よ佳織」
「佳織さんの事は私達が全力で援護しますわ」
「だから、佳織は福音を止める事だけを考えてて」
「うん…お願い」
私は一人じゃない。心強い仲間がいる。
皆の力を合わせれば…きっと…!
「…よし。では、これより本格的な作戦内容を考えていく。現在、この中で佳織のトールギスに最も追従できる可能性のある機体はどれだ?」
「恐らくは、私のブルー・ティアーズかと。本国から強襲用高機動パッケージである『ストライク・ガンナー』が送られてきていますし、超高感度ハイパーセンサーも内蔵されています。それでも、佳織さんのトールギスの背後に着くのがやっとですけど…」
「それでも十分だ。トールギスは設計思想自体が通常のISとは異なっている。比べる必要は無い」
ですってよトールギス。
強ち間違ってないから悲しい。
因みに『パッケージ』ってのは、所謂『換装パーツ』ってやつね。
ガンダムの世界なら、もう御馴染みのアレです。
ストライクとかインパルス、V2とかについてたブツです。
え? F90? あれは例外だよ。
幾らなんでも多すぎるわ。
「オルコット。超音速下での戦闘訓練時間はどれぐらいだ?」
「約20時間ぐらいです」
「少し心許ないが…背に腹は代えられんか。ならば、佳織のバディはオルコットに任せ、デュノアと凰は後ろから…」
作戦の内容がほぼ決まった…と思われたその時。
皆は愚か、私すらも微塵も想像していなかった展開が待ち受けていた。
『待て』
「なに?」
「「「「「「え?」」」」」」
いきなりモニターが切り替わり、そこに謎の人物が姿を現す。
見るからに高級そうな派ではスーツに身を包んだ太ったオッサン。
毛むくじゃらな指には無駄に豪華な金の指輪まで付けちゃって。
ま~…成金趣味。
『代表候補生の作戦参加は認められん』
「なんだと…!? 貴様は何者だっ!?」
『私か? 私は…』
謎の男は葉巻に火を着け口に加え、思い切り煙を吐いた。
うわー…めっちゃ健康に悪そー。
大人になっても絶対に煙草だけは吸わないぞー。
『IS委員会日本支部の幹部の『原田』という者だ』
「原田…だと…!?」
原田って…え? マジで誰?
冗談抜きでこんなオッサン知らんのだけど…どーなってるの?
ここは束さんが乱入してくる場面じゃないの?
この時の私はまだ何にも知らなかった。
この『原田』と名乗る謎のオッサンの出現が、私の第二の人生を更に波乱に満ちたものにするということを…。
ここで宣言しておきます。
この『福音編』が終わりまで、暫くは連続してこの作品を投稿していこうと思っています。
ここの場面は、この作品を書くに当たって最も書きたかったシーンなので、普通にテンションが上がってるんですよね。
なので、少しの間だけどうか佳織とトールギスの戦いにお付き合いください。