私…生まれ変わったらモブキャラになりたいな(なれるとは言ってない) 作:とんこつラーメン
次回からは、少しだけ話を挟んだ後に夏休み編に移行するかと思います。
この夏休み編も、中々に長くなりそうな予感…。
辺りはすっかり暗くなり、完全に夜となった。
旅館の近くにある岬の柵に腰を掛けている束が、夜風に当たりながら夜空に浮かぶ満月を眺めていた。
「…やっぱり来たね。ちーちゃん」
「…束」
そんな彼女に会いに来たのは、昼間と変わらぬスーツ姿の千冬だった。
無事に戦いは終わったというにも拘らず、彼女の顔からは未だに緊張感が抜け切れていない。
「ここに来たって事は、私と話したい事があるんじゃないの?」
「あぁ…」
束はずっと背中を向けたまま、千冬はその背中をジッと見つめている。
久し振りに会った親友同士が二人きりの会話にしては、余りにも殺伐としていた。
「にしても凄かったね~。流石はかおりん。まさか、あのトールギスを
「天使…のようだったな」
「うん。四枚の翼で自由に大空を翔る天使。もしかしたら、あれこそが私の目指したISの本当の姿なのかもしれない」
ISの開発者である束も、あれ程までに美しいISは見た事が無い。
あの時のトールギスは間違いなく、その大いなる翼で『羽撃いていた』。
「こうして直に会いに来て大正解だった、やっぱり、かおりんこそが私がずっと探し求めていた子なんだ。今日、それを完全に確信したよ」
自分と同じ『自然に生まれた天才』。
世界は広いのだから、自分一人だけとは限らない。
だからずっと探し続けていた。
それがまさか、こんな形で見つかるとは流石の束すらも夢にも思っていなかった。
「かおりん達はどうしてる?」
「食事をして英気を養っている。今回の最大の功労者は、間違いなく佳織だ。可能な限り、アイツの事を労ってやりたい」
「そうだね。かおりんがいなかったら、本当にどうなっていたか分からない」
正史では、専用機持ち全員で戦いを挑んで、ギリギリのところで倒す事が出来た強敵。
佳織はそれを、途中までは千冬たちの援護があったとはいえ、最終的にはほぼ単独で撃破してみせた。
暴走した軍用機を、規格外の性能を持つ競技用機で。
本人は自覚が無いかもしれないが、これは間違いなく歴史的な大偉業だ。
この事が他の国やIS委員会などに知られれば、まず間違いなくスカウトの嵐になるだろう。
場合によっては、代表候補生をすっ飛ばして、一気に国家代表に就任してしまいかねない。
それ程の事を佳織はやってのけてしまった。
「…束。今回の一件…本当に単なる『暴走』だったのか?」
「と言うと?」
「余りにも都合が良すぎると思ってな。臨海学校の時に、見計らったかのように軍用ISが暴走したと言う一報が知らされ、しかもそいつが我々のいる旅館の近くに出現した。その後に、いきなりIS委員会日本支部の男が介入してきた。ここまでお膳立てをさせられて、何の意図も感じない方が難しい。口には出していないが、恐らくは佳織も同じことを感じているに違いない。アイツの勘は本当に鋭いからな」
「…そうだね。かおりんなら十分に有り得るかもね」
モニター越しとはいえ、束は佳織の偉業を何度も見てきた。
もう正直、佳織ならば何をしても全く不思議じゃない。
「で? まさかそれを話しに来たの?」
「違う。本題は別にある」
神妙な顔をしながら、頭の中で言うべき事がを整理する。
少し迷った結果、ストレートに言おうと思った千冬は腕組みをして真っ直ぐに束の背中を見据えた。
「ハッキリと言う。あの『原田』とかいう男が、今回の主犯なのではないか?」
「…普通は…そう思うよね」
「お前は違うと思うのか?」
「うん。ちーちゃんも、なんとなくではあるけど感づいてるんじゃない? あの『原田』っていうおやじは単なる『
ここで初めて束はほんの少しだけ後ろを向いて千冬の顔を見る。
その顔は心なしか微笑んでいるようにも見えた。
「私の予想じゃ、今回の本当の黒幕は…あの『原田』って奴の背後にいる奴だよ」
「なんだと?」
「そして、そいつこそがかおりんをストーキングしている奴の可能性もある」
「佳織の…ストーカーが…真の黒幕だと…!?」
確かに、束の言う通りに千冬も原田が全ての元凶とは思ってはいなかった。
だがまさか、その背後に何者かがいる事は流石に想像していなかった。
「そいつの正体は全く分からない。けど、そう考えると色んな事に納得が出来るんだよ」
「普段から存在を秘匿している佳織を公にする為…か?」
「多分ね。かおりんのことを世界の主役にでもしたいんじゃないの? 知らないけど」
因みに、ここで束はあることを敢えて黙っている。
実は自分も全く同じことをしようとして、佳織の凄さを有象無象の連中に思い知らせてやろうとしていたと言うことを。
けど、もしそんな事を暴露したらまず間違いなく千冬から必殺のアイアンクローをお見舞いされるので絶対に言わない。
この歳で頭蓋骨が変形するのは勘弁したい。
「実はさ、ちーちゃん達が戻ってきてから軽く福音を調べてみたんだけど…案の定だった。ISコアに何者かが干渉した形跡が見つかった」
「なん…だと…!?」
コアに干渉する。
この事実は、その気になれば全てのISを好きに出来ると言う証拠でもあった。
「この形跡もワザと残していったんだろうね。その気になれば幾らでも消せただろうに」
「そいつの目的は一体何なんだ? どうして、そこまで必要に佳織の事を突け狙う?」
「それは本人に聞くしかないよ」
まさか、こんな形で佳織のストーカーが関与して来るとは思わなかった。
しかも、軍用機を暴走させると言う尋常じゃない方法で。
どう考えても常軌を逸している。
そこまでして佳織の事を矢面に立たせたいのか?
考えれば考えるほどに謎が増えていく。
「ねぇ…ちーちゃん」
「なんだ」
「かおりんのこと…守ってあげてね。どんなに強くて賢くても…あの子はまだ『子供』だから。私達のような『大人』が守ってあげないと」
「お前に言われるまでも無い。それに、今の佳織は一人じゃない。多くの友人達が傍にいる」
「…そうだね」
束がそう呟いた瞬間、突如として風が吹いた。
思わず千冬が目を瞑って、腕で顔を覆い、風が止んだ後に目を開けると…そこにはもう束の姿はどこにも無かった。
「…束。お前は味方…でいいんだよな?」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
次の日。
もう後は帰るだけなので、朝ご飯を食べた後に私達はISのお片づけを初めとした撤収作業を行う。
これがまた中々の重労働で、気が付いた時にはもう10時を回ってしまう訳で。
そうなればもう普通にお腹が空くのが当たり前。
因みに、この撤収作業はケイシー先輩も一緒に手伝ってくれた。
本人曰く『こんなのはもう普通に慣れっこだから気にするな』だそう。
更識先輩とはまた別ベクトルで頼りになる先輩…普通に憧れます。
そんな私達は今、帰りのバスの中で待機中。
後は出発するだけなんだよね。
ケイシー先輩は四組のバスに乗って帰るみたい。
四組には一人欠席者がいたらしく、空席があるんだって。
それって間違いなく『あの子』…だよね?
「お腹空いた~…。帰りは確か、サービスエリアでお昼を食べるんだよね?」
「そうだって聞いてるな。仲森さん…大丈夫か? まだ昨日の疲れが残ってるんじゃ…」
「いや、昨日の疲れはもう無くなってるよ。凄く疲れたお蔭でグッスリと熟睡出来たしね」
別にストレッチやホットミルクを飲んだりはしてないけどね。
「この疲れは、単純にさっきまでの作業の疲れだよ」
「あれな~…確かに疲れたよな~」
織斑君は現状唯一の男手ってことで、割とこき使われてた。
文句の一つでも言うかと思ったら、本人は全く気にせずに頑張ってたっけ。
福音との戦いで何も出来なかった事を気にしているのか、いつも以上にテキパキと動いてたような気がする。
「佳織、喉乾いてない? よかったら飲む?」
「お~…デュノアさん。ありがと~」
デュノアさんからお茶の入ったペットボトルを貰った。
丁度、喉もカラカラだったし、こいつは丁度いいのぜい。
「むぅ…出遅れたか…!」
「けど、まだチャンスはありますわ…!」
「サービスエリアで、かおりんと一緒にお昼を食べるんだもんね~」
「皆は一体何を張り切っているのだ?」
サービスエリアか~…何があるのかな~?
今時のサービスエリアの食事って割と凝ってるのが多いらしいし…これは期待しても良いのかしらん?
なんてことを考えていたら、いきなりバスの中で見覚えのある金髪美女が乗り込んできた。
あの人は確か…。
「いきなりでごめんなさい。ここに仲森佳織ちゃんって子はいるかしら?」
「ふぇ? 私…ですか?」
「あぁ…あなたなのね」
おう…なんかこっちに来たし。
「えっと…お姉さんは…」
「アナタに助けられた
「あぁ…そんな名前だったんですね。顔は知ってたけど」
「みたいね。千冬に聞いたわ。貴女が私を旅館まで運んでくれたって」
「一応…」
正確には旅館の近くの浜辺までなんですけどね。
その後は先生達が運んで行ったし。
「うっすらとではあるけど、あの時の記憶があるのよ。純白の翼を携えた白騎士が私を抱えていた記憶が」
「え? マジですか?」
おもいっきり気絶してたっぽく見えてたけど…意識あったんだ。
なら、気を使って運んだのは正解だったかな。
「本当に…本当にありがとう。貴女には、どれだけお礼を言っても言い足りないわ」
「それほどでも…」
「何か困ったことがあったら、いつでも連絡して来て頂戴。佳織ちゃんの為なら、喜んで力になるから」
「いやいや…そこまでして貰わなくても…」
タダでさえ、図らずもフランスの大企業の社長さんや、ドイツの軍人さんとのパイプが出来てしまったのに、ここで更にアメリカの現役軍人さんとのパイプとか、私のような一般人には重すぎますから~!
「それじゃ、またね。可愛い
チュッ。
完全に油断した隙に、ファイルスさんが私の頬にキスをしてから去って行った。
思わずキスされた場所を手で覆って、ポケ~っとしてしまった。
「す…すげー…流石はアメリカ人…大胆だな…」
「うん…全くの同感…」
あ…やば…顔がめっちゃ熱い…。
ケイシー先輩といい…アメリカの女性って皆、こんなにも大胆なの…?
「「「「…………」」」」
…で、どうしてまた篠ノ之さん達は固まってるの?
ボーデヴィッヒさんはキョトンとしてるけど。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
佳織に礼を言ったナターシャは、バスから降りた直後に千冬から睨み付けられた。
「やってくれたな。純情な佳織の頬にキスなんぞしおって」
「だって、とっても可愛かったんですもの。思わずやっちゃった♡ 貴女はまだしてないの?」
「いずれ必ずする」
「する気ではあるんだ…」
奥手なだけじゃなく、単にタイミングを計っているだけだった。
「にしても、もう動いても大丈夫なのか?」
「平気よ。こう見えて、ちゃんと鍛えてるから」
現役軍人は伊達じゃない。
暴走したISの中にいても、特に外傷などは見当たらなかった。
「…昨日の夜、篠ノ之束から話は聞いたわ。佳織ちゃんをストーキングしている奴が『あの子』を暴走させた黒幕の可能性が高いって」
「…そうか」
「もし本当にそうだったとしたら絶対に許さない。あの子の自由と意思を奪っただけに飽き足らず、私の大切な命の恩人を辱めている。もしも黒幕の正体が判明したら私にも知らせて頂戴。喜んで協力させて貰うわ」
「そうだな。その時は力を貸して貰うかもしれん」
もう事は佳織個人の事だけに留まらなくなってきた。
相手はISを暴走させる能力を持っている。
この事実は充分に警戒するに値した。
「では、私はここらで失礼するわ。もうそろそろ迎えのヘリが来るみたいだから」
「そうか。ではな」
そうして、彼女達はそれぞれの帰路に着く。
その目には新たな決意が宿っていた。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「ふむ…まさか、これ程とは…」
「これは良い意味で予想外だな」
「よもや、あのトールギスを手足のように乗りこなすばかりか…」
「あろうことか
「興味深い…実に興味深い」
五人の『老人』が話し合っている。
その内の一人が笑みを浮かべ、その義手をカチカチと鳴らした。
「仲森佳織…日本人か。確か、IS学園の生徒じゃったな」
「会いに行くつもりか?」
「行かぬわけにはいくまい。我々には、その少女を見極める義務がある」
「と言うのは建前で、実際には進化したトールギスをこの目で見てみたいだけだろうに」
「別に構わぬだろう。事実、色々と調べて見なければ」
義手の老人が、不意に後ろを見つける。
そこには一体のISが鎮座していた。
「もしかしたら…彼女ならば『お前』すらも乗りこなしてみせるやもしれんな。なぁ……」
「ウィングゼロよ」
最後の五人はまぁ…お察しの通りです。
ナターシャさんがどんな立ち位置になるかはまだ未定。
因みに、切っ掛けが切っ掛けなので、ナターシャさんから佳織に対する好感度はほぼMAXです。