私…生まれ変わったらモブキャラになりたいな(なれるとは言ってない) 作:とんこつラーメン
家に帰る。
そう言った佳織に対し、私は言葉では言い表せない不安がよぎった。
普段の佳織とは違う感じ…そう、今の佳織からは『怒り』の感情が垣間見えた。
この子の家庭事情と、今のこの状況を察すれば無理もないことかもしれないが。
私は佳織の…一年一組の担任教師だ。
勿論、各々の生徒のプロフィールも知っている。
その中でも特に佳織は一際、特殊な事情でIS学園に来ているのだから、こちらとしても特に目を光らせる必要があり、同時に彼女の家庭のことも承知していた。
だからこそ、今の佳織を一人にしておくのは拙いと思った。
「…実家に帰ると言ったが…今すぐに行くのか?」
「はい。善は急げ。思い立ったが吉日とも言いますし。寮に戻って準備をして、すぐにでも出かけようかと」
「そうか…」
きっと、今の佳織は焦っているんだろう。
いきなり実家から送られてきた差出人不明の荷物。
その中身は実家に置いている筈の自分の私物。
例え佳織でなくても普通に焦る。
佳織自身は母親から送られてきたものではと思っているようだが、私個人としては例のストーカーの可能性も拭いきれない。
ほんの僅かな可能性であったとしても、佳織の身に危険が降りかかるかもしれないのならば、私は黙っている事は出来ない。
「佳織。私も一緒に行こう」
「へ? 千冬さん…も?」
「そうだ。今のお前を放っておくことは出来ない。大人として、教師として…人間としてな」
一人では受け止めきれない事実があったとしても、傍に誰かがいれば耐えられる。
嘗ては私が支えられる立場だったが、今度は私が誰かを支えられる立場にならなくては。
私は佳織を守ると誓ったのだから。
「いいん…ですか?」
「勿論だとも。何度も言っているが、これまでに何度も佳織には助けられているからな。こんな時ぐらいは大人らしいことをさせてくれ」
「そんな…千冬さんにはいつもお世話になってるのに…」
…どうしよう。
目をウルウルさせながら見上げてくる佳織が可愛過ぎる。
「と…兎に角、私も佳織の実家には同行させて貰う。ちょっとした家庭訪問だとでも思えばいい」
「は…はぁ…」
そうと決まれば、まずは山田先生に連絡だな。
スマホを出して…っと。
「もしもし? 山田先生か?」
『織斑先生? どうされたんですか?』
「いや、実はな…」
ここで私は先程までの状況を説明。
物わかりが良い彼女は、すぐに私が言いたい事を理解してくれた。
「…と言う訳なんだ。だから、私は今から仲森の実家に一緒に着いて行くことにする。その間の事を任せたい」
『分かりました。こちらの事はお任せください。確かに、そんな事が起きたら見過ごすわけにはいかないですもんね』
「あぁ…その通りだ」
『コッチの事は気にせずに、織斑先生は仲森さんの傍についてあげてください』
「そのつもりだ。では、任せたぞ」
『はい。気を付けて行って来てください』
これでよし…と。
後は車の準備だな。
「佳織。私は今から車の準備をしてくる。職員用の駐車場の場所は分かるか?」
「一応…。千冬さん、車とか持ってらしたんですか?」
「意外か?」
「意外と言うか…車に乗っている姿を見た事が無いので…」
「だろうな。これでも車の免許自体は持ってるんだぞ」
「肝心の車は?」
「ない。だから、IS学園の車を借りるつもりだ」
「そんな事が出来るんだ…」
「ちゃんと申請をすればな」
「流石はIS学園…」
私は所謂、ペーパードライバーと言う奴だ。
運転免許を持っていれば色々と便利だからと言う理由で取得はしたが、私の場合はそこで終了している。
別に車を欲しいと思わない訳じゃない。
訳じゃないが…車は高い。無駄に高い。
それだけじゃなく維持費もかかる。
というか、そもそもウチには車庫が無い。
駐車場を借りるにも、それにもまた金が掛かる。
だから、いざと言う時は基本的にレンタカー頼りだ。
「準備が終わったら、職員用の駐車場で来てくれ」
「分かりました」
「では、また後でな」
「はい」
…何気なく話していたが、これではまるでデートの約束をしたみたいじゃないか?
こんな時に不謹慎だと分かってはいるが…佳織と二人きりで外出出来る状況にドキドキワクワクしている自分がいる…。
いかんいかん…しっかりしなくては。
私が佳織を支えなければ、一体誰が支えると言うんだ。
よし。気を引き締め直して車を借りに行くか。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
…と言う訳で、私の運転する車(黒のタント)にて一路、佳織の実家がある場所へと移動をしていた。
一応、書類で住所は知っているが、実際に行ったことがある訳ではないので、助手席に座っている佳織に道案内を頼んでいる。
え? カーナビを使えばいい?
そんな事をしたら佳織と話すネタが無くなるだろうが。
「うわ…まだ半年も経ってないのに妙に懐かしい感じがする…」
「それだけ濃密な一学期だったと言う事だろう」
「そうですね…」
実際には『濃密』の一言では片付けられない程に数多くの出来事があったがな…。
ある日突然、ランクSを出したと言う理由でIS学園に入学させられ、IS委員会から危険極まりない専用機『トールギス』を渡され、クラス対抗戦の時の謎の無人機襲来の際にはトールギスを見事に乗りこなして撃退。
学年別トーナメントの際には、ラウラの奴のISに密かに仕込まれていたVTシステムの鎮圧に成功し、その後の臨海学校では軍用機の暴走と言う前代未聞の事件に遭遇し、トールギスの第二形態移行に成功したばかりか、銀の福音をほぼ単独で撃破してみせている。
…こうして簡単に説明しただけでも、佳織の戦績が凄まじいことが伺えるな…。
それと同時に、IS学園が何度も何度も佳織に救われてきたという事実に、自分自身が情けなくなってくる。
もし佳織がいなかったら一体どうなっていた事か…。
「あ…そこの角を右です」
「分かった」
そう言えば、私は佳織の事について殆ど何も知らないな…。
趣味嗜好、普段は何をしているのかとか。
個人的には物凄く知りたいが、だからと言って生徒のプライベートにズケズケと入り込むのもどうかと思うしな…。
うーむ…こういう時ばかりは、教師と言う立場が恨めしい…。
「あそこの家…いつの間にか無くなってる…」
「知り合いの家なのか?」
「いえ…知り合いって程じゃないんですけど…普通にご近所ってだけで…。どこかに引っ越しちゃったのかな…」
それ程親しくは無いとはいえ、それでも近所の家が無くなるのは寂しいものだな。
これに関しては割と共感する者は多いと思う。
「あ……」
「どうした?」
「家…見えてきました。あれ?」
「今度はどうし…ん?」
なんだ…?
佳織の実家と思わしき建物に、何かが貼ってあるような気が…。
「…急ごう」
「…はい」
なんだ…この嫌な予感は…。
急に胸騒ぎがしてきた…。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
佳織の実家…仲森家に到着した私達は車を降り、家の塀に貼られていた物を見て絶句した。
【売家】
これは…どういうことだ…?
どうして…佳織の家が売りに出されている…?
「え…? わ…たし…の家…なんで……?」
佳織の顔には冷や汗が流れ、目の焦点が合っていない。
目の前の光景を信じられず、呼吸も荒くなっている。
私自身も佳織ほどでは無いが、それでもショックを隠しきれない。
まさか、この家を引き払うから佳織の荷物をIS学園に送ってきたと言うのか…?
「ど…うし…て…家…」
「佳織!」
後ろに倒れそうになった佳織の身体を急いで支える。
その目からは大粒の涙が零れていた。
(これは…本当にどうなっているッ!? 佳織の家族はどうしてしまったんだっ!?)
何がどうして、こうなってしまっているのか。
事情が分からなければ、どうしようもない。
不甲斐無くも私も混乱していた…その時だった。
「…アタシの予想通り、やっぱり戻ってきたね」
「「え?」」
突如として聞こえてきた老婆の声。
思わず振り返ると、そこには派手な服装をした一人の老婆が立っていた。
「お…お婆ちゃんっ!?」
「なに!?」
この人が…佳織の祖母!?
私が思っていたイメージとは随分とかけ離れているな…。
「お婆ちゃん! これってどうなってるのッ!? どうしてウチが売家になってるのッ!?」
「そう慌てなさんな。ちゃんと一から説明してやるよ」
…どうやら、佳織の祖母は事情を把握しているようだな。
「それにしても、やっぱり佳織は賢い子だね。こっちの思惑通り、ちゃんと帰って来てくれた」
「思惑って…もしかして、あの差出人不明の荷物はお婆ちゃんが送って来た物だったのッ!?」
「そうさね。昔から勘の鋭かった佳織のことだから、こうすれば何かを察して戻ってくると踏んだのさ」
「私に…今の家を見せる為に…?」
「あぁ」
「それだったら、電話とかで教えてくれれば良かったじゃん!」
「そんな事をしても意地を張って帰ってこないと思ったから、こうして自分から戻ってくるようにしたんだよ。差出人を不明にすれば、怪しんだ佳織は荷物を送ってきた奴を確かめようとして帰ってくると思ってね」
「うぐぐ…!」
さ…流石は佳織の祖母…。
佳織の性格を完璧に把握している…!
「案の定、アンタはこうして帰ってきた。賢すぎるのも考えもんだね」
「う~…」
こんな時に何だが…悔しそうにしている佳織が可愛い。
「けどまさか、佳織が誰かと一緒に戻って来るとは思わなんだ。アンタは?」
「わ…私はIS学園でお孫さんの担任を務めている織斑千冬と申します」
「織斑千冬…? どこかで聞いたことがあるような気が…まぁいいか」
ほっ…流石にISにはそこまで詳しくは無いようだな…。
変に騒がれても面倒だしな。
「あたしゃ佳織の祖母の『仲森サチ子』だ。あの佳織が一緒にいる事を許しているって事は、アンタとは相当に仲が良いようだね」
「一緒にいる事を許している…?」
「そうさ。この子は昔から友達作りが苦手でねぇ。そのせいで自分から積極的に誰かに話しかけたりってのが出来ないのさ。そんな子がこうして実家にまで同行を許している。それはつまり、アンタに対して心を許しているって証拠なのさ」
「私に…心を…」
「お…お婆ちゃん…その辺で勘弁して…」
成る程…伊達に佳織の家族ではないと言う事か。
ほんの少しではあるが、佳織の事を知ることが出来た。
それとは別に、羞恥心で悶絶している佳織が可愛くて辛い。
「どれ。立ち話はここら辺にして、続きはあそこで話すとしようか」
そう言って指差したのは、一件の喫茶店。
行きつけ…なんだろうか?
「あそこで全部教えてやるよ。どうしてアタシが佳織に荷物を送ったのか。どうして家があんな事になっているのか。その他の事もね…」
「「…………」」
遂に分かるのか…どうして、こんな事になってしまったのかを…。