私…生まれ変わったらモブキャラになりたいな(なれるとは言ってない) 作:とんこつラーメン
佳織の元実家の近くにあった喫茶店に、佳織の祖母であるサチ子さんと一緒に入店する。
外観からは古い印象を受けたが、店内は思ったよりも広く綺麗にしていた。
幸いなことに私達以外の客は殆どいなかったが、それでも念には念をと言う事で一番奥にある席に座ることにした。
私と佳織が並ぶように座り、サチ子さんが対面するような形となる。
適当に飲み物を注文してから、早くも本題に入ることに。
「さて…どこから話したもんかね」
「じゃあ、私が質問して、お婆ちゃんがそれに答えるって形はどうかな?」
「ふむ…それが手っ取り早そうだね。なら、そうするか」
確かに、その方が話もし易いか。
こんな状況でも、佳織はちゃんと冷静だな。
「…お父さんとお母さんは、どこに消えたの?」
「分からない。本当に、いつの間にか何処かに行った…としか言いようがない」
「置手紙とかは?」
「無い。アイツ等は自分達がいた痕跡を文字通り全て消し去ってから行方を眩ましたんだよ」
「そう…」
自分が知らない間に姿を消していた両親…か。
佳織の気持ちは分かる…なんて軽々しくは言えないな…。
どれだけ同じような境遇であろうと、佳織の気持ちは佳織にしか分からない。
「昔から勘の鋭かった佳織の事だ。薄々とは気が付いてはいたんじゃないかい?」
「…何を?」
「お前の両親が離婚したがっていたことを…さ」
「それは…」
佳織の両親が離婚をしようとしていた…?
私も担任として、佳織の家の家庭環境の事は文面で知ってはいたが…まさか、そんな事になっていたとは…。
「で…でも…お母さんもお父さんも喧嘩なんて一度も…」
「したことが無い…か。そりゃそうだ。アイツ等はお互いが嫌いになって離婚したわけじゃないからね」
「じゃあ、なんで…」
「興味が無くなったからさ」
「きょ…興味って…」
無関心になった…ということか…?
どちらかが悪かったとかではなく、お互いに無関心になっていったから…?
「佳織だって知ってるだろ? お前の親父…アタシの息子はいきなり会社に行かなくなったと思ったら、部屋に籠りだして古物商の免許を取るとか言い出したり、母親の方も外出が増えたかと思ったら、頻繁に朝帰りをしてくる始末。しかも、母親の知人を自称する白人の男が家にいる事もしょっちゅう」
「う…うん…。私…前にあの人から『皆で一緒にオレゴンで暮らそう』って言われたことがある…。怖くて即座に断ったけど…」
こ…これは酷過ぎる…!
まさか、仲森家の家庭環境がここまで劣悪な状態だったとは…!
「ま、アタシもあんまし人の事は言えないんだけどね。住まわせて貰っている手前、強く言い出せずにいたせいで佳織と話をする事も殆ど無かった…」
「え? お婆ちゃん…私の事を毛嫌いしてたんじゃ…」
「そんな訳がないだろう? あんたはアタシにとって、たった一人の大切な孫娘なんだよ? 寧ろ、アタシみたいな愛想の悪い老婆なんて近づいたら怖がられるかも…なんて思っていたぐらいさ。本当に…情けない話さ…」
「お婆ちゃん…」
この人もこの人で不器用なだけだったのか…。
心の中では、佳織の事を誰よりも大切に思っていたんだな…。
「お父さんとお母さんが離婚したがってたって言ってたけど…それっていつぐらいから?」
「明確に離婚って言葉を言い出したのは、佳織が学園の寮に入る為に家を出て行ってからさ。でも、それっぽい雰囲気自体はかなり前からあったね。お前も覚えがないかい? 丁度、佳織が中学に上がった頃から徐々に二人の会話が少なくなっていったのを…」
「そう言えば…最後に二人が会話をしてたのって、小学六年生の初め頃…だったような気がする」
急に…ではないんだな。
緩やかな下り坂を降りて行くように、ゆっくりと離婚へと向かっていたのか。
「恐らく、本当はもっと早くに離婚をしたかったんだろうね。離婚届自体は早い段階で用意していたようだし」
「そう…だったんだ…」
佳織…。
「けど、佳織の存在がそれを許さなかった」
「私が?」
「そうさ。お世辞にもアイツ等は親として褒められたもんじゃない。けど、そんな親でも…お前は大好きだったんだろう?」
「うん…そう…だったんだと思う…」
「お前があー…あいえす? 学園…に入学するって決めたのも、アイツ等やアタシを守る為…なんだろう?」
「な…なんでそれを…?」
「やっぱりか。アタシを舐めんじゃないよ。遠巻きに見ていたとはいえ、赤ん坊の頃からずっと佳織の事を見ていたんだ。それぐらいの事は分かるさね」
「あはは…凄いなぁ…お婆ちゃんは…」
これが祖母の成せる技…なのか…。
きっと、私では分からなかっただろうな。
それにしても、少し気になることがあったな。
家族を守るために佳織がIS学園に入ったとは?
「あの時、お前は『委員会』とかいう連中からIS学園に入学しろと言われていた。時には家に直接来る時もあったね」
「そう…だね…」
「ありゃ、もう殆ど脅迫だった。直接的な言い回しはしてなかったけど、アタシには分かった。ありゃ、いざとなれば手段なんて選ばないような奴等だとね」
す…鋭い…!
今のIS委員会は、まさにそんな感じだからな。
臨海学校の一件で、その事を身を持って思い知らされた。
「多分だけど、佳織はこんな事を考えてたんじゃないのかい? 『このまま断り続けていたら、いつか家族が人質にされるかもしれない』…とかさ」
「その通り…です」
「やっぱりね。佳織に余計な重荷を背負わせちまったね…ごめんよ」
「そんな! お婆ちゃんが謝ることなんて…全然ないよ…」
優しいな…佳織は。
半ば親から見放されようとしていても、それでも家族の為に動けるなんて…。
だからこそ、IS学園でもあいつ等の心を救えたんだろうな。
「佳織が自分達を家に繋ぎ止めていたから離婚が出来なかった。アイツ等はそう考えていた。世間体ってのもあったんだろうね」
「まさか…私がIS学園に行くって言った時、二人揃って物凄く喜んでいたのは…」
「佳織の方からいなくなってくれる事になったからさ。もう、アイツ等にとって佳織の存在は邪魔者であると同時に、自分達を家に縛り付ける『楔』でもあった」
「だから…私が家からいなくなることを喜んだ…」
「あぁ。ったく…我が息子ながら恥ずかしい話さ。幾ら自由になりたいからと言って、自分の娘を切り捨てる馬鹿がどこにいるってんだい…!」
怒っている…。
この人は本気で佳織の為に怒ってくれている。
どうやら、佳織は決して孤独だったと言う訳ではないようだな…。
「佳織が進学して家からいなくなった途端、あの二人は意気揚々と離婚の準備を進めて行ったよ。そして、あっという間に離婚調停は成立。ちょっと目を離した隙に、もう荷物を纏めていやがった」
「じゃあ、学園に送られてきた私の荷物って…」
「あれは、さっきも言った通り、佳織にも今の家の姿を見て貰う為にアタシが考えた事…なんだが、もう一つ意味があるんだよ」
「それは?」
「…あのバカ二人は、あろうことか家に残っていた佳織の荷物を捨てようとしてたのさ」
「えぇっ!?」
娘の私物を勝手に捨てようとするだと…!?
正気かッ!? とてもじゃないが普通じゃない…!
「だから、そうなる前にアタシが確保して、急いでダンボールに纏めてアンタの学校に送ったんだよ。本当にギリギリだった。あと少し遅かったら、今頃はゴミ捨て場に並んでただろうね」
「そうだったんだ…」
これは本当にサチ子さんのファインプレーだな。
そのお蔭で、佳織は自分の荷物を全て学園に持って来れたのだから。
「でも、荷物が送られて来たのって今日だったよ?」
「そりゃそうさ。敢えて遅れて送られてくるようにしたからね」
「なんで?」
「時期ってのを考えたのさ。流石に、入学したてで色々と忙しい一学期に『話したい事があるから家に戻って来い』なんて言えないさね。だから、長期の休みでゆっくりと考える時間もある夏休みに入るタイミングで荷物が届けられるように調整したってわけなのさ」
す…凄い…!
まさか、そこまで考えていたとは…!
佳織の冷静な判断力と、いざと言う時の度胸と行動力は、もしかしたら祖母であるサチ子さん譲りなのかもしれないな…。
「お婆ちゃんは今はどうしてるの?」
「適当に近くのアパートの部屋を借りて暮らしてるよ。だから、こっちの事は別に心配しなくても良い」
残念だが、それは無理な相談だろうな。
なんだかんだ言いつつも、結局は心配になって手を差し伸べてしまうのが佳織だから。
「あの二人の事は…本当に分からないんだよね?」
「あぁ。あいつら、ご丁寧に今まで持っていた携帯も解約して、番号やら何やら全部を全部変更した上で新しい物に買い替えていたからね。アタシの方からも連絡をしたくても出来ない状態だよ」
「ってことは、私の携帯からも無理ってことか…」
「そうなるね。探したいのかい?」
「どうだろ…良く分からない。最初は、もし下らない理由で呼び出したんなら、お母さんに向かってビンタの一発ぐらいはしようって思ってたけど…その相手がいないんじゃね…。あの二人の気持ちが私から離れて行ってたのは、なんとなく察してたけど…だからと言って無下には出来なかった。あんなんでも私を生んでくれた両親だしね…。ショックだったってよりは…なんだか呆れた。何やってんだって。離婚するなら、もっと堂々としろよって。私がいたら離婚を嫌がるとか思ってたのかな…。私、そんなに空気が読めない女の子じゃないんですけど…」
佳織も佳織で、気持ちの整理が必要かもしれないな。
だが、この話が第三者経由ではなくて、祖母であるサチ子さん経由で話されたのは大きいかもしれない。
家の中で唯一の味方だった人から話を聞けば、佳織の精神的ショックも少しは和らぐだろう。
「アンタ…千冬さん…だったか?」
「は…はい」
「今更こんな事を言えた義理じゃないかもしれないが…佳織の事をよろしく頼むよ」
「サ…サチ子さん…?」
「お…お婆ちゃん!?」
いきなりテーブルに手を突いて頭を下げただと…!
「これもさっき言ったが、佳織がアンタを付き添いに選んだってことは、それだけアンタの事を信用して、同時に信頼しているって証拠だ。今のアタシにゃ何にも出来ない…けど、大切な孫娘が選んだ相手になら託すことが出来る。だから…この子の事を守ってあげておくれ…! どれだけ勘が鋭くても、佳織はまだ十五歳の女の子なんだ…。大人が守ってやんないといけない…」
こ…これはもしや…家族公認というやつかっ!?
い…いや、こんな場面で浮かれるな私!
サチ子さんは真剣に私に佳織を託そうとしてくれているんだぞ!
「大丈夫です。佳織は私以外にも数多くの友人を学園で作っています。この子は決して一人ではありません」
「そうか…佳織も…頑張っているんだね…。それを聞いて安心したよ…本当に…本当に…」
今までずっと厳格な顔を崩さなかったサチ子さんが初めて泣いた。
心の底から嬉しそうに泣いた。
それを見て、佳織の目にも涙が溜まっていた。
「お婆ちゃん…私…頑張るから…。だから、いつかお婆ちゃんちに遊びに行ってもいい?」
「勿論だとも。その時は、友達も沢山連れておいで」
「うん…そうする…」
決して何かが解決したわけではない…が、それでも来た意味はあったな。
佳織は家で一人では無かったと知り、祖母であるサチ子さんと分かり合う事が出来た。
問題は、佳織の両親の行方だが…正直、調べようと思えば調べる事は出来る。
束は佳織の事を気に入っているから、頼めばすぐに調べてくれるだろうし、それは暗部である更識も同様。
今はまだ懸念する程ではないが、だからと言って無視も出来ない。
一応、頭の片隅に置いておくぐらいの事はしておいた方が良さそうだな…。
まだ佳織編は終わりません。
っていうか、夏休みは丸々全部を佳織編にしようと思っています。
なので、これまた原作とは大きく乖離するかもです。
最期のヒロインである簪とも会わせないといけないですしね。