私…生まれ変わったらモブキャラになりたいな(なれるとは言ってない) 作:とんこつラーメン
佳織の祖母であるサチ子さんとの話を終え、私達はIS学園へと帰ってきた。
余り、こんな事は言いたくは無いのだが…今の佳織は文字通り帰る場所を失ってしまった。
だから、今のあいつにはIS学園に帰ると言う選択肢以外が存在しない。
行く当てもない状態になってないのが、せめてもの救いか…。
移動の最中、佳織はずっと無言だった。
私もまた、何を言って良いのか分からずに無言を貫いてしまった。
本当は担任として、大人として何か励ますような事を言うべきだったのかもしれないが、悔しいことに良い言葉が何も思い付かなかった。
今までで一番、自分自身を情けないと思った。
学園に戻ってきて専用駐車場に車を停めると、佳織は俯きながら助手席から降りてきた。
「だ…大丈夫か…?」
「…はい。でも…今はちょっと一人になりたいです…」
「…そうか。何かあったら、いつでも呼んでくれ」
「…ありがとうございます。では、失礼します…」
結局、最後までずっと佳織は俯いたままで学生寮へと帰っていった。
私はただ、その背中を見つめる事しか出来なかった。
(情けない話だが…これは私だけが持っていていい情報ではないな。あいつ等とも共有をしておくべきだろう)
一人では無理でも、皆となら佳織を支える事が出来るかもしれない。
そう思い、私は鈴の携帯に電話をする事に。
候補生は長期休暇になると、母国に経過報告や機体のオーバーホールなども兼ねての一時帰国を命じられているのだが、流石に一学期が終わってすぐに日本を発っている…と言う訳ではないだろう。
色々と準備もあることだろうしな。
「もしもし。織斑千冬だ」
『お…織斑先生ッ!? なんでそっちから電話をッ!?』
「今は夏休み期間中だ。いつも通りで構わん」
『そ…そうですか。でも、珍しいですね…千冬さんから電話だなんて』
「…ちょっとな。実は、佳織の事について、お前達に話しておきたい事がある」
『佳織の事で?』
「そうだ。出来れば、いつものメンバー全員を食堂辺りに集めて欲しい。まだ学内にはいるか?」
『はい。私を含めて、候補生の皆は帰国の準備やらでまだ残ってますし、箒や本音たちもまだいます』
「そうか。では、出来るだけ全員を頼む」
『分かりました。ところで佳織は…?』
「ついさっき、学生寮の自分の部屋に戻って行った。暫くの間、一人にして欲しいと言っていた」
『あの佳織が、そんな事を…』
電話越しにも、鈴が驚いているのが分かる。
無理も無いか…。
今までずっと自分達を支えて来てくれた佳織が、それ程までに落ち込んでいるのだからな…。
「職員室に寄ってから、私もすぐに食堂に向かう。では、また後でな」
『はい。また後で』
これでよし…っと。
私も職員室に行くか…。
真耶にも、ちゃんと報告をしておかないといけないしな…。
・・・・・
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・・
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「えぇっ!? 一家離散ッ!?」
「しー! 声が大きい!」
「あ…すみません…」
職員室に戻り、自分の机に座りながら隣にいる真耶と話す。
彼女が淹れてくれた茶を飲みながら、仲森家に起きた出来事を報告した。
勿論、大き過ぎない声で。
「でも…まさか、私たちすらも知らない間に仲森さんのご両親が離婚していただなんて…そんな報告、全く聞いてないですよね…?」
「あぁ。私も今日、実際に佳織の家まで行って驚いたよ。離婚するだけに留まらず、娘の荷物を捨てようとしたり、家まで売り払っていた。まるで、自分達が家族であったという痕跡をも完全に消そうとしているようだった」
「余りにも酷すぎますよ…。仲森さんが一体何をしたって言うんですか…」
「全くだ…!」
サチ子さんの話では、佳織は碌に家事もしなくなっていった母親の代わりに家事もしていたらしく、中学辺りから家での食事はいつもサチ子さんとの二人か、サチ子さんが用事で外出をしている時は一人で食事をする事も少なくなかったらしい。
それでも佳織は決して両親の事を嫌いにはなれず、それどころか両親の身の安全を考えてIS学園入学を決めたほど。
そこまで実の娘に想われながら、どうして見捨てるような真似が出来るんだ。
私には微塵も理解が出来ない。
「それで…仲森さんは…?」
「寮に部屋に戻った。一人にして欲しいと言ってな…」
「そうですか…。本当は一人にしておくべきじゃないんでしょうけど…」
「だからと言って、今は下手に何かを言っても逆効果になる可能性もある。せめて、アイツの心が落ち着くまではそっとしておくべきだろう」
「歯痒いですね…。こんな時に何も出来ないのは…」
「そうだな…」
私は、佳織の祖母であるサチ子さんにアイツの事を託された。
だが、私一人で出来る事無で限られている。
だからこそ、私だけでなく皆でアイツの事を支えてやりたい。
「この後、いつもの連中にさっきの事を話して情報共有しようと思っている。山田先生も来るか?」
「そうですね。私も仲森さんの事は心配なので…一緒に行きます」
「なら、これを飲んだら行くか」
「はい」
はぁ…正直、かなり気が重いが…それでも話さない訳にはいかんだろう。
では…行くか。
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千冬さんに言われた通り、あたしは皆を食堂に集めた。
集まったのは一年生の候補生組と元候補生のラウラ、箒に本音に一夏。
あと、二年生だけど楯無さんも一緒にいる。
『いつものメンバー』なら、ここまでなんだけど…今日はちょっと違った。
「かおりん…どうしちゃったのかなー…」
「心配ね…本当に…」
本音と一緒にいるのは、あの子のお姉さんで三年生の布仏虚さんと言うらしく、生徒会のメンバーでもあるとの事。
どうやら、佳織とはトールギスを調べた時に知り合ったらしい。
それはいい。まだまぁ納得は出来る。
あたしが驚いたのは、もう一人の方だった。
「ちっふーはまだ来ないのか? あいつがオレ達を呼び出したんだろ?」
臨海学校の時に起きた『福音暴走事件』の際に助っ人として来てくれた、三年生でアメリカの代表候補生のダリル・ケイシー先輩。
確かに、この人も佳織の知り合いではあるけど…まさか来るとは思わなかった。
実際には、校舎内で話しているのを見られて、そのまま一緒に来たって感じなんだけど。
「千冬姉からの話か…。HRの後に呼び出されたことと何か関係してんのか?」
「そう言えば、確かに呼ばれていたな。確か、荷物がどうのと聞こえたが…」
「それだけでは、佳織さんの身に何が起きたのか全く分かりませんわね…」
「けど、あの佳織が落ち込むなんて相当だよ…」
「今は兎に角、教官が来るのを待つ事にしよう。佳織と一緒に出掛けたと言うのであれば、現状で最も詳しい事情を知っていることになるからな」
一組でそんな事があったのね。
普段から品行方正を地で行く佳織だから、お説教とかで呼び出される事はまずない。
となると、必然的に何か大事な用事があったって事になる。
「…今にして思えば、私達って佳織ちゃんのプライベートなことって何も知らないわよね…」
楯無さんの言う通りだ。
佳織に色々と相談してしまっているから、向こうはこっちの事情をある程度は把握しているけど、あたし達は佳織の事を殆ど何も知らない。
一応、アタシと一夏は佳織の中学生時代の交友関係は知ってるけど…逆を言うとそれしか知らないのよね…。
「仲森さんって秘密主義だったりするのか…?」
「秘密と言うよりは、単純に『聞かれなかったから何も言ってない』ってだけなんじゃないの?」
「そっか…。まぁ…普通に考えて、幾ら友人と言ってもプライベートの事なんて、そう簡単には話せないけどな…」
それもそっか。
寧ろ、あたし達の方が色々と話し過ぎてるのかもしれないわね。
そうして皆で話している間に、食堂に千冬さんが入ってきた。
「ちゃんと全員集まっているな。…ん?」
あ。山田先生も一緒だ。
そりゃそっか。一組の副担任だもんね。
教え子である佳織が心配なのも当然か。
「…どうして布仏姉とケイシーの二人がいる?」
「仲森さんの事が心配だったのと、お嬢様一人で行かせるのが心配だったので」
「心配のベクトルが違う!」
別の意味で心配される生徒会長って…。
「オレも虚と一緒だよ。経緯はどうあれ、オレと佳織は一緒に戦った戦友であり、可愛い後輩でもあるんだぜ? 心配ぐらいして当然だっつーの」
「ふっ…そうか」
この物言い…やっぱり、ケイシー先輩も佳織の事を狙ってる…?
有り得る…あの時の佳織…妙にときめいてたし…。
もしかして、佳織って姉御肌的な人が好みだったりするのかしら?
千冬さんも似たような感じだし。
「鈴には既に軽く話してあるが、お前達に佳織の事で大事な話がある」
一気に場に緊張が走る。
一体、あの佳織に何が起きたのか。
さっきからずっと気になっていたから。
私たち全員の顔を見渡せるように、千冬さんと山田先生が真ん中に座った。
「まず、今から話す事は他言無用で頼む。別に重要機密とかではないが、佳織のプライベートに関わることだからな…」
「分かりました」
楯無さんが代表して返事をして、あたし達全員が無言で頷く。
「それと、一部の者達にとっては余り良くない記憶を呼び起こしてしまうかもしれないが…その覚悟はあるか?」
「大丈夫です」
「ボク達は皆、佳織に救われてきました。だから…」
「今度は私達が佳織さんを支える番ですわ」
「…そうか。それを聞いて安心した。矢張り、お前達に話そうと思ったのは間違いじゃなかったようだ」
「そうですね。この子達なら心配ありませんよ」
どうやら、山田先生は事前に話を聞いてるみたいね。
ここに来る前に職員室に寄って来てるんだから当然か。
「では…話すとしよう。心して聞いてくれ。正直、実際に見てきた私もショックを隠し切れなかったほどだ」
あの千冬さんが、ここまで言うだなんて…。
本当に…佳織の身に何が起きたって言うのよ…。
そうして…千冬さんの口から語られた事実に、あたし達もまた大きなショックを受け…同時に、アタシの脳裏には忘れたいと思っていた『過去の記憶』が蘇ってきた。
どうして千冬さんが注意を促してきたのか、その意味が理解出来た。
ここから、夏休みの佳織がどんな風に過ごすかが決まって行きます。
そうなれば当然、オリジナル展開になる訳で。