私…生まれ変わったらモブキャラになりたいな(なれるとは言ってない)   作:とんこつラーメン

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今日、お髭が立派な山羊さんに出会いました。

何とも言えない愛らしさがありましたね。

あの子達って、思った以上に気配に敏感な事が分かりました。








端っここそが私の居場所

「はぁ…思ったよりも面白くて、ついつい読み耽ってしまった…」

 

 溜息を吐きながら、私は図書室から出た。

 外はすっかり暗くなっていて、月も星もバッチリ見えている。

 

「こんな事になるのなら、素直に借りて部屋で読もうとすればよかったな…」

 

 今回もまた後で後悔をしたパターン。

 結局、全部読んでから普通に借りてきちゃったし。

 

「うぅ…夜風がまだ地味に怪我に染みる…」

 

 私の額にはまだあの時の怪我を隠す為のガーゼが張られている。

 出血自体はとっくの昔に止まってはいるけど、怪我自体は中々に治らない。

 まぁ…治癒が遅いのは私にも原因があるんだけどね。

 ほらさ、誰にだって一度は経験はあるでしょ?

 頭じゃ『駄目だ駄目だ』って分かってはいるけど、気が付いた時には自然と治りかけているカサブタに手を伸ばしてペリペリ~って剥がしちゃうこと。

 治りが遅いのはそれが原因。

 それでもちゃんと完治には近づきつつはあるんだけどね。

 

「早く部屋に戻って暖かいココアでも飲みながら、この『シスコン番長の事件簿 ~お嬢様生徒会長の湯煙処刑場~』をまた読もう」

 

 同級生の親友と部活の先輩達と一緒に間違って女湯に入って、大量の桶を投げられるところが一番面白いんだよね。

 しかも、その内の一人は哀れにも氷漬けにされちゃうし。

 

(そういや、この額の怪我で思い出したけど、あの後で織斑先生や山田先生からもめっちゃ謝られたっけ…)

 

 『自分達の危機管理が甘かった』とか『弟の責任は私の責任でもある』とか。

 こっちとしては、あんまし大袈裟にされるのは面倒くさくて嫌なので、一言謝ってくれればそれだけでよかった。

 というか、そこで終わりにさせないと最終的には理事長とか出てきてとんでもない事に発展しそうな気がしたから、強制的にそこで終わらせた。

 私にしては珍しく力技だったと思う。

 

「ほんと…どうでもいいんだけどね」

 

 寧ろ『お前が避けないのが悪い』ぐらい言ってくれた方が気楽でいいんだよね。

 自分一人が悪役になって済む話なら、私はそれで一向に構わないし。

 

「ん…?」

 

 考え事をしながら渡り廊下を歩いていると、ふいに一階にある『総合事務受付』の灯りが付いている事に気が付いた。

 別にそれ自体はどうでもいい事なんだけど、気になったのはそこに小さな人影が見えた事だ。

 

(あぁ…そっか。この時期は……)

 

 また学園が五月蠅くなるな……。

 私に近づきさえしなければ、好きなだけ暴力と鈍感に溢れた青春を満喫してくれていいよ。

 

「かおり~ん!」

「あ」

 

 歩くのを再開しようとした時、渡り廊下の向こうから非常に聞き覚えのある声が。

 暗くて見えにくいが、それでも割と特徴的な間延びした声なのですぐに正体が分かった。

 

「どうしたの、布仏さん」

「かおりんが遅いから迎えに来たんだよ~」

「迎えに来た?」

 

 迎えにって…何? ちょっと話が見えない。

 

「今から、おりむーの『クラス代表就任パーティー』があるんだよ~」

「……なにそれ?」

 

 クラス代表ってアレでしょ?

 普通の学校で言うところの学級委員長でしょ?

 なんで、そんなのに就任しただけでパーティーなんてするの?

 今時の女子高生の考えている事は全く理解に苦しむよ…。

 いや…私は例外ですから。体はともかく、中身は女子高生って歳じゃないし。

 

「もうとっくに始まってるから、早くいこ~よ~」

「いや…私は今から、部屋に戻ってこの本を…」

 

 というか、この前はあんなにも織斑君の事を目の敵にしてなかったっけ?

 もう仲直りしたの? 前から思ってたけど、布仏さんってコミュ力の化身なの?

 

「ほ~ら! こっちだよ~!」

「あ~れ~」

 

 貧弱、脆弱、惰弱を三体融合させたような私が布仏さんに力で勝てる訳も無く、呆気なく腕を引っ張られながらパーティー会場へと連行されていくことに。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「織斑君、クラス代表決定おめでと~!」

「「「「おめでと~!」」」」

 

 一体何がどうめでたいのか詳しく聞かせてほしい。いや、やっぱいいです。

 

 テーブルの上に大量の料理が並べられ、その前にあるソファの中央には織斑君、その両隣には篠ノ之さんとオルコットさんが座っていた。

 いいですね~。両手に花ですね~。

 私なら絶対にゴメンな光景だけど。

 

 因みに、今いる場所は一年生寮の食堂で、私はその隅で床に座ってホットココアをチビチビと飲みながら、さっき借りた本を再読している。

 んで、なんでか私の隣にはニコニコ笑顔の布仏さんも一緒。

 

「皆の所に行かなくてもいいの?」

「私はかおりんの傍がいいんだ~」

「ふーん…」

 

 ずっと思ってたけど、布仏さんて随分と物好きよね。

 私みたいな根暗な女と一緒が良いだなんて。

 

 現在、私が心を許しているのは家族を除けば、中学時代に友達だった四人だけ。

 だけど最近になって、そこに布仏さんと織斑先生が加わろうとしている。

 まだ決定じゃないけど、もしかしたらって感じ。

 

「おりむー、なんか大変そうだね~」

「挙動不審な男子…傍から見てると怪しさ全開ね…」

 

 あれだけ周りに大勢の人間がいれば無理も無いけど。

 今だけは彼に対して同情する。

 

「こんな所にいたのか」

「「あ」」

 

 ここでまさかの織斑先生登場。

 大事な弟さんを祝いに来たのかしら?

 

「…まだ治っていないんだな」

「焦っても仕方ないですから」

 

 ちょっと怪我の事を引きずり過ぎでは?

 とっとと忘れた方がお互いの為ですよ。

 

「お前達は向こうに行かないのか?」

「私はかおりんと一緒がいいで~す」

「…賑やかな場所は苦手なんです」

「…そうか」

 

 だから来たくなかったのよ。

 こんな風なのは別に今に始まった事じゃない。

 昔から…正確には前世からずっと苦手だった。

 友達少数でワイワイと楽しむのは好きだけど、その人数が二ケタに突入するともうダメだ。

 なんというか…普通に鬱になる。

 何にも喋りたくなくなって、頭の中で妄想を初めて自分の世界に浸るようになる。

 最終的には、隙を見てその場から出ていく。

 それがいつもの佳織ちゃんのルーティーンです。

 けど、今回はそれは不可能っぽいね。布仏さんと織斑先生がいるし。

 

「…織斑に聞いたが、アイツとも話をしたらしいな」

「少しだけ。なんか急に廊下のど真ん中で土下座して謝ってきましたけど」

「あのバカが……」

 

 弟さんの奇行に頭を悩ませている御様子。

 これだけは普通に理解出来る。

 

「…何か愚痴りたい事があれば、私で良ければ聞きますよ?」

「なに?」

「なんだかストレスが溜まってるみたいだし。先生だって人間なんですから、時には誰かに愚痴を聞いてほしいって思う時もあると思って」

「仲森……」

「それに、先生には色々とお世話になってますから。こんなことぐらいしか出来ませんけど……」

 

 私だってね、恩返しをしようって言う精神ぐらいは流石にある。

 例え、毎年母の日に送っているカーネーションが次の日にはごみ箱に捨ててあっても、ちゃんと来年も送るぐらいには。

 

「その気持ちだけでも十分だ。ありがとう」

「礼を言うのはこっちなんだけど…」

 

 あ。なんか上級生っぽい人がやって来て、織斑君達に対してインタビューしてる。

 もしかして、新聞部の人とかだったりするのかな?

 

「あいつは…黛か」

「知ってる人なんですか?」

「あぁ。黛薫子。二年の整備班であり、新聞部の副部長も務めている」

「ほぇ~…」

「そして、お前のソレの調査も手伝ってくれた生徒の一人でもある」

「わぉ……」

 

 あの日から念の為に肌身離さず持っているトールギスの待機形態を見ながら、織斑先生が説明をしてくれた。

 まさか、他にもお礼を言わなければいけない相手がいたとは。

 

「あ。なんかこっちに気が付いた」

「来るみたいだね~」

「嫌な予感がする…」

 

 そして、その予感は見事に的中することになる。

 黛先輩がウキウキ顔でこっちまで来てから視線を合わせる為に座り込んだ。

 

「あなたが話に聞いてた仲森佳織ちゃん?」

「はぁ…まぁ…はい」

「ふ~ん…思っている以上に大人しそうな女の子なのね」

「どうも…」

 

 そこで『根暗』って言わないのが優しさなのか。それともワザとなのか。

 

「おい黛」

「げ…織斑先生」

「なんだ、その顔は。一応言っておくが、仲森に変な事を聞こうとするなよ? 勿論、捏造なんて以ての外だ」

「はぁ~い…」

 

 織斑先生の一言で急に大人しくなった黛先輩。

 この反応…もし先生がいなかったら、こっちのプライベートに踏み込もうとしてたって事?

 

(先輩がこっちに来たせいで、皆の視線が私達に向けられてるし…)

 

 くそ…思わぬ伏兵の登場によって一気に居心地が悪くなった…。

 一刻も早く、この場から立ち去ってベッドの上で寝たい。

 

「隣にいるのは虚先輩の妹さんの本音ちゃんよね? もしかして仲いいの?」

「お姉ちゃんを知ってるの~?」

「知ってるも何も、虚先輩は整備班のリーダー的存在だもの」

 

 本音ちゃんってお姉さんがいたんだ…。

 しかも、整備班の人達のリーダー的存在って…リーダーバッチとか持ってるのかしら?

 

「どうして、こんな端っこにいるの?」

「賑やかな場所は苦手なもので」

「じゃあ、どうしてパーティーに来たの?」

「布仏さんに連行されました」

「かおりんを連行しました~」

「そのおでこはどうしたの?」

「色々とありまして」

「ありまして~」

「…成る程ね」

 

 なんか急に布仏さんが腕に抱き着いてきたんですけど。

 お願いだからどいてくれる? 普通に倒れそうなのよね。

 

「この後、集合写真でも撮ろうかと思ってるんだけど…」

「魂が吸い取られるのでパスで」

「そんな理由で写真を拒否されたの初めてだわ…」

 

 流石に真っ赤な嘘だけど、普通に写真を撮られるのは好きじゃない。

 だから、私が映っている写真なんて本当に数えるぐらいしかない。

 家族写真に至っては一枚も無いような気がする。

 私はそれでもいいんだけどね。

 前世の時に比べれば、今の家庭環境は天国みたいなもんだし。

 

「私には遠慮せず、学園唯一の男子の写真でも撮ってきて下さいな」

「最初から織斑君の写真は撮るつもりだったけど、出来れば佳織ちゃんの写真も欲しかったな~」

「私の写真なんか撮ったりしたら呪われて不幸な目に遭いますよ」

「そこまで言う? はぁ…分かったよ。そこまで頑なに嫌がってるのに無理強いする訳にはいかないもんね」

 

 やっと黛先輩は諦めてくれたのか、皆がいる場所へと戻って行った。

 ようやく私に安息が戻ってきた…。

 

「見事に撃退したな」

「それほどでも」

 

 話している間にホットココアが冷えてアイスココアになっちゃった。

 仕方がないので一気に飲み干してから、皆の視線が再びこっちに向かないように、そろそろ食堂から退散する事に。

 

「もう戻るのか?」

「はい。なんかお開きになりそうな雰囲気ですし。なんか本気で眠たくなりました」

「かおりんが帰るなら、私も帰ろ~っと」

 

 ゆっくりと立ち上がってからお尻の部分をパンパンと払い、織斑先生に一礼だけしてから、このリア充の溜り場からオサラバした。

 はぁ…やっと休める…。

 布仏さんや織斑先生と話せたのだけは…少しだけ良かったかもだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

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