私…生まれ変わったらモブキャラになりたいな(なれるとは言ってない) 作:とんこつラーメン
千冬さんと別れた後、私は寮にある自分の部屋へと直行した。
今日だけは、自分が一人部屋で本当に良かったと思う。
だって…今は誰かにこの顔を見られたくはないから。
「はぁ~…」
物凄く大きな溜息を吐きながら、私は服も着替えずにベッドにダイブした。
色んな意味で疲れたからか、まだ明るいのに瞼が重くなる。
「ったく…意味分んないっつーの…。なんだよ…一家離散って…」
私の全く知らない所で勝手に離婚を決めて、私がいない間に家を売り払って両親揃って蒸発して…。
そんなに私の事が邪魔だったのなら…鬱陶しかったんなら…一言ぐらいそれらしい事を言ってくれたらよかったのに…。
そしたら、こっちだってそれなりに付き合い方を考えたりしたのにさ…。
お父さんもお母さんも本当に何も言ってくれなかった。
「はぁー…」
二回目の溜息。
溜息を吐くと幸せが逃げるってよく言うけど、今の私の場合はどれだけ溜息を吐いても問題無いでしょ。
だって、明らかに幸せとは程遠い状況にあるんだからさ。
(佳織…大丈夫か?)
(ん…なんとかね。ありがと…ゼクス)
あぁ…ゼクスにも心配をかけてしまった。
それだけ今の私の状態がヤバいってことなのかもね…。
お婆ちゃんと和解できたのだけは本当に嬉しかったけど…それだけだ。
実質的に私は両親から捨てられたに等しい。
これからマジでどうしよう…。
IS学園を卒業したら、その瞬間からホームレス確定だし…。
卒業までに社員寮がある企業とかに就職できたらいいのかな…。
だけど…落語家になる夢は捨てたくないし…。
あぁ~! 考える事が多すぎて頭が上手く纏まらない~!
モヤモヤでグチャグチャになるぅ~!
「なんだろ…先の事を考えれば考えるほどに鬱になっていく…」
取り敢えず、今は頭を真っ白にしてボーっとしたい気分。
現実逃避と言えばそうなんだけど、今日ぐらいは別にいいでしょ。
あんな事があった直後なんだしさ。
つーか、何が悲しくて高校最初の夏休みの初日から、こんなヘビーな気持ちにならないといけないのさ…。
一体私が何をした…?
(…姫。いや…佳織)
ん? 今度はトレーズ閣下ですか。
(私は…私達は、君がどんな選択をしても、その意思を尊重しよう。忘れないでくれ。これから何があろうとも、我々は君の味方だ)
か…か…閣下~(泣)。
その優しさが本当に身に染みる…。
「…なんつーかね…今も割とマジでめちゃくちゃしんどくて…もし本当にボッチだったら絶対に心がへし折れて泣いてたと思うんだけどさ…」
ゴロンと転がってから天井を見上げる。
見慣れた天上。真っ白な天上。
「なんでだろうね…不思議と『ここで止まるのだけは嫌だ』って思ってる自分がいるんだよね」
(…そうか)
「自分でも訳が分からないんだけどさ…あれだけの仕打ちを受けても心の底から親の事を嫌いにはなれないんだよ。もし仮に今会ってもさ…お父さんとお母さんにそれぞれ全力でビンタをして、それで全部許してしまいそうなんだよね…。私ってば、おかしいよね…」
私は転生者で、今の両親は私にとっては二組目の両親なわけで。
普通の感性なら、そこまで思い入れとか湧かないと思う訳でして。
何も言わずに見捨てられたら尚更。
それなのに…私の中にある両親に対する負の感情はそんなに大きくない。
ちょっとしたことが切っ掛けですぐに浄化されてしまいそうな…そんな感じ。
「今は…本当に心が苦しいし、これからの事を考えると気が重くなるけど…それでも私は『ここで歩みを止める』って選択肢だけは頭に無い。どんなに辛くても、どんなにキツくても…私は進み続けたい。無様に、惨めに、哀れなほどに足掻いて、手足をジタバタさせていてもさ…ほんの少しづつ前には進める。1センチでもいい。1ミリでもいい。脚さえ止めなければ…動き続ければ、きっとなんとかなる…なんて、柄にもなく楽観的になってます。どうしてだろうね…。いつから私は、こんなにも往生際が悪くなったのかしら…」
IS学園で色んな出来事を経験して、色んな人達と出会って…メンタルが強化されたのかな?
もしそうだとしたら、皆に感謝だね。
(…矢張り、君は強いな)
そーかしら?
(常人ならば、実の両親から捨てられれば心が折れてしまっても決して不思議じゃない。歩みを止め、その場で蹲ってもおかしくないというのに…君は、その足を止めようとはしなかった)
IS関連じゃ二人に頼りっぱなしだからね。
私に出来る事と言えば、何があっても絶対に諦めないことぐらいでしょ。
(姫の、その強靭な精神力ならば…使いこなせるやもしれんな。幾多の戦士たちの心を蝕み、その脳裏に悪夢を見せた禁忌の力『ゼロシステム』を)
いやいやいや…流石にそれは言い過ぎだから。
私なんかがウィングゼロに乗ったりしたら、即座にゼロシステムに飲み込まれちゃうって。
「まぁ…今じゃすっかりトールギスに愛着も湧いちゃってるし…ゼロに乗る機会は無いだろうなぁ…」
…ヤベ。
たった今、自分の口から超特大のウィングゼロ搭乗フラグを立ててしまった。
お願いだから、このフラグが折れてくれますように…。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
千冬姉の口から、仲森さんの身に起きた事を聞かされた瞬間…俺の頭が一瞬で沸騰しそうになった。
「な…なんだ…それは…!」
「佳織さんがIS学園にいる間に…」
「自分達で勝手に離婚することを決めた挙句…」
「家まで売り払って姿を消したって…」
「なんと言う事だ…! それでは余りにも佳織が…!」
「酷過ぎるよ…。かおりんは何もしてないのに…」
「幾ら実の親だからって…やっていい事と悪いことがあるでしょうに…!」
「佳織さんの心境を考えると…心が痛いですね…」
「こいつはちーっとばっかしよー…笑えねぇ冗談だな…!」
怒っているのは俺だけじゃなかった。
今まで仲森さんと関わってきた皆が同じように、彼女の事を想って怒りに震えていた。
「佳織は…今はどうしているのですか?」
「学園に戻って来てからすぐに自分の部屋に行った。今は一人にして欲しいとの事だ」
当然だろうな…。
親から見捨てられて、帰る家まで失って…今の仲森さんには時間が必要なんだと思う。
きっと、今の仲森さんの気持ちは、ここにいる大半のメンバーが理解出来ていると思う。
セシリアは幼い頃に両親を亡くしているらしいし、鈴だって同じように親が離婚して中国に帰る羽目になった。
シャルロットも、少し前まで両親と確執があった。
ラウラに至っては生まれた時から両親の顔を知らないらしい。
俺と千冬姉も…親の顔を知らないで今まで生きて来ている。
だからだろうか…仲森さんの今の気持ちは痛いほどに共感できた。
「唯一の救いは、お婆さんが佳織ちゃんの味方で、ちゃんと仲直りが出来た事ね」
「…だな。それすらも無かったら…余りにも救いがねぇよ…」
更識先輩の言う通り、お婆さんが仲森さんの事を大切に思ってくれている事だけが本当に救いだ。
あの強気なダリル先輩ですら、仲森さんの事を想って悲痛な顔になっている。
「あの…」
「どうした、布仏」
「これから、かおりんはどうなっちゃうんですか…? 家に帰れなくなったら、これからは…」
そうだ。布仏さんの言う通りだ。
IS学園にいる間はまだ学生寮に住んでいればいいけど、卒業したらそうはいかない。
それまでに、ちゃんとした場所が見つかればいいんだが…。
「そのこと…なんだがな。実は私の方で少し考えている事がある」
千冬姉の考えている事?
一体なんだ?
「夏休みの間だけだが…佳織をウチに住まわせたいと思っている」
…………へ?
「佳織と一緒におお婆さんと会った時に言われたんだ。『佳織を頼む』…とな。言われた以上、何もしない訳にはいかない。それに…」
それに?
「今は少しでも佳織の心を癒してやりたい。学生寮にいるのも良いが、アイツは一人部屋だ。最初は良いかもしれんが、一人でいたら段々と気が滅入ってネガティブな考えになっていくかもしれない。それならば、無理矢理にでも寮から連れ出してやった方が佳織の為になると思った」
そっか…そうだよな。
普段とは違う環境に身を置く事で良い気晴らしになるかもしれないし。
「「「「「「…………」」」」」」
千冬姉の提案を聞いた瞬間、箒とセシリアと鈴とシャルロットと布仏さんと更識先輩の顔が凄いことになった。
具体的には言えないが…とにかく凄いことになってる。
「心配するな。別に佳織をどうこうするつもりは無い。お前達も時間がある時にでも好きに遊びに来ても構わん。その方が佳織も喜ぶだろうしな」
「「「「「「是非とも遊びに行かせて貰います!」」」」」」
あっという間に機嫌が直ったな。
「そう言う事だ。すまんな一夏。勝手に決めてしまって」
「別に気にしないでくれよ。俺も千冬姉の意見には賛成だし、何も文句は無いよ」
「そうか…助かる」
唯一の問題があるとすれば…俺が仲森さんとの同居生活に耐えられるかって事だな…。
正直、千冬姉の提案を聞いた時からずっと心臓がドキドキしてます。
同年代の女の子と一緒に暮らすとか…普通じゃ考えられないしな!
寮じゃ少しの間だけ箒と一緒だったけど、箒の場合は昔馴染みって事もあって、そこまで気持ち的な意味で苦労はしなかった。
でも、仲森さんとは学園で初めて会った間柄。
緊張するなって言う方が無理があるだろ…!
「佳織には、後で私の口から伝えようと思っている。お前達はまだこっちにいるのか?」
「そうですわね…。予め荷物の準備などは済ませてありますけど…」
「飛行機の関係上、まだ少しは学園にいる事になると思います」
「だね。今すぐに…ってことはないです」
「私の場合は、ドイツに帰る必要が無いから、ずっといるがな」
そうだった。
ラウラは仲森さんの活躍で、国外追放と言う名目での日本滞在状態になってるんだった。
「なんなら、後で佳織の様子を見に行ってやってくれないか? 私はまだ仕事が少し残っているから行けないからな。お前達と話す事で、佳織も少しは気がまぎれるかもしれん」
「そう…ね。織斑先生の言う通り、後で皆で佳織ちゃんに会いに行ってみましょうか? 勿論、全員一度にじゃなくて、一人ずつね」
俺も皆の後にでも行ってみるかな…。
はぁ…こんなの、夏休み早々にする話じゃないぞ…。
なんとなく、今年の夏休みは波乱の予感がするなぁ…。