私…生まれ変わったらモブキャラになりたいな(なれるとは言ってない) 作:とんこつラーメン
「…よし」
体のバネを使ってベットから起き上がり、思い切り背中を伸ばした。
時間も忘れて寝転んでいたから、少し体が硬くなってる。
「んん~……はぁ…」
僅かだけど頭がすっきりした。
まだ気持ち的には怠いけど、だからと言ってジッとしているのもなんか嫌だった。
(いきなりどうした?)
「ん…いやね。このまま部屋に籠ってたら、段々とネガティブな事ばかりを考えそうだったから。ちょっと気分転換に外の空気でも吸ってこようかと思って」
大変な経験をしてきたのは私だけじゃない。
世の中には私以上に不幸な人間だってたくさんいる。
どれだけキツくても、自分だけが不幸だと思い込んで落ち込むのは間違ってる…きがする。
さっきも言ったけど、少しずつでもいいから足掻いて前に進んで行こう。
まずは、自分自身の気持ちに整理を付けないと。
(…そうか。やはり、君は強いな)
「それ言われたの二回目だけど、全く自覚が無いや」
(フッ…君はそれでいいさ)
「さよですか」
ゼクスに褒められた…のかな?
よく分からないや。
「ついでだし、喉も渇いたから何か飲んできますか」
(食堂に行くのかね?)
「んー…そこまで行く必要はないと思う。喉の渇きを癒すぐらいなら、自販機まで行けばいいし」
IS学園内には何ヵ所も自販機が置いてある場所があるが、どれも同じのを売ってる訳じゃない。
場所によって違うのを売ってて、種類によっては特定の場所でしか買えないようなのもある。
自販機の種類もまた多種多様で、良く見る缶やペットボトルのを売ってるのもあれば、デパートとかにある紙コップ系もあるかと思ったら、時折見かけるアイスの自販機にお菓子が売られてる自販機もあり、教職員専用の寮内には、なんと特別に煙草やビールの自販機なども設置してあるらしい。
最近はめっきり数を減らしてるけど、まだあったんだなー…。
(…学園側に要望とかしたら、前に一度だけ見たカップヌードルの自販機や、よく動画で見るうどんやそばの自販機も設置してくれるのかな…?)
カップヌードルはともかく、うどんとそばに関しては純粋に興味がある。
噂じゃ凄く美味しいらしいけど…。
「変な事を考えてたらお腹が空いてきたし」
そういや私…まだお昼ご飯とか全く食べてないじゃん。
そりゃ、お腹も空く筈ですわ。
言ってなかったけど、一学期最後って事で今日は午前だけになってた。
でも、私はHRが終了したと同時に千冬さんに呼び出されたから、結果としてお昼を食べそこなってるんだよね。
色々とショッキングな事があり過ぎて完全に忘れてた。
「やっぱり、食堂に行こうかな…」
腹が減っては戦は出来ぬ。
お腹が空くから落ち込む。
よく言うよね…多分。
もしかしたら食堂に皆もいるかもだけど…気にする事は無いか。
いつも通りにしてれば問題無いでしょ。うん。
さーて…いつもよりもお腹空いちゃったし、夏休みも始まったばかりだし、偶には自分自身に奮発とかしちゃおうかなー。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「あれ?」
食堂に到着すると、意外や意外。
皆の姿はどこにも無かった。
どこかですれ違ったのか、もしくは単純に食堂には来なかったのか。
「って言うか、割と人影もまばらだね」
夏休み開始とは言え、流石に今日から遊び回るような事はしないと思っていたけど、意外とそうでもないのかもしれない。
実際、今の食堂にいるのはいずれも海外出身の子達ばかり。
飛行機の問題とかで今すぐに帰れるってわけじゃないからなのか。
(ん? そうなると、オルコットさんや凰さん、デュノアさんやケイシー先輩達もまだ学園にいるのかな?)
イギリスに中国、フランスにアメリカだもんね。
ボーデヴィッヒさんは国外追放という名の保護状態だから日本にいるだろうけど。
でもそうなると…更識先輩はどうなるんだろう?
あの人自身は実家が家にあるけど、自由国籍でロシア代表になってるし。
「…また余計な事を考えてしまった」
どうも思考が別方向にシフトしやすくなってるな…。
気持ちが不安定になってるのかもしれない。
こんな時こそ、年頃の女の子らしく食事で嫌な事を忘れるのだ。
「さてはて…何を食べようかニャー」
奮発するとか言っておきながら、自然と視線はいつもの定食系か麺類、丼物に行ってしまう。
うぅ…庶民感覚が全く抜けきらない自分が悲しい…。
トールギスのお蔭で個人資産は沢山あっても、肝心の私がザ・庶民だからお金を持て余してるんだよねー…。
一応、好きなゲームや落語のブルーレイを買ったり、ソシャゲに課金とかして自分なりに散財はしてるつもりなんだけど…まーったくお金が減らない。
我ながら、なんて贅沢な悩みなんだろうか…。
少し前までは、こんな事で困ったりするだなんて夢にも思わなかったのに。
「はぁ…まただ」
マジで精神不安定状態になってますな。
これは本当に危ないかも。
「…チキン南蛮定食にしよう」
迷った時は肉に限る。
お肉最強。異論は認める。
「お? お主…こんな時間に昼飯か?」
「ドクターJのおじいちゃん…?」
後ろからいきなり話しかけられて振り向くと、そこにはまさかのドクターJがいた。
そういや、この人達って今は立派なIS学園の一員なんだっけ。
「まぁ…そんな感じです。ちょっと色々とあって…」
「ふむ…色々…か」
サングラス越しで目は見えないけど、それでもなんか見通されそう。
私の何倍もの人生を生きてる訳だし。
「おじいちゃんは、お一人でお食事ですか?」
「ん? そんな所じゃな。あ奴等とは腐れ縁ではあるが、だからと言っていつも一緒というわけではない」
そりゃそうだ。
でも、私の中ではいつも一緒にいるイメージの方が強い。
「ここで会ったのも何かの縁じゃ。ワシもご一緒してもいいかな?」
「私でよかったら、いいですよ」
一人で食べるのも味気ないしね。
だからと言って、今から誰かに電話をして呼び出すなんて論外だし。
こっちとしても丁度良かった。
・・・・・
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・・・
・・
・
「…で? 一体何があったんじゃ?」
「へ?」
食事を受け取って席に着き、私の隣で熱々のお茶を飲みながらみたらし団子を食べているドクターJから、いきなりブッ込まれた。
「自覚が無かったか。今のお前さんは、明らかに空元気なのが分かった。顔は笑っていても、目が笑っていなかった。心なしか疲れているように見えるしな。今日から夏休みが始まると言うにも拘らず、そんな状態なのを見れば嫌でも何かあったのではないかと思うのが普通じゃ」
「あはは…凄いなー…」
これが『年の功』ってやつなのか…。
ここまで見事に見透かされると逆に清々しいや。
「…つまんない話ではあるんですけどね…」
気が付けば、私は食事をしながらポツポツと話をしていた。
謎の相手から急に、実家に置いてきたはずの残りの荷物が全て送られてきた事を。
それが気になって千冬さんに付き添って貰う形で実家に帰ると、家は売り払われていた挙句、私の知らない所で両親が勝手に離婚をして姿を消していた事。
それを教えてくれたのが私のお婆ちゃんで、荷物を送って来たのもお婆ちゃんであったこと。
そのお婆ちゃんと話してお互いの誤解が解け仲直りできたこと。
自分なりに言葉を選びながら話し続け、終わった時には私も食事を終えていた。
「…そうか」
全てを聞いてドクターJが言ったのはそれだけだった。
下手な慰めよりも、今はそんな言葉の方が嬉しい。
「トールギスに選ばれたことと言い、お前さんの人生は実に波乱万丈に満ちておるな」
「私なんて全然だと思いますけどね…」
ぶっちゃけ、私よりもオルコットさんや凰さん、デュノアさんやボーデヴィッヒさんの方が遥かに人生波乱万丈だと思う。
下手に原作を知っているから、そう思ってしまう。
「…それなりに長く生きておるとな、色んな人間と出会うもんじゃ。その中には今のお前さんのような目に遭った者もいたりする」
「でしょうね…」
世界は広いからね。
私のような目に遭った人だって探せば沢山いるでしょ。
「じゃが、そいつらの殆どが全てを忘れようと躍起になったり、心が折れて引き篭もってしまったりと様々な事に陥っておる」
「それが普通の反応だって思いますよ」
「かもしれん。じゃが…お主は全く違うな」
「ふぇ?」
違うとは?
あー…食後のお茶が美味しー。
「お主は心が折れそうな目に遭っても、自分を見失う事など無く前だけを見続け、その道がどれだけ困難であると理解していながらも歩くことを決して止めようとはしない。…本当に立派なもんじゃ。いや、常人離れしていると言っても良い」
「んー…そう言われてもなー…」
私はどこにでもいる一般人ですよ?
今じゃもう、その言葉も殆ど意味を成さなくなってきてるけど。
「私的に言わせて貰えば、困難でも茨があっても、目の前に『道』があるだけずっとマシだと思いますよ? だって、世の中には、その『道』すらない人だって沢山いるんだし。それがどんなところで、どこに繋がっているかは分からないけど、それでも『道』があるのなら、私はそこを突き進むべきだって思います」
「その考えに至れること自体が、既に常人を超えている証じゃよ」
「えー…?」
こんなの、割と普通に誰もが考える事でしょー…?
そこに『道』があるから歩く。
当然の事じゃない。
「ま…何かあればいつでも遠慮なくワシらの所に来るといい。メカ以外のことでは話し相手になることぐらいしか出来んがな」
「それでも十分過ぎますよ。誰かに話を聞いて貰うってだけで不思議と気が楽になりますから」
「そうかそうか」
なんだろうね…うん。
気が付けば、さっきまであった暗い気分が無くなってる。
まさか、ドクターJのお爺ちゃんにメンタルケアをして貰うとは…。
「それじゃあ、私はそろそろ失礼します。話を聞いてくれて、ありがとうございました」
「なに。これぐらいなら、お安い御用じゃよ。ではな」
部屋に戻ってから、これからの事を真剣に考えよう。
お父さんとお母さんの事は一旦忘れてしまおう。
それがいい。きっと、それがいい。
帰り道、私の足取りは来る時よりもずっと軽くなっていた。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
実は、さっきからずっと佳織とドクターJとのやり取りを物陰から見ていたヒロインズ。
意外過ぎる人物との話に目を丸くしながらも聞き耳を立てていた。
「…どうやら、思っているよりは心配は無さそうね」
「そうですね…でも、だからと言って何もしないのは性に合わない」
「えぇ。私もドクターJ様と同じように、佳織さんの支えになりましょう」
「賛成よ。もう二度と、佳織を悲しませるような目になんて遭わせないんだから」
「ボクも全力で協力するよ。佳織はボクの事を助けてくれた。今度はボクが佳織を助ける番だ」
「微力ながら私も手伝おう。佳織の為ならば、何でもするぞ」
「うん。かおりん…守ってあげたい」
「本音…」
「オレもやるぜ。そして、教えてやんなきゃな。お前も誰かに守られていいんだってことをよ」
全員が見守る中、佳織は食事を終えて食堂を出ようとする。
それを見た彼女達は、何故か急いで別の場所に隠れようと移動を始めていた。