私…生まれ変わったらモブキャラになりたいな(なれるとは言ってない)   作:とんこつラーメン

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迷いと覚悟と決意

 アメリカ行きの旅客機に乗り、窓から流れ行く雲と晴れ渡る空を眺めながら、アメリカ代表候補生『ダリル・ケイシー』はボーっとしていた。

 

「はぁ…」

 

 普段は明朗快活を絵に描いたような彼女が、今日に限っては眉を潜めながら大きな溜息を吐いている。

 別に、故郷であるアメリカに帰ることが嫌と言う事ではない。

 かなりの長きに渡って日本で暮らしてきたが、やっぱり故国が恋しいことには違いない。

 彼女の溜息の原因は別の所にあった。

 

「どうすりゃいいんだ…オレは……」

 

 今現在、ダリルには物凄く気になっている少女がいた。

 

 仲森佳織。

 悪意ある者達の手によって運命を歪められ、強制的にIS学園へと送られ、更には危険極まりない専用機まで無理矢理に与えられた。

 

 これを聞いた時のダリルの気持ちはたった一つ。

 『ふざけんな』。

 この一言に尽きた。

 

 これは他の者達も言っていたが、一体佳織が何をした?

 彼女はただ普通に生きていただけだ。

 多くの友人に囲まれ、夢を追い駆け、真面目に生きた、どこにでもいる普通の少女。

 

 それなのに佳織は今、IS学園に在学をし、しかも学年最強クラスの実力を発揮していると来た。

 これは何の冗談だ? どうして、こんな事になっている?

 あの大人しそうな少女のどこに、こんな力が秘められているんだ?

 

 臨海学校において突如として発生した、軍用IS『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』の暴走事件。

 その事件の解決を手伝う為に、篠ノ之束によって現場に強制連行され、IS委員会の男の横暴によって、たった一人で戦場に送り込まれようとしている佳織の顔を見た時、ダリルは心の中で密かに衝撃を受けていた。

 

 コイツが、噂に聞いていたトールギスのパイロットなのか。

 こんな物静かで、儚げで、大人しい少女が?

 体は小さく、腕も足も細くて華奢。

 触れただけで壊れてしまいそうな感じすら覚える少女を、モニターに映っている嫌味で不細工な男は、保身の為だけに命の保証すら出来ない戦場に送り込まれようとしている。

 その時、ダリルは久し振りに本気でブチ切れた。

 そして思った。

 必ず作戦を成功させて、この野郎の鼻を明かしてやる。

 佳織の事も勿論守る。

 学園の先輩として、一人の人間として。

 何より…『()』を知る者として、可愛い後輩を『こちら側(・・・・)』に引き込むような真似だけは絶対にしたくない。

 

 だが、いざ蓋を開けてみれば、自分に出来た事はサポートだけで、実際に福音を倒したのは佳織だった。

 トールギスを第二形態移行させるというおまけ付きで。

 

 悔しかった。

 自分よりも佳織の方が強かった事に対してじゃない。

 後輩の力になれなかったばかりか、結局は頼りにしてしまった事が悔しかった。

 だからこそダリルはより強く思った。

 こんな失態はもう二度と起こさない。

 もしまた似たような事があれば、今度こそは佳織の事を全力で守り支えようと。

 それは、それだけは彼女の中にある偽らざる純粋な気持ちだ。

 

 だからこそ、ダリルは迷っている。

 これからの自分自身の身の振り方を。

 

「そういや…あいつ…」

 

 カップホルダーに置いてあるジュースを飲みながら、不意に日本を発つ前の事を思い出していた。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 それを見たのは本当に偶然だった。

 

 日本を発つ日の朝。

 ダリルは空港に着くまでの間に空腹にならないように、学園で朝食を食べることにした。

 

「暫くは日本食も食えねーし、久々に定食系でも…ん?」

 

 食券を買おうと販売機の前まで行こうとした時、ふと見覚えのある黒髪の二人組が視界に映った。

 片方は学園の制服を着て、もう片方は黒いスーツを着ている。

 後姿だけだが、ダリルにはそれが誰なのかすぐに分かった。

 

「あれは…佳織とちっふー…か?」

 

 何故か、ダリルは千冬の事を『ちっふー』と呼んでいる。

 最初こそ普通に怒ったりしたが、三年になっても改善の余地が見られなかったので、遂には千冬の方が折れて、以降はもう普通に放置していた。

 

「あの二人が一緒とか珍しい…訳でもないか」

 

 ダリルから見ても、佳織と千冬は生徒と教師という枠組みを超えて仲が良い様に見えた。

 同じ黒髪と言う事もあって、傍から見ていると本当に姉妹のようだ。

 

 何を話しているのか気にはなったが、今は好奇心よりも食欲の方が勝っているので、さっさと朝のメニューを決める事にした。

 

 その後、自分の分の朝食を受け取ってから、二人の会話が聞こえるようにギリギリの距離の席を陣取ってから耳を傾けた。

 

「ところで…だな。佳織」

「なんですか?」

「夏休みの間だけ、私達の家に来ないか?」

「え? 千冬さんと織斑君の家に?」

 

 どうやら、二人は例の話をしているようだった。

 佳織のメンタルケアの為、彼女を夏休みの間だけ織斑家で預かるという話。

 ダリルとしては決して悪くない提案だと思った。

 ジッと学生寮に閉じ籠っているよりはずっと健康的だと。

 

「あぁ。折角の夏休みなのだし、ずっと学生寮にいるのも流石にと思ってな。それに、佳織にとってもいい気分転換になると思うんだ。どうだ?」

 

 ダリルが思っている事を全部言われてしまった。

 

「勿論、無理強いをするつもりは無いし、今すぐに決める必要も無い。夏休みはまだ始まったばかりだしな。時間なら文字通りタップリとある。ゆっくりと決めるといい」

「そう…ですか…」

 

 今の佳織は謂わば、帰る家を無くしているような状態。

 両親が失踪し、実家は勝手に売り払われ、根無し草のような状況。

 多少の迷いぐらいはあるかもしれないが、ダリルとしてはもう答えは決まっているも同然だと思った。

 

「あの…本当にいいんですか? お邪魔なんかしちゃっても…」

「全然構わんさ。部屋なら余っているし、自分で言うのもなんだが、あの家は私と一夏の二人で住むには広すぎるからな」

 

 食事の手を止め、ジッと虚空を見つめる佳織。

 きっと、どうするべきなのか考えているのだろう。

 

「わ…私なんかでよかったら…その…よろしくお願いします…」

「おぉ…! だが、今すぐに決めてしまってよかったのか? 急かすつもりなどは全く無かったのだが…」

「いいんです。ここで下手に迷ってたりしたら、それこそズルズルと結論を引きずって、いつまでも返事が出来なさそうで…」

「…そうか」

 

 一見すると、佳織は元気を取り戻しているようにも見える。

 だが、ダリルには分かった。分かってしまった。

 今の佳織は無理をしていると。

 明らかな空元気だと。

 

「今日の昼辺り、一夏が久し振りに家に戻るようでな。もしそれまでに荷物が纏められるなら、アイツと一緒に行ってみないか? 一夏には私の方から話しておく」

「千冬さんはどうするんですか?」

「私はまだ学園での仕事が残っているんでな。出来るだけ急いで帰ろうとは思っているんだが、流石に今日は無理そうだ」

「そうなんですか…お疲れ様です」

 

 なんだか、今の二人の間に割って入るのは申し訳がないような気がして話しかけられないが、それでもダリルは声を大にして言いたかった。

 お前はもっと人を頼っていいんだと。

 子供なんだから、誰かに助けられることを悪いと思わなくても良いんだと。

 遠慮なく甘えても良いんだと。

 お前には、そうするだけの権利がある。義務がある。

 今まで、それだけの事をして、多くの人々を助けて来たのだから。

 今度は佳織が救われる番だ。

 

(佳織…オレは…)

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 あの時の佳織の表情が、顔がダリルを迷わせる。

 ダリルと佳織が出会ったのは、本当につい最近だ。

 だが、その少しの時間の間に起きた出来事は、ダリルに佳織の事を強く印象付けさせ、同時に『嘗ての自分』と重ね合わせて、自分と同じような目には遭わせたくは無いと思うには十分過ぎた。

 自分の中にある『血の宿命』を捨て去り、佳織の傍に居続ける道を選べるのか。

 例え何があっても絶対に揺るがないと思っていた決意が、生まれて初めて大きく揺らいでいる。

 

「…こんな時、もしフォルテだったらなんて言ってるんだろうな…」

 

 恋人にしてギリシャの代表候補生である『フォルテ・サファイア』の事を思い出す。

 彼女もまた、他の代表候補生の例に漏れず祖国に一時帰国している。

 

「いや…愚問だな。フォルテなら迷わず佳織の力になろうとするに違いねぇ…」

 

 明るく陽気な性格をしているが、義理堅い性格もしているので佳織の境遇を聞けば一瞬の躊躇もなく先輩として、一人の人間として佳織と共にいる事を選ぶ筈だ。

 

「それに…」

 

 最後の一押しになったのは、学園を出る直前に見た佳織の顔だった。

 

(わ…私なんかでよかったら…その…よろしくお願いします…)

 

 ある時を境に育児放棄をされてきたが故に、素直に他人からの施しを喜べないでいた佳織。

 どうして佳織がそんな顔になるのかダリルには分かる。

 嫌だからとか、そんなんじゃない。

 申し訳がないのだ。

 迷惑なんじゃないかと思ってしまう。

 その考え自体が失礼であると頭では理解していても、心の隅の方にこびりついた黴のような形で罪悪感が生まれる。

 『嬉しい』という感情を素直に表に出せない。

 意地になっているのではなく、出し方を知らない。

 出したくても出せない。

 それが当然だったから。当たり前だったから。

 

「あんな顔を見ちまったらよ…ほっとけねぇだろ…絶対…!」

 

 佳織に刃を向けたくない。

 佳織の悲しむ顔を、これ以上見たくはない。

 佳織を悲しませたくない。

 佳織の…味方でいたい。

 

「はぁ…ダメだな…オレ…。完全に絆されちまった…。でも…」

 

 少しだけ顔を伏せ、上げた時にはもうダリルの顔から迷いは消えていた。

 

「…悪くない気分だ」

 

 腹は決まった。

 覚悟も出来た。

 もう迷いは無い。

 自分は最後まで『ダリル・ケイシー』として佳織の傍に居続ける。

 

(すまねぇな…叔母さん。オレ…もうアンタの元には帰れねぇわ…。本気で守りたい奴が…命賭けでもしたいって思えるような事が…見つかっちまったからよ…)

 

 燃えるような決意がダリルの心を覆い尽くす。

 誰が相手だろうと関係ない。

 佳織の邪魔をする奴は、自分が全て消し炭にしてやる。

 

(そうなると…まずは協力者がいるよな。アメリカいる人間で佳織の味方になってくれそうな奴と言ったら……やっぱ『アイツ』しかいねぇよな…)

 

 嘗て、佳織によって命だけでなく、専用機すらも救って貰った大恩人。

 『彼女』ならば、二つ返事で力になってくれる筈だ。

 

 頭の中で今後の予定を組み立てながら、ダリルは備え付けの雑誌に手を伸ばした。

 

 

 

 

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