私…生まれ変わったらモブキャラになりたいな(なれるとは言ってない) 作:とんこつラーメン
「ほわぁ~…」
千冬さんに言われた通り、私は織斑君に連れられる形で織斑家の家の玄関先に立っていた。
「立派なおうちだね~」
「そ…そうか? 割と普通だと思うけど…」
パッと見はそうかもだけど、明らかにそこら辺のとは一段階ぐらいランクが上だよ。
でも…そっか。
よくよく考えたら、千冬さんって結構な高給取りだったっけ。
前職がISの選手で日本の国家代表。
その後はドイツ軍の教官を経てからのIS学園の教師だもんね。
そりゃ、忙しさと引き換えにお金も稼いでいる訳ですわ。
もしかして、千冬さんって同年代の女性よりも遥かにお金を持っているのでは?
少なくとも、そこらのOLよりかはずっと凄いよね…。
「そろそろ入ろうぜ。まだ午前中とはいえ、日差しが強いからな」
「そうだね…。えっと…お邪魔しまーす…」
織斑君に続く形で家の中に入ると、真新しいフローリングと二階に続く階段が見えた。
この上に織斑姉弟の部屋があるのかな?
「ただいまー…つっても、千冬姉はまだ学園なんだけどな」
「お仕事で忙しいって言ってたね」
「IS学園の教師だもんな。他の学校の教師よりも仕事の量が多いのかもな」
なんせ、あそこはエリート中のエリートしか通えないって触れ込みの場所だからね。
最近は地味に忘れかけてたけど、私達もIS学園に通っている時点で世間一般の皆々様からはエリートに見られてるってことなんだよね…。
私自身は微塵もエリートなんかじゃないんだけどなぁ…。
「そこまで広い家じゃないから、そんなに案内するような場所も無いんだけど…取り敢えず、仲森さんが使う予定の部屋を教えるよ」
「うん。分かった」
千冬さんが『部屋なら余ってる』って言ってたけど、たった二人でこの家に住んでるんなら、そりゃ余ってても不思議じゃないなぁ。
仮に部屋一つを物置代わりに使っていたとしても、余裕でお釣りが来るでしょ。
「基本的に、俺達の部屋は二階にあるんだ。仲森さんの部屋も二階の余った部屋になる予定だ」
「分かったよ」
それってつまり…最低でも二階には三部屋以上あるってこと?
かなり凄いことなんじゃ?
嘗ての我が家でも、二階には一部屋しか無かったのに。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
案の定、二階には廊下を挟んで四つの部屋がありました。
やっぱり、ご近所の他の家よりも明らかにワンランク上だって。
「仲森さんの部屋はー…ここだな。千冬姉の部屋の向かい側」
「へー…」
千冬さんの部屋が向かい側にあるんだー…。
別に気にしないけど、担任の先生が物凄く近くにいる生活って地味にドキドキします。
「一応言っておくと、千冬姉の部屋には…」
「分かってる。勝手に入ったりはしないよ」
「そうじゃなくて。仲森さんだったら、千冬姉も何も言わないとは思うんだけど…」
「???」
ちょっと言い難そうにしてる?
千冬さんの部屋がどうかしたのかな?
「…これは言葉で説明するより、直に見て貰った方が早いかもな」
「どゆこと?」
百聞は一見に如かずってこと?
私が小首を傾げていると、織斑君が徐に千冬さんの部屋のドアを開ける。
そこにあったのは…。
「うわぁ…」
とてもじゃないが、一言では言い表せないような空間だった。
千冬さんの名誉の為に、敢えて一般的な言葉で表現するなら…『物凄く散らかってた』。
「話には聞いてたけど…ここまでだったとは…」
「だよな…初見だと、そういうリアクションになるよな…」
隣で織斑君が『トホホ…』って感じで盛大な溜息を吐いてた。
これは溜息も吐きたくなりますわ…。
「いつもは俺が片付けてるんだけどさ…それでも、少ししたらまた元通りになっちまうんだよ…」
「…ドンマイ」
「あはは……はぁ…」
そっか…千冬さんは俗に言う『片付けられない女』だったのか…。
誰にでも欠点の一つや二つはあるとは言うけど、これは凄いね…。
ある意味、今までの凛としたイメージが月までぶっ飛ぶよ。
「あの…さ。私でよかったら、千冬さんの部屋の掃除…手伝うよ? 女だから気が付けることもあると思うし」
「そうしてくれると本当に助かる…。俺一人でやってたら、マジで日が暮れるまでやる羽目になるんだよ…」
「それも納得しちゃう惨状だもんね…」
足の踏み場もないとは、まさにこのことか。
そう言えば、前に篠ノ之さんも言ってたけど、束さんも片付けるのが苦手で、よく部屋が散らかってたって苦笑いしてたっけ。
別の意味で『類は友を呼ぶ』だったのかもね…。
「というか、この状況で部屋に異臭が漂ってないのが逆に凄いって思う」
「それは俺も思った。ある意味で奇跡だよな」
普通なら異臭騒ぎで確実にご近所さんに迷惑を掛けてるんだろうけど…。
ISって消臭効果もあったりするのかな。
「って、話が逸れちまったな。仲森さんの部屋は今まで何も置いてなかったからサッパリとしてたんだけど…」
「だけど?」
織斑君が、さっきとは別の意味で呆れた顔で向かいの部屋…私が夏休みの間だけお世話になる予定の部屋のドアを開けた。
「なんでか、仲森さんが来るのを予め想定していたかのようにベットとクローゼットだけは用意してあったんだよな…。聞かされた時はマジで驚いた…」
「何故に…?」
「それは俺の方が聞きたいんだよな…」
流石の千冬さんも、私の両親が蒸発&離婚したり、家が売り払われる事を予想していたとは思えないし……あれ?
「どうした?」
「このベッドとクローゼット…ウサギのマークがあるんだけど…」
「ウサギ? ま…まさか…これって…」
「その可能性が大だね…」
束さんがこれを用意したのか…。
あの人なら普通に有り得るわ…。
常にこっちの事はモニタリングしてるんだし、ベットやクローゼットぐらいは先回りして用意してても不思議じゃない。
「ま…まぁ…私的には助かるんだけどね…。流石に実家から布団とかは持って来てないし…」
「なんか、千冬姉と束さんの掌の上で踊らされてる感が…」
「気にしたら負けだよ」
「…だな」
こういう時こそ前向きにならないと。
もう私は、ちょっとやそっとのことじゃへこたれないよー?
「夏休み前にも一度、家に帰ってから一通りの掃除はしたんだけど、やっぱ少し埃が溜まってるな…。案内が終わったら、まずは掃除から始めないとだな」
「勿論、私も手伝うから。今日からお世話になる以上、しない理由が無いし」
「仲森さんが手伝ってくれるなら百人力だよ。マジで助かる。それなら早く終わりそうだ」
家の掃除とかは、よく実家の方でもやってたからね。
私が小学五年生ぐらいになった頃から、お母さんって殆ど家の掃除をしなくなってたし。
だから、私とおばあちゃんの二人でよく家全体の掃除をしてた。
今にして思えば、あの頃から両親は私と夫婦生活の両方に興味が無くなってきてたのかもしれないな…。
「因みに、千冬姉の隣が俺の部屋な。何か用がある時は遠慮なく来てくれ」
「うん。その時はお邪魔するね」
ちゃんとノックをしてから…だけど。
思春期の多感な時期は、ちゃんと中の確認をしないとお互いに悲惨な目にある可能性があるからね。
年頃の男の子が部屋で一人でする事と言ったら、もう殆ど『アレ』しかないし。
その気持ちは私もよーく分かるから。
「んじゃ、次は一階に戻ってから、風呂の場所やトイレの場所を教えるよ」
「りょーかいです」
その前に部屋の中に荷物を置いていくけどね。
流石に全部は持って来てないけど。
ある程度の着替えや必要最低限の私物一式、後は勉強道具とノートパソコンぐらいだね。
後は買って揃えればいいでしょ。
私、お金だけは有り余ってますから。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「…ってことで、これで全部かな」
一階の案内も終わり、私と織斑君はリビングのソファに向い合せに座りながら、冷たい麦茶を飲んでいた。
やっぱ、夏場は麦茶に限りますなー。
「なんとなーく、千冬さんが『二人で住むには広い』って言ってた意味が分かった気がする」
「そんな事を言ってたのか。まぁ…確かにそうだな。別に気にしてないけど」
家が広い分には何も問題は無いしね。
少なくとも、狭いよりはずっとマシでしょ。
「まだ10時ちょっと前…。お掃除は小休止をしてから?」
「そうだな。二人でやるなら、そこまで時間は掛からないだろうし、少し休んでからでも十分に昼前には終わると思う」
「なら、その後に買い出しにもいかないとね。長期に渡って家を空けてたんだから、冷蔵庫の中は殆ど空っぽでしょ?」
「まぁな。生鮮食品とか使い切らないと腐らせちまうし」
ずっとつけっぱなしにしてると電気代とか凄いことになるからね。
多分、IS学園の寮に入るって決まった時に、冷蔵庫のコンセントも抜いたに違いない。
「まずは、どこから手を付けるかなー…」
「ここは分担した方がいいかもね。私は二階をやろうか? 自分の部屋の掃除も兼ねて」
「それがよさそうだな。じゃあ、俺は一階をやるよ」
「早く終わったら、私も一階の掃除のお手伝いをするね」
二人で協力して掃除すれば、あっという間に終わるでしょ。
床とかピッカピカにしてあげるからねー。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
一方その頃。
IS学園の設けられた、五博士専用の研究室。
「ほぅ…あの嬢ちゃんの両親が離婚した上に家まで売り払われていたとはな」
「あの子も我々に負けず劣らずの波乱万丈な人生を送っているな」
「あのトールギスに選ばれる程の子だ。それぐらいでなくてはな」
「だが、どうしてその事を我々に話した? まさか、我等の手で彼女の両親を探し出すつもりではあるまいな?」
ドクターJが、佳織と話した事の内容を他の四人に話すと、各々に別々の反応を見せた…が、全員共通して同情する気は全く無いようだった。
「馬鹿を言うな。あの子はもうとっくに両親の事を割り切っておる。そんな事をしても無粋なだけじゃ」
「じゃあ、どうして?」
「単純に情報を共有しておくためじゃよ。もしかしたら今後、ワシだけじゃなくてお前達にも何か相談をする機会があるかもしれんからの」
「ワシらにあの嬢ちゃんの人生相談をやれと抜かすのか?」
「別にそれぐらいいいじゃろ。時間以外の何かが減るもんじゃ無し」
「時間が経ている時点でアウトな気もするが…まあいいだろう。悩む若者の相談に乗ってやるのも、我等のような年長者の役目か」
「そういうことじゃ」
口では色々と言いつつも、結局は佳織に対して過保護なお爺ちゃんズであった。
「さて…では、そろそろ行くか」
「ん? 急にどうした? 何か用事か?」
いきなりH教授が部屋を出ようとしたのを見て、ドクトルSがそれに着いて尋ねる。
「ちょっとな。今から人と会う用事がある」
「ほぅ…お前がワシら以外の誰かと会うなど珍しい。一体誰じゃ?」
「今、現在進行形で世界中を騒がせている可愛い愛弟子の所だ」
「「「「あぁ…」」」」
その一言だけで、彼が誰に会いに行こうとしているのが分かった。
H教授が『弟子』と呼ぶ人間は、この世にたった一人しかいない。
「いい土産話を期待しているぞ」
「フッ…では、行ってくる」
そうして、H教授は出かけて行った。
彼の愛弟子と待ち合わせをしている喫茶店へと向かって。