私…生まれ変わったらモブキャラになりたいな(なれるとは言ってない)   作:とんこつラーメン

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『おかえりなさい』を言う喜びを

 ふぅ…ようやく帰って来れた。

 夏休みで生徒達がいないとはいえ、あの仕事量は殺人的だな。

 だが、その疲れも夏休みの間だけは、なんとかなる自信がある。

 

 希望する生徒達だけではあるが、夏休みに入ると一時帰省をする者達がいる。

 それは教師も例外では無く、我々が希望すれば夏休みの間だけは家から通っても構わないようになっている。

 勿論、移動手段は各自でどうにかしないといけないがな。

 

「こうして家に帰ってくるのも久し振りだな…」

 

 教師生活をしている間は、基本的に寝泊まりは学園の寮になっているしな。

 こうして家に帰る機会があるとすれば、それこそ夏休みのような長期休暇の時ぐらいしかない。

 一応、定期的に一夏が帰って掃除をしてくれているらしいから、家が汚くなるなんてことはないんだが。

 

「ん?」

 

 なんだ…?

 今、家の方からいい匂いが漂ってきたような…?

 

「取り敢えず入るか」

 

 もう既に佳織は来ているだろうしな。

 初めて別の家に泊まるのだろうから、少しは労ったり安心させたりしないとな。

 では、入るか。

 

「ただいま」

「あ…お帰りなさい。千冬さん」

「か…佳織…?」

 

 ドアを開けて玄関に入った直後、私の全身に衝撃が走った。

 

「そ…その姿は…?」

「このエプロンの事ですか? 実は、ついさっきまで夕食を作ってて…」

「佳織の手料理…だと…!?」

 

 なんだそれは。

 一体何のご褒美だ?

 今日は何かの記念日か?

 

「お。千冬姉、おかえり」

「あ…あぁ…ただいま」

 

 私が帰ってきた事に気が付いたのか、一夏もリビングから顔を出した。

 

「風呂と夕飯、どっちを先にする? 一応、どっちでも大丈夫なように準備はしてるけど」

「夕飯を食べる」

 

 即答した。

 確かに疲れてはいるが、佳織のエプロン姿を見たら、そんなのは一瞬で消し飛んだ。

 今は兎に角、佳織の手料理が食べたい!

 

「千冬姉ならそう言うと思ったよ。実は今日の夕飯さ、仲森さんが全部一人で作ったんだぜ?」

「なんだとっ!?」

 

 てっきり、精々が一品か二品ぐらいで、後は一夏が作ったのばかりだと思っていたが…!

 

「あはは…簡単なものばかりですけどね…」

「いやいや…かなり凝ってる物ばかりだっただろ…」

 

 相変わらずの謙遜だな。

 だが、それがいい。

 

 これはもう着替えている時間すらも惜しいな。

 早くリビングに入らねば!

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「おぉ…これは…!」

 

 リビングのテーブルに並べられたのは、沢山の料理達。

 そのどれもが、白米のいいおかずになりそうなばかりだ。

 

「これを…全て佳織一人で…?」

「まぁ…一応…」

 

 す…凄いな…!

 佳織はISの実力だけでなく、女子力も凄まじいのだな…!

 

「ある時期を境に、私が家で家事とか全部するようになってましたから。自然と上達したって言うか…」

「成る程な…」

 

 あの過酷な環境が、佳織の女子力向上に一役買っていたと言う事なのか。

 何とも皮肉な話だ。

 

「こっちのが『大根と豚肉の甘辛炒め』で、こっちが『サツマイモと鳥胸肉の煮物』…そしてこれが『レンコンの挟み焼き』です」

「ごくり…!」

 

 どれもこれもが凄く美味しそうじゃないか…!

 ごはんを幾らでも食べられそうだ…!

 そう言えば、前に佳織のカレーを食べたことがあったが、あれもまた絶品だったな…。

 

「実は、これだけじゃないんだぜ? な?」

「うん。千冬さんがお酒好きだって聞いて、酒のおつまみに良さそうな物も作っておいたんです」

「なんだと…!」

 

 ごはんのおかずだけでなく、酒のつまみまでもだと…!?

 佳織…お前はどんだけ気が利くんだ…。

 まるで理想の嫁じゃないか。

 

「まずは生姜やニンニク、ニラをたっぷり入れた餃子です」

「なんていい焦げ具合だ…!」

「キュウリを麺つゆでつけた『おつまみ浅漬け』もあります」

「焼酎とかと一緒に食べたいな…」

「後はー…もやしときゅうりのピリ辛ナムルと、葱と紅生姜の唐揚げに、ウィンナーとチーズのキムチ揚げ、オクラと砂肝の香味炒め…なんてのも作ってみました」

 

 どれもこれもが、最高の酒のつまみになりそうじゃあないか…!

 見ているだけで口に中から無限に涎が溢れてくる…!

 

「それじゃあ、千冬さんが洗って来たら食べようか?」

「だな。冷めないうちに早く食べたいしな」

 

 そ…そうか。そうだよな。

 外から帰って来たんだから、手は洗わないとな。

 佳織が注意してくれなかったら、このまま椅子に座って食べ始めていたぞ…。

 危ない、危ない…。

 それじゃあ、早く手を洗って来るか。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

「「美味い!!!」」

 

 佳織の作ってくれた数多くの料理…どれもこれもが絶品だ!

 ご飯のおかずとしても、酒のつまみとしても最高過ぎる!

 ヤバいな…冗談抜きで箸と酒が止まらんぞ…。

 

「こっちの大根と豚肉の甘辛炒めとかめっちゃうめー! これだけでご飯が超進むよ! 久し振りにおかわりとかしちまうかもな!」

「そう? 喜んで貰えて良かったよ。あむ…うん、美味しい」

 

 なんだろうか…。

 佳織を知れば知るほどに、佳織の女子力…いや、嫁力の高さが浮き彫りになって来るんだが…?

 誰にでも優しくて、でも強気に出る時は出て、ISの実力は申し分なし。

 皆からも慕われて、努力家で、芯も強くて…あれ?

 

(佳織の欠点って…なんだっけ?)

 

 うーん…今までの佳織の行動を振り返れば振り返るほど、佳織の凄い所しか思い浮かばん。

 今更ながら、佳織のISランクが『S』なのも納得出来てしまう自分がいる。

 この料理を食わせれば、頭の固いIS委員会の馬鹿どもも少しは大人しくなるんじゃないだろうか?

 

「んっ…んっ…んっ…ぷはぁ~! 疲れた体に冷たいビールが染みる~! そして…あむ」

 

 箸で一口大の餃子を摘まみ上げ、それをタレに付けてからパクリ。

 

「つまみが美味い! はぁ…こんなにも酒がすすんだのは本当に久し振りだ…」

「あんまり飲み過ぎるなよ?」

「こんな時ぐらい固い事を言うな一夏。折角、佳織が美味い料理を作ってくれたんだぞ?」

「それはそうだけど…程々に頼むぜ?」

「分かってるさ」

 

 これは…夏休みの間の仕事にもやる気が出るというものだな。

 流石に毎日と言う訳ではないが、それでも私のモチベーションを上げるには十分過ぎる。

 夏休み限定ではあるが、これから毎日のように佳織の手料理が食えると思うと、それだけでテンションが上がる。

 

 結局、佳織が作ってくれた食事の全てを食べ尽くした。

 はぁ…満足だ…。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「ふぅ…さっぱりした…」

 

 食事の後、私は風呂に入って体中の汗を流すと共に疲れを癒してサッパリとさせた。

 上手い食事を食べさせて貰った挙句、一番風呂まで貰って少し申し訳なくも思ったが、佳織と一夏が揃って入るように言ってきたので、遠慮なく入らせて貰う事に。

 で、今はリビングにて扇風機の風を浴びながら体を乾かしている。

 

 私の次に風呂に入っているのは佳織で、一夏は最後に入る事になった。

 アイツなりに気でも使ったんだろう。

 

「この夏休みの間に、少しでも佳織の心の傷を癒し、アイツの事を労ってやれればいいんだがな…」

 

 一学期の僅か数ヶ月の間に、佳織の存在はIS学園にとって無くてはならないものになった。

 数々の事件を解決し、多くの者達の心を動かし、救った。

 それを正面から言えば否定するだろうが、佳織に救われた人間が多いのは紛れもない事実だ。

 同年代の生徒達だけじゃない、恐らくは束の心も救っているのだろう。

 そうでなければ、あの身内以外には冷たい束が、あんなにも佳織に執着する筈がないし、周りに対しても温和な態度を取るようになる筈がない。

 

「本当に…佳織は頑張り過ぎだ…」

 

 本来ならば、私達のような大人が佳織たち子供を影に日向にと支えていかなければいけないのだろうが、いざ蓋を開けてみたら、私達の方が佳織に救われている。

 それを知る度に、佳織に対する深い感謝の念と同時に、自分自身の情けなさを実感する。

 だからこそ、私は彼らの…五博士の申し出を受け入れた。

 暮桜に続く、私の第二の専用機『メリクリウス』。

 防御能力に極振りした前代未聞のIS。

 今までにも防御力に特化したISは数多く有りはしたが、ここまでの機体はそうは無い。

 逆を言うと、それだけ佳織のトールギスの性能がずば抜けていると言う事になる。

 

(トールギスの持つ『防御力』だけを反映させただけで、ここまでの機体が生まれるとはな…)

 

 こうして自分自身がトールギスの姉妹機とも言うべき機体に触れていると改めて理解する。

 どれだけトールギスと言う機体が異常なのかと言う事が。

 白騎士の次に生まれた『史上初のIS』。

 今から10年近く昔の機体にも拘らず、未だに現行機を上回る性能を持つ。

 普通では決して考えられない事だ。

 

「真耶の『ヴァイエイト』と合わさって、ようやくトールギス一機分の戦力になるんだったな…」

 

 メリクリウスとヴァイエイト…どちらも、非常に高性能な第三世代機だ。

 他の国家用専用機と比較しても全く遜色がない…どころか、下手したら上を行っている可能性すらある。

 なんせ、製作者はあのトールギスを生み出した人達なのだから。

 

「近いうち、メリクリウスの試運転もしなくてはな…」

 

 きっと、こいつもトールギスに負けず劣らずのじゃじゃ馬なんだろう。

 望むところだ。

 私はもう決めたんだ。

 佳織を護る為なら、どんな事もすると。

 

「ん?」

 

 今、風呂場の扉が開くような音が聞こえた?

 

「はふぅ~…あがりましたぁ~…」

 

 頬を赤く染めながら、佳織が風呂場から戻ってきた。

 非常に長い髪をタオルで纏め、首筋に僅かに流れる汗が扇情的だった。

 だが、それよりも気になったのは…。

 

「浴衣…だと…!?」

 

 それは、臨海学校の時とはまた違う浴衣。

 恐らくは佳織の私物なんだとは思うが…。

 

「あ…これですか? 流石に夏場に全身を覆う牛さんパジャマは暑すぎるんで…基本的に夏の寝巻は浴衣にしてるんです」

「そ…そうなのか…」

 

 これはこれでまた…エロいな。

 15歳とは思えない色気を出している。

 

「ど…どれ。髪が長いと乾かすのも一苦労だろう。私が手伝おう」

「いいんですか? お願いしますぅ~…」

 

 まだ頭が火照っているのか、妙に間延びした口調が可愛い。

 あ…遂に可愛いって言ってしまった。

 

「しかし…佳織の髪は本当に長いな。足首ぐらいまであるんじゃないか?」

「そーですねー。最初は単純に面倒だったから切らなかったんですけど、ある程度まで伸びたら急に周りの子達から『切らない方が良い』って言われて、そのままずるずると今に至ると言いますか…」

 

 それは実にナイスな判断だったと言わせて貰おう。

 頭に巻いたタオルを取って濡れた髪を出すと、それだけでそこそこの重量があった。

 なんだか首の筋肉が鍛えられそうだな。

 

「スベスベだ…」

「それ、良く言われるんですよねー。前に更識先輩に髪を梳いて貰った時も同じような事を言われました」

 

 更識楯無…私の知らない所で佳織の髪を梳いていただと…!?

 なんて羨ましい…!

 だが、今は佳織と私の二人きり!

 邪魔者は誰もいない!

 

「あ。仲森さんあがったのか。んじゃ、最後は俺が入らせて貰おうかな」

 

 …地味に一瞬だけ一夏の存在を忘れていた。

 佳織が風呂から上がったのを察知して、少しだけこっちを見てから風呂場へと向かった。

 

「ん~。いってら~」

 

 少し蕩けた顔で佳織が一夏に手を振る。

 普段とのギャップが凄くて…思わず鼻血が出そうになったぞ…!

 

 その後、私は一夏が上がって来るまで…いや、上がってきた後も佳織の髪を堪能していた。

 というか、普通に佳織の髪が長すぎるので、渇くのにかなりの時間を要した。

 長所と短所は表裏一体…と言う事か…くっ…!

 

 

 

 




次回、恐らくはようやく最後のヒロインアンケートの結果が報われる…かも?




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