灰被りの燕 作:アドバルーンタマモ
さらに数週間が経過し、色々と分かってきた。
まず、僕は人間の赤ん坊ではなく”ウマ娘“という未知の生物の赤ん坊らしく芦毛というのは、そのウマ娘の毛の色のことらしい。芦毛以外にも色々と種類があるようだ。
しかし、まさか髪の毛の色で捨てられるとは……ここは日本のようだが僕が朧げながら憶えている日本より物騒なのかもしれない。気をつけよう。
それよりも、ウマ娘とはなんだろうか?
馬という動物は知っているが僕の体は見た限りでは人と同じだ。指は5本あるし、足も二本だけ……馬には程遠い。見た目ではなく、どこか別のところに馬に関する何かがあるのだろうか?
さらに数週間が経ち、僕はそろそろ退院できそうだと看護婦達が話しているのが
もっとも、馬の耳の形なんて憶えていないからこれが馬の耳かは判らないが……
閑話休題
しかし、退院できる。やった、良かった。と、安堵するにはまだ早い。なぜなら、退院したとしても僕には帰る所がないのだから。
というのも、僕を捨てた母親の元に返すわけにはいかないので母親の親戚などに連絡をしたそうだが断られたらしい。
その時言われたのが”芦毛の仔はいらん“とのこと。
……またそんな理由か、いくらなんでも芦毛に対して厳しすぎないか、母親の一族?
しかし、親族の誰も引き取らないとなれば僕はどこかの施設へと送られるのだろうか?
と、思ったがどうもそちらの方も上手くいかないらしい。
ウマ娘というのは人よりも養育費がかかるらしく施設側もあまり抱え込みたくはないらしい。
……厳しいな。生まれてまもなくこんな局面に陥るとは、赤ん坊になる前の僕は何か悪事でも働いたのだろうか?
親戚も引き取らない、施設も受け入れを拒否される僕のことを思ってか、いつも僕の面倒を見てくれる看護婦が怒りを露わにしている光景を見て僕は少し嬉しく思った。
すると、怒っている看護婦におそらく先輩であろう看護婦が言った。どうやら、そのあたりはこの病院の院長がどうにかしてくれるそうだ。
一体、どうするつもりなのだろうか?
非常に気になるところだが、赤ん坊の自分に何か出来るわけでもないのでここは寝て、果報を待つことにする。
さらに数週間が経過した頃、僕のもとに見たこともない男性が二人やってきた。二人とも白髪の老人で片方は眼鏡をかけてもう片方は白いひげを生やしている。
「この赤ん坊が件の仔か?」
「そうじゃ。ここに来た時は死にかけだったが今ではご覧のとおり元気……強い仔じゃよ」
「どれどれ」
白ひげの老人が僕の顔をジッと覗き込んでくる。
「ふむ……確かに、元気だな。この仔は走るぞ」
覗き込みながらニッと笑い、老人はそう言った。
「お主、見ただけでウマっ
「分かるかいそんなもん。勘じゃよ、勘」
その割にはえらく自信満々だったぞ、じいさん……。
「よし!決めた。こいつはわしが引き取ろう」
パンッと手を叩いてメガネの老人に言う白ひげの老人。
どういう事だ……?
白ひげの老人の言葉の意味がわからず、訳を知ってそうなメガネの老人へ目を向ける。
「そしてもらえると助かる。この歳でどこにも帰るところがないのはあまりにも可哀想じゃからな」
「同感だ。……それにしても、”走らない芦毛はいらない“か。それだけの理由で腹を痛めて産んだ仔を捨てるとはひどい親も居たもんだ」
「どうせ、どこぞの名家じゃろう。昔から芦毛は走らんと売られるか捨てられて居たからな」
昔から芦毛の仔の扱いはそんなものなのか……僕は運が良かった方なのか。
きっと僕以外にも苦労している芦毛がどこかにいるのだろう。もし機会があれば出会いたいものだ。
「それで?いつ引き取りに来るんじゃ?」
「今すぐに……と、言いたいが、実はまだ女房に話してないんでな、近いうちに引き取りに来る」
「なんで話してないんじゃ?この話したの一週間も前じゃぞ?」
「一週間なんぞ老人には一瞬よ。……じゃあな、芦毛の。近い内にまた来るよ」
白ひげの老人はそう言うと僕の頭を指で撫で、メガネの老人と一緒に部屋を出ていった。
そして、2日後、白ひげの老人は再びやってきた。
「待たせたな芦毛の。この前言った通り、引き取りに来たぞ」
ニッと笑いながら僕を見下ろす白ひげの老人。
「あら、この仔がそうなの?可愛い仔ね~」
と、一緒に来た初老の女性。
この人があのとき話に出ていた奥さんだろうか?
「そうだろ?おまけに食欲旺盛だ。この仔は走る」
「あらあら。あなたが走るって言ってレースに勝ってる子を見たことがないのだけれど?」
「……お前の見てないところじゃ当てとるよ」
奥さんの指摘に目を逸らしながら呟く。
多分、嘘だな。
「さぁて、じゃあ行きましょうか、よっこいしょ」
奥さんは僕をそっと持ち上げると優しく胸に抱いた。
重くはないだろうか?ここへ入院してからたらふくミルクを飲んだからかなり体重が増えたと思うのだが……?
「結構重いわねこの仔……もしかしたら、あなたの言うとおり走る仔かもしれないわね」
抱えながらそんなことを言うとおり奥さん。
……やはり、重かったようだ。
申し訳ない。そう心のなかで謝りながら、僕は初めて部屋の外へ出る。
「その仔のこと頼んだぞ」
「任せろ。立派なウマっ娘にしてやる」
「トレーナーでもないのになに言ってんだか……」
途中、メガネの老人に出会いそんなやり取りがあった。
トレーナーとはなんだろうか?
そして、病院へ出て、タクシーに乗り、車に揺られること数分か、数十分……白ひげの老人の家に僕はやってきた。
大きいな。
家を見て最初にそう思った。その家は一般的な家に比べると一回りか、二回りほど大きい和風な屋敷だった。
屋敷の中に入ると、やはり広い。こんなに長い廊下を見るのは初めてだ。
「お疲れさまでした。ゆっくりお休み」
奥さんは屋敷の部屋の一つに入ると、そう言いながら僕を部屋に置かれたベビーチェアに寝かせた。
あなたの方がよっぽど疲れたろうに……。
「さて、そろそろこの芦毛に名前をつけてやらんといかんな」
「そうですね。なんて名前をつけるんです?」
「色々と候補があるんだが……決めかめている。トキノインパクト、トキノコントレイルとか……いくつか浮かんだがピンと来ない」
それは名前なのか……?
僕は白ひげの老人が挙げた名前に困惑した。名前にしてはあまりに異質すぎるから。というか、ウマ
「確かに……ピンと来ないわね。どうしましょうか」
顎に手をやって考える奥さん。
ピンと来る来ないよりもまず挙げた名前がおかしい事にツッコミを入れてほしいのだが?
「あら?」
老夫婦が僕の名前について考えていると開けていた襖から一羽の燕が入ってきて、僕の寝ているベビーベッドの縁にとまった。
なんだ?
その燕は僕のことが気になるのかじっとこちらを見ている気がした。
「あ!!」
っ!……なんだ?
突然、声をあげた白ひげの老人に驚いて、燕は飛び立ち、部屋の外へ出ていってしまった。
「あなた、どうしたの?いきなり大声なんか出して」
「決まった。決まったぞこの芦毛の名前がな」
「そうなの。どんな名前?」
……頼むからまともな名前であってくれ。
「こいつの名前は“トキノツバメ”とする。どうだ、ぴったりだろ?」
「そうね。確かに、それの方がしっくり来るわね」
名前が決まった。僕は今日からトキノツバメだ。
……うん、いいな。確かにしっくりくるし、さっきの名前に比べれば全然いい。
「今日からよろしくな、ツバメよ」
「よろしくね、ツバメちゃん」
こちらを覗き込んでそう言ってくる老夫婦にこちらこそよろしくおねがいします。と、笑顔を向けた。
早くトレセン入りしたいから入学前は飛ばし気味で行きます。
話短めで投稿間隔早めのピッチ走法で今後はいきたいと思います。
あと、世界観的に芦毛の扱いが現実よりも不遇です。
芦毛好きのJ「俺が捨てられた芦毛全員引き取ってやる!そして、俺好みに育てる!」
友人の芦毛「最後の一言がなければ感心したのになー」