灰被りの燕   作:アドバルーンタマモ

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心に誓う

老夫婦もとい時乃夫婦に引き取られてから6年が経った。今では自分の足で歩き回り、身の回りことも可能な限り出来るようになった。

義理の母さんには“利口でとても良いけれど、世話を焼けなくて少し寂しい”と言われたが、今は体が子供ではあるもののこうなる前は大人だったからいつまでも世話になるのは気が引ける。

 

早く大人になりたいよ……。

 

飛んでいる燕の模様が入った藍色の甚平を着て、縁側に座り、そんなことを考えながら右のウマ耳を指でつまんで弄る。人で言うと耳たぶをいじっているのと同じ動作。いつの間にか癖になってしまった。

 

「ツバメ、ご飯ができましたよー」

 

母さんが襖を開けてそう言ってきた。どうやら朝食が出来たらしい。

 

「はい、すぐ行きます」

 

そう返事を返すと、立ち上がって、居間に行く。

 

居間に行くと、ちょうどテレビでニュースがやっていた。

 

『――次のニュースです。〇〇県△▲市の山中にて、ウマ娘の乳児の遺体が発見されました。遺体はかなり損傷しており、死後半年が経過していると見られ、頭髪から芦毛のウマ娘の可能性があるため、警察は芦毛遺棄事件として捜査しています』

 

()()()……これで何度目だ?

 

ここに来てから何度かニュースを見る機会があったがこれと同じ内容のニュースを僕は何度も見た。

 

芦毛というだけで捨てられる……それほどまでに芦毛に対する評価は低い。

 

どこの誰がこんなことをするのか知らないが正直言って――腹が立つ。

 

 

ピッ

 

 

「あっ」

 

突然テレビの画面が消えた。

 

「これこれ。朝っぱらそんな怖い顔をするもんじゃないぞ、ツバメ」

 

そう言ってくる父さんの手にはテレビのリモコンがあった。

 

「……そんなに怖い顔してました?」

「おう、しとったぞ。こーんなに眉間にシワが寄っとったぞ」

 

そう言って眉間にシワを寄せ、さっきの僕の顔を再現する父さん。その表情は見るからに怒っていて、まるで鬼のようだった。

 

……なるほど、これはおっかないな。それに女の子がする顔じゃない。

 

これは駄目だと思い。眉間をほぐして、顔を揉み、笑顔を作って言った。

 

「これなら良いですか?」

「バッチグー」

 

父さんは親指を立てて笑った。

 

「あら、何をしていたの二人とも?」

 

そこへ母さんがやってきて、尋ねてきたが僕と父さんは笑いながら何でもないと答えた。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

「母さん、洗濯物出してきたよ」

 

朝食を終えた僕は洗濯機から洗濯した服を出してカゴに入れ、庭に面した縁側まで持っていった。

 

「ありがとう、ツバメ。じゃあ、いつものようにやりましょうか」

「はい」

 

そして、母さんと一緒に洗濯物を干す。といっても、僕では物干し竿まで手が届かないので、僕がカゴから洗濯物を取り出して母さんに渡し、母さんが物干し竿に干すという形だが。

 

「母さん、どうして芦毛は走らないと言われているんでしょうか?」

 

今朝見たニュースのことを思い出し、僕は今まで聞こうにも聞けなかったことを母さんに聞いた。

 

「どうしたの突然?」

「ずっと気になってたんです。なんで走れないなんて理由で捨てられる仔がいるのか……普通、髪の色だけで捨てるなんておかしいじゃないですか」

「あなたって時々、子供とは思えないこと言うわね……。でも、そうねぇ……いつかは話さないといけないものね、まだ早すぎると思って言わなかったけど……あんまりいい話ではないわよ、それでも聞く?」

「はい」

 

いつものなら大体のことはすぐ教えてくれる母さんが確認を取ってくるということはそれほどまでにひどい話なのか。

 

 

 

 

 

そして、母さんからなぜ芦毛が走らないというだけで捨てられているのかその理由を聞いた。

 

母さんが言うにはこの国では、ウマ娘を競わせる文化があるようで、昔から……大体、平安ぐらいの時代から現代まで続いているらしく、その競争の歴史の中で芦毛のウマ娘は結果を残せずにいた為、芦毛のウマ娘は走らない。と、言われるようになったのだという。

 

「だから、昔から芦毛のウマ娘は生まれてまもなく捨てられたり、売られたりしていたわ。でも、最近じゃそんなことも少なくなって少しはマシにはなったわ」

「……でも、まだいるんですよね、捨てられている仔は……どうしたら芦毛のウマ娘は捨てられなくなるんでしょうか?」

「そうねぇ……お父さんに聞いてみたらどうかしら?ウマ娘の事なら私よりは分かっているはずだから」

 

今は、散歩や盆栽を弄りしかしていない父さんだが、昔はウマ娘関係の職に就いていた。確かに、父さんなら何か助言をくれるかもしれない。

 

「分かりました。父さんに聞いてみます」

 

教えてくれた母さんに礼を言って、僕は父さんの部屋へと向かった。

 

 

 

 

 

 

「父さん、ちょっと相談があるんですが、いいですか?」

 

父さんの部屋に行くと、いつものように机の上に盆栽を置いて、枝を切っていた。

 

「ん?どうした……そんな難しい顔をして、なにか悩み事か……?」

「はい、そうです。どうしても何とかしたいことがあって……でも、何をすればいいのか分からなくて……」

「ふむ……どうやら難しい事のようだな。とりあえず、座りなさい」

 

そう言って父さんは自分のそばの畳に叩いた。

僕は言われた通り父さんの隣に座ると父さんは僕の方を向き直った。

 

「それで?お前は一体、何をどうしたいんだ?」

「はい、実は――」

 

僕はどうしたら芦毛のウマ娘が捨てられるのを止められるか、父さんに聞いた。

 

「芦毛の仔が捨てられんようにするにはどうすべきか。か、……子供とは思えん悩みだな」

「すみません。でも、どうにかしたくて……」

「いや、謝らなくていい。……さて、お前の悩みを解決する方法だが簡単なことだ――”走れば良い“」

「走る……?」

「そうだ。走れないから不当な扱いを受けるのであれば、走れることを証明するしかない。芦毛であるお前が走りでそれを証明し、古い考えに縛られている連中の目を覚まさせるのだ」

 

なるほど確かに父さんの言うとおりだ。でも、そう簡単に出来るのだろうか。

 

「……出来るでしょうか?」

「出来ねば、また何処かで芦毛の仔が死ぬだけだ」

 

そうだ。今こうしている間にも何処かで芦毛の仔達が捨てられ死んでいるかもしれない。

 

ならば迷っている場合ではない。一刻も早く、”芦毛は走れる“ことを証明しなければならない。

 

「分かりました。必ず”芦毛は走れる“ことを走りで証明してみせます」

「うむ、いい返事だ。お前なら必ず成し遂げられる。期待してるぞ!」

「はい!」

 

もう誰にも”芦毛は走らない“なんて言わせない。

それを証明するためならば、どんな無理無茶でもやってやる。

そう心に誓った。

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