グリムリープ家は、この辺り一帯の領主である貴族の家系だ。
当主の名前はシャルル・グリムリープ。この惑星の中ではかなり有能で、反逆や武力を用いた抗議の鎮圧に置いては、人並み外れた指揮能力を発揮する。
そんな男の一人息子であるルシファー・グリムリープは、父親の厳しさに耐えられずに奔放に生きようと、かなりアレな事もやっているとは聞いていた。だけども、
「自分の空戦ストライカーを誰とも知らない人に売り渡すなんて!」
ハイエンド空戦ストライカーのタイフーンを見知らぬ人に売り渡し、その金で観光惑星に旅行に行ったのだ。全く信じられなかった。
そう思いつつ、機体のチェックを行っていく。
空戦可変型ストライカーであるビゲンは汎用性に優れており、あらゆる状況に対応できる万能性を持つが故に、癖の強い機体でもあった。特に航続距離と、戦闘重量の制限だ。
それにより、30mmガンポッドシステムと短距離ミサイル又は対地小型爆弾しか搭載出来ないのだ。
元々整備不良気味だった機体だったので覚悟していたが、あの赤いタイフーン相手では力不足だ。
思わず溜息が出る。
正直言って戦いたくはないが、ここで逃げる訳にもいかないだろう。
それに、今回の依頼人である大領主様との約束もある。
「仕方ないか……」
私は気持ちを切り替えると、ビゲンの操縦桿を強く握り締める。
そして、大きく息を吸い込んで叫んだ。
「さぁ、仕事の時間ですよ!!」
一気に推力を最大にして、全速力で赤いタイフーンに向かう。せめてこちらのミサイルの射程に入れなければならない。
「くっ!やっぱりキツイ!!」
相手側のレーダーの指向範囲外から近づいたつもりだったが、後方にもレーダーが付いていたらしい。
赤いタイフーンの軌道が大きく変わる。
私は相手の動きを予測して、ギリギリまで引きつけてから、機体を上昇させる。
だが、それでも相手にロックオンされてしまい、30mmガンポッドシステムによる射撃が始まった。
「うわぁ!?」
慌てて回避行動を取るものの、間に合わずに左腕と左脚に被弾してしまう。
幸いにも貫通は免れたが、かなりのダメージを受けてしまった。
「やってくれましたね……?」
私は怒りに任せて操縦桿を握ると、機体を可変させ人型にする。
「当たれぇええ!!!」
右腕で保持する30mmガンポッドシステムを起動させ、弾丸を撃ち込む。
しかし、弾速の遅い実弾では、高速で移動する敵に当てるのは至難の技であった。
赤いタイフーンは私との距離を取り、再び旋回を始める。
「逃すか!」
私はビゲンを加速させると、赤いタイフーンを追う。
今度はこちらの番だと言わんばかりに、ビゲンの腰部マウントから短距離ミサイルを発射した。
しかし、これも簡単に避けられてしまう。
ビゲンの武装では機動力の高い敵に命中させることが難しいようだ。
私は冷静になりつつも、焦りを覚えていた。このままではジリ貧だ。何とかしなければ……。
「何か良い手はないのかしら…っ!」
ここで赤いタイフーンが一気に距離を詰めて来る。
格闘戦に持ち込むつもりだろうか?
「舐めるなぁあああ!!!」
こちらも負けじと、ビゲンのガンポッドから弾丸をばら撒く。
これで、敵機の動きを止めれば勝機はある。
だが、赤いタイフーンはそれを見越していたかのように、急制動を掛けて真横にスライドした。
「何ですって!?」
そして、そのまま私の乗るビゲンの横を通り過ぎるかと思いきや、機体を急激に横滑りさせて、すれ違う一瞬に、ビゲンの翼に蹴りを入れた。
「きゃあ!!」
強烈な衝撃を受けて、機体はバランスを崩す。
更に追い討ちをかけるように、赤いタイフーンはガンポッドシステムを構える。
「あっ」
その時目の前を光線が通り過ぎる。
「今のは!?」
赤いタイフーンも突然の乱入者に狼狽えている様で距離を離している。
突然のロックオンアラート、まだこちらのレーダーに映っていない距離からだ。
赤いタイフーンも対ミサイルマニューバに移行しており、マルチロックオン機能を有する機体が何処かに居る事しかわからない。
レーダーにミサイルが映り、ビゲンのデータからそのミサイルの種類がわかる。
「オークニー帝国のVIT-26!?ハイマニューバミサイルをマルチロックなんてどんな機体なの!!」
昔オークニー帝国のVIT-24を回避した経験があったが今回もうまく行くとは思えない。
「なら!」
30mmガンポッドシステムをVIT-26へ向ける。
「これで落ちてよ!」
発射された砲弾はVIT-26に直撃し爆発を起こす。
「やった!」
周囲を見ると、赤いタイフーンは被弾したらしく左腕が無くなっているのが見える。
そこでレーダーに反応が現れ、こちらに急激に接近してくる。通常機の何倍もの速度でだ。
その方向を向けば、もうすぐ近くまで接近していた見慣れない、恐らく空戦ストライカーが光の剣を振りかぶっているのが見える。
「ビームサーベル!?」
私は急いで機体を上昇させる。
次の瞬間、先程ビゲンの居た場所を光の刃が通過していった。
「危なかった……」
私は冷や汗を拭いながらビゲンを変形させ、飛行形態に移行しそのまま離脱体制に入る。
私を強襲した空戦ストライカーはその勢いのまま赤いタイフーンにビームサーベルを振るう。
赤いタイフーンはビームサーベルをギリギリ躱し、急速に離脱を図る。
どうやらあの空戦ストライカーは私もタイフーンも追わないらしい。
こんな所に現れ、引っ掻き回すだけ引っ掻き回しそのままにする不気味な空戦ストライカーを尻目に、これからこの惑星で何かが起こりそうな予感を感じ、嫌な気分になる。
ただでさえ参っていると言うのに、この様な事が起こるなんて本当に今日は厄日だ。
「早く基地に戻って、シャワーを浴びたいわね」
私はそう呟いて、ビゲンを加速させた。