この時期になると、朝目を覚まし布団から這いずり出てから、身震いをする方も多いかと思います。
そんな中、作者はミッション2の内容が思ったより長くなりすぎて、二話に分けて投稿することになった事実に戦々恐々としております。もうガクブルです、ガクブル。
会話が増えれば文章も増える。真理ですね!
なので今回は短めです!
「怪物が潜んでいるかもしれない、警戒を怠るな!」
早足で進みながら警報に負けない程の声量で軍曹が指示を出すと、部下三人の雰囲気が変わった。一定のリズムで刻まれる呼吸と鋭い視線。兵士の風格がそこには備わっていた。
「民間人!遅れるなよ!生き延びたければ俺から離れるな!」
「は、はい!」
その空気に充てられて、応答の声量も自然と大きなものとなった。しかし緊張からか、声が少し上ずってしまう。
「非常事態だ。もしもの時は民間人も働いてくれよ?」
「戦えねえ奴は、奴らのえ⋯⋯じゃなくて囮にしちまうぞ!」
そんな俺を見かねてか、部下の方々が声をかけて来る。口にされる内容こそ酷なものだが、その声音は戯けた感じで、本気で言っている訳ではなく、場の空気を和ませようとしているのだとわかる。
「ふっ、そう言うな。民間人。出来るだけ俺達が守る。だが、決して気を抜くなよ」
「⋯⋯肝に銘じておきます」
俺を気にかけてくれる部下さん達に自然と頬が緩む。隊のムードメーカーである
東郷さんは言動こそ粗雑で荒々しいが、迷わず肩を貸してくれた姿を鑑みても実際は優しい心を持った良い人なのだろう。
他の二人もそうだ。
時々気弱な様子を見せる
(一村さんも⋯⋯)
EDFはそう言う人達が集まる組織なのかもしれない。
「そういえば、銃を持ったのは初めてだって言ってたな」
「え、あ、そうです初めてです」
気持ちのいい笑顔を思い出して、また少し心を沈ませていると、俺の右隣に立った流川さんが話題を変えた。
生まれてこの方、平々凡々、戦闘とは無縁の生活を送って来たのだ。ゲームでなら経験はあるが、現実ではこれが初の戦場である。
「まあ、さっき軍曹から教わったことを忠実に守っていれば問題はないさ。銃口を敵に向ける、引き金を引く、簡単だろ?」
「ビビんなよ?手が震えてさえなければ真っ直ぐ飛ぶからな」
殿を務めている東郷さんのアドバイスに俺は頷きを返す。まあ、ほぼ精神論ではあったが、戦いに身を投じて来た先駆者からの言葉だ。決して無意味ではない。
「お喋りそこまでだ。少しペースを上げる、ついてこい」
「「「イエスサー」」」
軍曹が緩んだ空気を引き締め、本格的に行動が開始される。
目指すは地上へ直通しているエレベーター。それに乗れさえすれば、とりあえずは一安心だ。
「エレベーターはこっちだ」
軍曹は迷いのない足取りで、先頭を進んでいく。隊列は菱形の陣形を採用していて、俺を中心に前方には軍曹、後方には東郷さん。左に空閑さん、右に流川さんがいる。
小走りで進んでいるというのに、彼らは息一つ切らしていなかった。やはり軍人は鍛え方が違うのだと改めて実感する。
ブースターの補助がなければ、俺はとっくに置いて行かれていたところだ。
ペースを保ったまま少し進むと隔壁が見えて来た。そのままそれを開けて進むのかと思いきや、軍曹はその手前で左に折れる。そしてその先にまた同じような隔壁が現れた。どうやらこっちが正しいルートらしい。
「ここだ。少し待て、隔壁のロックを解除する」
軍曹は壁の中央に付いているパネルを操作し始めた。淀みなく指を動かして何かを打ち込んだ後、懐から取り出したカードのようなものを翳す。すると、ピー、という機械音と共に、ガチリ、と何かが外れる音がした。それから間を置かずに、ゆっくりと巨大な壁が上昇していく。
俺はその様子をつい無意識に目で追ってしまった。
「っ!?全員戦闘用意!!」
真っ先に反応したのは軍曹だった。
ゆとりなど全くない鋭い声に、俺はびくりと肩を震わせ、いそいそと盾を構え、引き金に指をかける。
俺がそれを終える頃には、部下三人は軍曹の近くで銃を構えていた。
そして、目の高さまで隔壁が持ち上がる。
「た、助けてくれえぇ!!!」
「か、怪物だ!!」
「仲間が襲われてるぞ!」
隔壁の向こうには、銃を打ちながら後退している二人の兵士がいた。その銃口が向けられた先。警報ランプの赤が照らし出したのは、複数の巨大な怪物。先程俺が食われかけた蟻の化け物だった。
(は、早い!?)
やつらはその巨大からは想像の付かない速度で移動していた。右かと思えば左。左かと思えば右。信じられない俊敏さで予測の出来ない動きを披露しつつ、壁や天井すらも足場とし、縦横無尽に迫って来る。
それは人の恐怖を煽るには十分すぎる光景だ。
脳裏には再三、貪られる一村さんの姿が過ぎる。
「怪物を撃て!!」
しかし軍曹の掛け声に合わせ、一斉に銃が火を吹いたことで、俺の足は数歩下がったところで止まった。
「こいつら、大軍だ!!」
後退して来る二人に気を配りながら、軍曹達は正確な射撃で一匹ずつ確実に仕留めている。
通路の奥から次々と現れる敵に怖じることなく、冷静に仕事をこなしていく。
「なんて巨大なんだ!!」
「あの牙を見てみろ!噛みつかれたら、ひとたまりもねえ!」
東郷さんの言う通り、やつらはの牙は万力のように人の身体を容易くへし折ってしまう。実際に目撃していない彼らはまだ想像するだけで済むのだろうが、俺にとってあれは死神の鎌と同じだ。ギラリと光るあれを見るだけで、どうしても足から力が抜けそうになってしまう。
「一匹残らず駆除しろ!!」
その後、怪物が現れなくなるまで、俺はその場から一歩も動けなかった。
「軍曹、助かりました⋯⋯」
「突然襲われて、皆んなやられた⋯⋯部隊で生き残ったのは俺たちだけだ⋯⋯」
「一体何が起こっているんですか⋯⋯?」
「俺達にもわからない。それを知る為にも、エレベーターで地下から脱出するつもりだ」
生き残っていた兵士二人に大きな怪我がないのは不幸中の幸いだった。合流し、軍曹が代表して情報共有と、今後の方針について話し合う。
その最中、エレベーターという単語を聞いて、片方の兵士の表情が苦いものに変わった。
「エレベーターは使えない。ケーブルをやられたらしい⋯⋯」
「なんだと?」
軍曹は驚いた様子だった。後ろで話を聞いていた俺達も同様だ。
「確かか?」
「はい、実際に先程乗って来ましたから。うんともすんともいいませんでした⋯⋯」
「そうか⋯⋯このルートはダメか⋯⋯」
悪い情報を受け、軍曹は暫し考え込む仕草をする。しかしそれは一分も続かなかった。
「ならばAFV用の道がある。それを使うぞ」
的確な状況判断と、皆を納得させる統率力。さすがに上に立つ者は違うなと思った。
その傍ら、俺は疑問を口から溢す。
「あの、AFVって」
「ん?お前その格好、民間人か?」
合流した兵士のうちの一人が、俺の存在に気づき、不思議そうな顔を浮かべる。だが、すぐに理由に思い当たったようで、ああ、と納得したような声を出した。
「そういえば、貨物運搬の派遣が来るって一村が言ってたな⋯⋯って、そうだ一村は!?」
どうやら彼は一村さんの知り合いであったようだ。広い基地内、それも部署が違うとはいえ、同じ職場で働く者同士。顔見知りだって大勢いるのは当然だ。あの陽気な人なら特に。
「一村さんは⋯⋯亡くなり、ました⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯そう、か」
俺の言葉を予め予測していたのだろう。彼は声を荒げることも大袈裟に驚くこともなく。
大きく息を吐いて、絞り出すように声を出しただけだった。
「仲間の死を悼むのは此処を無事脱出してからだ。時間が惜しい、とにかく戻るぞ」
軍曹は新たに二人を加えた上で隊列を形成し、来た道を戻り始めた。途中、流川さんがAFVとは何かを説明してくれた。
Armoured Fighting Vehicle。要するに戦闘を目的とする走行を有する車両のことで、これに戦車や装甲車などが当たる。俺が一村さんの後を追っていた際にすれ違ったあれらのことらしい。
と、そこまで把握したところで先程曲がった隔壁まで戻って来た。
「この先だ。全員銃を構えて待機」
一斉に、周りの兵士達は銃の照準を覗き込む。
先程も隔壁を開いた途端、怪物に遭遇した。無論、警戒は必須だろう。
俺も今度こそ心が負けないように、強くスピアの取手を握った。
「開くぞ」
ゆっくりと開いていく隔壁を見ながら、それでも先程の教訓も活かし油断はしない。
緊張の中、目元の高さまで、壁が開く。
「ふぅ⋯⋯」
誰が漏らしたのか分からないが、その息が全員の心情を表していた。
見たところ今回は大丈夫だったようだ。
ただその代わりに、勾配の急な坂道が視界に入る。これがAFV用の道らしい。
「進むぞ、斜度に気をつけろ」
隊列を崩さず、俺達は歩みを進めていく。
床に滑り止めが付いているとはいえ、四十度は越えていそうな角度の斜面を軽々と登っていく兵士達には感服しかなかった。
「そうだ、確か上のフロアにはコンバットフレームの格納庫があったはずだな?」
「ああ!そういえば、先日空輸された機体の一部はこの区間に保管されたと記憶しています」
軍曹が自身の記憶の確度を確認するような問いかけに、流川さんが代表して答えた。
コンバットフレーム。
確か、あの人型のロボットみたいなやつのことだったはずだ。
「あのロボットみたいなやつだよな?」
空閑さんが俺の心を代弁してくれた。
それに対して、流川さんは首を縦に振って正しいと教えてくれる。
「急いで格納庫に向かいましょう」
「そうしようぜ。コンバットフレームがありゃ、あんな化け物に負けやしねえ!」
「ああ。一機でも手に入れば、脱出の難易度は格段に下がる」
格納庫は軍曹の描く脱出ルート上にあるようなので、反対意見が出るはずもなく、満場一致で次の目的地は格納庫ということになった。
会話をしていても彼らの足が止まることはなく、俺達は長い坂の半分を登り切り、階段でいう踊り場のような場所に辿り着こうとしていた。
しかしその前に、軍曹が手のみで支持を出す。開いた手を此方に向けたこの格好は止まれの合図だ。
坂は踊り場を挟んで右方向へと屈折している。軍曹は壁に背を付け、音を立てず踊り場の先を覗き込んだ。
「⋯⋯」
軍曹は再びサインを出した。それを見て、兵士達はすぐさま武器を構える。
銃を持った右手首を左手の親指と人差し指で掴む。
敵がいるという意味だった。
「⋯⋯」
それから少し間を置いて、軍曹は顔の横で左手を回す。これは攻撃準備のサイン。後退して別の道を探すのではなく、此処を突破するつもりらしい。
それを受けて、各々が了解のサインを示し、銃の弾倉を確認していく。軍曹も僅かな時間で一連の動作を完了し顔を覗かせながら、再び左手を掲げた。
更に指を全て立てたのち、等間隔で小指から折り曲げていく。攻撃開始までのカウントダウンだ。
俺はゆっくりと息を吐いていく。
そして再び吸い込んだ瞬間、指が全て折れ、握られた拳が振り下ろされた。
「射撃開始ぃ!!」
「うおおおお!!」
雄叫びと共に放たれた銃弾が雨となって、通路に蔓延っていた怪物達へと殺到する。
此方に気付いていなかった巨大な蟻達は不意を打たれる形になり、視界内にいたそれらはあっという間に殲滅された。
「くそ!なんなんだこいつら!!」
「来るな!来るなぁ!!」
しかし、軍曹達が銃撃を止めても銃声が止むことはなかった。そして、悲鳴にも似た怒声が坂の上から聞こえてくる。
「っ!仲間が危ない!!」
「助けるぞ!!突入して仲間を援護するっ!!」
「おうよ!!」
「あ、ちょまっ!!」
助けると決めた途端、六人は俺を置いて飛び出していった。軍曹に遅れるなと言われたことを思い出し、慌ててブースターを吹かす。
背部のブースターを作動させるためにスピアの持ち手に付いたレバー。軽く引けば少量のブーストがかかり、強く引けば強いブーストがかかる。ここまでの道のりで、俺は少し細かい操作まで可能になっていた。
それを駆使し、ここは斜面だと忘れそうになる速度で走る兵士達に懸命に追い縋る。
「くっ!?左右から来るぞ!!」
「ちくしょう!!挟み撃ちかよ!!」
坂を登り切った先で待っていたのは、左右から迫り来る怪物を押し留めていた四人の兵士達の背中だった。
「数が多すぎる!!」
「生き延びる為には戦うしかない!やるぞ!!」
軍曹は素早く指示を出し、隊を三人ずつに分け両方向へ一斉に銃撃を開始した。
他部隊の二人を交えても連携は完璧で、弾幕が途切れないよう間隔をずらしながら、一人がリロードを挟む際は常に二人が射撃をするという流れを繰り返している。日頃から訓練を積んでいることは明白だった。
前戦にいる四人も少しずつ後退し、あと少しで合流出来そうだ。
(この調子なら、俺が参加することはないかな)
などと、思ってしまったからだろうか。
「あ、あれ?な、なんで弾が出ない!?」
悲壮な声をあげたのは、合流した一人。空閑さん、流川さんと共に銃撃していた一村さんの顔見知り。
どうやら銃弾が詰まってしまったらしく、彼は古いテレビの如く銃を必死に叩いている。
そして、望ましくない結果とは往々にして連鎖するもの。
間もなくして空閑さんの弾倉がすぐに空になってしまったのも。流川さんが一瞬だが敵から目を離してしまったのも。このタイミングに於いては致命的なものとなった。
その結果、一匹の怪物が弾幕をすり抜け、未だ詰まった弾を取り除けないでいた兵士へと突撃してきたのだ。
「ぁ」
空閑さんは弾倉を変え終わっておらず対応出来ない。流川さんも二人分の量を一人で受け持っており、今銃撃の方向を変えれば怪物を抑えきれなくなる。
死神がまたもその鎌を振り下ろさんとしていた。
(⋯⋯動け)
俺の時も再度引き伸ばされる。
世界から音が消え、兵士と怪物のみが瞳に映し出される。
(動け)
また、目の前で命が散ろうとしている。
一村さんは助けを求めていた。なのに、俺は何も出来なかった。
抗う術を持っていなかったから。
立ち向かう勇気が欠けていたから。
死を、受け入れようとしてしまったから。
(動け!)
けれど、今は違う。
左手には強力な武器がある。
心には、小さくとも炎が灯っている。
恩を返すまでは死は許容出来ない。
ならば、俺は戦える。
俺は戦えるんだ。
「やめろおおおおおお!!!」
気がついた時には身体が動いていた。
レバーを押し込んでブースターを起動。瞬時に怪物と兵士の間に身体を割り込ませ、構えた盾で襲い来る凶牙を防ぎ止める。ゾウ並みの巨大による突進。その衝撃は凄まじく、踏ん張った足は数センチ後退させられた。生身であればその時点で吹き飛ばされていただろうが、パワードスケルトンのおかげで持ち堪えることが出来た。今はそれで十分だ。
そして盾に噛みつかせたまま、左手を大きく後ろへ振りかぶり。
「くたばれこの化け物があ!!」
突き出すと同時に引き金を引いた。
スピアは正常に起動し、機械的な唸りを上げて音速にも到達しているであろう速度で突出。怪物の右首に向かって放たれたそれは、瞬きの間にその巨体を粉砕する。
「はぁ、はぁ⋯⋯」
いつの間にか荒くなった呼吸を整えようと努める。
体液を撒き散らして四散した死神の唯一残っていた頭が、ごとりと重々しい音をたてて床に落ちた。
「⋯⋯やった⋯⋯のか」
首が動き出す気配は無い。
どうやら俺は、怪物に一矢報いる事に成功したようだ。
「気を抜くな!まだ戦闘は終わっていない!!」
「⋯⋯!」
軍曹の一喝に合わせ銃弾が頭の上を抜けていき、一時止まっていた思考が動き出す。振り向くと、反対方向を担当していた軍曹達が此方の分の怪物を倒していた。一足早く自分たちの仕事を片付けて加勢してくれたのだった。
それから程なくして、二度目の戦闘が終了した。
「よくやった民間人。お前には素質がありそうだ」
「⋯⋯いえ、まぐれですよ」
怒られるかと思いきや、軍曹は俺の肩を叩いて称賛の言葉をかけてくれた。だが、動いたのは殆ど無意識だったし、偶々スピアが急所に命中して助かっただけだ。一撃で仕留められなければ死んでいたのは俺の方だったかもしれない。
無茶で無謀な行動であり、複雑そうな軍曹の様子からして本来なら褒められた行いではないのだろう。
「だとしても、おかげで俺は助かった。礼を言わせてくれ」
「そうだぞ民間人。もっと胸を張れ。お前は命を救ったんだ」
「⋯⋯⋯⋯命を」
声のする方を向けば、庇った兵士が目の前にいた。
彼は胸をなで下ろし、息をして、笑みを浮かべ、感謝を述べてくる。
(救えたんだ⋯⋯)
今度は助けられた。
誰かの為になれた。
(⋯⋯なら、今くらいは)
迷惑ばかりの人生。この二年間は特にそうだ。自分のことで精一杯で、誰かの為に行動なんて出来た試しがなかったけれど。
「そう、ですね。そうします」
今くらいは、胸を張ってみてもいいのかもしれないと思った。
というわけで、主人公君が軽く覚醒いたしました。軍曹の愉快な仲間達の名前も判明しましたね。
因みに三人の中でも特に目立つお調子者、軍曹の部下Bさんの名字ですが、最初は『剛田』にしようと思ってました。でも作者的には剛田の後にはどうしても『たけし』が来るイメージが強すぎたので変更することになりました。