其は明日を鎭る者   作:へっこむす

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かーんそうっ!かーんそうっ!かーん⋯⋯⋯⋯あ、どうもへっこむすです。
いやあ、この度ありがたーい感想を頂きまして、小躍りしている作者であります。
感想とは誠に心躍りますね!活力が漲って来ますよ!
更には誤字脱字の指摘までして頂いて、ただただ背中を押して貰った気分であります。
拙い文章、暗めの内容ではありますが、今度ともどうぞよろしくお願いします!


運命の日 5

「これからどうすんだ?」

 

 戦闘終了後訪れた静寂の中、口火を切ったのは東郷さんだった。

 今後の行動方針。俺にとっても、EDF隊員にとっても切実な問題である。

 

「そうだな⋯⋯。最優先で為すべきは情報収集と死者の弔い。それから民間人の避難、といったところか」

 

 軍曹は此方を一瞥してすぐに兵士達の方へ顔を戻す。俺が民間人であることを忘れないでいてくれたようで一安心である。今日からお前は兵士だと強制的に入隊させられる可能性を否定出来ずにいたからだ。

 

「情報収集は曹長と合流次第行う。民間人の避難には俺達が付き添うとして。問題は⋯⋯」

「死者の弔いって言ってもな⋯⋯」

 

 顔を逸らしたくなる気持ちをぐっと堪え、兵士達と同じ方向へ目を向ける。

 そこには、失われてしまった多くの命が。地獄となった戦場が広がっていた。

 辺り一面に怪物の体液が撒き散らされ、地面は黄色がかってしまっている。その中には怪物の破片と人間の部位らしきものが点々としていた。

 死体がその体液に塗れているだけならば何とかなるのだが、怪物の下敷きになっていたり捕食されてしまっているものに関しては手のつけようがない。身元の確認など以ての外だ。

 

「⋯⋯仕方がない、出来ることから始めよう。一先ず、曹長の下へ向かうぞ。民間人、すまないがもう少し付き合って欲しい」

「い、いえ、ご迷惑をかけているのは此方ですし、お気遣いなく」

 

 お世話になった手前中途半端なところで、はいさようならでは礼儀知らずも甚だしいというもの。

 家族の安否は気になるものの、今は少しでも彼らの力になって一人でも多くの命を救う。そう決めた。

 

(⋯⋯無事でいてくれよ)

 

 南の空に目を向けて、今となっては随分と遠い存在になってしまった家族の一人のことを思い浮かべる。今日は神奈川で公演のはずで、夜の部にはお忍びで馳せ参じる心積りだったのだが、こうなってしまってはどうしようもない。

 不安とやるせない気持ちがないまぜになった息を吐き出し、既に歩き出していた兵士達に続く。

 もう一度空を見上げれば、日差しがだいぶ傾いて来ているのがわかる。

 今年の夏は冷夏と呼ばれるほど気温が上がらず、九月半ばにして十月終わり頃の気温となっている。テレビの街頭インタビューなんかでは、あの暑さが恋しいなどという意見もあったようだが、個人的には涼しいに越したことはない。事実、今日もし平年通りの猛暑に見舞われていたとしたら、俺は今頃熱中症で行動不能に陥っていただろう。

 

「ふっ⋯⋯」

 

 午前中この基地に来てからの濃厚過ぎる出来事の数々を思い浮かべると苦笑しか出て来ない。感覚的にはもう数日はここで過ごしている気分だった。

 

(⋯⋯ん?)

 

 弱まりつつある陽光を肌で感じながら、夜間に怪物と遭遇したら最悪だなと今後を危惧していた時だった。

 何かが空を横切った。

 円盤の団体は既に何処かへと飛び去り、頭上には青い空が戻っている。そこへ線を描くように、正体不明の何かが高速で飛び去って行くのが見えたのだ。

 気のせいかとも思った。だが、直後聞こえ始めた聞き慣れない音に、脳内で警鐘がけたたましく響き渡る。

 文字で表すならば、ひゅるひゅるひゅる、だろうか。

 まるで遥か上空から爆弾か隕石でも落ちて来ているような音。自然、兵士達の顔も上向きになる。

 彼らの目もきっと捉えただろう。いつの間にか上空に浮かんでいた黒い点を。そしてその物体が、次第に大きさを増していることを。

 

「空を見ろ!」

「何か、落ちて来るぞ!?」

 

 巨大な落下物に気を取られ、全員が足を止めてしまう。しかし今この瞬間において、それは単なる自殺行為に他ならない。何故なら、落下物が着弾するであろう場所が明らかにここだからである。

 

「ぐ、軍曹!!」

「っ!!た、退避だ!退避しろっ!!」

 

 軍曹が咄嗟に出した退避命令。命令厳守が叩き込まれた兵士達の身体は無意識に動き出し、落下予想地点から可能な限り距離を取ろうと走り出す。

 

「ぐわあああああああ!!!」

 

 退避開始後数秒、轟音に併せ背中から凄まじい振動と粉塵が風圧と共に襲って来る。パワードスケルトンの重量により俺は吹き飛ばされずにすんだが、他の兵士達は碌に踏ん張ることも叶わず地面を転げ回る羽目になった。一体どれだけの高さから落ちて来たらこれだけの威力が生まれるのか。幸い爆発物ではなかったようだが、もしそうだったらと考えると総毛立つ思いだった。

 

『おい!全員無事か!?被害状況は!!』

 

 曹長からの通信が入ると、周囲から各分隊長の安否確認の声が聞こえ出す。衝突の際に巻き上げられた土埃のせいで視界が悪く手間取っているようだ。

 

「流川!東郷!空閑!民間人!無事か!!」

「な、なんとか!」

「今度はなんだってんだ!?」

「今日は厄日だあ!!」

「生きてます!!」

 

 少し離れた位置から碇軍曹の声が届いた。それに反応していく隊員達を真似て声を張り、無事を報告する。

 他の部隊でも声が聞こえる範囲内では犠牲者はいないようだった。

 

(じゃあ、さっきの悲鳴は⋯⋯)

 

 衝突時の轟音に掻き消されてしまったが、俺は確かに悲鳴を耳にした。人が出せるとは思えないほどの絶叫。恐怖心が煽られ、足が震えそうになるあれが空耳である訳が無い。

 間違いなく、誰かが脱落した。手にじわりと汗が滲む。

 

「お、おい⋯⋯なんだ、あれ⋯⋯」

「え」

 

 騒然とした現場に似合わない柔らかな微風が砂塵を運んでいく。

 晴れていく視界。戻りくる陽光。

 しかしながら、警鐘は音量を増すばかりだった。

 

「はし、ら⋯⋯?」

「巨大な、塔だ⋯⋯」

「機械で出来てる、のか⋯⋯?」

 

 落下物の正体は地上三十メートルはある巨大な塔だった。落下の勢いで生まれたクレーターの底から生えているというのにその高さ。もしかすれば全長は見えている部分の倍はあるかもしれない。

 表面には幾何学的な模様が刻まれ、それを流れる赤い光が不気味な雰囲気を作り出している。最上部には薄い紫色をした半透明で巨大な宝石が乗せられており、場合によっては物語に出てくる魔法の杖か何かに見えるかもしれない。まあ、これを使うとすれば人間とは比べものにもならない巨人とかでないと無理だろうが。

 

「い、Ι隊が⋯⋯!!」

『何!?どうした!何があった!?』

 

 Ι隊というと、確かコンバットフレームを操っていた部隊だ。そういえば、彼等からの通信は耳にしていない。

 

(⋯⋯まさか!) 

 

 最悪の想定が過ぎり、塔の根元を注視する。

 重火器を搭載したコンバットフレームはその重量故に機動力に欠けるだろう。実際に、彼等の足が遅いことはこの目で見ている。

 小回りの利く歩兵ですらぎりぎりだった。となれば、彼等が塔を回避できたとは到底考えられない。

 

「コンバットフレーム隊、壊滅です!」

 

 聞きたくなかった報告が嫌でも耳に入ってくる。

 塔の根元、クレーターの際には無残な姿となったコンバットフレームが散乱していた。三機は直撃を受けたのか腕部や脚部しか残っておらず、誰が見ても搭乗員の生存は絶望的。残る二機のうち、一機は比較的に距離が離れていたのか五体満足であったが、倒れ伏した格好のまま動こうとせず、搭乗員とも連絡がつかない。もう一機は近距離からの衝撃波により右半身を失っていた。此方もパイロットの生存は不明だ。

 新たな犠牲者に加え、またも最大戦力であるコンバットフレームを失う事態。

 ふと痛みを感じて手を見れば、爪が食い込むくらいに力強く握り締めていた。

 

「な、んで⋯⋯」

 

 誰がどうしてこんなことを。

 感情が渦を巻き、思考が定まらない。

 だというのに、此方の混乱など気にも止めず、状況は待ったなしに悪化を辿る。

 

「か、怪物だあ!!」

「と、塔の周りに、怪物が出現してる!!」

 

 欠片も望んでいなかった存在との再開に、歯を食いしばる。

 塔からの出現。地下から這い出てくるのでも、空から落ちて来るのでもない。

 今まで影も形もなかった怪物達が、頭の上部から次々と現れる。どういう構造なのか、どういう仕組みなのかは検討もつかない。けれど現実として怪物達は面前に実在し、我々人間を食い殺さんと迫っている。

 ならば、俺達にれ残された選択肢は一つだった。

 

「迎撃開始ぃ!!」

「いい加減にしやがれ!!このデカブツ共があ!!」

 

 怪物の咆哮。人間の咆哮。銃の咆哮。

 今日一日だけで、俺は一生分の戦場を味わっているのではないだろうか。

 とはいえ、塔から出現した怪物達は先の戦いと比べれば微々たるものでしかなく、殲滅にはさしたる苦労もなかった。

 

「どんどん増えてるぞぉ⋯⋯!」

「塔は怪物を出現させる装置の様です!次から次へと出てきます!!」

 

 しかし津波のように押し寄せるのとは違い、倒しても倒しても怪物は塔から現れる。一度の量は少ないかもしれない。が、長引けば総合的な数は相手が上回る。更には此方の疲労も溜まり、いずれ弾薬も枯渇する。処理能力が落ちた瞬間、俺達が食われるのは時間の問題となってしまう。

 

「なっ!奴らコンバットフレームを!!」

 

 少しでも兵士達の負担を和らげようと接近した一匹をスピアで仕留めると、俺の近辺には怪物がいなくなる。余裕が生まれたことにより兵士の叫びに反応し塔を見る。

 兵士達は怪物が現れた瞬間から射撃を始める為、奴らは碌に動くこともままならない。だが、それは正面に現れた個体のみで、後方に出現されると塔が遮蔽物となり即時撃破は難しい。そういった個体が、未だクレーターの際で横たわっているコンバットフレームを狙い始めたのだ。

 二機のパイロットはまだ生きている可能性が高い。見過ごす道理はなかった。

 

「軍曹!俺が突入してコンバットフレーム隊を救出します!!援護頼めますか!!」

 

 事ここに至っては、もはや遠慮などはなくなり始めている。彼らと出会ってからまだ数時間ほどしか経っていないとはいえ、既に複数の死線を共に潜り抜けている。危機的状況は人の本性を暴き出すというが、彼等の為人は好ましいものだと何となく理解している。それにこういう状況だからこそ友情ともいうべき信頼関係が築かれたところで何ら不思議はないだろう。

 そして嬉しいことに、それは彼らも同じであったらしい。

 

「よし!俺達が救出へ向かう!他の部隊は駆除を継続しつつ援護!!」

 

 了解、と全部隊からすぐさま意志が返る。

 軍曹のいう俺達の中に自分が含まれている事に頬を緩ませながら、俺は盾と槍を構え直す。

 人間は慣れる生き物であると実感する。俺は戦場に適応し、怪物の群れに突っ込むことに違和感すら感じない。精神の一部が崩れてしまったのか、それとも生まれついた才能か。地下ではあれ程震えていたというのに、もう随分昔のように思えてくる。

 気分は既に軍人だ。

 命のために命を賭ける。

 英雄的行為。自己犠牲の極み。呼び方なんて何でもいいが、空想の世界でしか有り得ないと思っていたことをこれから自分が進んで行う。

 

(昨日までの俺が聞いたらなんて言うかね⋯⋯)

 

 人の為になりたいと思っていたのは事実だが、これは正直やり過ぎだ。想定外にも程がある。

 何を馬鹿なと歯牙にもかけない過去の己が見えた気がした。

 

「民間人!背中は守ってやる、全力でやれ!!」

「はい!!」

 

 無駄な思考を止め、目の前に映る景色のみに意識を置き、軍曹を、戦友達を信頼しブースターを全開、怪物へ突貫する。

 三に至らぬ秒数で数十メートルを埋め、今にも酸を放とうとしていた一匹をいの一番に撃破。細かいレバー操作で身体を回転させ、遠心力を活かして左方の個体にも槍を突き刺す。優先すべきは酸を吐こうとする個体、並びにコンバットフレームに狙う個体。

 それを念頭に、とにかく目についた敵を倒していく。

 

(集中)

 

 振るう槍が左腕であるように。

 

(集中⋯⋯)

 

 構える盾が右手であるように。

 

(集中⋯⋯⋯⋯)

 

 纏う装備全てが己が身体の一部になっていく。

 

「み、民間人!!今だ!パイロットを中から引っ張り出せ!!」

「⋯⋯⋯⋯え⋯⋯あ、そ、了解!!」

 

 軍曹の声が届き、波一つない水面に佇んでいた意識が引っ張り上げられる。

 

(そうだった!)

 

 今の俺の役割は囮でも怪物の殲滅でもなくパイロットの救出。敵を倒すばかりに集中しすぎて、危うく機を失うところだった。

 急ぎ盾と槍を納め、彼等が開けてくれた空間に飛び込みコンバットフレームに取り付く。軍曹達や他の兵士達も援護してくれているが、怪物はひっきりなしに増える。救出に使える時間は限られており、迅速な行動が求められる。

 だというのに、ここへ来て非常に不味いことが発覚した。

 

「ぐ、軍曹!これ何処から開ければいいんですか!?」

 

 コンバットフレームを実際に見たのは今日が初めてで、それも片手の指で数えるほど。誰かが乗り込む姿も見ておらず、乗降口の位置など知る由もない。

 俺はおろおろと慌てふためくしかなかった。

 

「落ち着け!ハッチは機体の背部にある!!」

「背部!?こいつ仰向けなんですけど!?」

 

 距離が近いからと先に目指したのは損傷の少ない機体は背中を隠すように倒れ込んていた。そんな機体からパイロットを救出するにはどうしたらよいのか。

 狼狽している間にも、また怪物が落ちて来る。もう時間が少ない。迷っている場合ではない。

 

「くっそやるっきゃねえ!」

 

 これからする半分以上やけくそである行動が最適解であるのだと自分に言い聞かせる。でないと、不安で押しつぶされそうだ。

 

「えっと、確かここを押せば⋯⋯よし!」

 

 スピアや盾は持ち手に付いたボタンの一つを押せば折り畳まれてコンパクトになる。だというのに、あれだけの威力と防御力を発揮できるこれらにかかった費用は想像し難い。ただ今は、その高度な技術によって両手が自由になったことに感謝するだけだ。

 俺はコンバットフレームの左側に周り、腕に手をかけ大きく息を吸う。

 そうして肺が一杯になったところで、腰を落とし両腕に最大限の力を込めた。

 

「ふんっ!!」

 

 機体そのものの重さは元より、搭載された重火器の分も加算され総重量は一トンを軽く越えるだろう。だが、さすがは貨物運搬様の強化外骨格スーツ。その腕力は伊達ではない。

 想像よりも遙かに呆気なく、コンバットフレームは重たい身体を浮かせた。必要以上に力んだ手前、拍子抜けするほどだった。

 

「でえりゃあっ!!」

 

 機体が持ち上がっていくと共に前進。身体をフレームの下にねじ込むと、全身のバネを使って一気に跳ね上げた。

 ガシャンドシンと重厚な音と火花を散らしつつ、俺は機体の背中を晒すことに成功した。

 

「おお!!」

「いいぞ民間人!」

「ほんとに頼りになるぜ!!」

「よくやったぞ!赤い開閉スイッチが見えるか!!それを押せばハッチが開くはずだ!!」

「赤いスイッチ⋯⋯これか!」

 

 称賛の言葉を流し聞きつつもう一度機体に近寄って目を配ってみると、いかにも開閉しそうな部分とその横に丸く赤いスイッチが付いていた。

 漫画やアニメだと、こういうスイッチは押したら大抵よくない出来事に見舞われるが、俺は迷いなく壊れるのではないかという勢いでそれを叩いた。

 空気が抜けるような音が聞こえ、ハッチがゆっくりと開いていく。逸る気持ちを抑えながら開き切るのを見届けて中を覗き込めば、軍曹達が纏う軍服を黄色くしたものを纏う兵士が一人。

 狭いコックピットになんとか腕を伸ばし、座席と身体を固定しているベルトに手をかける。車のそれと似た構造になっていたので滞りなく外すことができ、腕力に物を言わせ兵士を引き摺り出した。

 息があるかないかぐらい確認するべきなのだろうが、生憎とそんな余裕はない。俺は兵士を横抱きにして、持ち難くなったレバーをなんとか操作しその場から全速離脱。

 軍曹達の下へ戻る。

 

「ん⋯⋯?っ!?な、なに!?」

 

 パイロットも目元が隠れるヘルメットをしているため顔全体は見えないが、出血などは見当たらなかったので無事であるとは思っていた。案の定それは正解で、救出した兵士が驚きの声を上げた。

 思ったよりも高い声音で出所に目が行くがそれも一瞬のこと。すぐに前を向き、そういえば五機のうちの一機は女性の声だったなと頭の片隅で思い出す。

 

「お目覚めのところ申し訳ないですが!喋ると舌を噛みますよ!!」

「きゃっ!?」

 

 訓練を受けている兵士には必要ないかとも思ったが一応忠告をしてから再加速。急激な加速に恐怖を覚えたのか腕が首に回される。軍人にしては華奢だな、なんて感想を抱きつつブースターを全開にする。

 

「民間人!!そのまま俺達の後方へ回れ!!」

 

 背後からの追撃がないかを確認した刹那、目前に迫った軍曹の指示が飛んでくる。

 目を向けると、軍曹の隣には、再度ランチャーとスナイパーを構えた東郷さんと流川さんが。その少し後方では両手を振ってここまで来いと叫ぶ空閑さんが見えた。

 俺はそのゴールを目指してひたすらに前へ進む。

 そしてまもなく、軍曹達の横を通過する。

 

「⋯⋯今だ!撃て!!」

 

 発射命令とほぼ同時。二つの大きな銃声が背中を震わせる。二人が構えた銃を撃ったのだろう。

 何処を狙ったのかは見ていないので定かではないが、続けて聞こえた爆発音が銃弾の命中を伝えてくる。

 ついでに、パキリ、という鳥肌の立ちそうな音も聞こえた気がした。

 その後すぐに空閑さんのところへ到着。減速しながら後方へ身体を向ける。

 すると見えたのは最上部の宝石から黒い煙を上げる塔だった。どうやら狙いはあの部分であったようだ。

 

「びくともしてねえぞ!!」

「いやよく見ろ!ヒビは入った!」

 

 流川さんの指摘に目を凝らす。すると、言葉の通り紫の部分には僅かながらも亀裂が入っているのがわかる。さっきの音の正体はこれだったのだ。

 

「あの機械を破壊すれば怪物の増殖を止められるかもしれない!怪物を処理しながらでいい!攻撃しろ!!」

「了解!!」

 

 各部隊が軍曹の命令に従い、怪物対処に半数を残して他は皆狙いを一点に絞り一斉掃射。銃弾は雨霰の如く宝石に突き刺さり、着実に亀裂を広げていっている。

 加勢したいところではあるが、またしても射程不足に泣かされる。そろそろ遠距離武器が欲しくなってきて、同時に頭の中の冷静な部分が毒されて来ているなという分析を始めていた。

 

「あ⋯⋯の⋯⋯」

「ん?」

 

 絞り出すような声が耳に届き、目線を下げるとそこには今し方救出したばかりの兵士がいた。そこで漸く横抱きの体勢のままだったことに気付く。

 

「す、すいません!今下ろします!」

 

 俺はそっと兵士を足から下ろす。思ったよりもすくりと立ち上がったので、やはり怪我はないのかもしれない。

 

「衛生兵!」

 

 それでも気を失っていたのだから、万一ということもありえる。空閑さんはそういう場合も加味してすぐに待機していた衛生兵を呼び兵士の様態を確認させた。

 身体に異常がないかの質問を受ける兵士を尻目に、戦場へ視線を戻すと塔は既に満身創痍といった状態になっていた。亀裂は付いていない部分を探す方が難しく、上部からは煙を吹いている。

 破壊まではもうすぐとわかり、肩の力が少し抜けた。

 

「あ、の⋯⋯」

 

 後ろからの声。なんとなく自分に話しかけられている気がして振り向くと、問題なしと判断されたのか助けた兵士が人一人分の距離を開けて立っていた。

 

「⋯⋯?なにか?」

「え、っと⋯⋯その⋯⋯」

 

 会話が苦手なのだろうか。もじもじと指をこねて、歯切れ悪く言葉を発する兵士にそんな印象を抱いた。ただ特に急いでいる訳でもないため、言葉の続きをゆっくりと待つ。

 須臾、そうしていると意を決したのか、兵士が俯かせていた顔を上げた。その頬は少し色づいているように見えた。

 

「あ、ありが──」

 

 だが、ドカン、という衝撃と爆発音により兵士の言葉を最後まで聞くには至らなかった。

 何が起きたのかは理解していた。

 

「民間人!もう一機行けるか!!」

 

 塔の破壊に成功した軍曹が此方に呼びかけてくる。

 俺はその言葉にはっとした。

 救出すべきパイロットは二人。一人助けただけでは何も終わっていないのだ。満足しかけていた頭を叩いて気を入れ直す。

 

「勿論です!!」

「ぁ⋯⋯」

 

 視界の端に伸ばされる手が見えた気がしたが、軍曹達が作ったチャンスを無駄にはしたくないと即座にレバーを押し込む。軍曹達の側を通過し、俺はクレーターに片足を落としている破壊されたコンバットフレームに急接近。怪物がいないだけで各段にやりやすい。一度仕組みを把握しているから自信も余裕もある。更に此方の機体はうつ伏せに倒れている。失敗の二文字はない。

 到達するや否や、俺は赤いスイッチを押しハッチを開ける。中には気を失っている兵士がいた。先ほどの行動をなぞるようにベルトを外し横抱きにする。しかし兵士の顔を見た途端、さっきよりも背中が冷たくなった。

 兵士が額から出血していたからだ。大量というほどではない。だが頭を強打したのは確実で、怪我の具合を見極めるのは素人である俺には無理だ。

 可及的速やかに、衛生兵の下へ連れて行くべきと判断し、一分の躊躇いもなく俺はブースターを点火する。

 

「おい!上を見ろ!」

 

 だが、俺の邪魔をするように状況に変化が訪れる。

 

「塔だ!」

「凄い数だぞ!!」

 

 それはさながら流星群のようだった。大気を裂くように高速で飛翔する塔。落下してくるだけで甚大な被害を及ぼすそれが、無数に連なって空を破っていく。数えるのもばかばかしくなるくらいの本数。もし、あれが向かう先に都市があったとしたら。

 あいつがいる場所に落ちたとしたら。

 呼吸が無意識に浅くなる。

 

「あれが全部怪物を喚ぶのか!?」

「怪物の国になっちまうぞぉ⋯⋯!」

「ぅぅ⋯⋯」

「っ!」

 

 兵士達の狼狽える声に混じって聞こえた呻き声。呆気にとられるしかない光景に止まっていた足を無理やり動かす。追撃の心配もなかったため最短距離を進み、軍曹を過ぎてすぐさま衛生兵に怪我人を引き渡す。その際に感謝の言葉をかけられたので、俺はお願いしますと頭を下げた。

 どうか、彼の命を助けてあげて欲しい。

 Ι隊の仲間のためにも。他の兵士達のためにも。

 

(俺のためにも⋯⋯)

 

 淀んだ黒いもやが、心を僅かに蝕んだ。

 

「あの塔はどこから来ているのか知りたい。後藤曹長、何か情報は入っていないのか?」

 

 それを振り払おうと軽く首を振りつつ空閑さんと一緒に軍曹へ近づくと、彼は曹長と通信している最中だった。

 耳を澄まさずともそのやりとりは聞き取れる。

 

『巨大な円盤が落としているらしい、としか今はわかっていない⋯⋯。本部とも連絡が取れない状況だ⋯⋯』

「円盤だと!?くそ⋯⋯何が起きているというんだ⋯⋯」

 

 分刻みで最悪を更新していく状況に、現場の空気は沈んでいく。俺の視線も伴って下がっていく。

 

 だが、思案を巡らせるどころか落ち込むことすら、敵は許してくれない。

 

『なっ!?碇!不味いぞ!!』

「ま、また塔だ!!」

「おいおい⋯⋯ここに落ちて来やがるぞ!?」

 

 見上げた先、落下音と共に迫る塔は一本ではなかった。ざっと見ただけでも十は越えている。

 

「冗談だろ⋯⋯」

 

 空襲を受ける兵士でさえこれほどの恐怖と絶望は味わえないのではないかと思った。

 

「ふせろおおおお!!」

 

 誰が叫んだかはわからないまま、俺は地面に這いつくばった。

 轟音。激振。轟音。肌を刺す砂塵。また轟音。圧迫する風。そして轟音。

 全てが降り終わるまで、頭の上にだけは落ちて来るなと祈るのが精々だった。

 

『撤退だ⋯⋯。総員ただちに撤退せよ!!』

 

 気味の悪い静けさが戻ってから幾何もなく、無線からは焦燥に塗れた声がした。

 それに反応した兵士達が慌ただしく動き出した気配を感じ身体を起こす。

 耳鳴りが酷い。喉がひりつく。

 既に点呼が開始されていて、俺の名前も呼ばれたので掠れた声で返事をする。それによって、一時的に止まっていた体内時計が動き始めた。

 まだ土煙ははれておらず、周囲は茶色いままだが、まず間違いなく相当数の塔がこの基地一帯に落ちた。

 

『基地を放棄する!!急げえぇ!!』

「軍曹!!」

「ああ⋯⋯。悔しいが、この場は撤退しかなさそうだ」

 

 軍曹は強く拳を握りしめる。

 死者の弔いも出来ず、あまつさえ基地すら守れない。責任感の強い彼にとっては耐え難い苦痛であろう。

 俺にしてみてもさして変わらない思いが心に燻っていた。

 

「逃げるぞ民間人!遅れるなよ!!」

「了解、です⋯⋯」

 

 酷い砂埃のせいで声が出しづらい。この環境で声を張れる彼等へまた一つ尊敬の念を送った。

 

 なんとなしに見上げた空は濁ってしまっていた。生命を育んでくれる陽光も、今は生ぬるく肌に纏わり付いてくる。

 確かに逃げるならこの煙に紛れるのが得策だろう。それは理解出来る。この基地にこだわってしまえば、ここで道が潰えてしまうこともわかる。

 ただ、切り替えの早い兵士達に置いて行かれないように足だけは動かすが、心は一向に動かない。いや、正確には下方向に動き続けている。

 日が沈むのと同じように、心も低く深く落ちていく。

 では日が昇れば浮上するのではと思うも、すぐに否定する。朝日を拝んだところで、きっとこの悪夢は終わらない。それどころか、もう朝を迎えることすらない可能性だってある。

 

「ひとまず安全な場所へ向かうぞ」

「安全⋯⋯」

 

 意味もなく軍曹の言葉を反覆する。

 安全、安寧、安心。

 浮かび上がったのは漠然として根拠も何もない予感染みたもので、そうではないかもしれないしそうではないと信じたいもの。

 幼稚で、杜撰で、悲観的で。口に出せば誰からも否定されるだろう。

 でも、それでも思ってしまった。

 

 今日を以て、この世界の未来から、一切の安らぎが消えてしまったのではないかと。

 

 




出たよ!女の子がついに出たよやったね!!
と、喜びたいところではありますが、今回登場した女の子は作者からしても全くの想定外で、今後登場するのかすらわかりません!!

⋯⋯⋯⋯いや出しちゃった以上出しますけれども、なんで出しちゃったんだろう。
げに恐ろしき見切り発車。

それはさておき、次のお話は完全なオリジナルの展開になる予定でありまして、考えていたオリキャラが登場するはずです。
がしかし、下地がなければ筆は重いもの。
故に、更新に時間を要するかもしれないとここに宣言します!!

⋯⋯⋯⋯ドン亀更新をどうにかしたい今日この頃。
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