予告通り、今回から明日兄の視点に戻ります。
サブタイトルはゲーム内のミッション名をそのままお借りしました。
決して考えるのがめんどくさかった訳じゃないょ⋯⋯?
『飛行物体に関する続報です。飛行物体は、モンスターを投下しているようです。各地に出現したモンスターは全て飛行物体が投下したものだと考えられます。飛行物体は危険です。決して近付かず、もし目撃した場合は、出来るだけ遠くへ避難してください』
「はぁー⋯⋯」
音量を絞ったラジオから発される機械的な声が、人工的な明かりに照らされた空間に虚しく響く。それが齎した新たな凶報は意図せず深い溜息を誘発した。
ラジオ局もアナウンサーも情報の発信という自らの役目を全うしているだけで、何一つ悪いところはない。しかし、未だ穏やかでない心情は、もう少し詳しく、出来れば明るいニュースを、とどうしても求めてしまう。つい、忌々しくスピーカーを睥睨してしまうのも仕方のないことだと許して欲しい。
ラジオに付属したデジタル時計には、午前八時と示されていた。
「溜息は幸せが逃げるというが、溜め込み過ぎるのも良くないとも聞く。一体どちらが正しんだろうな」
「あ、す、すいません⋯⋯皆さんもお疲れなのに⋯⋯」
「ん?ああ、いや、そういう意味で言ったんじゃない。気にするな」
俺の溜息に反応を見せたのは対面に腰掛ける流川さんだった。
ヘルメットとサングラスを外した流川さんの素顔は、想像通りというべきか知性溢れる顔立ちで、隠れていた切長の目と細めの眉には眼鏡が良く似合いそうだ。
そんな彼の、彼らの疲労は肉体面でも精神面でも相当量蓄積しているだろう。人類の守護を理念として掲げるEDFの隊員には覚悟と責任が問われる。俺とは、背負う荷の重みが数段違うし、何より彼らは今後も戦い続けなければならない。
心身にかかる負担は想像を絶するはずだ。
だというのに、自分ばかりがついていないと辟易を漏らしてしまったことに謝罪するも、流川さんは気にした様子もなく首を振り、それに、と言葉を続ける。
「慣れていないお前の方がよほど疲れているだろうからな。ここじゃ碌に眠れなかったんじゃないか?」
「えぇ⋯⋯まぁ⋯⋯」
ここ、というのは柔らかいベッドも布団もなく、ただ長椅子のように並べられた座席の上。
EDFが誇る兵員輸送車、"武装装甲車グレイプ"の荷台である。
といっても、軽トラのように野晒しの状態ではなく、兵員室と呼ばれる外から見るとコンテナによく似たものが積まれていて、中は兵士が座れるように座席が備え付けられている。加えて、今乗っているグレイプは大型のもので、通常の規格より二回りは広く、テーブルや寝台はないにしろ快適ではある。
ベース228を放棄してから一夜が明けた。
俺は現在、護衛に名乗りを上げてくれた碇軍曹率いる分隊と共にグレイプで移動中だった。
怪物の追撃を振り切った後、戦場を共にした他の兵士達が進言し、苦労して持ち出した車両を丸ごと一台貸与してくれたのだ。それも態々俺を逃すためだけに。
当然の如く遠慮したのだが、民間人を戦わせてしまったお詫びと助けてもらったお礼をだと耳を貸してもらえなかった。頼むから使ってくれとまで言われてしまえば、有り難く受け取る以外にどうしようもない。
更にそのおかげで、いざという時の備えとして、パワードスケルトンと乗務員全員の武器一式に弾薬まで詰め込めて、尚且つ窮屈を感じない逃避行が出来ているのだから彼らには幾ら感謝しても足りないだろう。生きてまた会おうという約束を、絶対に果たしたいと切に思う。
「ぐがぁー⋯⋯ぐごぉー⋯⋯んにゃむにゃ」
「あ、っと、声が大きかったですかね」
「いや、気にしなくていい。こいつは寝付きは悪いが、一度眠ってしまえばちょっとやそっとじゃ目を覚さないからな」
首の動きだけで投げやりに流川さんがこいつと言ったのは、四人分ほどの座席を寝床代わりに占拠していびきをかいている東郷さんだ。
諸々の理由から極力早く距離を稼ぎたかった俺達は、夜通し歩みを止めない選択をした。そこで彼は不眠症を理由に、夜明けまでの運転を自ら進んで引き受けてくれた。軽い話し合いの末、夜間の助手席には流川さんが座ることとなり、俺と碇軍曹、空閑さんはその間睡眠を取る。そして俺の心配を他所に太陽はいつも通り顔を覗かせ、東郷さんと流川さんは交代。今は空閑さんが運転、軍曹が助手席にいる。流川さんは三十分ほど前に目を覚ましたが、東郷さんはまだ眠ったままだ。
流川さんの言うように眠りが深いのだろう。
「皆さんは凄いですね。こんな状況でもしっかり寝て、体調を万全に保って居られるなんて」
そしてまた流川さんの言う通り、俺は碌に眠れていなかった。
前線で命を張って戦ったこと。今後への不安。家族の心配。寝床が悪い以外にも眠れない要因は幾つもあるが。
やはり一番の原因は、一村さんの件だった。
死の際に放たれた絶叫。飛び散る鮮血。肉がちぎられ、皮膚が引き裂かれ、骨が砕ける音。
そのどれもが耳と脳裏にこびり着き、目を閉じれば何度も何度も再生される。どうしてもあの瞬間が甦ってしまう。
そんな状態で眠れるほど、俺の神経は図太くない。
食事にしてみても、支給された軍用レーションは想像したほどではないにしろ味気なく、飲食による精神への前向きな影響は期待出来ない。これでも一昔前よりはだいぶマシになったと皆が口を揃えて言っていたが、何分食文化に定評のある現代日本で生まれ育った身。肥えた舌を満足させるに至らないのも当然といえば当然だ。
そんなこんなで俺の目元にはおそらく、側から見てもわかるほどくっきりと隈が浮かんでしまっているのだろう。
「まあ、鍛え方が違うからな。軍人は身体が資本だ。中でも睡眠は人体において欠かせない要素の一つ。いつでもどこでも寝られるように訓練しているんだ」
「なるほど⋯⋯」
睡眠すら管理しなければならない。地下で彼らと出会って以降、軍人とは過酷な職業だとつくづく思う。
「こいつみたいに不眠症を患っている兵士もちらほらいる。そういう奴らは睡眠薬なんかを持参してるくらいだ」
「え、じゃあ東郷さんも?」
「ああ。東郷のは割と重度のやつだから毎日飲んでたよ。でもこの騒ぎで寮に置いてきてしまったと嘆いていた」
「そう、ですよね⋯⋯急でしたもんね⋯⋯」
本当に急だった。
前代未聞。誰もが予想だにしなかった巨大生物による襲撃。
始まってからちょうど一日が経過して、少しは状況を把握出来るのではとラジオを流し続けてはいるものの、情報が錯綜し正確なものを拾い上げるのは難しいというのが現状だ。
「そうだな⋯⋯。まあ、だからこいつは夜通し運転して耐えられない眠気が来るのを待ってたいたのさ。気絶レベルのやつじゃないと眠れないからとか言ってな」
「た、大変ですね」
自然と視線は眠りこける東郷さんを捉える。
粗暴な言動とは裏腹に、彼の相貌は見る者を安心させるような優しいものだった。その顔を気持ちよさそうに緩め、口を大きく開けて涎まで垂らしている姿は、失礼ながらも大きな子供のようだと微笑ましく思った。
昨日から、彼は目覚めている間ずっと戯けたように振る舞っていた。いい意味で悩みなんてなさそうだなと思ったりもしたが、まさかそんなに大変な日常を送っているとは想像もしていなかった。
(⋯⋯いや、ひょっとしたら、東郷さん以外の人達もそういった事情を抱えているのか)
常に厳しい表情を崩さない碇軍曹も、顔に暗い影が差したままの空閑さんも、目の前の流川さんも。
皆、今も何かと戦い続けているのかもしれない。
「というわけだ。目的地まではまだ暫くかかるだろうから、今のうちにもう一眠りしておくといい。目を瞑っているだけでも効果はある」
何がというわけなのかはわからないが、流川さんはこれが言いたかったらしい。
確かに今いる辺りから、目的地である俺の実家まではまだ遠い。
安全な場所、と軍曹は言ったが、自分一人だけ避難してもしそれで家族が危険に晒されていたとしたら、多分一生後悔すると思った。安全という言葉もいまいちしっくりこなかったため、俺は初め一人で実家へ向かうと進言した。がしかし、兵士達に猛反発された。彼らを説得できる確固とした理由は持ち得ておらず、なので非常に申し訳なくも軍曹たちを帰省に付き合わせてしまっている。おまけに運転も任せ切りで道案内すら断られた。
人によっては至れり尽くせりなこの状況を快適だと思うのかもしれないが、俺は正直いただけない。
(もっと皆の役にたちたいのに⋯⋯)
胸中にはやるせない想いが燻っている。たが、これが単なる我儘であるのは理解しているつもりだ。
彼らにとって俺は民間人。護るべき対象でしかなく、別に特別扱いしている訳でもない。いたって真面目に仕事を熟しているだけなのだ。
だから、いかに歯痒い思いを抱いているとはいえ、それを口に出して彼らを困らせるのは本意ではない。今俺のとるべき行動は、流川さんの好意を無碍にするのではなく、横になって目を閉じるのみである。
「わかり、ました。それでは、お言葉に──」
甘えて。
大人しく従おうと紡いだ言葉はしかし、続きを伝えるには至らなかった。
『──総員衝撃に備えろっ!!』
軍曹の切羽詰まった命令が、車内のスピーカーを通して伝わったのとほぼ同時。急ブレーキによる慣性が身体を押し出し、続いて凄まじい衝撃が車体を揺らした。
「どわあぁぁぁ!?」
「なんだっ!?」
「んごっ!!」
ここまでは順調な旅路で、完全に油断していた俺達はシートベルトの着用を怠っており、前方へ吹き飛ばされ兵員室の壁に強かに身体を打ちつけた。立て掛けてあった銃器や弾薬も床へ散乱。それを見て、グレネードを積んでいなくて本当に良かったと思った。
その後も散発する揺れによって体勢を整えられないまま、そろそろ気分が悪くなり始めた頃、漸く揺れは収まった。
「だ、大丈夫か民間人!!」
「ん、んんー、なんだよせっかく眠れてたのに⋯⋯」
世界が反転した状態からのろのろと復帰する間にも、流川さんは既に立ち上がり此方を気遣ってくれる。寝ていたはずの東郷さんですらも立ち上がって大きく伸びをしていた。
まさしく鍛え方が違うという言葉通りだった。
二人に遅れること数十秒。俺もようやっと腰を上げる。
「なんとか、大丈夫です⋯⋯。でも一体何が⋯⋯」
「嫌な予感しかしないな⋯⋯」
同意見だと俺はまだふらつく頭を縦に振る。
基地で見た円盤や塔の数からして、日本各地に怪物が出現しているのは想像に難くない。その状況下で今の身に覚えのある震動。これから楽しい出来事が始まるのかも、などと考えられる人がいるなら是非会ってみたいものだ。
外の様子を見ようにも、ここには採光用の細い窓しかなく、それも高い位置に設けられているため難しい。
とりあえず、外がどうなっているのか見えているであろう運転席の二人に話を聞くべく、そこへ通じる兵員室のドアを叩こうと手を持ち上げる。
が、その前に、ジジという音がして、室内のスピーカーから軍曹ではない人の声が流れ始めた。
『この通信が届いている全兵士に継ぐ。此方は作戦司令本部。今しがた、付近の街に多数の塔が落下。そこから怪物が出現している』
予想に違わず、絶望的な情報が紡がれていく。
『街にいる者は直ちに戦闘を開始せよ!周辺の部隊も救援を急げ!』
多数の塔。それも人が密集する街に。
武器を持たずに奴等と対峙する恐怖は嫌と言うほど知っている。
銃刀法が支配するこの日本で戦う術を有する一般市民なんてたかが知れていることも。
つまり放置すれば、数え切れない犠牲者が出る。
(早く助けに⋯⋯!!)
そう気持ちだけが逸る中、叩こうと思っていた扉が反対側から開き、碇軍曹と空閑さんが深刻な面持ちで現れた。
声をかけるまでもなく、軍曹は一番初めに俺を見て言う。
「すまない民間人⋯⋯。俺達は市民の救助に向かわなければならない。お前はここで待機していろ。いざと言うときはこれを運転して──」
「俺も行きます!」
言葉を遮るのが失礼に当たるのはわかっている。でも言わずにはいられなかった。
「俺は戦えます!足手纏いにはなりません!ですからどうか!」
基地を離れる際に軍曹は言った。家に着くまで俺を前戦に投入するのは控える、と。
俺が軍曹の立場だったら、きっと同じことを言うだろう。だが、理解は出来ても納得するのは不可能だ。
基地の時とは違う。今回襲われているのは抗う力のない人々。誰かが護らなければならない存在だ。
そして俺は民間人で、護られる側の人間であるのは否定しない。
けれどもう俺には力がある。奴らを倒した経験だってある。
だったら俺が戦ったっていいはずだ。護ったっていいはずだ。
「お願いします!一緒に行かせてください!!」
腰を直角に曲げて誠心誠意頼み込む。
顔は見えなくても、軍曹の表情が厳しいものに変わっていくのが気配でわかる。
強い言葉が返ってくることを考慮し、心の準備をしておく。そして未だ繰り返される通信の中、車内を支配する沈黙に耐えることしばし。
頭上で小さな溜息が漏れたのが聞こえた。
「軍曹、今はまた非常事態ですし⋯⋯」
「それに、こいつはもう立派な戦士だと思いますよ?」
「そうだそうだ。地下で助けてもらったってのに今さら何言ってんだよ」
「はぁ⋯⋯お前達なあ⋯⋯」
恐る恐る頭を上げれば、部下三人が此方の味方となって軍曹を説得していた。
状況は違えど、地下で一度見た構図だった。
「⋯⋯⋯⋯仕方がない、遅れるなよ民間人!」
「⋯⋯!!はい!!」
そして結末も同様、軍曹は認めてくれたのだった。
「総員戦闘準備に入れ!全員が装備の点検を完了次第直ちに街へ突入する!!」
「「「「了解!!」」」」
腹から返事をした後、俺達は各々準備を始めた。
──────────
『怪物を攻撃しろ!被害の拡大を防げ!』
軍曹から渡された無線機からは、先ほどからずっと同じ声が聞こえている。おそらく司令官なのだろうな、と頭の隅で考えつつ、一日ぶりに手にしたブラストホール・スピアとディフレクション・シールドの感触を確かめる。
(⋯⋯これは)
何度か握って離してを繰り返していると気づく。
明らかに昨日よりも手に馴染んでいる。まるで長年戦場を共にしてきたかのような錯覚を抱くほどに。
腕の振り幅に準ずるスピアの威力。射程。軌道。反動。隙。二発目までの時間。増加する破壊力。残弾数からリロード時間まで。
槍を放つ際に伴う様々な要素が克明に把握出来る。盾に関しては一度のずれまで調節可能だと思われた。
(どう、いうことだ⋯⋯?)
こんなの、どう考えても異常でしかない。
たかだか半日程度戦場を駆けただけでこうまで感覚が浸透するとは考え難い。
たとえどれだけの才能があったとしても、精々狙いが正確になる程度のものではないだろうか。身体の一部のように操れる、なんて誰が信じるのか。軍曹達に話したところで、何を馬鹿なと笑われるはずだ。自分でも、絵物語としか思えないのだから。
下手をすれば頭や精神状況を疑われ、前線から外されかねないので黙っているが。
(でも⋯⋯)
俺はそんな自分を気味が悪いとは思わない。というよりむしろ歓迎する。
何せ、これならより多くの敵を葬れる。より多くの人を救える。
嫌悪する理由は見当たらなかった。
「司令本部。此方ベース228所属の碇軍曹。要請を受け救援に来た」
『なに!?碇軍曹か!』
辿り着いた街のはずれで車から降り、軍曹が所属と名前を述べると司令本部の人は顕著な反応をした。その声音には驚愕は勿論のこと、喜色も多分に含まれている気がする。
(やっぱり、軍曹って有名人なのか?)
基地では出会う人出会う人が皆、碇軍曹を知っていた。だがあそこは元より軍曹の職場。だから顔が広いのではなく、同僚故に知っているのは当然なのかもと深く考えなかった。
しかし、司令本部の人にまで覚えられているとなると話は変わってくる。
あれだけの才を持つ軍曹を、実力主義を謳うEDFが地方の基地へ置いておくのは不可解極まりない。もしかすれば、何か複雑な事情があるのかもしれないが、踏み込もうとは思えなかった。
誰にでも秘密の一つや二つはあるものなのだから。
『君がいてくれるのは心強い。事態は一刻を争う。被害者を一人でも多く減らすために力を貸して欲しい』
「了解した。だがどうする、市民の避難を優先するか?」
軍曹が銃を構えたので余計な思考は排除して、面前に広がる地獄へ目を向ける。
山を越えたとはいえ、都心からは程遠いこの街には高い建物が少ない。あっても五階建てが精々であり、故にここから破壊すべき標的が目視出来る。
怪しく輝く塔は三本。落下したのも三本らしいので、あれらを壊せれば怪物の増殖は止められる。
「うわあぁぁぁぁぁ!!!」
「助けてええぇぇぇ!!」
しかし、既に多数の怪物が出現してしまっている。更には塔の落下により建物が倒壊し、火災が発生している地点もあるようだ。
恐慌状態に陥った住民達が津波となって押し寄せ、現場は戦闘どころではない。流れ弾が住民に当たる可能性が高すぎる。
軍曹が避難を優先するかと訊いたのはこのためだ。
『いや、君達の役目は一匹でも多くの怪物を倒し、塔を破壊することだ。避難や救助は警察と消防が請け負ってくれた。ここは彼らに任せ、前進しろ。他の部隊は既に戦闘中だ。まずは彼らとの合流を目指してくれ』
「⋯⋯了解だ」
無線を切った軍曹が振り返り、背後に控えていた四人に言葉をかける。
「聞いたな?我々の仕事は怪物の殲滅及び塔の破壊、部隊との合流だ」
「おいおい、戦争でも始まったってのか?」
「奴ら、本当に街を攻撃してるのか!?」
「ここにいるのは民間人だぞ!?危害を加えるなんて正気じゃない!」
東郷さんは諦めたように、空閑さんと流川さんは顔を青くして、信じられないとばかりに声を掠れさせる。
「我々は戦うしかない!市民を護るぞ!!」
そんな嘆かわしい状況でも、軍曹は毅然とした態度を崩さなかった。
「やるっきゃねえよなぁ!!」
「ちくしょう!やってやる!!」
「ちいっ!援護は任せてください!」
「俺が先陣を切ります!!」
意図して大声を上げ皆と自身を鼓舞し、昨日同様ブースターを吹かそうとしてふと思い出す。
パワードスケルトンは車と同じ。一村さんが教えてくれた注意事項だ。
この場でダッシュすれば、確実に周りの人を巻き込む。護るべき対象を自らが傷付けるなど本末転倒だ。
俺は仕方なくゆっくり慎重に足を進め、人と距離を保ちながら前へ進む。見かねた軍曹達も手を貸してくれて、漸く人混みから抜ける。
「っ!?」
鮮明になった視界に放り込まれたのは、あまりにも耐え難い惨状だった。
街を抜ける国道は自動車数台が絡んだ事故により道が塞がれ、通勤ラッシュの時間帯だったこともあり大渋滞が起きていた。先程すれ違った市民達の半分は車を放棄した人だろうと思われる。
その事故現場の先、燃え盛る業火の中から絶え間なく姿を現す黒い死。
奴らは逃げ遅れた人々を見つけるや否や、持ち前の敏速性を最大限に活かして接近。数メートルまで接近されてしまえば、余裕のない一般人に奴らの攻撃を回避するなんて不可能だ。
牙に捕らえられた人は、頭から、腕から、腹から、足から。貪り食われて鮮血を散らす。酸を浴びた人は、原型すら留めることなく溶けたアスファルトと同化している。
避難誘導に当たる警察にも、消火活動に勤しむ消防にも、奴らは人間であれば無差別に襲いかかり死を振り撒いている。
中には車ごと溶かされたと思われる残骸もあった。
基地での被害ですら相当なはずだったのに、ここはそれが霞むほどの犠牲者が出ていた。
「射撃開始ぃぃ!!一匹残らず殲滅しろぉっ!!」
軍曹の号令により、俺以外の全員が一斉掃射。銃弾は的確に敵を貫き、一つの弾倉が尽きるまでに三十近くが葬られる。ほぼ同じタイミングで四人はリロードに入り、その隙を埋める形で俺はレバーを握りしめ、突進する。
停止した車を避けながら、距離が縮むに連れて火で熱された生温い空気が肌を撫で、立ち込める黒煙が鼻をつく。
ただ、そこには嗅いだことのない臭いも混じっていた。
建物が焼けるそれと合わさって感じる不快な香り。削られたアスファルトからも放たれているのを考えると、正体には大凡の予想が立つ。
(人の⋯⋯焼ける臭い⋯⋯)
そうとわかってしまっただけでも気分が悪いのに、止めと言わんばかりに飛散した血肉の異臭も加われば、俺の胃は限界寸前にまで追い込まれた。
「ぅっ、く⋯⋯」
もしここが臭いの充満する屋内であったら、今頃耐えきれず戻していただろう。
唾を何度も飲み込むことで込み上がる吐き気をなんとか抑えながら、俺は状況に集中しようと歯を食いしばる。
「すぅー⋯⋯ここは危険です!!動ける方は今すぐ避難してください!!」
煙に気をつけながら深呼吸を一つ挟んで、車の影や、路地の入り口で動けなくなっている人達に向け、出来るだけ自力で避難してもらおうと声をかける。
攻撃態勢に入っていた個体は初手で軒並み沈んでいる。ならば俺の役目は市民の避難を促しつつ、雪崩来る黒の勢いを削いで、彼らが逃げ果せるまでの時間を稼ぐこと。
しかし怪物達は此方の事情などお構いなしだ。何がそんなに憎いのかはわからないが、余程人を殺したくてたまらないらしい奴らは、みるみる距離を詰めてくる。
二日目にしてもはや見飽きた光景に嫌気が差すも、みすみす此処を通す訳にはいかない。
逃げ場の少ない閉鎖空間とも、駄々広い開放空間でもない初めての市街戦。
市民への誤射。建物への損害。物陰からの奇襲。気に止めておく点は多い。
だがだとしても、やるべきは同じ。奴らを殺す、ただそれだけだ。
「てめえら、絶対に許さねえぞ!!」
俺は激情を乗せ、大きく左腕を振りかぶった。
というわけで、ほぼ戦闘がありませんでした!戦闘描写入れると長くなりすぎてしまいそうだったので、ここで一端区切りです。
しかしなんともまあ話が進みません。妹ちゃん視点を挟んだ影響によりまだ二日目という現実⋯⋯。
違和感がない程度にペースを上げていきたい!(願望)