ポケットモンスター 遥かなる高みへ 作:色即是空
先鋒戦の相打ちにより、両者残り5体。
だが、フィールドに居座る『ステルスロック』の岩片と『どくびし』の棘が、カグヤ側の対戦席を物理的にも心理的にも圧迫していた。次にどのポケモンを出そうとも、登場の瞬間にダメージと「どく」状態が確定する。
「……恐怖に足が止まったか。合理的判断だ、出さなければ傷つかないからね」
ディランが淡々と2体目のボールを投げ入れる。「来い、サザンドラ」
禍々しい咆哮と共に、三つの頭を持つ凶悪な竜が宙に躍り出た。マホロバの闇を体現したかのような圧倒的な威圧感。
「足が止まった? 誰がよ。――頼むぞ、ルカリオ!」
カグヤが放ったボールから飛び出したのは、なんとカグヤのもう一体の本陣、エースのルカリオだった。
観客席から「おおっ、ここでルカリオを前倒しで投入か!?」と歓声が上がる。ルカリオが着地した瞬間、バキバキと音を立てて『ステルスロック』の岩がその身体を削り、足元の『どくびし』が紫色の煙を上げる――。
だが、ディランの漆黒の瞳は、その光景を極めて冷徹に見つめていた。
「……ルカリオの重量にしては、地面の踏み込みが僅かに浅い。着地音の周波数も、本物の鋼の肉体のそれとは違う。――サザンドラ、『あくのはどう』。そこの幻を消せ」
「なっ……!?」
カグヤが目を見開く。
サザンドラの放った漆黒の衝撃波がルカリオを直撃した瞬間、ガラスが割れるようにその姿が書き換わった。現れたのは、ルカリオに化けていた、マホロバで仲間になった小さなゾロアだった。
特性『イリュージョン』。カグヤは相性補完を狙ってサザンドラの超能力技を無効化するつもりだったが、ディランはゾロアの幻影を秒単位の計算で完全に見破っていたのだ。
「ぐっ、ゾロア……!」
どくびしの紫色の毒に侵され、サザンドラの攻撃をモロに食らったゾロアは、息を荒くして倒れ込む。しかし、ゾロアの目はまだ死んでいなかった。カグヤと目が合う。マホロバの冷たい街並みで孤独に泥にまみれていた自分を、家族として受け入れてくれたカグヤのために。
「ただじゃ起きねえよな。ゾロア、やっちまえ! 『おきみやげ』だ!」
ゾロアは不敵に鳴くと、自身の残るすべてのエネルギーを呪いの黒い霧に変えてサザンドラへと放ち、そのまま戦闘不能となった。黒霧を浴びたサザンドラの攻撃力と特攻が、ガクリと大幅に低下する。
「命を賭した能力低下か。だが、交代すればリセットされるだけの無駄な足掻きだ」
ディランはサザンドラを一度引っ込めようとする。
「リセットなんかさせるかよ! 罠を踏み抜いてでも、お前のその余裕をぶち割る! ――出てこい、カメックス!!」
ドガァァァン!! と凄まじい地響きを立てて、カグヤが送り出したのは巨大な重戦車、カメックスだった。
もちろん、登場した瞬間に『ステルスロック』の岩片がその頑強な甲羅を叩き、足元の『どくびし』によって、カメックスの青い皮膚がじわじわと禍々しい紫色に染まっていく。
ゼニガメ時代にマホロバで出会い、進化後はその圧倒的な大質量でカグヤの盾となってきたカメックス。バトル中に新しく「どく」状態にされ、ターンが経過するごとに体力が確実に削られていく最悪のコンディション。
「サザンドラを引かせる暇は与えねえ。カメックス、どくの痛みを根性で耐えろ! 『ハイドロポンプ』!!」
「カメェェェーーッ!!」
カメックスは毒の激痛に巨大な顔を歪めながらも、ガシィッと太い足でフィールドの床を踏み締めた。その背中の二門の巨大砲台から、スタジアム全体の空気を震わせるほどの激流が、引っ込もうとするサザンドラの後ろ、ディランの本陣に向けて放たれる!
状態異常で削られながらも、一歩も引かない重戦車の意地。
データという冷徹なハメ盤面の上で、カグヤとマホロバの相棒たちの、泥臭い反撃が本格的に狼煙を上げた。