ポケットモンスター 遥かなる高みへ 作:色即是空
「サザンドラ、そのまま受けろ! 『りゅうの波動』!」
ディランの冷徹な声が響く。引っ込み際を完全に狙われたサザンドラは、カメックスの放った超高圧の『ハイドロポンプ』を真っ向から浴びせられた。ゾロアの『おきみやげ』で火力が落ちているとはいえ、サザンドラ自身の耐久と相性で強引に耐え凌ぎ、口から凶悪な竜のエネルギーを撃ち返す。
ドガァァァン!!!
「カメックス!」
カグヤの叫び。フィールドの『どくびし』による猛毒が、ターンの経過とともにカメックスの体力を凄まじい速度で奪っていく。サザンドラの猛攻と毒のダブルパンチに、巨体が激しく揺らいだ。
「……計算通りだ。その巨体では猛毒の回る速度も速い。次の1ターンで君のカメックスは機能停止する」
ディランが淡々と告げる。
「機能停止だと? ふざけんな、こいつの根性を舐めるなよ! カメックス、持てる力全部ぶち込め! 『こうそくいどう』からの『ロケットずつき』だ!!」
「カメェェェーーーッ!!」
カックスは紫色の汗を飛び散らせながら、魂の咆咆を上げた。ミナモシティで生きるか死ぬかの瀬戸際でカグヤと出会い、「不揃いな家族」の盾となることを誓った重戦車。猛毒の激痛すらも推進力に変えるかのように、その巨体が信じられない速度で加速する。
シェルインの体勢から、サザンドラの胸元へ目にも留まらぬ速さで激突した。
ズドォォォォォン!!!
「なっ……!?」
ディランの目が驚愕に見開かれる。
強固な一撃を叩き込み、サザンドラを巻き添えにする形で相打ちに持ち込んだカメックス。だが、その限界を超えた反動と猛毒のダメージにより、カメックスもまた静かに膝をついた。
「サザンドラ、カメックス、共に戦闘不能!」
審判の声が響く。
カグヤ側はこれでヒノヤコマ、ゾロア、カメックスの3体を失い、手札は残り3体。対するディラン側はナットレイとサザンドラの2体を失い、残り4体。依然としてカグヤが数で下回る圧倒的劣勢のまま、バトルは後半戦へと突入する。
「よくやったカメックス。最高の盾だったぞ」
カグヤは相棒をボールへと労い、戻した。しかし、カグヤ側のフィールドには未だ『ステルスロック』と『どくびし』が居座り続けている。次に誰を出しても、無傷ではいられない。
ディランは眉一つ動かさず、3体目のボールを静かに投げ入れた。
「……出てこい、ギルガルド」
現れたのは、不気味な輝きを放つ鋼の盾と剣。戦況に応じて攻守を切り替える、ディランの盤面管理の要だ。残り数で勝るディランは、さらに強固な陣形を敷いてカグヤを圧殺しにかかる。
「じわじわ削るチェスはもう終わりだ。――お前の番だ、ルカリオ!」
カグヤの声に呼応し、ついにカグヤの絶対的な本陣、実家の庭からの生え抜きであるルカリオがフィールドに降り立った。
着地した瞬間、バキバキと『ステルスロック』の岩片がその肉体を削り続ける。
だが、ルカリオの鋭い瞳は、目の前のギルガルドを冷徹に見据えたまま、1ミリもブレていなかった。幼い頃から庭で泥まみれになり、父さん譲りの熱量と、カグヤの「オン」の波導と共に戦い抜いてきた本物の相棒。
「ルカリオ、挨拶代わりだ! 『しんそく』!!」
カグヤの波導がルカリオに伝播する。ルカリオの身体が光の帯となり、ギルガルドが防御態勢(シールドフォルム)を取るよりも速く、その間合いを完全に消失させた。
しかし、ディランの口元が、わずかに歪んだ。
「読めている。『キングシールド』」
ルカリオの拳がギルガルドの盾に触れる直前、ディランの完璧な予測に基づく絶対的な防御障壁が展開される。ルカリオの『しんそく』の踏み込み速度、その最高速に達する「死角」のタイミングを、ディランはデータから完璧に逆算していた。
このまま盾に触れれば、ギルガルドの王の盾によってルカリオの攻撃力は大幅に低下させられ、完全にディランのハメパターンにハメ込まれる――。
「しまっ……! 攻撃力が下げられる……!?」
客席のシオンが悲鳴を上げる。
データが野生の神速を完全に捉えた。残り数4対3の絶望的な状況下、マホロバの「絶対的な影」の牙が、カグヤの本陣へと冷酷に突き刺さろうとしていた。