ポケットモンスター 遥かなる高みへ   作:色即是空

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絶対的な影、最強の壁

 スタジアムを白く染めるほどの火花。超高速で繰り出されるメガハッサムの『バレットパンチ』が、メガメタグロスの巨体を激しく打ち据えていた。一撃ごとに重い金属音が響き渡り、エリート観客たちで埋め尽くされた客席から、信じられないものを見るような悲鳴が上がる。

「信じられん……! 演算速度で勝るはずのメガメタグロスが、完全に力負けしている……!?」

 シオンが端末の数値を凝視しながら叫んだ。

「違うよ、シオン!」ナオが身を乗り出して拳を突き出す。「あれはただの力任せじゃない。兄貴とハッサムが実家の庭で、何千回、何万回と繰り返した『チャンバラ』だ。相手の拳が動く前に、筋肉のピクつきだけで軌道を見切って先手を叩き込んでるんだ!」

 データが弾き出す「最適解」よりも速い、野生の反射と執念の結実。

 しかし、ディランはどれほどエースが乱打されようと、その漆黒の瞳の光を失っていなかった。メタグロスの4つの脳が、ハッサムの拳の軌道を、その破壊力を、そしてハッサム自身の肉体の「限界値」を、冷酷に逆算し続けている。

「……確かに驚異的な肉体言語だ。だが、これほど高密度の連続攻撃、君のハッサムの駆動系(スタミナ)が持つはずがない。それに、忘れては困る」

 ディランの指先が、スッと前に突き出された。

「僕のメタグロスは、エスパータイプでもある。――『サイコキネシス』、至近距離から全方位に展開しろ」

「キィィィン……!」

 メガメタグロスの赤い瞳が禍々しく発光した。

 バレットパンチの猛撃をその身に受けながらも、メタグロスは至近距離から目に見えない超能力の質量兵器を、全方位に向けて爆発させた。

「ハッサム、耐えろ! 根性でブチ抜けぇぇぇ!!」

 カグヤの絶叫と同時に、ハッサムが最後の力を振り絞ってハサミを突き出す。

 

 ドゴォォォォォン!!!

 凄まじい衝撃波がフィールドのコンクリートを完全に粉砕し、スタジアム全体を激しい砂煙が覆った。客席全員が息を呑んで見守る中、ゆっくりと霧が晴れていく。

 そこに立っていたのは――両者だった。

 メガハッサムの全身からメガシンカの光が剥がれ落ち、通常のハッサムの姿へと戻っていく。その膝が、激しい金属音を立てて床についた。それと同時に、ディランのメガメタグロスもまた、鋼鉄の装甲の至る所にハッサムが刻み込んだ亀裂から激しく火花を散らし、巨体を傾かせて砂煙の中に崩れ落ちた。

「メタグロス、ハッサム、共に戦闘不能! よって相打ち!!」

 審判の声が響き渡る。スタジアムが、どよめきに揺れた。カグヤの実家組の本陣が全滅したと同時に、ディランの絶対的な王もまた、完全に盤面から消し飛ばされたのだ。

「ハッサム、お疲れさん。お前のおかげで、最高の舞台が整ったぜ」

 カグヤは静かにハッサムをボールへ戻すと、ふっと息を吐いて対戦席を見据えた。

 これで互いの残る手札は、正真正銘の「1対1」。

 

 ディランは沈黙していた。戦闘不能となったメタグロスを無言で引き戻すと、その指先が、怒りとは違う「不快なノイズを排除する」ような冷たさで、最後の一体のボールへと伸びる。

「……計算外の連続だ。僕の誇るシステムが、これほど泥臭く崩されるとはね。だが、これで君の『実家の庭』とやらの遺産はすべて底をついた」

 ディランの目が、カグヤの頭の上へと向けられる。

「カグヤ。君の手札は……事実上のゼロだ。残されたのは、バトルフィールドに一度も立ったことのない、その頭の上の愛玩動物(ウパー)だけ。対する僕の最後の一体は、君たちを文字通り跡形もなく消し去る仕様になっている」

 ディランが放った最後のボールから現れたのは、周囲の光をすべて吸い込むような、漆黒の漆黒の影――ダークライだった。

 フィールドに降り立った瞬間、ダークライは不気味な咆哮を上げ、自らの能力を限界まで引き上げる『わるだくみ』を即座に展開。スタジアム全体が、息が詰まるほどの圧倒的な闇のバフオーラで満たされていく。

 スタジアムの巨大スクリーンに、カグヤの頭の上でガタガタと震えている小さなウパーが映し出された。

 ダークライが放つ、文字通りスタジアムを押し潰すような圧倒的なプレッシャー。ウパーはそのあまりの恐ろしさに涙目を浮かべ、カグヤの髪の毛に顔を埋めて、今にも逃げ出そうとしがみついている。

「観客も、僕のデータも、これを『試合』とは呼ばない。これが現実だ、カグヤ。最後の一体を場に出した瞬間、完璧に調整された僕のエースが、その小さな命を盤面ごと踏み潰して終わる」

 ディランの冷徹な言葉が、スタジアム全体を静まり返らせる。誰もが、カグヤの進撃はここで終わったのだと確信した。

 

 だが、カグヤは笑っていた。

「愛玩動物? 現実? ハッ、お前、本当に何も分かってねえな」

 カグヤは頭の上のウパーを、大きな両手でそっと包み込んだ。カグヤの手のひらから、温かく、そして力強い「オン」の波導が、震えるウパーの身体へとゆっくりと流れ込んでいく。

「こいつはマホロバに来てから、俺が一番甘やかして、一番可愛がってきた、俺の最高の『家族』だ。――行くぞ、ウパー。お前の大金星を見せてやれ!!」

「う、うぱぁっ……!」

 カグヤの手から離れ、ついにバトルフィールドへと降り立つウパー。

 完璧なバフを積んだ漆黒の怪物に対し、あまりにも小さく、頼りない最後の希望。マホロバチャンピオントーナメント決勝戦、運命の最終局面――正真正銘、ラスト1体同士の奇跡が、今幕を開ける。

 

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