ポケットモンスター 遥かなる高みへ 作:色即是空
アサメタウンの大歓声
カロス地方、アサメタウンにあるカグヤの実家のリビング。優雅な元カロスクイーンの休息地であるはずのその部屋は、今や完全に熱狂的なスタジアムの特等席と化していた。
大型テレビの画面に映し出されているのは、マホロバ中央スタジアムの決勝戦。カグヤのウパーが傷だらけになりながらも、ディランのダークライが放った渾身の『あくのはどう』を真っ向から受け止め、特性『てんねん』と執念の『ミラーコート』でその悪意を丸ごと倍返しに粉砕した瞬間――。
『だ、ダークライ戦闘不能……! 勝者、挑戦者・カグヤ!!!』
画面の中で実況が絶叫し、金色の紙吹雪が舞い散る。その瞬間、テレビの前を陣取っていたカグヤの手持ちたちが、一斉に爆発した。
「ガルゥゥゥァァァーーーッ!!!」
普段は冷静なはずのカイリューが、一番に巨体を震わせて咆哮した。嬉しさと興奮のあまり、リビングの天井に頭をぶつけそうになりながら翼を激しく羽ばたかせる。あの日、カロス準々決勝のベンチで、ハッサムやルカリオ、ゲッコウガが倒されるのを指をくわえて見ている事しかできなかった悔しさが、主の戴冠によって最高の歓喜へと昇華した瞬間だった。
「コウッ! コウッ!!」
滝のような噴水の影から飛び出してきたゲッコウガは、テレビの前で鋭く拳を突き出した。あの日、最後の大将メタグロスの拳の前に力尽きた絶望を、一時も忘れたことはない。だが今、画面の向こうでカグヤが黄金の波導を練り上げ、新しい相棒であるウパーたちと共にテッペンを獲った。ゲッコウガは主との距離を超えた「波導の共鳴」を全身に感じ、その身体から歓喜のオーラを静かに爆発させていた。
ブンブンブンブン!! と部屋の空気を引き裂くほどの超高速で飛び回っているのはスピアーだ。あの日、フルバトルであれば自分がメタグロスの喉元を貫けたはずだと信じ、絶対の回避を磨いてきた。スピアーはテレビの画面に映るカグヤの顔に向かって、まるで「俺たちもすぐにそっちへ行くぞ!」と誓うように、その鋭い双針を何度も突き出して湧き立っている。
「ジュカァッ!!」
庭の隅からダッシュでリビングに滑り込んできたジュカインは、弱点である「炎」や「鋼」をブチ破ったカグヤの泥臭い大逆転劇に、興奮を隠しきれずに『リーフブレード』の光を両腕に灯して吠えた。あの日、3強が相性の壁に泣いたのを見ていたからこそ、主の勝利がどれほど規格外の執念によるものか、誰よりも理解していた。
「ブラッ!!」
窓辺で静かに構えていたブラッキーまでもが、この時ばかりは尻尾を激しく振り、その身体のリングをかつてないほど神々しく輝かせてテレビに駆け寄った。ハッサムやルカリオが崩れた時、最後の一線として主を護り抜くための鉄壁を磨いてきた彼にとっても、この大金星は血が沸き立つ以外の何物でもなかった。
「……カグヤがいない間も、この子たちの瞳からは全然火が消えないわね。ううん、カグヤが優勝したことで、もっと激しく燃え上がっちゃったみたい」
ソファーの後ろから、セレナが心配そうに、しかし誇らしげに笑って彼らを見つめていた。
彼女の傍らには、カグヤが実家に預けていった精鋭たちが、お互いの背中を叩き合い、咆哮を上げながら喜びを爆発させている。
「カグヤのやつ、本当にやりやがったな! ウパーのミラーコート、最高に泥臭くてカグヤらしかったぞ!」
サトシが我が事のように満足げに大笑いし、隣にいる相棒の肩を叩いた。
「ピカピカァッ!!」
数多の神話を終わらせてきた世界最強のピカチュウもまた、テレビの中のカグヤとウパーに向かって、祝福の小さな電撃をパチパチと放って嬉しそうに鳴いている。
「あの日、リングの外で見ていたカロスリーグ・ベスト8の悔しさが、こいつらをここまで強くした。カグヤ、お前がマホロバで新しい絆を見つけている間、こいつらも自分の弱さと向き合って、完璧に牙を研ぎ澄ませてたぞ」
サトシは興奮冷めやらぬカロス組のポケモンたちを見渡し、不敵に笑った。
「よし、お前ら! カグヤが呼んでるぞ。マホロバのチェス盤を、今度はお前たちの牙で噛み千切りに行く番だ!!」
「ガルゥゥァッ!!」「コウッ!!」「ジュカァッ!!」
アサメタウンのリビングに、地を揺るがすような咆哮が響き渡る。
主がマホロバのテッペンを獲った。ならば、次は自分たちがその盤面へ殴り込み、世界を獲るための最強の手足となる番だ。テレビの前で湧きに湧き、闘志を完全補填したカロス組の飢えた瞳が、遥か彼方の主の元へと真っ直ぐに向けられていた。