ポケットモンスター 遥かなる高みへ   作:色即是空

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新たな号砲、それぞれのパートナー

 マホロバのチャンピオン宿舎に、その報せが届いたのは翌朝のことだった。

 リビングの大型モニターに映し出されたのは、世界ポケモンバトルマスターズ委員会による緊急記者会見の模様である。画面の奥で、厳格な面持ちの理事がマイクに向かって毅然と告げていた。

『各地方の伝統的な絆と野生のバトルか、あるいはマホロバに代表される最先端のデータシステムか。新時代における最強の定義を決めるべく、全世界の現役チャンピオン、四天王、それに準ずる最高峰の頭脳と武力を一堂に集める。これより、ワールド・チャンピオンズ・トーナメント――WCTの開催を宣言する』

 総勢六十四名。世界中の化け物だけを集め、八つのブロックに分けて総当たり戦を行う超過酷な予選リーグ。同地方の選手は均等に分散されるため、カグヤは「マホロバ地域枠」として単身、異郷の強豪たちがひしめくブロックAへと叩き込まれることになる。

 

「……面白い大会が始まるね」

 カグヤはソファに深く腰掛けたまま、静かに、けれどどこか楽しげに口元をほころばせた。

 その肩の上では、ウパーが「うぱっ?」とモニターを不思議そうに見つめている。

「驚いたわね。ディランを破ったあなたのデータが、世界にパラダイムシフトを起こさせた。完全に世界から標的にされた格好よ、カグヤ」

 シオンが手元の端末を高速で叩きながら、冷徹な、しかしどこか興奮を隠せない声で言った。

「各地方の招待選手リストを弾いたわ。カロス、シンオウ、ガラル……どこを見ても化け物しかいない。当然、あのアランも別ブロックにいる。予選を全勝で勝ち抜かなければ、あの天井には届かないわよ」

「望むところだよ。あの方を引きずり下ろすために、俺たちはカロスからここまで走ってきたんだからね」

 カグヤが静かに立ち上がると、その背後からナオが拳を握りしめて前に出た。

「兄貴! だけど、WCTの公式ルールは『登録は十二体、その中で手持ち六体制限』だ。今の兄貴の陣営は、カロスから合流した五体も含めて全部で十一体。手持ちはどうする?」

「ボックスのシステムに無機質に転送するなんてこと、俺の性分には合わないからね。――シオン、ナオ。俺の家族を、分散して預かってほしいんだ」

 カグヤの丁寧な、けれど揺るぎない言葉に、二人は息を呑んだ。

 バトルの登録状況や対戦相手の相性に応じて、常に手持ちを入れ替えるローテーション戦略。ウパーはバトルには出さず、カグヤの隣で戦いを見届ける象徴とする。そのため、鉄壁の『ブラッキー』と『カメックス』、そして幻影の『ゾロア』をシオンに。苛烈な『ヒノヤコマ』と癒しの『ウパー』をナオに。それぞれパートナーとして託すのだ。

「私たちが、あなたの戦力を預かる……。面白い試みね。あなたのブラッキーとカメックス、それにゾロア。物理・特殊を問わない鉄壁の防御値に、ゾロアの純粋な幻影による攪乱(かくらん)が混ざり合う。これは私のデータ解析にとっても、最高に知的好奇心を刺激される盤面だわ」

 シオンは瞳を鋭く光らせ、すでに脳内で新しい鉄壁と不確定要素の数式のシミュレーションを始めていた。

「ぞ、ぞらぁ……」

 カグヤの足元にいたゾロアが、シオンを見上げてちょこんと頭を下げた。夜話の時の恐怖心がまだ少し残っているのか、少し緊張気味ではあったが、シオンの指示にしっかり従おうとする、とても素直で健気な瞳をしていた。シオンもその様子を見て、ふっと目元を和らげる。

「僕がヒノヤコマとウパーを!? 任せてよ兄貴! 世界大会の激戦にいつでも兄貴が呼び戻せるよう、僕のナエトルとエアームドと一緒に、責任を持って最高のコンディションに仕上げてみせる!」

 ナオもまた、自身のパートナーたちのボールを握りしめ、熱く胸を叩いた。

 

 方針が決まり、カグヤたちはマホロバの最新鋭トレーニングエリアへと移動した。

 広大な疑似自然環境が再現されたフィールドに、カグヤ、ナオ、シオンのすべての手持ちポケモンたちが一堂に会する。

「コウ……」

 月光の夜話を終え、完全に一つのチームとして連帯したカロス組の面々が、静かにその圧倒的な威圧感を放っていた。

その本物の強者の気配(プレッシャー)に、シオンのアリアドスは鋭い肢をピきりと強張らせ、涼しげだったシャワーズすらも、カロス組の放つ濃密な闘気に微かに身構えた。

「ピキィッ!!」

 カグヤの肩から飛び立ったヒノヤコマが、鋭く喉を鳴らして翼を広げる。

 その瞬間、ナオの手持ちである大型の鋼鉄の鳥、エアームドが「ガ、ガァッ……!?」と、この世の終わりかのような情けない悲鳴をあげた。あの極光の断崖で、まだ小さなヤヤコマだったアイツに叩き落とされ、恐怖を刻み込まれた悪夢の記憶。それがさらに進化し、苛烈な闘争心の炎を何倍にも膨れ上がらせて眼前に君臨しているのだ。エアームドは完全に腰を抜かし、ナオの背中へと必死に大きな巨体を隠そうと縮こまった。

「え、エアームド!? どうしたんだよ、お前の方がずっと大きいのに! まだあの時のこと引きずってんのかよ!」

 ナオが慌てて宥(なだ)める足元で、もう一体、怯えに身体を震わせている小さな影があった。ナオのナエトルだ。元々おくびょうな性格のナエトルは、カロス組やヒノヤコマが放つ絶対的な強者の気配に圧倒され、今にも甲羅に頭を引っ込めそうになっていた。

 そこへ、カグヤの足元へ着地したウパーが、短い足でしっかりと地面を踏みしめ、真っ直ぐにナエトルの前へと歩み寄った。

「うぱ! うぱぱーっ!!」

 大きな口を開けて、健気に、優しく語りかけるように鳴いたその声に、ナエトルはハッと目を見張った。

 自分と同じように身体が小さくて、自分と同じようにおくびょうで、恐ろしい怪物たちの前で震えていたはずのウパー。だけどこの子は、あの恐ろしいディランのダークライの悪意を真っ正面から受け止め、カグヤを信じる目だけで耐えきって、チームを勝利に導いたのだ。

 ナエトルの瞳に、猛烈な、そして深いリスペクトの光が宿る。ナエトルは震える足をゆっくりと伸ばすと、ウパーの前に深く頭を下げ、精一杯の敬意を込めて鳴き返した。

 

 その光景を見て、スピアーが天井の梁から静かに羽音を消し、ジュカインは壁に背を預けたまま、新しく加わる「弟分」たちの心の成長を確かめるように、ふっと目を細めた。

「よし、まずは顔合わせとチーム分けだ。シオン、君のデータ戦術の盾として、ブラッキーとカメックスを、そして素直でがんばり屋なゾロアを預けるよ。この子たちの鉄壁と幻影をどう噛み合わせるか、じっくり練り上げてくれ」

「ええ。完璧な『絶望の数式』を作ってみせるわ」

「ナオ、君にはヒノヤコマとウパーを託す。……ほらエアームド、いつまでも怯えていちゃダメだ。ヒノヤコマの空中機動を間近で見て、君もその鋼の翼をもう一枚分厚くしなくちゃ。それからナエトル」

 カグヤはしゃがみ込み、ウパーの隣で少しだけ顔を上げたナエトルの頭を優しく撫でた。

「君のそのおくびょうさは、戦場では『危機を察知する最大の武器』になる。ウパーの背中を見て、君だけの強さを見つけてごらん。ジュカイン、メインはヒノヤコマだけど、この子たちも少し鍛えてあげて」

「ジュカ……」

 ジュカインが不敵に口元を上げ、腕のブレードを微かに発光させた。ナエトルは一瞬ビクッと身構えたが、隣にいるウパーが「うぱっ!」と力強く頷いてくれたのを見て、今度は逃げずに、小さな足に力を込めて鋭い眼光をジュカインへと返してみせた。

「最高のチームだね。――さあみんな、挨拶代わりに、まずは軽く一走りいこうか!」

 カグヤの穏やかな、けれどどこか芯のある号令と共に、不揃いな怪物たち、そしてナオとシオンのパートナーたちが、新時代の戦場へ向けて一斉に地を蹴った。

 マホロバの皮を被ったカロスの狼。その真価を世界に知らしめるための、地獄の修行が、今ここに幕を開けた。

 

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