ポケットモンスター 遥かなる高みへ   作:色即是空

119 / 119
絶望を編む数式

 カグヤたちが荒野のフィールドで獰猛に牙を剥き合わせている頃、隣接する疑似洞窟ステージでは、全く異なる質の『熱』が静かに満ちていた。

「――そこ、左から来るわよ。ブラッキー、カメックス、迎撃態勢」

 ガラス張りの指令席で、シオンは眼鏡のブリッジを指先で押し上げながら、手元のキーボードを冷徹な速度で叩いていた。彼女の周囲には、青白いホログラムの数式と、目まぐるしく変動する幾何学的な三次元グラフがいくつも浮かび上がっている。

 フィールドの薄暗い闇の中、シオンが「仮想敵」として動かす彼女自身のパートナー――アリアドスが、容赦のない速度で『いとをはく』を放ち、空間を網の目で遮断していく。

 だが、その障害物をものともせず、どっしりと最前線に構える巨大な影があった。カグヤから預かった、カメックスだ。

『ガァァァ!!』

 さらにシオンのシャワーズが放った、高出力の『ハイドロポンプ』がカメックスを直撃する。激しい水飛沫が洞窟を揺らしたが、カメックスは巨大な甲羅を少し傾けただけで、世界レベルを想定したその重圧を完全に受け流してみせた。

「素晴らしいわね、その耐久値。マホロバの既存のポケモンのアベレージを優に二十パーセントは上回っているわ。――カメックス、そのまま『てっぺき』。ブラッキー、影に潜んで『つきのひかり』の準備を」

「ブラッ……!」

 カメックスの背後、完全に死角となる位置から滑り出たブラッキーが、全身の輪模様を妖しく発光させる。

 カメックスという圧倒的な盾が盤面を支え、受けた僅かな痛みをブラッキーのサポートと自身の復元力で即座に帳消しにする。シオンの手持ち2体が放つ苛烈な波状攻撃を、カグヤの2体はただその場に佇(たたず)むだけで、完全に無力化してみせていた。

 物理・特殊を問わない、カグヤの誇る完全要塞。

「ええ、完璧よ。カメックスの圧倒的な質量防御で敵の最大火力を信じられない効率で遮断し、ブラッキーの戦術耐久でリソースを枯渇させる……。世界大会のどんなトップランカーだろうと、この二体が並び立つ防衛線を前にすれば、ただ打つ手を無くして絶望するしかないわ」

 シオンの唇が、無意識のうちに歓喜で吊り上がっていく。

 世界大会のために託されたこのポケモンたちのポテンシャルは、シオンがこれまで扱ってきたあらゆる数式を軽々と超越していた。計算通りに進む快感と、計算以上の出力を叩き出す彼らへの畏敬が、彼女の知的好奇心を狂おしいほどに刺激する。

 

「ぞ、ぞらぁ……」

 その時、シオンの足元で、緊張した面持ちで彼女の端末を見上げていた小さな影が、控えめに声をあげた。ゾロアだ。

 怪物たちの前ではいつもぶるぶると震えていた素直なその子は、自分がこの完璧な防衛陣の中で何をすべきなのか、少し不安そうに、けれど一生懸命にシオンの顔を見つめていた。

「あら、ごめんなさい。あなたの出番を忘れていたわけじゃないわよ、ゾロア」

 シオンはキーボードから手を離すと、しゃがみ込んでゾロアの小さな頭を優しく撫でた。

「あなたがこのカグヤのローテーション枠にいる意味は、とても大きいの。この完璧な防衛システムに、たった一つだけ足りないもの……それは『不確定要素』よ」

「ぞら?」

 ゾロアが不思議そうに首を傾げる。

「データ主義の弱点は、一度パターンを解析されると突破口を作られる可能性があること。だけど、そこにあなたの『ばけがく』が加わったらどうかしら。前線に立っているのが、無傷のカメックスなのか、それとも手負いのブラッキーなのか――世界大会の敵に偽りの数式を掴ませて、計算を狂わせる。あなたの素直で純粋な幻影こそが、この二体の鉄壁を世界最強の『檻』へと昇華させる最後の鍵(ピース)なのよ」

 

 シオンの言葉を理解したのか、ゾロアの瞳に、パッと小さな、けれど確かな闘志の炎が灯った。

「ぞらぁッ!」

 力強く頷いたゾロアが、フィールドへと飛び出していく。その身体が淡い光に包まれ、次の瞬間には、先ほどまで対峙していたシオンのシャワーズと全く同じ姿へと完璧に変化してみせた。

「ええ、見事な質量模倣ね。……さあ、次のフェーズへ移るわよ!」

 指令席に戻ったシオンの指先が、再びホログラムの上で踊る。

 世界大会という未知の魔境。そこで出会うであろう異郷の化け物たちを、一歩も通さず、絡め取り、精神ごと圧殺するための「絶望の数式」。

 カグヤの誇る最高峰の盾と幻影の3体が、マホロバの冷徹な頭脳に染め上げられ、静かに、しかし確実に、世界を絶望させるための檻が編み上げられていくのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

俺、サトシになってました(笑)(作者:黒ソニア)(原作:ポケットモンスター)

気がついたらアニポケの主人公:マサラタウンのサトシに転生した平凡な一般人。▼転生憑依したものの、アニポケと全く異なる展開に戸惑ったり、様々なトラブルに遭遇したり……甘酸っぱい青春を送ったりする。▼そんな彼が頑張って『ポケモンマスター』を目指す物語だ。▼作者はポケモンにわか初心レベルなので、ご了承下さい。


総合評価:11099/評価:8.52/連載:105話/更新日時:2026年08月17日(月) 06:00 小説情報

闘携帯獣伝説 サトシ〜何故か憑依していた闇に舞い降りてない天才〜(作者:アルピ交通事務局)(原作:ポケットモンスター)

アニポケのサトシくんに憑依していた男の長い長い人生を賭けた博打な物語


総合評価:6111/評価:7.85/連載:239話/更新日時:2026年06月17日(水) 18:31 小説情報

青き炎のBEACON《道標》(作者:リクライ)(原作:僕のヒーローアカデミア)

私は──『ブラック★ロックシューター』▼ 感情の形を知らない、人の形をした何か。青い炎を宿す瞳と、害すあらゆるものを打ち倒す存在の名前。▼私は──『ブラック★ロックシューター』▼ 怯える少女の心を守るため、彼女の代わりに痛みを引き受け、世界の全てを傷つけ続ける歪んだ鏡に映る自分。▼私は──『ブラック★ロックシューター』▼ 夜の底で挫けた者たちの悲鳴に応え、黎…


総合評価:908/評価:8.1/連載:30話/更新日時:2026年07月24日(金) 21:15 小説情報

サトシ君(転生者)の目指せ、ポケモンマスター!!(作者:DestinyImpulse)(原作:ポケットモンスター)

▼ 転生したのはオリ主でもモブでもなく紛れもなく主人公。▼ 定期的に世界を救わなくてはならない大役を背負いながらも、ポケモンとの出会いと冒険に胸を躍らせる。▼ ▼「通りすがりのポケモントレーナーだ、覚えておけ!ピカチュウ、君に決めた!!」▼「ピカチュウ!!」▼ コレはアニポケ主人公のサトシに転生した少年が、時にポケモンと絆を深め、時に女の子とのフラグを作り、…


総合評価:8199/評価:8.58/連載:65話/更新日時:2026年08月14日(金) 19:33 小説情報

幼馴染にフラれたので旅に出ることにした(作者:イグアナ)(原作:ポケットモンスター)

ポケモンバトルが強い人が好きという幼馴染(オリキャラ)に振り向いてもらうために何年も死ぬほど特訓したけど、その幼馴染が強すぎてポケモンバトルに一度も勝てずに振られてしまったので、すっぱりと諦めた後に旅に出ることにしたお話。▼なお振り向いてもらうために特訓しすぎてとんでもなく強くなっているが、本人にその自覚はない模様。▼※追記1▼何故かこの作品の三次創作を書い…


総合評価:45325/評価:8.82/連載:132話/更新日時:2026年08月13日(木) 17:57 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>