ポケットモンスター 遥かなる高みへ   作:色即是空

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波導の咆哮、聖騎士の落涙

 アコマ・コロシアム中央。ルカリオの掌に収束した波導は、もはや単なる青白い光ではなかった。

 カグヤの深層心理に刻まれた、カロスで待つ家族たちの色彩。ブラッキーの静謐な闇、カイリューの柔らかな琥珀色、ハッサムの硬質な紅――それらが幾重にも重なり合い、虹色に輝く超高密度のエネルギー体へと膨れ上がっている。

「……何というプレッシャーだ」

 アーサーの額を汗が伝う。このアコマシティで自警団を率い、数多の荒くれ者を「正義」の名の下に沈めてきた彼にとって、これほどまで「温かく、重い」圧力は未知のものだった。

「だが、揺らぐわけにはいかん。私の正義は、個の完成によってのみ成される! ボスゴドラ、最大出力の『ギガインパクト』!! 邪な絆ごと、すべてを粉砕せよ!!」

 ボスゴドラが咆哮を上げ、その巨体を銀色の衝撃波へと変えて突進する。大地が爆ぜ、観客席を凄まじい風圧が襲う。

 対するカグヤは、震えるウパーを左腕でしっかりと抱き締め、右手をルカリオと同じ軌道で真っ直ぐに突き出した。

「ルカリオ、みんなの居場所を――俺たちの家族を否定させないんだ!!」

 カグヤの叫びと共に、虹色の波導が解き放たれた。

 

 激突。

 ドォォォォン!! という耳を劈くような轟音。スタジアムの中心で、銀色の質量と虹色のエネルギーが真っ向からぶつかり合い、拮抗する。

「ぐ、うぅっ……!!」

 押し込まれているのは、ルカリオだった。ボスゴドラの「個を律した」爆発的な推進力は凄まじく、波導の光をじりじりと押し戻していく。

「見ろ! これが私の正義、迷いを断った一撃だ! 依存し合うだけの絆に、この重みを止める術はない!」

 アーサーの叫びに、カグヤは歯を食いしばる。

 依存――その言葉がカグヤの胸に突き刺さる。だが、すぐに首を振った。

 依存じゃない。俺たちは、お互いがお互いを信じ切っているから、自分の限界を超えた一歩が踏み出せるんだ。

「……依存じゃない。これは、信頼だ」

 カグヤの瞳が、かつてないほど透明な輝きを帯びる。

「ルカリオ、受け止めるな。包み込め。……カロスのみんな、力を貸してくれ!!」

 その瞬間、ルカリオの波導が「弾丸」から「盾」へと形を変えた。

 ブラッキーの『まもる』のようにしなやかに、カイリューの『しんぴのまもり』のように慈悲深く。迫り来る『ギガインパクト』の暴力的な衝撃を、波導のヴェールが優しく飲み込んでいく。

「何だと……!? 衝撃が、霧散していく……!?」

 驚愕するアーサーの目の前で、ルカリオはボスゴドラの突撃を柳に風と受け流し、その勢いを利用して相手を自身の波導の渦へと巻き込んだ。それは相手を倒すための一撃ではなく、頑なな拒絶を溶かし、家族の輪の中へと招き入れるような抱擁の衝撃だった。

「――これが、俺たちの家族の形だ!!」

 弾け飛んだのは、白銀の鎧だった。

 ボスゴドラの巨体が地面へ崩れ落ちる。スタジアムを支配していた張り詰めた空気は、春の陽だまりのような穏やかな静寂へと塗り替えられた。

「……ボスゴドラ、戦闘不能。勝者、カグヤ選手」

 審判の震える声が響いた。

 

 アーサーは呆然と立ち尽くしていた。完封されたのは、自分の方だった。力でねじ伏せられたのではない。自分の「正義」という名の孤独が、カグヤの持つ「愛」という名の奔流に、浄化されてしまったのだ。

「……お疲れ様。……強い、本当にいいパンチだったよ、ボスゴドラ」

 カグヤは、まだ熱を帯びたボスゴドラの装甲を、労うように優しく撫でた。

「……参った。私の正義は、あまりに狭すぎたようだ」

 アーサーは静かに自らの兜を脱ぎ、初めてカグヤに対して深く一礼した。

「カグヤ。君と、君の家族に……敬意を表する。私の負けだ」

「アーサーさん……」

 カグヤは照れくさそうに頭を掻き、次の瞬間にはいつもの「デレデレ」とした顔に戻った。

「勝ったぞー! ウパー! ルカリオ! よし、今日の夕飯はポケモンセンターのカフェで超豪華なパフェだ!!」

「うぱぁー!!」

 観客席のシオンは、その様子を見て小さく笑みを漏らした。「不合理。でも、悪くないかもしれないわね。絆っていうのも」

 だが、スタジアムの特別観覧席に座り、不敵な笑みを浮かべる一人の男がいた。

 このアコマシティの興行を牛耳る男。彼はカグヤという「異分子」が、この街にどんな波乱をもたらすかを楽しんでいるようだった。

 

 決勝戦。そこには、これまでのライバルたちとは異なる、アコマの「毒」そのものが待ち受けている。

 カグヤとウパーの武者修行。この都市での戦いは、いよいよ最終局面へと差し掛かろうとしていた。

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