ポケットモンスター 遥かなる高みへ   作:色即是空

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アサメタウンのテレビの前で

 

 世界大会『ワールド・チャンピオンズ・トーナメント』の熱戦が繰り広げられているシュートスタジアムから遥か遠く、カロス地方のアサメタウン。豊かな自然に囲まれたサトシとセレナの家のリビングでは、大きめのテレビ画面に、カグヤの勝利の文字と、その直後に起きた前代未聞の「婚約確定劇」が大きく映し出されていた。

「あはは……カグヤったら、バトルではあんなに格好よく逆転したのに、最後は完全にマリアンヌちゃんに押し切られちゃったね」

 ソファに腰掛け、画面の中で顔を真っ白にしている息子を見ながらクスクスと楽しそうに笑っているのは、セレナだった。その傍らでは、ピカチュウが「ピカ、ピカチュウ……」と、どこか同情するような、呆れたような声を漏らしながら木の実をかじっている。

「いやあ、カグヤも大変だな! でもマリアンヌのあのメロメロ戦法をカメックスのあまごいとルカリオの波導で破るなんて、あいつ、本当に強くなったよ!」

 その隣で、息子の「人生の危機」よりも、純粋にバトルの内容に目を輝かせながら拳を握りしめているのは、父親のサトシだった。かつて世界の頂点に就いた男の真っ直ぐな瞳は、今も昔も変わらない。

 セレナはそんな夫の横顔を愛おしそうに見つめながら、ふと、画面の向こうで強引にカグヤの言質を取って微笑むマリアンヌの姿に、遥か昔の「自分たちの過去」を重ね合わせていた。

(……私も人のこと、全然言えないよね)

 

 もうずいぶんと昔のこと。ミアレシティの空港のラウンジで、旅立ちの直前にエスカレーターを駆け上がり、驚くサトシの唇を奪ったあの日のこと。

 周囲の誰もが呆気に取られ、サトシ本人が文字通り頭の処理を追いつかせずにドギマギしていたあの瞬間――あれは、今のマリアンヌに負けず劣らず、自分からの強烈で強引なアプローチだった。

 その後も、サトシの行く先々に半ば「押しかけ女房」のような形で寄り添い続け、彼の鈍感すぎる壁を一つずつ一途にこじ開けていったのは、他でもないセレナ自身だ。ここアサメタウンに拠点を構え、夫婦として共に歳月を重ねてきた今でも、あの頃の情熱は色褪せていない。

 

「サトシ」

「ん? どうしたんだ、セレナ?」

 バトル解説に集中しようとしていたサトシが、不思議そうに振り返る。

「カグヤを見てたらね、なんだか昔の私たちを思い出しちゃって。あの時のサトシも、今のカグヤみたいにすっごくタジタジだったなぁって」

「えっ!? いや、俺は別に、あんなに真っ白には……」

 サトシはバツが悪そうに頬をかき、視線を泳がせた。さすがに当時の自分の鈍感さと、セレナの熱烈なアタックに翻弄されていた自覚はあるらしい。

「でも、いいじゃない。マリアンヌちゃん、カグヤの『お父さんを自らの意志で追い越す』っていう真っ直ぐなところを、ちゃんと見ててくれてるもの。あの子の等身大の良さを分かってくれる人が側にいてくれるのって、一番心強いことだよ」

 セレナが優しく微笑みながらサトシの手を握ると、サトシも少し照れ臭そうに笑い、その手をしっかりと握り返した。

「そうだな。カグヤには、バトルの相手としても、これからの相棒としても、最高の奴らが周りにいてくれる。……よし、俺たちも負けてられないな!」

「もう、サトシはすぐバトルに繋げるんだから」

 テレビの向こうで、未来の嫁に手を引かれてタジタジになりながら歩く息子の行く末を案じつつも、かつての自分たちの軌跡を愛おしく振り返るサトシとセレナ。アサメタウンの穏やかな風が吹くリビングで、二人はカグヤのさらなる躍進を、確かな絆と共に見守り続けるのだった。

 

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