ポケットモンスター 遥かなる高みへ 作:色即是空
ワールド・チャンピオンズ・トーナメント予選リーグ、グループD。
一組4名による総当たり戦、しかし決勝トーナメントへ進めるのは上位わずか1名だけという、文字通りの修羅の舞台。初戦のマリアンヌ戦を大逆転で制したマホロバチャンピオン・カグヤの進撃は、ここからさらに加速していく。
第二戦の相手は、イッシュ地方が誇る四天王にして、凄まじい戦闘力を維持し続ける格闘の達人・レンブ。
カグヤの親世代の時から第一線で戦い、もはや生きる伝説(超人)とも称される強敵が放つ圧倒的なパワーに対し、カグヤはお互いの悔しさを最も深く共有する、古参の相棒をセンターフィールドへと送り出した。
「頼むぞ、カイリュー! マホロバの、僕たちの力を世界に見せてやれ!」
「リュゥゥゥゥッ!!」
スタジアムを震わせる咆哮と共に、カイリューが巨体を爆発させて舞い上がる。
レンブのローブシンが放つ、大地を揺るがす『ストーンエッジ』の猛攻。かつてのカロスリーグなら、その破壊力に圧倒され、立ち往生していたかもしれない。しかし、あの日から今日まで、カイリューは一歩も引かずに己の肉体を鍛え上げてきた。
「耐えてくれ、カイリュー!『りゅうのまい』だ!」
岩石の直撃をその強靭な鱗で強引に耐え凌ぎ、カイリューは激しい砂嵐を切り裂くように鋭く旋回する。能力を限界まで引き上げたその瞳に、もはや焦燥はない。
「一気に決めるぞ!『しんそく』!!」
ドォン!!と音を置き去りにする衝撃波。
超高速の閃光となったカイリューの一撃は、ローブシンの堅牢な防御を正面から打ち破り、スタジアムを大歓声で包み込んだ。出陣を渇望していた古参の、鬱憤を晴らすかのような圧倒的なゲームメイク。カグヤと視線を交わし、カイリューはマホロバチャンピオンの相棒としての誇りを胸に、その拳を天へと突き上げた。
そして迎えた第三戦。たった1枠の決勝トーナメント進出をかけた運命の戦い。相手は、偉大な先代・キクノからその座を引き継いだ、シンオウ地方の新進気鋭の地面タイプ四天王だった。
先代譲りの冷徹な計算に基づく「受けループ」を得意とする超強敵。砂嵐が吹き荒れる中、毒々や回復技を巧みに組み合わせ、じわじわとこちらの体力を削り取ろうとする新四天王の堅牢な要塞。相手のカバルドンとグライオンの絶望的な耐久力を前に、カグヤが絶対の信頼を置いて送り出したのは、同じく暗闇の特訓を生き抜いた漆黒の相棒だった。
「影から仕掛けるぞ。いけ、ブラッキー!」
「ブラァッ……」
音もなくフィールドに降り立ったブラッキーは、相手の繰り出す猛毒などの状態異常戦術を、特性『シンクロ』によってそのままシンオウ四天王のポケモンたちにオウム返しにする。さらに、相手がじれて強力な物理技を放ってきた瞬間、カグヤの鋭い指示が飛んだ。
「今だ! 『イカサマ』!!」
四天王のポケモンの圧倒的な攻撃力をそのまま利用し、漆黒の身体から放たれた強烈なカウンターが、カバルドンの分厚い皮膚を内側から撃ち抜く。
どれだけ泥泥とした持久戦を仕掛けられようとも、ブラッキーの冷静な瞳とタフネスは一切揺るがない。月の光で自らの傷を癒やしつつ、相手の焦りを誘い、影から確実に急所を穿つ。その完璧な試合運びに、観客席のシオンすらも「完璧なコントロールね」と満足げに頷くほどだった。
『――そこまで! グライオン戦闘不能! 勝者、カグヤ選手!!』
審判のフラッグが上がると同時に、スタジアムのスクリーンに「3戦全勝・グループD・1位通過確定」の文字が誇らしげに刻まれた。ジムリーダー、そして新旧の四天王といった各地方のトップランカーたちを完全に捩じ伏せての、文句なしの無敗突破だ。
「やった……! 本当に決勝トーナメントに進めるんだ!」
ナオが興奮のあまり喉を枯らして叫び、カグヤの元へ駆け寄る。フィールドでは、ブラッキーが静かにカグヤの足元に寄り添い、ベンチからはカイリューが我が事のように嬉しそうに翼を広げていた。マホロバチャンピオンとしての強さを、世界に証明してみせたのだ。
しかし、興奮冷めやらぬまま控室へと戻る通路の影――。
「ふふ、本当にお見事どすえ、カグヤはん。……でも、うちの『本番』はここからどす」
振袖の袖で口元を隠し、とろけるような熱烈な視線を送るマリアンヌがそこに待っていた。予選敗退が決まったというのに、彼女の恋の執念はミリ単位も衰えていなかった。むしろ、あのハグの瞬間にカグヤが零した言葉をこれ以上ない追い風にしている。
「あはは……あ、ありがとうございます、マリアンヌさん……。相変わらず、すごい熱気ですね……」
「当然どす。世界中が見てる前で、カグヤはんから正式にあのお言葉をいただいたんどすもの。決勝トーナメント、これからは将来のお嫁さんとして、誰よりも近くで熱いエールを送らせてもらいますえ?」
世界一の栄冠を目指す決勝ステージへの闘志と、逃げ場のない超弩級の猛アタック。カグヤは引きつった笑みを浮かべ、背中に心地よい冷や汗を流しながらも、私生活の防衛線と次の大舞台に向けて、一歩も引かない決意を新たにするのだった。