ポケットモンスター 遥かなる高みへ 作:色即是空
各グループの死線をたった一人で勝ち抜いた、化け物じみた精鋭たち。
予選リーグの全日程が終了したシュートスタジアムのメインホールでは、生き残った猛者たちが出揃い、決勝トーナメントの組み合わせ抽選会が華々しく行われていた。
決勝トーナメントは、総勢16名による完全ノックアウト方式。世界最強の称号を手にするためには、ここからさらに4回、一度の敗北も許されずに勝ち続けなければならない。
マホロバ代表としてこの本戦に名を連ねたのは、マホロバチャンピオン・カグヤ、そしてディランの2人のみ。次々と決定していく名前がトーナメント表を埋めていく中、確定したその全貌に、スタジアムの控室は凍りついたような騒然とした空気に包まれた。
「……嘘、だろ……?」
手元の日程表を落としそうになりながら絶句したのは、ナオだった。
スクリーンに映し出されたのは、もはや「きつ過ぎる」という言葉すら生ぬるい、世界大会の歴史に残るレベルの超最悪・大激戦区の死のブロック。周囲のトレーナーや関係者たちが「なんだこの偏りは……」「ブロックAだけ世界が滅ぶぞ」とガタガタと震え、騒ぎ始めている。
## カグヤの入った『ブロックA』の全貌
1回戦(初戦):
第1試合:カグヤ(マホロバチャンピオン) vs ワタル(カントー・ジョウトの絶対王者)
第2試合:アイリス(イッシュチャンピオン) vs キバナ(ガラルの不屈の最高峰)
2回戦(準々決勝)の想定相手:
アイリス or キバナの勝者
準決勝の想定相手:
アラン(カロスチャンピオン)
決勝(別ブロックからの勝ち上がり想定):
ダンデ(ガラルチャンピオン・世界王者)
「おいおいおい! 1回戦でもう一つのカードが『アイリスvsキバナ』って嘘だろ!?」
「どっちが勝っても次がワタルかマホロバチャンピオンとか、これもう実質マスターズエイトの決勝リーグじゃないか!」
周囲のトレーナーたちが、あまりの過酷さに頭を抱えて声を荒らげる。
カグヤの初戦の相手は、今なお第一線に君臨し続けるリビングレジェンド・ワタル。そこを突破しても、次に待つのはイッシュの竜を統べるアイリスと、ガラルで一時代を築いたキバナの勝者。さらにその先には、メガリザードンXを駆り、父のライバルであると同時に、かつてカグヤ自身の夢を打ち砕いた超えねばならぬ壁――アランが待っている。そして、それらをすべて捩じ伏せた果ての決勝戦で待つのが、あの帝王ダンデ。優勝するまでに戦う4人が、全員かつて世界の頂点を争った、あるいは今なお世界の頂点に座る怪物たちだけで固まっていたのだ。
「な、なんという偏り……! 反対の山にいるディランのブロックは、比較的楽な組み合わせだってのに、どうして兄貴のところだけ『レジェンドクラス』が完全集結してるんだよ!?」
ナオが頭を掻きむしりながら、自分のことのように焦った声をあげる。そこへ、同じく予選を突破し、カグヤの様子を見に来たディランが、肩をすくめながら歩み寄ってきた。
「おいおい、カグヤ。これはさすがに……ご愁傷様、としか言えないな。僕の山がヌルく見えて申し訳ないくらいだ」
「カグヤはん……!」
さらに、カグヤの応援に来ていたマリアンヌが、今にも泣き出しそうな顔でカグヤの袖をぎゅっと握りしめる。
「なんちゅう過酷な悪戯どすか……。いくらカグヤはんが強くても、これだけの猛者たちと連戦なんてお体が持ちまへん! ああ、うちが代わりに戦って差し上げたいくらいどす……!」
ディランからの哀れみの視線と、マリアンヌからの過剰なまでの心配。しかし、周囲のそんな大騒ぎを余所に、当のカグヤ本人は至って平然としたものだった。腕を組んだまま、自然体でただ静かにスクリーンを見つめている。
「……? カグヤ、あなた、驚かないの?」
その様子に少し意外そうな顔をしたシオンが問いかけると、カグヤはふっと小さく笑って肩をすくめた。
「いや、だってさ。どっちにしろ優勝するなら、ここにいる全員を倒さなきゃいけないんでしょ? それが最初に来るか最後に来るかの違いだけだし、何とも思わないっていうか……むしろ、全員と戦えるなら好都合かなって」
「兄貴……」
ナオが呆気に取られたように呟く。カグヤにとっては、相手がレジェンドだろうが、過去に負けた因縁の相手だろうが関係なかった。マサラタウンの英雄である父を「自らの意志で追い越す」と決めたその瞬間から、彼の目に見えているのは、いつだって目の前の相手を捩じ伏せることだけなのだ。
「それにディラン、お前が反対の山で順調に勝ち上がってくれれば、決勝でマホロバ同士の対決ができる。最高じゃん」
「……ハッ、相変わらず大物だよ、お前は。決勝で待ってるぞ」
ディランが不敵に笑って拳を突き出すと、カグヤもそこに自分の拳を軽くぶつけた。
カグヤは顔を上げ、自身のモンスターボールに触れた。ベルトの上のボールたちが、彼の揺るぎない闘志に呼応するように、静かに、しかし熱く脈動する。
「相手にとって不足はなさすぎる。……やってやるよ。まずは1回戦、ワタルさんからだ!」
周囲の喧騒を置き去りにして、カグヤの瞳には静かな炎が宿っていた。世界を震撼させるあまりにも過酷な4連戦、その最初の幕が、いよいよ上がろうとしていた。