ポケットモンスター 遥かなる高みへ 作:色即是空
圧倒の絶対王者、怒濤の初戦
シュートスタジアムの巨大なメインフィールド。
観客席を埋め尽くす数十万人の大歓声が、まるで怒濤のようにアリーナを揺らし続けていた。
「ワールド・チャンピオンズ・トーナメント、決勝トーナメント1回戦!
ブロックA第1試合――これより試合を開始する!!」
実況の絶叫と同時に、審判のフラッグが鋭く振り下ろされる。
対するフィールドの反対側、深紅のマントを翻して悠然と立っていたのは、カントー・ジョウトの絶対王者、ワタルだった。その傍らには、圧倒的な威圧感を放つ真紅の巨獣――色違いのギャラドスが、静かに凄まじい殺気を漂わせている。
「よくぞここまで勝ち上がってきたな、マホロバの若き王よ。だが、世界の頂点の壁がどれほど分厚いか……ここで思い知らせてやる!」
ワタルの号令と共に、ギャラドスが天を突くような咆哮を轟かせ、周囲の空気が一瞬で歪む。
観客席で見守るナオが、冷や汗を流しながら頭を抱えた。
「おいおいおい、冗談だよね……! 初戦の相手がワタルさんだなんて!? 相手はあの『破壊光線』の絶対王者だ。まともにやり合ったら一瞬で粉々に吹き飛ばされるって……!」
マリアンヌも両手を頬に当てて「ああっ、カグヤはんが海の藻屑に……!」と青ざめ、ディランすらも腕を組みながら「流石に初戦としては凶悪すぎるな」と険しい表情を浮かべている。誰もが「勝てるわけがない」と絶望視する、圧倒的な力の差。
しかし、当のカグヤは、その猛烈なプレッシャーを全身で受け止めながらも、むしろ口の端をニィッと不敵に歪めていた。
「勝てない? ……ふっ、面白いこと言わないでよ」
カグヤはベルトから最初のボールを取り出し、力強く投げ放つ。
「行くぞ、ゲッコウガ!」
シュウッ!
鮮やかな水色の軌跡を描いて飛び出したゲッコウガが、地面に軽やかに着地する。
しかし、ワタルのギャラドスが放つ「威嚇」のプレッシャーが、フィールドの温度を数度下げた。
「ほう、先鋒はゲッコウガか。小賢しい変化技で攪乱するつもりか?」
「生憎、変化技だけじゃないですよ。行くぞ、先手必勝だ!」
カグヤの合図でゲッコウガが疾走し、変幻自在の体躯から繰り出される水流の刃を叩き込む。だが、絶対王者ワタルのギャラドスは一歩も引かない。圧倒的な巨体から繰り出される「アクアテール」の重撃が、ゲッコウガの足場を粉々に砕き飛ばした。
「ぐっ……! 耐えろ、ゲッコウガ!」
一撃の重さが、これまでの相手とはケタ違いだった。まともに正面からぶつかり合えば、間違いなくすり潰される。
それでもカグヤの瞳から光が消えることはない。肌で感じる絶対王者の壁の厚さに、むしろ闘志の炎が激しく燃え上がっていた。
「なら、スピードと手数はこっちが上だ! 変幻自在で翻弄してやる、水手裏剣連打!」
ゲッコウガが凄まじい身なりで跳躍し、無数の鋭い水手裏剣を浴びせかける。ギャラドスの巨体を削っていくが、ワタルは微動だにしない。
「小手先の技では、我がギャラドスの装甲は破れん。――見せつけてやろう、我が王者の波動を!」
ワタルの腕が大きく振るわれる。ギャラドスの口元に凄まじいエネルギーの光球が収束した。
――「破壊光線」だ。
「避けろ、ゲッコウガ――っ!」
だが、放たれた光線は津波のような圧倒的な質量を伴い、回避しようとしたゲッコウガの退路を完全に塞ぎ、凄まじい爆発とともに吹き飛ばした。フィールドに巻き上がった砂煙が晴れた時、ゲッコウガは戦闘不能となり、静かに地面に倒れ伏していた。
「ゲッコウガ、戦闘不能!」
審判のコールが響き渡り、観客席からどよめきが起こる。
初戦から、絶対王者ワタルがその圧倒的な暴力――「破壊光線」の威力をまざまざと見せつけたのだ。ナオが「うそでしょ……一撃って……!」と顔面を青ざめさせる中、カグヤは静かにゲッコウガのボールを回収し、労いの言葉をかける。
「よくやった、ゲッコウガ。あとは任せろ」
カグヤの顔に焦りはない。ゲッコウガが削ったギャラドスのわずかな隙、そして相手の手の内を見極めた上で、カグヤは次のボールを手に取る。
「お前の圧倒的なパワー、ここで完全に受け止めてやるよ。――行け、ハッサム!」
赤く輝く鋼の巨躯がフィールドに降り立ち、ワタルのギャラドスを鋭い眼光で睨み据える。
絶対王者ワタルに対し、若き王カグヤの反撃の狼煙が今、上がる――!
【カグヤ】 【ワタル】
ゲッコウガ✕ ―― ◯ギャラドス