ポケットモンスター 遥かなる高みへ 作:色即是空
運命の2回戦、次なる試練はドラゴンマスター
シュートスタジアムに隣接されたポケモンセンター。
ワタルとの激闘を終えたカグヤは、手持ちの治療を依頼するため, 仲間たちと共に静まり返ったフロアの一角に足を運んでいた。自動扉の向こうから聞こえる賑やかな喧騒を背に、傷ついたポケモンたちを預けるカウンターの前で、控室のモニターに映し出されたトーナメント結果を振り返る。
「うわ……次の相手、アイリスさんじゃん……。オノノクスにカイリューって、どっちもめちゃくちゃ強そうだよ、なんか緊張でお腹痛くなってきた……」
「まあ、アイリスさんは、負けず嫌いで豪快なお方どすえ。相棒のオノノクスにカイリューと、強力なドラゴンたちが相手となれば、さらに熱い戦いになりそうですぅ。……そういえばカグヤはん、今度の試合で勝ちはったら、うちのお嫁さんになってくれはるお約束、そろそろ考えてくれはりますか?」
「いや、なんでその流れで求婚してくるの……! まずは目の前のトーナメントに集中させてよ……!」
マリアンヌのさらりとした猛アプローチにカグヤが苦笑いでツッコミを入れると、シオンは手元のタブレット端末を淡々と操作しながら冷静に分析を続ける。
「オノノクスの圧倒的な破壊力はもちろん、手強いカイリューも控えている。ハッサムやルカリオ、ゲッコウガたちをどうぶつけるかが鍵。ワタル戦でようやくエースたちの背中に追いついてきたカイリューの成長も心強いけど、油断は禁物」
シオンの的確な指摘を聞きながら、カグヤは腕を組み、目の前のカイリューを見つめた。普段の彼は母親のセレナ譲りの穏やかで思慮深い物腰だが、胸の奥では父・サトシ譲りの負けず嫌いな闘志が静かに燃え上がっている。
その時、自動扉が勢いよく開き、威勢の良い足音が響いてきた。振り返ると、そこには先ほどモニターに映し出されたばかりの人物――大人の女性としての気品と圧倒的な風格を纏ったアイリスの姿があった。彼女もまた、次の戦いに向けた調整か、あるいは手持ちのケアに訪れたのだろう。
アイリスの側らに控える、大柄で強靭な体躯を誇るアイリスのカイリューは、カグヤの姿を見つけると、ふんっと鼻を鳴らしながら一歩前に歩み出た。
そして、先ほどワタルのカイリューを打ち破ったカグヤのカイリューの気配を敏感に察知したのか、真っ直ぐに視線を据える。元々好戦的で負けず嫌いな性格のアイリスのカイリューは、先ほどの試合で同じ種族の頂点を下したカグヤのカイリューに対し、メラメラと激しいライバル心を燃やしていた。
「グルル……ッ!」
低い威嚇の声を漏らし、腕を組むようにして鋭くメンチを切るアイリスのカイリュー。お前がワタルのカイリューを倒した奴か、次は俺がお前を叩き潰してやる――そんな強烈な闘争心と挑発の念が、目と巨体の迫力からありありと伝わってくる。
だが、その強烈なプレッシャーと挑発を向けられた当の本人はといえば……。
「……ふぁあぁ……」
カグヤの足元で、治療を待つカグヤのカイリューは大きな欠伸を一つ噛み殺し、のんびりと首をかしげていた。主人のカグヤ同様に本来は落ち着いた性格のカイリューにとって、目の前で戦闘態勢を取る相手の気迫などどこ吹く風。マイペースにまばたきを繰り返すと、そのままトコトコとカグヤの背後にまわり、眼中に無いと言わんばかりにのんびり寛ぎ始める。
「はは、すっかりマイペースだな……。でも、相手はやる気満々だぞ」
困ったような、しかしどこか優しい笑みを浮かべながらカイリューの頭を撫でるカグヤ。その横で、アイリスは自分の相棒の肩をポンと叩きながら、ニカッと不敵な笑みを浮かべた。
「あんたのカイリュー、ワタルさんを倒したってことは相当強いんだろ? あたしたちのドラゴンたちも負けないからね!」
「ああ、望むところだ。最高の勝負にしよう!」
カグヤの力強い返答に、ナオが「うぅ、なんかもう今からバチバチしてて怖気づいちゃいそうだよ……」と頭を抱え、シオンとマリアンヌも静かに微笑ましげに見守る。
ワールド・チャンピオンズ・トーナメント2回戦。
最強のドラゴン使いとの激突へ向けた前哨戦は、早くも熱を帯びて動き出し始めていた。