ポケットモンスター 遥かなる高みへ 作:色即是空
シュートスタジアムを揺るがす大歓声のなか、広大なバトルフィールドに立ったカグヤは、深く息を吸い込んで前方のトレーナーズエリアを見据えた。
ワールド・チャンピオンズ・トーナメント2回戦。目の前に立つのは、イッシュ地方の頂点に君臨したドラゴンマスター――アイリスだ。
「ワタルさんを破ったって噂のバトル、すっごく楽しみにしてたんだから! あたしたちの全力、いかせてもらうよ!」
大人の女性としての気品と圧倒的な風格を纏いながらも、その瞳には純粋な少年のように熱い闘志が宿っている。アイリスが大きく振りかぶって投げ放ったモンスターボールから、強烈な光とともに現れたのは――。
「ガァァァ――ッ!!」
荒々しい気性を剥き出しにした紅のドラゴン、クリムガンだった。頑丈な体を誇るその巨体は、フィールドに降り立つやいなや、地鳴りのような咆哮をあげて凄まじいプレッシャーを放つ。
「初手からクリムガンか……。なら、こっちはこいつで行く!」
カグヤは冷静に手元のボールを構え、鮮やかな軌道を描かせてフィールドへと送り出した。
「ジュカッ!」
現れたのは、鋭いキレ味と抜群の機動力を誇るジュカインだ。アイリスのクリムガンが放つ圧倒的なパワーの前に、観客席のナオは「うわぁ、初手からすごい迫力だよ……! ジュカイン、負けないでくれよぅ!」とハラハラしながらタオルを握りしめる。
控室のモニターを見守るマリアンヌは、和服の袖で口元を隠しつつ優雅に微笑んだ。
「まあ、クリムガンの重い一撃は脅威どすえ。けれど、カグヤはんのジュカインなら、あのスピードでうまく翻弄してくれはりますぅ。……それに勝ちはったら、うちのお婿さんになってくれはる約束、そろそろ本格的に進めさせてもらいますえ?」
「いや、だから何で今その話をブッ込んでくるのさ……!」
マリアンヌのサラリとした猛アプローチに、思わずバトル中でありながらカグヤが盛大にツッコミを入れてしまう。しかし、シオンはそんなやり取りをよそ目に、手元のタブレット端末を素早くスワイプしながら静かに分析を告げた。
「気を抜かないで。クリムガンの攻撃力は脅威だけど、スピードはこちらが優るわ。ジュカインの機動力を軸に主導権を握って、まずは確実に1体を削るわよ」
「ああ、分かっている!」
カグヤは一瞬で表情を引き締め、闘志をその瞳に宿す。
母譲りの冷静な思考の裏で、父・サトシ譲りの熱い血が騒ぎ出す。
「ジュカイン、『リーフブレード』だ!」
主人の号令と同時に、ジュカインの両腕から鋭く研ぎ澄まされた緑の刃が光り輝く。次の瞬間、ジュカインの姿がかき消えた。風を切り裂くような超高速の移動軌跡を描き、クリムガンへと肉薄する。
「おっと、そうはさせないよ! クリムガン、『ドラゴンクロー』で受け止めて弾き飛ばしちゃえ!」
アイリスの豪快な指示を受け、クリムガンは凄まじい反応速度で巨体を翻す。強靭な両腕の爪に青白い竜の闘気を纏わせ、迫り来るジュカインの刃を正面から待ち受けた。
ズガァァァンッ!!
緑の刃と竜の爪が激突し、フィールドの中央に凄まじい衝撃波と爆風が吹き荒れる。ぶつかり合う凄まじい圧力に、観客席の歓声が一瞬にして熱を帯びていく。
ワールド・チャンピオンズ・トーナメント2回戦、竜と竜の激突は、序盤から互いの意地がぶつかり合う極限の攻防戦へと突入した。
【カグヤ】 【アイリス】
ジュカイン ―― クリムガン